第87話 前座
ニューヨークへ行きたいか~。
「お前いくつだ?」
「同じだろ」
直史のどうでも良さそうなネタに対して、なぜか知ってる樋口がツッコミを入れる。
そんなアナハイムはニューヨークに移動してきた。
去年以上の圧倒的な強さで、勝ち星を重ねる両チーム。
これはワールドシリーズの前哨戦だ、などと書く記事もある。
だが未来は常に不透明。
大介が今季絶望などになれば、メトロズはポストシーズン進出すら危うい。
直史が同じく離脱すれば、ポストシーズンまで進んでも、ワールドシリーズ制覇は絶対に出来ないであろう。
このカード、アナハイムの首脳陣は迷っている。
大介と勝負するかどうかということを。
現時点でのアナハイムの、仮想ワールドシリーズの対戦相手は、間違いなくメトロズである。
もちろん長いシーズン、まだ五月も中旬というのだから、これから何が起こるかは分からない。
だがメトロズが一番、今の時点ではその相手になる可能性は高い。
ならばこのカードで、どう戦うかも決めなければいけない。
全力で勝負して、木っ端微塵になるか。
どうにか勝負を避けて、試合の勝利を目指すか。
もちろん、と言っていいのかどうか分からないが、首脳陣は勝負を選択した。木っ端微塵になる可能性を知った上で。
どのみちレナードとマクダイスでは、まだローテを回すにはともかく、エースクラスのピッチングは出来ない。
ならば現在のメトロズの強さを、しっかりと分析しなければいけない。
そして第三戦では、直史に投げてもらう。
そこでまで負けたら、根本的に戦力を計算しなおす必要があるだろう。
メトロズに勝つには、つまるところ四勝が必要になる。
直史が去年は三つを勝ったが、今年もそう上手くいくとは限らないし、そもそも七戦目は無茶な日程であった。
誰か他のピッチャーで一勝、もしくは二勝する必要がある。
成績的に言うなら、スターンバックとヴィエラがその候補となる。
実際に去年の一勝を上げたのはヴィエラであった。
ただスターンバックも、二試合に投げて負け星が付いたのは一つだけ。
つまりリリーフ陣の頑張りによっては、勝っていたかもしれないのだ。
レナードとマクダイスで、全く歯が立たなければ、スターンバックとヴィエラの実力からも目安をつける。
ただそのあたりは去年まで、アナハイムの正捕手をしていた坂本がいるので、かなり情報は渡ってしまっているだろうが。
その判断をするためにも、実際に勝負してみなければいけない。
足りないと思えたら、さらなる補強さえ必要になるだろう。
なにしろメトロズときたら、去年は持っていなかった、スーパーエースを今年は獲得しているのだから。
樋口によって投手陣の成績が良化しているが、それは果たしてメトロズを抑え切れるものなのか。
トレードデッドラインまでに、戦力を補強する時間はまだある。
ただオーナーがどの程度、編成に追加の資金を投入するか。
実はメトロズのオーナーの方が、アナハイムのオーナーよりも、収益度外視で判断を下すことはある。
去年も上杉を取ったので、メトロズはあそこまで終盤が安定した。
そして上杉をもし、ワールドシリーズは先発として使っていたら。
直史を倒すか、直史以外を確実に倒すか。
上杉であれば、ほぼ互角の戦いが出来ていたはずなのだ。
ただおかげで、メトロズはプロスペクトを流出させ、最終的にワールドチャンピオン連覇とはならなかった。
敗退したのにクローザー以外は、目だった補強をしていないのはなぜか。
それはここで補強にあまり資金をかけすぎると、今年のオフに使える金が少なくなるからだ。
シュミット、ペレス、オットー、ウィッツ。
この中でシュミットとオットーは、FAでかなり年俸が上がる計算になる。
ペレスとウィッツは今までと同じ契約を結べても、年齢は共に35歳。
複数年でも単年でも、かなり高い契約になる可能性が高い。
FAになる二人のどちらかだけでも契約するなら、バッターでマイナーからの成長株が出ていないので、シュミットということになるだろう。
ただシュミットの年俸も、一年当たり3000万ドル近辺で、それも複数年になるだろうが。
アナハイムも他人事ではなく、スターンバックとヴィエラが去る。
どちらかは慰留したいと思うかもしれないが、35歳のヴィエラに、FAで一気に年俸が上がるスターンバックと、危険な要素しかない。
来年まで直史がいるが、もしその後に契約することも考えているなら、今からヴィエラもスターンバックも諦めて、直史用の年俸を捻出する準備が必要だろう。
もっとも直史が、来年でもうMLBから去ることは、GMも知らない。知っているのはあちら側の人間ではセイバーだけだ。
直史と樋口、それにアレクも合わせて、鬼が笑う来年のことを話したりする。
ただ樋口からすると、スターンバックとヴィエラの穴は、どうにか埋められるのではないか。
とにかくスターンバックが、FAになるのが大きい。ヴィエラは年俸自体は、それほど極端に上がらない。
スプリングトレーニングの中で、樋口はあれほどのピッチャーでもマイナーに落とすのか、と驚いたものである。
そういった選手は、来年のスプリングトレーニングや、今年のセプテンバー・コールアップで上げてもいいのではないか。
もしくは来年、使いながら育ててもいい。
樋口ならばそれが出来る。
アレクがアナハイムと結んだのは、オプトアウト条件付きの七年契約。
総額は一億ドルを越す、巨大なものだ。
リードオフマンとしてのアレクに、そこまでの金をかけた。
それでかなりサラリーの総額は増えているのだ。
ここからさらに戦力を補強するのは、FA選手を取るのはかなり難しい。
契約がもうすぐ切れるか、間もなくFAという選手を出して、プロスペクトをどうにか獲得するか。
別に今シーズン以内の話ではなく、シーズンオフにもトレードはある。
リリーフとして計算できるようになったマクヘイルや、ローテ要員としては働いているマクダイスなど、即戦力が必要なチームもある。
そこのプロスペクトを獲得できるかどうかは、GMの手腕がものを言う。
ターナーを売り飛ばしたりしたら、即戦力に加えプロスペクトが大量に手に入るだろうが、それはそれでターナーをここで売り飛ばすのは、タイミングが早すぎる。
打線が三枚いる間は、ワールドシリーズが狙える。
特に今年優勝すれば、MLBとしても久しぶりの、連覇するチームとなれるのだ。
ニューヨークへ到着すると、普段とは比べ物にならない数の、マスコミが迎えてくれた。
別に嬉しいことではないが。
やはりアメリカのみならず、北米を中心に野球の盛んな地域に向けて、この対決を特別視するきらいがある。
ホテルへのバスの中では、日本語を理解できる選手が他にアレクしかいないのを承知で、、それでも小声で直史と樋口は話し合う。
「勝てると思うか?」
「おそらく無理だろうが、ハイスコアのゲームになれば少しは」
樋口は言葉を濁すが、直史もだいたい同意見である。
投手と野手の守備力で、MLBトップのアナハイム。
だがそれを無視するほどのパワーを、メトロズは持っている。
樋口のリードもあって、レナードの防御率は、2.8と去年よりも大幅に改善している。
それでもその樋口自身が、勝てないだろうなと判断しているのだ。
ホテルに到着すると、首脳陣に登板予定のバッテリー、全員が集まって再度の確認が行われる。
基本的にまず、大介とは勝負することを覚悟する。
直史は冷静に、ツーアウトランナーなしからなら、勝負は避けてもいいのではと思う。
自分が避けるつもりは全くないが。
テレビの画面越しでは分からない、スタジアムの空気まで含めた、現在のメトロズ。
第三戦に投げさせてもらえるのは、本当にありがたい。
直史はデータが蓄積すればするほど、強くなるピッチャーだ。
相手が直史のデータを蓄積し、対抗してくるより早く、相手を打ち取ってしまう。
ただ坂本のような博打打ち相手には、そこそこ負ける可能性がある。
あとは一点集中で読まれた場合だ。
色々首脳陣と樋口は話しているが「どうせ打たれるだろうなー」感を発しているのが直史には分かる。
現時点でのレナードとマクダイスの実力では、何をやっても封じることは出来ない。
だから勝つとすれば、こちらも序盤から点を取っていくしかない。
第一戦のウィッツは優れたピッチャーだが、おそらくアレクからターナーにつながるラインは、攻略の得意なタイプのバッターだ。
一回の表の攻撃で、おそらく勝負は決まるだろう。
二回戦のオットーとマクダイスの組み合わせは、正直に言うと負ける可能性が高い。
両方に言えることだが、リリーフ陣がどう働くのかも、最終的な結果につながっているだろう。
一番重要なのは、第三戦だ。
その前の二つは、正直なところ負けても構わない。
だが直史が抑えきれるか、武史を突破できるか。
このあたりが分かりやすい勝敗のポイントだが、レギュラーシーズンならば、アナハイムの直史の方が有利であろう。
ピッチャーとしての実力もあるが、それ以上に運用上の制限だ。
武史は完投能力が高いが、わずかに100球を上回って、一試合を投げている。
メトロズの首脳陣が、どれだけの球数を投げることを、武史に許すだろうか。
ポストシーズンならいざ知らず、まだシーズンも五月であり、ここでピッチャーの核に無理をさせることはないだろう。
130球ぐらいにまでなれば、交代させるのではないか。
そしてアレクと樋口は、粘っていくのが上手い。
延長のことを考えても、直史は前回がほぼ80球しか投げておらず、おそらく九回まで100球程度には抑えられる。
双方が完封して九イニングが終わっても、そこからどれだけ投げられるか。
武史のスタミナについては、よく分かっている樋口である。
150球までは球威が衰えないというのは事実だ。
ただもし一イニングでも、25球を投げるほどに球数を増やすことが出来たら。
肩や肘は問題ではなくても、指先の感覚にわずかなダメージが出てくるはずなのだ。
スーパーエース同士の投げあいは、おそらくキャッチャーの実力差で決まる。
この場合は実力差と言うよりは、経験の蓄積がものを言うだろうか。
坂本のキャッチャー経験と樋口のキャッチャー経験以上に、バッテリーとしてのコンビの成熟度。
樋口の方が直史の力を引き出していることを、坂本は分かっているだろう。
だが分かった上でそれでも勝ちに来るのが坂本だと、直史もまた理解している。
ペテンにかけて上杉のパーフェクトを防いだりと、坂本は樋口よりもさらに、発想の自由度が高い。
常識の乏しさというか、社会倫理から外れるところは、普通に樋口も激しいのだが。
直史はそのあたり、保守的で常識的である、と自分では思っている。
もういくら普通の人ムーブをしても無駄であろうに。
東西の事実上の頂上決戦。
その日の朝ももちろん、太陽は東から昇った。
人間社会がいかに熱狂しようと、それすら世界中に届くわけではない。
生まれ、生き、生み出し、そして死ぬ。
人間の営みは、基本的には普段と変わらない。
だがごくわずかの人間であっても、その人生に影響を与えることが出来たなら、それはそれで凄いことではないか。
三連戦の第一戦、アナハイムは去年よりもはるかに得点力を上げている。
それに対するピッチャーはウィッツ。
この数年は安定したピッチングを見せていて、今季も六先発して六勝。
全ての試合をクオリティスタートと、ベテランとして素晴らしいパフォーマンスを見せている。
アナハイムのピッチャーにもそれは言えて、今年はどちらも先発で苦労するということがあまりない。
去年も少し投げたワトソンが、第六のローテーションとして、それなりに機能している。
アレクに伝えられた指示は、球数を投げさせること。
もし狙うなら、確実に出塁すること。
(やや弱いポイントも共通してるんだよな)
ネクストバッターサークルに待機していて、樋口は相互の戦力分析をする。
双方共にリリーフ陣がやや弱い。
勝ちパターンではほぼ決まったピッチャーが安定しているが、ビハインド展開で追いかけるのが難しいのだ。
ビハインドであっても三点ぐらいなら、ワンチャンスで逆転するのが野球というスポーツだ。
しかし追加点を防ぐ粘り強いピッチングが、さほど見ることが出来ない。
その分まで先発や勝ちパターンのピッチャーに注力していると言えるのかもしれないが、このポジションは若手を試す状況ともなる。
ポストシーズンとは戦い方が違う。
レギュラーシーズンでは選手の育成も兼ねていて、シーズン途中からポジションを手に入れる選手もいるのだ。
先制すれば圧倒的に有利と、純粋に結果が教えてくれている。
ただし対戦する相手の打線とリリーフ陣によっては、いくらでも逆転は可能なはずなのだ。
この二つのチームは、相手の隙を攻撃して、試合を決めてしまうのが上手い。
スタートダッシュに強いことは、悪いことではないがいいことばかりでもない。
単純に逆転が難しくはある。
ウィッツのピッチングスタイルから、どうやって球数を投げさせ、疲労を感じさせるか、樋口は色々と考えている。
だが目の前でアレクが二球目から打ってしまって、ライト前へのクリーンヒット。
リードオフマンとしての役割は果たしているが、今日の方針はそうではない。
もっとも打てるのならば、打ってしまうのが正解なのだ。
バッターボックスに入った樋口は、状況を考える。
優勝を争うであろう相手と、レギュラーシーズンでの唯一の三連戦で、最初の試合。
先攻で一回の表から、先頭打者がヒットで出塁。
いきなりチャンスであるし、それは即ち向こうのピンチ。
先制するための自分の仕事の、最低限を見定める。
進塁打というのはすぐに頭に浮かぶ。
だがそれをすれば次の打者がターナーなので、歩かされるのと同じようなピッチングをしてくるかもしれない。
最低でも進塁打、というのはこの場合は当てはまらない。
どんな手段を選んでも、出塁するべきなのだ。
ウィッツはサウスポーのサイドスローだが、右打者の樋口には、さほど打ちにくいというピッチャーでもない。
かなり左に対しての成績はいいのだが、それをあっさりと打つアレクもさすがだ。
ツーストライクまでは狙い球を絞って、樋口は待つ。
並行カウントで追い込まれた樋口は、五球目を待つ。
アウトローいっぱいに入ったボールかと思えたが、あっさりと見送る。
外に逃げていってスリーボール。
単純な引っかけならば、坂本はしてくるだろうと思っていた。
フルカウントになったここから、樋口は粘って行った。
そして最後にはわずかに低いボールを選んで、フォアボールで出塁。
次のターナーには、ボール球を投げにくくなっているだろう。
ターナーも右打者だが、その次からは左打者が続く。
この一打で点を取っておきたいが、果てさてそう上手くいくものだろうか。
樋口の心配は杞憂で、ターナーはレフト前に打球を運んだ。
ギャンブルスタートっぽいアレクであったが、二塁から一気にホームに滑り込む。
樋口も三塁まで進み、先制点を取ってなおもチャンス。
試合自体はあっけなく動いた。
(これは点の取り合いになるかな)
そう考えるとより、メトロズ打線をどう封じるかが、勝敗の鍵となるだろうが。
続くシュタイナーはタッチアップとなる外野フライを打って、樋口もホームに帰ってきた。
まずは二点を取って、幸先のいいスタート。
(でも試合に勝てばいいだけじゃないしな)
樋口の脳裏に浮かぶのは、ポストシーズンのワールドシリーズのことであった。
初回の大介は、深く守っていたレフトへのフライに倒れた。
樋口としては想定内のことではあったが、想定を軽く超えてくることも考えていたので、まずは一安心である。
続くシュミットは内野フライに打ち取る。
ただアッパースイングでしっかりと振ってきたのは、嫌な予感を感じさせた。
二回の表にアナハイムは、下位打線で一発が出る。
ソロホームランだがこれで三点差になり、やや余裕が出てくる。
いや、あと八回の向こうの攻撃があるのに、三点差で余裕などとは言っていられないであろうが。
(ワールドシリーズでこのチームと対戦するわけか)
樋口はレナードをリードしながらも、メトロズというチームの本質を探っていく。
どうしても直接戦ってみないといけない、感覚的なものはあるのだ。
そのあたり樋口は理論だけに固まっていない、柔軟性を持っている。
三回からは試合が動かなくなる。
ウィッツのピッチングがアナハイムのリズムから、上手く外れて投げられるようになったと言うべきか。
(そういや坂本は、こちらのバッターのことも良く知っているんだよな)
なので新規加入の樋口やアレク、そして入れ替えのある下位打線に打たれたのだ。
あるいはこの試合を捨ててでも、アナハイムの情報を得ようとしているのか。
もしそこまで考えているのなら、それはそれで恐ろしいことである。
樋口はバッティングの方は出塁と観察に集中し、メトロズのバッターの方を重点的に観察する。
とりあえず確かなのは、メトロズはアナハイムが相手でも、下手に小さくまとまった攻撃をしてこないということ。
二打席目の大介もわずかにミートをすらしながらも、フライをセンターの奥にまで持っていった。
ボールが上がりすぎていなければ、長打になっていたかもしれない。
しかし二打席連続で、大介を打ち取ったことになる。
三打席目はライナーがファーストの横を通って、そのままフェンスに直撃するツーベースとなった。
それでも点にはつながらないあたり、今日はアナハイムにツキがあると言える。
六回が終わったところで、アナハイムはピッチャーを交代。
三点差があるならば、この試合をしっかりと勝ちにいく。
そう考えていたのにも関わらず、ランナーがいる状況で四打席目の大介とも勝負。
これは絶対に歩かせた方がいいと樋口は考えているのだが、ベンチからそんな指示が出るなら仕方がない。
代わったマクヘイルから、いきなりツーランホームラン。
点差は一点へと縮まった。
まだ一点あると思ったのがまずかったのか。
続くシュミットに対して、マクヘイルはわずかに集中力を欠いていた。
浮いた球を打たれて、またもボールはスタンドに入る。
二者連続のホームランで、メトロズは一気にアナハイムに追いついたのであった。
やや球数は増えていたが、あのままレナードを投げさせておくべきだったか。
樋口はその疑問には、ノーと答える。
レナードでも打たれたと確信しているわけではなく、問題点はちゃんと明らかになったからだ。
大介とシュミット、連続でホームランを浴びたこと。
長打力はやはり、メトロズの根幹になる。
ここで三人以上に投げていた、マクヘイルは交代。
それでもまだ勝利を諦めたというわけではなく、普段は八回を任せるルークを出してくる。
ブルペンでしっかりと、準備はしてきたはずのルークであった。
しかし三番ペレスと、四番シュレンプに連打を食らい、一点を失う。
逆転されたなおランナーはいたが、ここからはしっかりと後続を封じる。
だがランナーはいなかった場面で、連打で点を取られたのは、あまりいいイメージがない。
対してアナハイムは、三回以降はどうしても点にまで届かない。
試合の流れは変わっているが、やはりそれはあの大介の一発から始まったと言えよう。
今度はメトロズ側が、リリーフ陣を投入する番である。
八回の表、この数年クローザーをやったと思ったらまたセットアッパーに戻ったりと、微妙に頼りないライトマンがアナハイムを封じる。
この裏のアナハイムは、ルークをそのまま続投させ、ここは失点なしで終わる。
九回の表、メトロズはクローザーのレノンを投入。
38歳のベテランは、それでも衰えない速球系を使って、アナハイムの最後の攻撃を封じにかかる。
これは試合は決まったかな、と樋口は一応プロテクターは外している。
自分の打席まで回ってくれば、逆転するバッティングが出来ると思っているのだ。
ストレートにツーシームとスプリット、それがレノンの基本のスタイルだ。
球速もまだ99マイルが出るレノンだが、上手いのはコマンドに投げ込む能力だろう。
アナハイムも代打を出すのだが、代打の専門とも言えるようなバッターはいない。
結局はアレクの前で最後の打者が内野ゴロに倒れ、試合は終了。
4-3でメトロズが第一戦をものにした。
樋口としてはこの勝敗はともかく、スコアが気になるところだ。
序盤に打たれたウィッツが、しっかりと立て直して七回までを投げぬいた。
そして大介は第四打席で、狙ったようにホームラン。
点の取り合いになりそうな気配であったが、実際には平凡なスコア。
ただ追いつかれて逆転され、こちらは後半に点を取れなかった。
上位打線で点が取れないと、アナハイムは苦しい。
そして勝ちパターンのリリーフも、このままではメトロズには通用しないのかもしれない。
リリーフと代打で使えるバッターが一人。
今日の結果だけを見れば、そこがアナハイムの補強ポイントだ。
ただ殴り合いのハイスコアになるという、己の予想が外れたことが気になる。
レナードの調子と運が良かったのもあるが、あちらはベテランのウィッツが立て直してきた。
(三点差から一気に同点にまで持っていく。やはりそのあたりをどうにかするかが課題か)
一発のあるバッターは怖い。
だがこの試合、大介は一度も敬遠はしていない。
少し首を傾げながら、樋口はホテルへのバスに乗る。
あと少し何かを工夫すれば、全打席ではないだろうが、大介を封じることが出来る。
それに今日の試合にしても、大介にはしっかりと打たれているが、ちゃんと勝負して打ち取った打球もあった。
かなり運の要素も強かったが。
直史は今日の試合、メトロズの打撃にばかり注目していた。
どうせ相手のピッチャーを打つことはないのだから、それで間違いではない。
そして今日のスコアが示す、大事なことは一つ。
(やっぱち大介に打たれても、最悪シュミットをどうにかすればいいのか)
メトロズのピッチャーは、そうそうとんでもない化け物ばかりというのではないのだ。
第三戦に向けて、その思考は深く沈んでいくのであった。
×××
※ 第二戦はNL編87話となります。
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