第83話 90%
シアトルとの三連戦、もしもこの三試合全てに勝てば、アナハイムの成績は27勝3敗となる。
つまり勝率90%だ。
野球というスポーツは、特にプロのレベルであれば、かなりの戦力均衡が成される。
それなのに90%もの勝率であるというのは、それだけで完全に、リーグとしては失敗していると言っていい。
ただアナハイムの選手のサラリー総額は、平均よりは上だが圧倒的に高いというわけでもない。
明らかに高額年俸なのは、ピッチャーならヴィエラ、バッターならシュタイナー。
そしてリリーフ陣なら他にルークとピアースだが、それも極端に高いというわけではない。
長年かけて集めた若手が開花し、それに直史を獲得したことが、去年の優勝へとつながった。
今年のアナハイムは正捕手の坂本が移籍したが、樋口が完全にその穴を埋めている。
また課題の一つであったリードオフマンも、広範囲を守れるセンターを兼ねたアレクを獲得した。
実はアレクの年俸は、この時点で直史よりも高くなっている。
もっとも直史の場合は、インセンティブの割合が大きいのだが。
しかしそれを含めても、アレクの方が高い年俸。
FA権を手にするというのは、それだけの実績を積み上げた証なのだ。
相手がシアトルということは、当然ながら一番は織田である。
こちらの先発マクダイスの力量を考えると、主導権を相手に与えたくはない。
シアトルサイドもある程度は点を、取って取られる試合と考えているだろう。
するとやはり、先取点がほしい。
一番のアレクに投げられた球は、コントロールされたアウトローの球であった。
だが腕の長いアレクは、それをいきなり遠心力で持っていった。
フェンス直撃のツーベースでいきなり得点圏のチャンス。
現在のアナハイム打線の中で、一番無駄死にが少ないと言われる、樋口の打席である。
もちろんこの打席でも、最低限の仕事の意識はある。
キャッチャーである樋口は、マクダイスの力量を正確に把握している。
なので最低限の役割を果たすのと、リスクを取ってでもリターンを大きくすることの、どちらを選ぶべきか分かっている。
(ここはヒットを狙う)
進塁打さえ打てば、おそらく次のターナーが、最低でも外野フライでタッチアップから一点という形を作ってくれる。
しかしその場合であれば、一点を取った時点でランナーがいなくなる。
初回に一点だけを入れて、マクダイスでは足りないと、樋口も判断する。
それでも安易にヒットを狙ってはいけないと言うか、安易に打ちにいってはいけない。
狙いを絞って、確実にヒットを打つ。
出来れば長打が望ましい。
カウントツーワンとなって、ややバッター有利。
ここまで一回もバットを振らなかった樋口だが、甘く入ったボールを狙い打つ。
アレクがいきなり初球を打ったので、あちらのピッチャーはまだ立ち上がりの自分の調子が分かっていない。
ここで一気に押せば、そのまま崩すことが出来る。
樋口の打球はこれまた、ライトの頭を越えた。
アレクは余裕でホームを踏んで、樋口もまた二塁へと到達。
(先取点を取った、得点圏にまだランナーがいる。ここで三番の主砲となれば)
シアトルの先発が取ったのは、ターナーの敬遠という選択だ。
ノーアウト一二塁で、四番のシュタイナー。
今年も長打力に加え、打率も三割をキープするターナーを警戒するのは分かる。
だがアナハイムの中でも長く主砲であったシュタイナーを前に、敬遠は安易ではないか。
ベンチの中で直史が、ベースの上で樋口がそう思う。
そしてシュタイナーは怒りとプライドを上手くブレンドさせて、バットをボールへと叩き付けた。
弾道は低いが、それでも外野の間を抜いていく。
今日三本目の長打で、二塁の樋口は生還。
ノーアウトのまま二三塁で、五番打者へと。
アナハイムの絶対的な四番までには及ばないが、まだここも長打の打てるバッターが続く。
深めの外野フライで、三塁のターナーが帰ってくる。
シュタイナーは動かずワンナウト二塁。
ただこれでアナハイムは、初回三点先制という状況で試合を進めることになる。
殴り合いを制するだけの力が、今年のアナハイムにはある。
去年に比べると平均得点は、2点近く上がっているのだ。
それでいて平均失点はさらに下がっている。
もっともシーズン序盤ほどの、全く隙のない強さというほどではないが。
ある程度の点を取られても、それ以上の点で上回ることが出来る。
ごく普通の野球の、一般的な試合である。
この試合もマクダイスは、六回を二失点でリリーフにつなぐ。
それまでにはアナハイムも、追加点を奪っている。
昨日が一日休みだったため、リリーフ陣も回復している。
一イニングずつ丁寧に片付けていく勝ちパターンのリリーフ陣。
それを上手くリードする正捕手。
結局は5-2というスコアで、アナハイムが第一戦は勝利。
マクダイスはクオリティスタート以上の働きを見せて、防御率も下げたのだった。
だがそれはあくまでマクダイス個人のこと。
チームとしてはこれで11連勝であり、そして二戦目は直史の先発。
シアトルとしてはそれだけで嫌な気分にはなるが、戦意を失うとまではいかない。
去年の直史は、完封の数が25という化け物であった。
だがその直史から、唯一の自責点をとったのがシアトル。
織田のバッティングは、直史の鉄壁の防御力を貫いたのだ。
試合全体から見れば、もう間に合わないささやかな攻撃であったかもしれないが。
このあたりやはり、直史と武史は兄弟と言えようか。
自責点が入ったのは、まずホームランから。
今年の武史も同じ展開である。
翌日、第二戦。
アナハイムの先発は、今季六度目の先発の直史。
スタジアム全体が、異様な空気に支配されているのが分かる。
単純な興奮や期待ではない。
ここまで完全に、相手チームを封じてきた直史だ。
シアトルは地元人気の高いチームだが、それでも期待する光景は、シアトルというチームに向けられたものではないだろう。
先攻のアナハイムが、一回の表にどういう攻撃をするか。
それでもう、予定調和のような試合展開になるかもしれない。
織田とアレクは二歳違いで、パ・リーグの異なる球団でセンターを守っていた。
打順は同じく一番で、共に打率は高い。
打撃成績を見れば、アレクは安打数と長打力でやや上回り、織田は出塁率で上回る。
首位打者争いもしたことがある関係だ。
ただ改めて織田のバッティングを見ていると、アレクとはかなり違う部分があるのが分かる。
アレクと同じく、悪球も打ってしまえる器用さはある。
だがMLBに来てからは、それよりは出塁をクレバーに選んでいった。
長打力がないわけではないが、それよりもすとんとボールを内野の後ろに落とす。
本質的にはアレクよりも、樋口の方に似ているのだ。
考えてみれば樋口も走力があるため、確かにそのバッティングは織田に似ていると言えなくはない。
ただ彼は高校時代の役割から、長打をより求められていたわけだが。
アナハイムの一番アレク、二番樋口という打順。
これはひょっとしたら柔軟性という点では、メトロズの大介-シュミットのラインより厄介かもしれない。
二人とも長打はあるが、スラッガーと限定したバッティングをするわけではない。
それでも二人とも、OPSが0.9を超えているのだ。
1.7を超えるような大介は、あまりにも化け物過ぎるが、二人とも充分に主戦力。
長打をやや抑え目にしたケースバッティングが、二人はとにかく得意なのだ。
センターからアナハイムのベンチも含め、全てを見渡せる織田。
昨日の試合とは明らかに空気が違う。
昨年は直史から唯一のホームランを打って「そりゃ神様でもないのだから打たれることもありますよ」などという直史のコメントを引き出したりした。
サトーの人間宣言、などというネタにもなったりしたものである。
今日の試合に勝つには、この一回を、そして先頭打者を抑える必要がある。
もちろんアレクの厄介さを、織田はよく知っている。
去年までも同じ西地区のテキサスにいたので、データは蓄積しているのだ。織田にすればそれ以前のNPB時代からのライバルである。
ただ二番以降にも強力で狡猾な打者の並んだアナハイムでは、アレクを抑えてもその集中力の間隙を突かれる可能性がある。
(基本、手詰まりなんだよな)
戦力で圧倒的な差がある。
昨日の試合は勝てる要素があっただけに、それを落としたのが痛い。
先頭打者アレクの打球が、織田の前に落ちる。
それなりに飛距離も出せるアレクなので、前進守備を敷くわけにもいかない。
そしてその次が樋口。
パワーもそれなりにあるが、それよりは広角に打ち分ける能力に優れる。
今度はライト前へのヒット。
そして三番のターナーとなる。
ホームランと打点の二部門でア・リーグ二位のターナー。
これを上手くダブルプレイにでも出来たら、なんとか初回の失点を防ぐことは出来るだろう。
だがそのスイングから導き出された打球は、織田の頭の上を越えていった。
バックスクリーンに届くホームランで、いきなり三点差となる。
(終わったな)
織田はリアリストなので、このまま試合がトラブルなく進めば、もう勝てないということは分かる。
もしもあるとすれば、トラブルによる直史の降板だ。
先日武史が危険球退場となっていたが、直史にも以前に退場はある。
雨も降っていないこの天気では、直史がコントロールをミスするとも思えないが。
そこからやっと三つのアウトを取って、一回の表は終了。
もうスタジアムの観衆の目的は、地元のシアトルの勝利を見ることから、直史がどういうピッチングをするかに変わっている。
シアトルの熱心なファンであっても、どうせ勝てないなら奇妙な記録を見てみたい。
直史の場合は奪三振をどんどん取っていくわけではないので、映画を追っていくようにクライマックスに近づいていく感が強い。
他のピッチャーより試合終了までにかかる時間が短くなるので、まさに映画ぐらいを見るつもりで観戦した方がいい。
運が良ければパーフェクトが、悪くてもマダックスが見られる。
もっと運が良ければ、何か記録を更新してのパーフェクトが見られる。
なんとかしないといけないな、と考える織田であった。
三点の差があっても、直史は油断することはない。
だが集中力を高めて、消耗することもない、それなりに気を抜いて投げられる点差ではある。
一回の裏、先頭打者の織田はセカンドフライでアウト。
ここから直史としては、楽なバッターが続いていくことになる。
もちろん普通に三割打っているバッターもいる。
だがそういった表面に見える数字とは、違うものを直史は見ている。
基本は変化球投手である直史。
だがアウトローやインハイのストレートは、わずかにゾーンを通過して空振りや見逃しのストライクを取れる。
この日は追い込んでから、カーブで見逃し三振をまず二つ。
緩急をつけて落差もあれば、見逃したくなるのも分かる。
だが追い込まれたカウントからなら、振っていくしかないだろう。
カーブをそう使ってくることはない、という思い込みが見逃し三振を生んでいる。
二回の表にアナハイムは、さらに一点を追加。
自軍の攻撃ではランナーを出し、相手ピッチャーを楽にはしない。
そして向こうの攻撃は、三人で終わらせる。
三振を恐れて早打ちしてくれば、それこそ好都合。
ただ外野フライを打たせてしまったのは、直史的にはマイナス1ポイントだ。
三回の表も、アナハイムはランナーを出して、ピッチャーの球数が増えるようにする。
それをベンチから眺めている直史は、MLBの試合進行遅すぎ問題を、ふと考えたりする。
現在ではMLBの試合は、一試合でおよそ三時間少しの時間がかかる。
直史が投げる試合が人気があるのは、それが明らかに早く終わるからかもしれない。
単純な話、ピッチャーの交代の時間がないわけで、それとイニング交代での投球練習も、一球だけで済ませてしまうことがある。
セットポジションからクイックで投げて、サイン交換の時間も短い。
この早いテンポで投げることも、直史のなげる試合時間を短くしている。
実際にアナハイムが守っている時間を測ってみれば、それは明らかだ。
ランナーが出ない分、それだけバッターとの対戦数が少ない。
やはり試合時間は短くなる。
これははっきり言って、直史の武器の一つだ。
バッターは目の前の打席に、集中力を高めて対する。
だがピッチャーなら普通は必要とする間が、直史の場合は極端に短い。
そのため集中力が高まりきる前に、もう目の前にボールがある。
このあたりのタイミングの潰し方は、野球のものとは違う。
間合いの外し方は、あるいは剣道などに近いのではないか。
極端な話、打つ気が整ってなければ、大介であっても目の前のボールに手が出ない。
気がついたら打っていた、ということがありうるのが、大介の恐ろしいところだが。
直史がMLBの、身体能力が高いはずのバッターを相手に、なぜ成績が向上しているか。
それはMLBのピッチャーの多くが、流行のパワーピッチャーになっていることとも、確かに無関係ではないだろう。
だがNPB時代と明確に違うことが、他にもある。
自らの打席という問題だ。
NPBのセ・リーグにはDHはない。
一方MLBもかつては、片方にはDHがなかった。
しかし2022年からは、両方のリーグでDH制が導入され、もうピッチャーが打席に立つことは、原則的になくなった。
直史はNPB時代、セ・リーグのレックスに在籍していたため、バッティングの打順が回ってきていた。
その時には基本的には打たないが、それでも集中力をバッティングに変化させる必要があった。
だがMLBではとにかく、投げることだけに集中することが出来る。
味方の攻撃の間は、じっくりと神経を休める。
そしてまたマウンドに戻れば、一気に集中力を引き上げる。
メンタルコントロールに必要な時間や労力が少なくなっている。
おそらくNPBでも、パのチームに属していたなら、もっと成績は向上していたのだろう。
これ以上何を上げるのだ、という話になったかもしれないが。
あとはもう一つ、MLBは効率や統計を信じすぎている。
狙い球というのがピッチャーによって、かなり限られているのだ。
もちろんそれを承知の上で、投げているピッチャーはいる。
統計的に打たれていなければ、それが一番有効と考えるのだ。
だが直史は、そういう思考を持たない。
樋口もそうであるが、相手のバッターの特徴をしっかりと分析した上で、あえて得意なコースに投げたりもする。
不思議なもので野球のバッティングは、得意なコースからわずかに外れたり、上手く少しだけタイミングを外せば、むしろ簡単に打ち取るための打球を打たせることが出来る。
データは参考にするために存在するのであって、データに縛られて投げていてはいけない。
なのであるいは、ど真ん中にストレート三つを投げてさえ、ヒットを打たれないことはあるのだ。
何を投げてくるのか分からない。
相手バッターにそう思わせることが出来れば、それだけで実は半分は勝利している。
バッターはピッチャーのボールの、全てを打とうと思っているわけではない。
必ず狙い球があって、それはカウントによっても変わる。
直史は同じコースに同じボールを、少しだけ遅く投げることが出来る。
チェンジアップの効果と一緒で、ミートポイントをずらして、凡打を打たせるのが簡単になる。
この試合もまた、そういった基本に従ったピッチングをしているのだ。
そしてバッターの打ち気の気配を、直史は敏感に感じ取る。
(チェンジアップとカーブが多いな)
樋口のサイン通りに、基本直史は投げる。
だが投げるフォームの途中で、相手のバッターのトップを作るタイミングと合致しているのに気がつけば、そこから上手く手首を返して、チェンジアップなどに球種を変えてしまうことがある。
大学とNPBで六年間、バッテリーを組んでいた樋口だからこそ出来ることだ。
本来ならキャッチャーとしては、いきなり変化球を変えたり、コースを変えることはキャッチングが難しくなる。
しかし直史のやっているこれは、駆け引きの一種。
直前にでもバッターの打ち気に気づいたなら、確かにそこから逃げてしまった方がいいのだ。
そんなわけで六回までを投げて、相変わらず直史はパーフェクトピッチング。
球数も余裕で60球を切っていたのであった。
自分たちの守備中に、アナハイムベンチの奥を見つめる織田。
ベンチに座った直史は、試合の展開を凝視している。
何を考えているのか、その無表情から読み取ることは出来ない。
だが確かなことは、その思考が自分たちの読みを上回るということである。
既に二打席、織田はこの試合凡退している。
一人でもランナーが出れば、第四打席は回ってくるはずだ。
しかしそれを許さないかのような、パーフェクトピッチング。
七回の表にまた、アナハイムには追加点を取られる。
そしてその裏に、織田の第三打席が回ってくる。
どういう思考回路をしていれば、こんなピッチングが出来るのか。
織田は中学まではピッチャーもやっていたし、高校でも地方大会レベルなら、普通にエースで通用した。
プロ入り後は外野一筋であるが、ピッチャーの思考を追うことは出来ないでもない。
直史のピッチングには、彼なりの合理が含まれている、
しかしその「理」というのはかなり広く、そして複雑である。
全体を見ればひどく単純なのだが、実際には複雑になる。
おそらく野球の座学が、バッター側には完全に足りていない。
もしも挑むだけの蓄積があるとしたら、それは間違いなくシアトルでは、織田しかいないだろう。
フィジカルを鍛えるMLBにおいては、その前段階であるハイスクールやカレッジの時点で、フィジカルのない選手は大概が弾かれてしまう。
だが実際には多様性でもって、フィジカルで上回る相手に通用する選手はいるのだ。
直史も身長はそれなりにあるが、体の厚みはかなり軽い。
それでも140km/hそこそこのストレートで、空振りや見逃しの三振が取れるのだ。
MLBの人気がなくなったのは、プレイ全体が大味になったから、というのを一時期はよく言われていた。
ホームランが多くなって、その代わりに三振も多くなった。
それでも統計的に見れば、そちらの方がレギュラーシーズンを戦うのには正解の道だとされた。
大介のように、三振しない四割打者のスラッガーが現れて、一気に常識は破壊されたが。
大介の破壊した常識の残骸を、直史が丁寧に取り除いていく。
150km/hに満たないストレートで、確実にカウントを稼ぐ。
球数が多くなりがちで、分業制が当たり前の現代野球で、普通に指定の球数以内で省エネ完封をしてしまう。
それも単純な技巧派なのではなく、まさに超絶技巧。
狙ったところでは、しっかりと三振が奪えるだけの力を持つ。
この織田の第三打席を、キャッチャーフライに打ち取るぐらいには、フライを打たせる力も持っている。
七回も先頭打者として、塁に出ることが出来なかった。
試合は終盤に入り、まだヒットが出ていないのだ。
去年のデータを揃えて、今年はさすがにもう少し、ピッチングの成績は低下するはずだった。
だが実際はこのように、去年はまだアイドリングの一年だった、と思わせるようなピッチングをしてくる。
七回の裏も、シアトルはランナーを出せない。
悲壮な雰囲気が、そろそろベンチの中を満たしてきていた。
もしもこのままパーフェクトをされれば、シアトルは前回の対戦に引き続き、直史に二試合連続でパーフェクトをされることになる。
単純に実力だけでは、パーフェクトは達成できないはずだ。
だが彼我の実力差があまりに開いていれば、その前提は崩される。
メジャーリーガーが小学生に投げたら、パーフェクトの達成確率はどれぐらいであろうか。
もちろん直史とシアトルとの差は、そういった分かりやすいものではない。
だが数字で表示されるものとは違う、何か圧倒的な差はあるのだ。
それはシアトルのみの話ではないが。
最終回のマウンドに立ち、直史はぶらぶらと手を振った。
ここまでランナーは一人も出さず、球数も増やさず。
とりあえず点差から考えても、もはや試合自体には敗北する理由がない。
疲労を蓄積しないように投げている。なのでリリーフに任せてしまっても、別にいいのだ。
この球数でパーフェクトをしていて、交代など許されるはずもないが。
精神的な疲労は、おおよそ思考の半分を、樋口が担当してくれているので、そのあたりは楽になる。
まずは代打の七番をピッチャーゴロに打ち取って、パーフェクトへまた一歩。
二人目、三人目と、同じように代打が出てきて、それに対して投げて気がついたら終わっていた。
パーフェクトゲーム達成。
シアトル相手には、今季二度目のパーフェクトである。
六度目の先発で、三度目のパーフェクトピッチング。
なんだかもうこんなに達成してるとありがたみがないんじゃないかな、と自分では醒めている直史であった。
もちろんそれは勘違いで、観戦していた者はその最後の一人のアウトの後、我慢していた感情を爆発させるわけだが。
球数は84球。奪三振が13個。
やはり81球以内で完封しようとするなら、相手の早打ちに助けられなくてはいけない。
もっと楽なピッチングがしたい。
六試合目にて、今季三度目のパーフェクト。
これは多くの人間が目を疑う成績だ。
自分がパーフェクトなどという名前で呼ばれているのは、さすがにもう知っている直史である。
ただPとだけで表示するのは、なんだか頭が悪そうなのでやめてほしい。
そう感情の起伏のないまま、直史はインタビューに臨む。
その場での機械的な応答に、またマスコミは困惑させられることになるのであろう。
かくして徹底的な破壊を受けたシアトル打線は、第三戦にもまともな精神状態では挑めなかった。
アナハイムのあっけない三連勝で、このカードは終える。
そしてアナハイムはここまで、27勝3敗。
勝率がついに90%に乗ってしまったのであった。
主力のピッチャーが一人、抜けた状況での出来事である。
対抗するメトロズとの直接対決の日は、どういった試合がなされるのか。
ワールドシリーズの前哨戦と、気の早い記事を書くマスコミもいたが、誰かがそれを責めることもなかった。
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