第84話 アナハイムの先発は化け物だ
鮮烈過ぎるデビューを飾った直史を、今年は各チームがどう攻略していくのか、あるいは直史がそれを返り討ちにするのか、色々とシーズン前には言われていた。
だがもはや誰もその論調で直史を語ることはない。
六試合に登板して、パーフェクトが三回。
パーフェクトと言うよりは、完全にバグな数字である。
直史はインタビューのたびに、これは運だと言っていた。
野球は確率のスポーツで、統計のスポーツでもある。
直史のようなグラウンドボールピッチャーは、ほとんどの場合はゴロを打たせても、一試合に一度は内野の間を抜けていくし、内野の捕球か送球のエラーがある。
それがない守備力の高い内野に恵まれた、それも運。
実力だなどと一言も言わない直史は、マスコミにとっては実のところ、慇懃無礼な人間と思われている。
そしてそれでも構わないと、本人さえ思っている。
直史は野球という競技自体は好きである。
ただ見るのはそれほど興味はないというか、楽しむというより研究のために見るものになっている。
本当に楽しく充実していたのは、高校時代までだ。
大学時代は仕事であったし、クラブチーム時代は楽しんではいたものの、充実するほどの対戦相手には恵まれなかった。
プロに入ってからは、ほとんどが義務的な仕事であり、たまに熱くなる時は、逆に凍てつかせるほどに心を平静にした。
戦う相手は、大介一人。
もちろん他の選手との対戦も、手を抜いていたことなどないが。
プロという本当に、それで金を稼ぐ世界に、直史を引き込んだのは大介だ。
それなのに一年だけで、MLBに避難することになった。
それを追いかけてきた直史は、この舞台でも大介に勝った。
だが次第にその勝敗はギリギリの勝負になっているのが分かる。
大介が直史を導き、そして直史に勝つために大介はさらにレベルを上げた。
表面的に見たら、プロ入り後の二人の関係は、そんな風に見えるだろうか。
だが実際のところ、戦う時に相手に対する負の感情など、全く覚えることはない。
むしろ、さらなる高みが、対決の向こうに見える。
今年の成績が上がったのは、確かに樋口が来てくれたことも関係するだろう。
だがおそらくはそれ以上に、去年のワールドシリーズとの対戦で大介に勝ったことで、大量の経験値が入ってレベルが上がったのだ。
冗談のような話かもしれないが、あのぎりぎりの勝負が、直史の限界を一段階上げたことは確かかもしれない。
いや、おそらくそれは確かなのだ。
限界の向こうに、まだ見ぬ世界があった。
そこに踏み入れたのが、今年の直史だ。
対する大介の、今年の成績はどうなのか。
打率や出塁率、そしてOPSは確かに上がっている。
だが打点やホームラン、そして純粋にヒットの数が減っている。
あまりにも勝負を避けられることが多いのだ。
去年の時点で既に、フォアボールで歩かされた回数が、300回を超えていた。
他にも強打者がいるのに、それでも大介をランナーとして出すリスクを許容していたのだ。
五打席目が回ることの多い、打撃に秀でたメトロズでこれなのだ。
他のチームであれば、ホームラン数などがあそこまで増えることもなかっただろう。
今年も四月の時点で、54個の敬遠を含むフォアボールで出塁している。
そしてその後の四試合で、65個までその数は伸びている。
直史が大介のために、してやれることは少ない。
だがインターリーグでメトロズと対戦したら、大介と勝負して、しっかりと抑えてやるべきだ。
正面から対戦しても、大介を封じることは出来る。
直史だけではなく本多なども、大介とはかなり勝負していて、それなりに抑えている。
もっとも大介の厄介なところは、その勝負強さもあるのだが。
去年のワールドシリーズ、直史は大介と11打席勝負した。
そしてヒットを三本打たれたわけだが、そのヒットで点は入っていない。
大介を封じて、勝つことは出来るのだ。
高校時代の話なら、真田との対戦はかなり大介に分が悪かった。
プロ入り後も苦手なタイプのピッチャーはいて、おそらく今のMLBのように、画一的なピッチャーでなければ、他にもある程度は抑えられるはずなのだ。
直史がそれを証明する。
おかしな話だ。
大介のためを思えば、大介を抑え込んでやらなければいけない。
そこまでやってやっと、大介の対処を各球団は、本当に考え出すだろう。
MLBというリーグ全体で見ても、大介がこんなに勝負を避けられるのは、業界の将来的によくない。
打たれる可能性が分かっていても、立ち向かっていかなければいけない。
まさか大介が衰えてからようやく、勝負を始めるというわけにもいかないだろう。
それはあまりにも、興行として情けなさ過ぎるのだ。
シアトルとのカードの後、アナハイムは本拠地に戻る。
そしてヒューストンとの対決である。
前回は敵地で、二勝二敗の五分であった。
今年からMLBデビューの蓮池は、順調に勝ち星を重ねていっている。
だが東海岸の武史の内容が、人外の領域に達しているため、あまり注目されていない。
そしてこのカードも、登板の予定はない。
直史もこのカード、登板の予定はない。
純粋に決戦兵器抜きでの、純粋な戦力勝負となる。
スターンバック、レナード、マクダイスというローテ。
二勝一敗ぐらいでいければいいか、という具合だろうか。
味方の成績にはあまり興味を持たない直史には、ぼんやりと観戦する程度の試合。
気になるのはこの先のアナハイムのスケジュールだ。
MLBは日程が過酷とはいえ、ホームゲームは二カードほど続いて、移動の負担が少ないようにしている。
だが時々どうしても日程の都合で、ホームで一カードだけ終えて、またすぐにアウェイに移動することもあるのだ。
ヒューストンとの三連戦が終われば、オークランドに移動して三連戦。
そしてまたホームに戻ってくるという、やや移動の激しい日程だ。
休養日もない16連戦。
だが直史にとって幸いと言うべきは、移動直後の試合がないということか。
調整の上手い直史ではあるが、調整しなくてもあまり変わらない、大雑把な選手ではないのだ。
精密機械は扱いが難しい。
調整を自分自身でやってはいるが、レギュラーシーズンの日程が厳しいと思うのは、まぎれもない事実だ。
アナハイムはここまで13連勝。
どれだけチームのコンディションを保とうと思っても、長いレギュラーシーズンには波がある。
連戦と移動で、選手には疲労も蓄積するし、集中力も持続しない。
そのあたりのコンディションコントロールも、才能の内と言うのならば、確かに直史は天才だ。
それに樋口も天才だろう。
大介はほんのわずかにだが、波が存在する。
その分、爆発力もとんでもないものだが。
そしてこの三連戦は、スターンバックが見事に調整に失敗した。
移動直後の第一試合は、確かに難しいものではある。
実はここまで直史と並び、無敗だったスターンバック。
だが勝利の偏りがここまであっては、いずれは普通に誰がピッチャーであっても負けるというものだ。
コントロールが乱れていて、特に低めに投げたはずのストレートが、やや浮いてしまうのが致命的だった。
それでも初回の三失点の後は、カットボールばかりでどうにかカウントを取りにいく。
だが二回にはこれも、上手くボール球を選ばれて、フォアボールで出塁。
ピッチャーにはこういうこともある。リリーフを投入する。
ここまでアナハイムは、序盤でピッチャーが崩れるという試合がなかった。
それでもシーズンが始まって一ヶ月もすれば、こういうことはありうるのだ。
勝率では大差がついているとはいえ、ヒューストンは同地区の優勝を争う相手だ。
直接対決で負けるのは、あまり良くない。
とはいえ今のアナハイムは、大きなビハインドから逆転するシステムを構築出来ていない。
選手の個人スペックに頼るにしても、リリーフ陣がさらに点を取られれば、追いつけるものではない。
負け試合の消化。
あとはどれだけ、ピッチャーを消耗させずに負けるか、という話になる。
そういう後ろ向きな仕事も、樋口はしっかりとするの。
こんな序盤であれば、まだ逆転のチャンスはあるのだ。
序盤に先発が崩れ、ある程度の点差で投入されるリリーフ。
だがまだ二回となれば、完全な敗戦処理というわけではない。
(ここでしっかり仕事をしたら、先発ローテに昇格もありうるしな)
樋口はビハインド展開における、ピッチャーの切迫感も良く知っている。
先発ローテのピッチャーは、最も分かりやすいピッチャーだ。
NPBなら中六日で投げて、六回から七回まで試合を作る。
無失点ではなくても、中盤までどちらが勝つか分からない展開にする。
分業制を言われる現在のピッチャー事情でも、花形であるのに違いはない。
そしてリリーフ陣も、クローザーやそれにつなぐセットアッパーは、短いイニングをしっかりと抑える役目がある。
主に勝っている展開で使われて、その試合をリードしたままで終わらせる。
特にクローザーは重要な役割で、クローザーの失敗イコール試合の敗北に直結する。
こういった中でビハインドでロングリリーフをするピッチャーは、かなり微妙なのだ。
しかしここから長く投げられれば、それはそれでイニング数を稼ぐし、安定感があればローテのピッチャーが抜けた時、穴埋めの第一候補に出てくることもありうる。
レックス時代はこういうリリーフが、一番上手いのが星であった。
彼のアンダースローはとにかく、相手の打線の連打を防ぐのには適していた。
長く投げる時もあれば、短く投げる時もある。
元々負けたビハインド展開から投げるので、逆転して勝ち星がつくことはそれほど多くない。
だが通算300登板以上をして、通算30勝しているのだから、貴重な戦力であるのは間違いないのだった。
先発の揃っていないチームなら、ローテーションで投げていてもおかしくなかった。
アナハイムも二回の表、さらにランナーは出したものの、ホームまで帰ってきたのは一人だけ。
四点差となって、アナハイムの攻撃に移る。
ここから四点差をひっくり返すのは、不可能なことではない。
ただ初回の一番からの攻撃で、一点も取れていなかったのは大きい。
アレクは点差が開いた負け試合めいたものになってくると、自分の成績を上昇させることだけを考える。
とは言ってもホームラン狙いなどになるわけではないのだが、ケースバッティングでチームのための判断をしなくなるのだ。
プロ野球選手というのはそのほとんどが、別に優勝など目指していない。
重要なのは己の成績を、どう評価させるかだ。
つまるところ金である。
MLBの若手などは、とにかく金のためにプレイしていると言っていい。
優勝を目指すなど心から言うのは、既に功成り名遂げたベテランが、最後の栄誉として目指すようなものだ。
この個人主義の戦力をどう使うかが、FMの腕の見せ所。
選手たちの成績のためにも、犠打などをさせすぎるのも良くないのだ。
アレクは金の亡者ではないが、金にシビアな人間だ。
だからこそアナハイムに移籍してきたし、自分の個人成績にこだわる。
対して樋口の場合は、もちろん金にはこだわるが、キャッチャーとしての美学を持っている。
もちろんそれが、評価にもつながるのだが。
二人を深くするなら、その状況も違うと言えるだろう。
アレクは複数年契約を結んでおり、その中にインセンティブや色々なオプションがついている。
なのでより自分の成績が、大切なものとなる。
樋口は一年目の新人で、重要なのは契約の最終年の成績だ。
そこが良ければキャッチャーならば、新しい契約を結ばなくても、他のチームで必ず声がかかる。
それと樋口には、野球で人生を終わらせるつもりもない。
このあたりの思考の余裕が、かえって樋口の成績の向上につながっているのだろう。
アナハイムは徐々に三点を返したが、この序盤の四点が大きかった。
最終的には3-5で第一戦を落とす。
スターンバックの自責点が四点だったので、これはまさにピッチャーの敗北であった。
だが三点しか取れなかった打線も、普段よりは攻撃力が落ちていると言える。
ベンチの中の直史は、前にも考えたことを、また回想する。
圧倒的に強いチームというのは、ひょっとしたら接戦には弱くなるのではないかと。
だが今年のアナハイムは、接戦の勝ち星と負け星はほぼ同じ。
接戦に弱いというわけでもないのではないか?
(いや、違うな)
勝率は圧倒的なのに、接戦であれば五分五分と言うなら、やはり比較の問題にしろ、接戦には弱いのだ。
ワールドシリーズともなれば、一試合の価値が大きくなる。
接戦をどう制するかが、むしろ頂点への課題だ。
タブレットを見れば、データはいくらでも出てくる。
選手にも共有されているデータは、どうすればチームが勝てるかというものだ。
ただ脳筋のメジャーリーガーの中で、こういったものに目を通す選手はなかなかいない。
下手をすればFMでも、適当にしか見ていないのでは、と思った。
第二戦はレナードが先発。
一回の表をしっかりと三人で抑え、その裏にはアナハイムが先取点。
こういった試合の経過を見ていくと、本当に今のMLBは、先取点を取ることが重要なのだと分かる。
直史は今日もベンチでお勉強。
今年の試合で、一点差で終了したゲームは三試合で二勝一敗。
二点差で終了したゲームは五試合で二勝三敗。
このうち三試合がリリーフデー。
つまり先発の強い日には、あまり負けていないことが分かる。
これはおそらく直史のせいもあるのかもしれない。
責任ではなく原因であるが。
直史は必ず最初に相手の打線を封じてくれる。
なのでゆっくりと先取点を取りにいけばいい。
だが他のピッチャーが先取点を許すと、そこから打線も慌ててしまう。
リリーフデーや先発が弱い日に負けやすいのは、そのあたりも関係しているのか。
このあたりを味方の攻撃中に指摘すると、樋口はすぐに答える。
「そうも見えるが、こうも見える」
そもそもアナハイムはこれまで、まだ四敗しかしていない。
そしてリリーフデーに二つ負けて、あとはマクダイスとスターンバックに負け星がついている。
「負けた試合を見ても、一点差と二点差だけで、圧倒的な大差で負けている試合はないんだ」
それこそ樋口が、負けている試合でもピッチャーに、己の数字だけに集中させているからだろうが。
負けるにしてもちゃんと追いかけて、それで一点差か二点差にまで追いついている。
詳しく試合を見れば、そういう試合もあるのだと分かる。
そもそもまだ四試合しか負けていないので、どうこう言えるはずもない。
ただ接戦をさらにものにしたいな、というのは確かだ。
「昨日は四点も先制されて、その後一点しか追加されず、三点取って二点差に詰め寄ったんだから、それで充分だろ」
樋口の視点はやはり、毎試合出ているだけに、直史よりも広く遠いところにまで及んでいる。
スターンバックで落とした第一戦は、確かに痛いのかもしれない。
だがこの二試合目は先取点を取り、さらに追加点を入れている。
レナードは三回まで無失点で、安定して投げている。
おそらくこの試合も勝てるのではないだろうか。
負け星のついているマクダイスにしても、全ての試合でクオリティスタートを達成している。
五回までの交代はなく、しっかり六回まで投げているのだ。
直史が非常識なことばかりをしているが、これはエースクラスのピッチング。
計算したら彼の防御率は3を切っている。
ならば今日のレナードはどうなのか。
なんと防御率は2を切っている。
普通ならばサイ・ヤング賞の候補になってもおかしくはない数字。
それなのに全くそんな論調は出てこない。
直史が全部悪い。
二回でノックアウトされたスターンバックも、あの試合を入れてさえ、防御率は2.13だ。
ここにヴィエラが戻ってきたら、どんな投手陣になるのか。
ガーネットはおそらくFAへの登録日数の関係で、一度はまたマイナーに落とすだろう。
だがシーズンの後半に入って、またメジャーに上がってきたらどうなのか。
坂本も悪いキャッチャーではなかった、と個人的には含むところがある直史でも思う。
だが樋口はほとんどのピッチャーの、個人成績を上げているだろう。
NPBでも最高レベルのキャッチャーであったことは間違いない。
さらに打てるところが、現代では少なくなったキャッチャーの特徴と言えようか。
「ピッチャーの研究をしていたら、打てるようになってもおかしくないと思うんだけどな」
バッティング技術よりは、読みの方が大きく寄与している。
それが樋口の成績なのだろう。
六回三失点でレナードは降板し、そこから勝ちパターンのリリーフが始まる。
ここから三人が、一失点以内なら充分。
アナハイムも追加点を入れて、追いつく隙を与えない。
考えてみればレナードも、全勝でこそないが今季まだ負け星がついていない。
アナハイムの先発陣は化け物か、と他のチームが言いたくなるのも分かる。
最終的には6-4でアナハイムの勝利。
あくまでも結果だけを見れば、直史の懸念した、接戦での勝利に見えた。
第三戦を勝っておきたい。
これを勝てばアナハイムは、とりあえずヒューストン相手の勝率が五割を超える。
一つのチームだけの対戦成績を、気にする必要はないのかもしれない。
だが気分の問題は、案外馬鹿にしたものでもない。
この試合が終われば、飛行機でオークランドに移動して、また即日試合なのだ。
オークランドは完全にひどい目担当の悲しいチームになっているが、第一戦の先発はリリーフデー。
先発ローテでないと勝ちきれないアナハイムとしては、オークランド相手でもあまり油断は出来ない。
樋口もそれが分かっているのか、この試合は慎重なリードをする。
試合前にしっかりとマクダイスと話していたのが、直史の印象に残った。
だいたい直史と樋口は、意思の疎通もなくベストピッチングに持っていくことが出来る。
もちろん微調整はするが、以心伝心とはこのことなのだろう。
樋口にしても直史が、投げる瞬間に球種やコースを変えるのを、咄嗟の判断なのに判別がつく。
おそらくバッターとして直史と対した時、大介と同じぐらいにはヒットを打てるのは、樋口だけだろう。
ただそれをもって、樋口は自分が優れたバッターなのだと、思い上がることはない。
大学とNPBと、一番長く組んできたバッテリーなのだ。
最初は敵として対戦したが、甲子園の決勝では対決がなかった。
もしもあの試合、直史が投げていたらどうなっていたのか。
二人とも己の価値観から、わざわざ口にしたりはしない。
だが架空の思考をしないはずもないのだ。
レナードの実力的に、早めに試合の主導権を握るか、圧倒的な援護がほしい。
そう思っていたところに、ターナーが二打席連続のホームランで四打点を記録する。
33試合目にて二桁本塁打に到達。
ア・リーグでは二位タイの記録でホームランダービーを追いかける。
だいたい四点あれば、大丈夫なのが現在のアナハイムだ。
明日のオークランドとの試合は、勝ちパターンのリリーフの一角も使えるか。
樋口は色々と計算しながら、五点目は自分のバットで叩き出したのであった。
7-3と安全圏の点差で、試合は終了した。
ルークとピアースの二人を使わなくて済んだのは幸いだ。
二勝一敗とこのカードは勝ち越し。
次の対戦相手はアウェイでのオークランドとなる。
おそらくよほど大きな故障離脱がない限り、アナハイムはポストシーズンには進出出来る。
まだ五月も中盤だというのに、誰もがそんな確信を持っていた。
ただそれを逆に言えば、大きな故障離脱は怖いということでもある。
ヴィエラもそろそろ、復帰のためのトレーニングに入っているはずだ。
具体的な日は分からないが、それぐらいのはずである。
オークランドに到着するアナハイムの一行。
基本的に直史は、この街では外出するのは試合に出るときだけだ。
ヒューストンやニューヨークなどは、それなりに外出することもある。
あとは南部のチームとの試合だろうか。
この三連戦の二試合目が、直史の登板だ。
もういつものごとく、チケットはソールドアウトしている。
第三戦はガーネットが投げるので、そろそろ崩れる可能性がある。
そうなった時には試合が決まってしまう点差になる前に、リリーフを投入しなければいけない。
翌日が直史、あるいは前日が直史。
このパターンであると、かなり大胆にリリーフを使うことが出来る。
今季はこれまで、全試合を完封。
こんな便利なピッチャーを、どう評価するのが正しいのか。
決戦兵力としての馬力もあって、そしてそれよりもさらに、レギュラーシーズンは安定している。
今年の直史を打てそうなバッターは、数えるほどとかどうとかではなく、大介で打てないならもう打てないのだろう。
第一戦はリリーフデーで、直史は軽く体を動かしてキャッチボールなどをした。
どんな日であっても、シーズン中はキャッチボールをしたいのが、直史の調整の特徴だ。
二年前のあの日々、その習慣は途切れてしまったが。
ニューヨークのあの日、雨がちな季節であった。
季節も違えば気候も違う。
オークランドを相手に、直史はベンチからじっと見つめるだけである。
前回先発したシアトル戦で、直史は己のピッチングの、丁度いい感じを掴みつつある。
ゴロを打たせ、フライを打たせ、三振を奪う。
この三つのアウトを上手く調整して、球数を少なくしていく。
そして球数を少なくするのと同時に、肩肘の消耗や、疲労が蓄積するのも避ける。
決戦のポストシーズンとは違い、レギュラーシーズンではそれが絶対正義のピッチングスタイルだ。
振り回してくるタイプのオークランドで、それをどう検証するか。
若手が多く、元気のあるオークランド。
もっともチームとしての成績は、それに伴っていないが。
再建中とは言われているが、いったいいつになったら強くなるのか。
フランチャイズと言いながらも、開幕序盤からオークランドはずっと、閑散とした観客の中で試合を行っている。
もっともアナハイムとの試合は、どのチームでもほぼ客席が満員になる。
なのでアナハイムの選手たちは、オークランドのそんな経営状態などは知らない。
直史が凝視する視線の先で、今日は対決のないはずの、オークランドのバッターたちは固まっていた。
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