第76話 アクシデント

 アナハイムのフランチャイズ、ヘイロー・スタジアムにて、今季最初の直史の先発である。

 それ自体は全く何も問題もなく、直史自身も調整は完了している。

 問題があったのは、本日の練習において。

 先発ローテの一角であるヴィエラが、ふくらはぎの肉離れで、一ヶ月から二ヶ月の離脱が決まってしまったのである。


 まだしも明日の先発スターンバックではなくて、よかったとでも言うべきだろうか。

 だがこういったトラブルは、選手も人間である以上、必ず起こる問題なのだ。

 そもそも去年は、こういったことが一度も起こらなかったことが、奇跡であって優勝出来た理由でもあった。

 これによってヴィエラは故障者リスト入りし、マイナーから新人が上がってくる。

 今年でヴィエラの契約が切れることを考えれば、ある程度の若手を試していくのは必要なこと。

 だがそのヴィエラが離脱してしまうというのは、かなり痛い事態である。


 今日の試合の準備はそこそこキャッチボールをして、終わらせている直史である。

 それに付き合っていた樋口も、あまり今日の試合には集中していない。

 甘く見ているわけではないが、シアトルの力はおおよそ把握できた。

 気もそぞろの直史であっても、完封するぐらいは出来る。

 それよりはヴィエラの抜けた穴が、樋口としても心配なのだ。


 試合前の時間、樋口は試合のスケジュールを確認する。

 ここまで無敗のアナハイムであるが、前の試合はギリギリ一点差のサヨナラ勝利であった。

 スターンバックはいいピッチャーだが、レナードやマクダイスには不安が残る。

 野球は統計のスポーツであり、確率のスポーツである。

 ヴィエラが抜けたとしても、他のピッチャーである程度は穴埋めが出来る。

 最大二ヶ月の離脱でも、それで崩壊するようなチームではない。


 ただ樋口は、MLBに来てから考えていたことがある。

 もちろんリスクは高いし、アナハイムの現在の戦力のままなら、プランとして埋もれていたであろう。

 だがもしもこの先、さらにピッチャーが離脱したら。

 MLBはすぐに補充でマイナーから昇格してくる。

 特に樋口が見た中でも、ロースターに入れておいて良さそうなピッチャーはいたのだ。

 それがなぜか現時点でまだマイナーなのは、それだけ戦力に余裕があったから。

 少し開幕から遅れてメジャーに上げれば、一年長く安く使うことが出来る、MLBのFAまでの期間のせいだ。


 樋口はどうしても、一選手としてではなく、大局的にものを見てしまう。

 それはFMの枠にとどまらず、GMの観点から見たものだ。

 直史がMLBにいるのは来年まで。

 樋口はそこからあと三年は、MLBで活動するつもりでいる。

 その頃に妻がどう安定しているか、樋口が日本にいつ戻るかは、その時の状況次第。

 実際は美咲のメンタルではなく、それを心配する樋口のメンタルの問題なのだが。


 キャッチャーとして試合を支配するより、フロントに入ってチーム全体を采配したい。

 あまり野球に関わって生涯をすごすつもりのない樋口だが、もしもやるならそういった広い範囲を掌握する仕事がしたい。

 その観点からすると、ヴィエラとスターンバックのうち、どちらか片方はさすがに手放すことになる。

 あるいは年齢的に、ヴィエラと比較的安く契約することは出来るかもしれないが。

 どちらにしろ次の新しいピッチャーは、育成が必要である。

 ただしトレードで戦力をどう補充するかまでは、さすがの樋口も理解が及ぶところではない。

 球団経営は樋口の当初予定であった、国家運営にまだしも近い。

 なのでその気になれば、将来のフロント入りなども考えていくところなのだが、樋口はあくまで日本で働きたいのだ。


 ヴィエラが離脱してしまったことを、逆に新戦力を試すチャンスと考えるべき。

 そしてもう一つ、負け分を埋め合わせる方法がある。

 それは一部のスケジュールにおいて、直史を中四日で回すのだ。


 MLBでもかつては、球数を90球制限にし、中四日で回すというチームもそれなりにあった。

 今でもシーズン中、エースクラスを中四日で回すチームがないではない。

 ただしこれは最強戦力である直史に、さらなる負担をかけることになる。

 だが肉体自体には、それほどの負担はかからない。

 NPBでは二年目、直史は中四日でスケジュールを組み立てていた。 

 だから単に中四日ではなく、他の環境まで含めて、それが可能なのかを考えなくてはいけない。


 90球で試合を終わらせることが出来るのか。

 もしそれが出来るなら、中四日も可能かもしれない。

 何より直史が最も消耗させる、脳の部分を自分が補えばいいのだ。

 そして直史をリードするのは、他のピッチャーをリードするよりは楽だ。


 ともあれ全ては、今日の試合の結果を見てからだ。

(織田さんをどうにか抑えないとな)

 普通に三割以上を打っている織田は、やはり要注意の一番バッターであるのだ。




 織田という選手の優れた点は、やはり対応力とその柔軟性だ。

 基本的にはヒットと出塁に優れ、バランスよくケースバッティングをしてくる。

 パワーはそれほどないように思えるが、狙い澄まして打つ能力はある。

 よってこれを打ち取るには、乱数的に考える必要がある。

 セオリー通りに投げていれば、逆に打たれてしまうのだ。


 遅いシンカーの後に、また遅いチェンジアップを投げて、そこからカーブ。

 引っ掛けてしまって内野ゴロに倒れた織田だが、何も得ていないわけではない。

(でたらめな配球だったな)

 だからこそ逆に読めなかった。


 今日はその配球で行くのか、それとも織田にのみでたらめであったのか。

 おそらく織田のことを、最大限警戒しているのだろうが。

(でたらめならでたらめで、狙いようはあるけれど)

 リードには正解はない。

 もっと正確に言うと、打ち取れたリードが正解なのだ。

 もしくは打たれたとしても、試合の趨勢に影響しなかったリード。

 あの悪魔のような頭脳の二人は、そのあたりを完全に計算している。


 織田などは得意なコースや球種などはない。

 正確に言えば、ないように見せている。

 同じように苦手なボールもないように見せているが、直史のチェンジアップだけは苦手意識がある。

 苦手なコースをわざと作るように見せることも考えたが、なかなかそれは難しい。

 駆け引きというのが織田のバッティングの真髄だ、と本人は思っている。

 周囲から見れば、ミート力の高さが異常だと思えるだろうが。

 そんな織田でも大介よりは、三振の数が多い。


 織田を片付けたあとの二人は、三振と内野ゴロに打ち取った。

 そしてアナハイムの裏の攻撃が始まる。

 先頭打者アレクというのは、相手のピッチャーや守備には、ものすごく嫌なバッターなのだ。

 粘ることも出来るし、セーフティも仕掛けてくるし、単なるアベレージヒッターでもない。

 毎年200本安打をしてきて、実は大介よりも先に、名球会入りの条件を達成してしまっていたりする。

 アレクが打つと言うよりは、大介が勝負を避けられすぎていると言うべきであるが。


 この日も初回、先頭打者としてあっさりとライト前にボールを飛ばして出塁。

 織田とアレク、どちらのミート力が高いかは、議論の余地があるところであろう。

 ただ直史などからすると、その二人に樋口も入れるべきだろうし、本当に一番ミートが上手いのは大介だ。

 ボールとバットの接触する一瞬に、全ての力を注ぐ。

 それをどう上手く外すかが、大介攻略のポイントである。


 二番の樋口はしっかりとフォアボールを選んで出塁。

 オープン戦はスプリングトレーニングで準備はしておいたが、それでも外角の違いに戸惑ったものだ。

 安定して四割ほどの出塁率を誇るようになって、ベンチも戦術が立てやすくなった。

 初回からノーアウト一二塁で、主砲のターナーである。

 ここでいきなりホームラン、とまではいかないが、外野の頭を越える打球を放つ。

 安全に二塁からアレクがホームに帰ってきて、ノーアウトのまま先取点だ。


 これを見ていた織田は、アナハイムの強さを実感する。

 去年はもっと、打線が弱かったのだ。

 ターナーの成長はあったが、それでも平均的な得点力。

 だが今年は開幕から、昨日の試合を除いて六点以上の点を取っている。


 続くシュタイナーの打球は、織田の守るセンターへ。

 三塁ランナー樋口の足を考えると、これはもう間に合わない。

 ただ二塁のターナーが、三塁を狙うかどうか。

 ターナーも足が遅いわけではないのだが、ここは動かなかった。

 樋口がホームに帰って、初回から二点。

 直史相手に二点は、実質試合終了である。




 より少ない球数で勝利することを、直史は求められている。

 坂本と直史の組み合わせは悪かったわけではないが、二人の間で考えられる配球は、違うコンピューターの結果を照らし合わせるようなもの。

 対して樋口のそれは、計算にブーストをかけるようなものなのだ。

 キャッチャーから戻ったボールをキャッチした直史は、もうすぐにセットポジションに戻っている。

 これに慌ててしまえば、バッターは打つことが出来ない。


 構えたらすぐにボールが投げられる。

 考えている暇がない。

 こちらの呼吸を無視して、完全に自分のタイミングで投げてくるピッチャー。

 ボールの速さは確かに、一般的なメジャーリーガーと比べても速いわけではない。

 だが思考は早く、プレイも早いのだ。


 テンポよく試合は進んでいく。

 アナハイムに都合のいいテンポだ。

 アナハイムはヒットの連打を浴びせ、追加点を奪っている。

 対してシアトルはこれまたテンポ良く、アウトを積み重ねていっている。

 流れを止めなければいけないが、止めようがない。

 直史は初球からゾーンに投げ込んでくるのに、時々その判断が難しいボールを投げてくる。

 審判は直史の味方だ。正確には審判ごとの傾向を、しっかりと直史は利用している

 同じことはシアトルも、しているはずなのだが。


 野球選手というのは、我が強すぎるのだ。

 そうでなければとても、通用しないとさえ言える。

 生き馬の目を抜く世界で、タフでなければ生きられないのは確かだ。

 だが直史は常に、最初から期待されている。

 そしてその期待に応えて、相手のほしいボールを投げるのだ。


 審判にしても難しいボールを判定するのは、ストレスであり同時に快感である。

 多くの人間が勘違いし、そしてこれはさすがに直史も気づいていないというか思い至っていないのだが、遅い球というのは審判も判定しやすいのだ。

 直史の遅い球は、審判にも優しい。

 それだけにギリギリをかすめた球でも、ストライクと安心してコール出来る。

 見逃し三振がとても多くなるというわけだ。

 

 機械で正確に測定すれば、直史のストライクはほとんどが、本当にストライクであると分かる。

 だが樋口のささやかなフレーミング技術で、ボール半個は確実にゾーンは広くなっている。

 そしてバッターが抗議すればするほど、審判の心象も悪くなるというわけだ。

 直史も樋口も高校時代から、普通にそういった審判の心理は利用していた。

 特に樋口などは、春日山が上杉の影響下にある間、明らかにゾーンが広くなっていたのを感じていた。

 上杉は高校野球ファンから最も愛されたエースと言える。その影響は翌年まで残り後輩である樋口たちにやや有利な判定が多かった。

 それでも白富東を抑えることは出来ず、最後に一発逆転の賭けに出るしかなかったが。

 もっともその賭けに勝ってしまうのだから、樋口も持っている人間なのだ。


 三回まで投げて29球。

 樋口としてはこの試合、90球以内に終わらせてみたい。

 そのためにはやはり、一人もランナーを出さないことが、球数を制限するには都合がいい。

 四回の表、シアトルは織田からの打順。

 パーフェクトは続いているが、その鬼門がやはりこの織田である。




 佐藤直史という存在は、チートとかスーパーマンではなく、バグのような存在だと織田は思う。

 バッターが正常に機能しなくなる。

 そう、野球の正統な技術ではなく、何か魔法でも使っているかのような。

 だがそんな突飛な考えで直史のピッチングを見ていくと、気づかないことにも気づいていくのだ。


 織田は元々地頭がよく、プロに進まなければ普通に大学に行っていた。

 そして名徳は進学校でもあり、データによる分析にも長けていた。

 しかしその分析によっても、直史の本質には迫れなかった。

 MLBに各球団の分析力をもってしてもなお、その攻略法は見つかっていない。


 直史からホームランを打った織田にこそ、そういったものを期待しているのだろう。

 だが狙い球を絞って打って、偶然に打てただけという話。

 この打席では初球のスルーを打って、セカンドゴロで倒れる。

 直史には出来るだけ球数を投げさせないといけないと分かってはいるのだが、だからといって初球を全く狙わないというのもおかしくなるのだ。

(やっぱり坂本とよりも、組み合わせとしては強いか?)

 織田がこのバッテリーと対戦するのは、思えばWBCの壮行試合の一度だけではなかろうか。

 織田が早々にMLBに移籍し、直史がなかなかプロ入りしなかったため、公式戦での対戦はないのだ。


 あっさりと凡退してしまった織田だが、試したみたらいいのでは、という作戦は思いついていた。

 もっとも提案もしにくいものだ。

 即ち、全打席初球狙いである。


 直史は基本的に初球からゾーンに投げてくるが、時折カーブやスライダーで外すこともある。

 だがそれでも初球にゾーンというのは、かなりの確率で投げているのだ。

 そして直史のスタイルからすると、この初球に対するバッターの反応で、その後の配球が変わってくる。

 なので何も情報のない初球打ちが効果的というのは、バッターにとっては他のピッチャー相手でも言われたりするのだ。

 ただそれは上杉や武史のように、追い込まれたらどうしようもないという相手の方が、より有効だとは思う。


 織田は沈黙を守り、結局はこの回も、シアトルはランナーを出せず。

 パーフェクトピッチングが続いていく。

 スタジアムは静かな熱狂が続いている。

 だいたい直史の投げる試合は、もうこんなものである。

 見る分にはメトロズの方が、ずっと派手であろう。

 今年は一番大介が機能しているようだし。




 アナハイムは下位打線でも地味に点を取っていった。

 四点差となり、完全に安全圏の点差となる。

 そしてシアトルの攻撃の二巡目が終わる。

 ランナーはまだ出ていない。

 六回が終わって56球。

 かなりいいペースで投げてきている。

 普通に100球以内どころか、これは90球以内のペースであろう。


 七回の表、シアトルの先頭は織田。

 ここをしっかり封じてしまえば、パーフェクトへの最大の障害がなくなる。

 樋口としてはまだ、どこか織田を警戒するところはある。

 二打席目は初球から狙ってきていたのが、気になったのだ。


 バッターボックスの織田の気配を探るが、打つ気配は消している。

 もっとも本当に打たないのかというと、もちろんそんなことはないだろうが。

 曲がってもなお、ゾーンにまでは至らないスライダーを要求する。

 そのボールを踏み込んで、織田は打ってきた。

 だがボールはまだ左方向、ファールグラウンドに飛ぶ。

 

 打てるボールなら確実に打ってくる織田だが、この二打席連続初球打ちは珍しい。

 それを探るために、二球目は逃げるシンカーを投げた。

 スピードはないがそこそこ大きく変化するシンカー。

 ボールゾーンに逃げていく球は、素直に見逃す織田である。


 狙いはどうだったのか分からないが、ボール球の見極めが出来ているのが織田である。

 やはりそう簡単に、アウトになってはくれない。

(攻略法を色々考えてるんだろうな)

 そう思いながら樋口は、インハイにストレートを要求する。


 ここでのインハイというのは、かなり勇気のいる選択だろう。

 しかも樋口の要求したのはボール球だ。

 頭部付近に投げてしまえば、一発退場もあるのが最近のMLBだ。

 もっとも直史はそれより、ずっと下のコースに投げこめるが。


 織田の打ったボールは、今度は右方向にラインを切れていった。

 これでファールを打たせて、ツーストライクまで追い込む。

 ここで樋口は続いて内角を要求する。

 だが今度はゾーンに入っていくツーシームだ。

 ボール半分ほど外れたツーシームを、織田はわずかに反応したが見逃す。

 そして樋口のミットは、わずかに動いていた。


 ストライクがコールされる。

 見逃し三振で本日は三打席凡退。

 最後の球はボールだったな、と冷静に判断する織田は、それでもカットしていかなければいけなかったな、と冷静に反省していた。




 七回の表も終了すると、いよいよスタジアムは期待に包まれてくる。

 その間にもアナハイムは追加点を取っていくので、アナハイムファンとしては嬉しい試合だ。

 八回の表も、三者凡退で終える。

 直史にとってみれば珍しいことではないが、もしもこれでパーフェクトとなると、二年連続パーフェクト達成となる。

 もちろんそんな記録、今までMLBにはなかった。


 緊張すべきなのかどうか、守備陣も戸惑いがある。

 去年何度もパーフェクトやノーヒットノーランを経験して、感覚が麻痺しているのだ。

 八回の裏が終わって点差は七点。

 現時点で球数は76球であるので、さすがに前の試合のようにかいかない。

 だが90球以内に収めるのは充分に可能だ。

 最終回のマウンドに直史が登る。


 シアトルは情報の少ない代打を出してきた。

 ただそれは向こうも、直史のボールを実戦で体験したことがないことを示す。

 スルーの変化についていけず、内野ゴロでワンナウト。

 あと二人となって、直史は守備陣の様子を見る。


 ほどほどのちょうどいい緊張感といったところか。

 直史は二人目の代打をアウトローで攻める。

 審判の特徴までも共有されていなかったのか、見逃しでストライクアウト。

 これで残りはあと一人となる。


 去年の直史は、初先発でパーフェクトを達成した。

 史上最小球数でのパーフェクトであった。

 さすがにそれから、球数の少ない完封は達成していない。

 この試合もそういう意味では、直史にとっては特に珍しいものではない。


 証明するのは、直史にあったのは、一年目がビギナーズラックではなかったということ。

 そもそもビギナーであったとしても、一年を通して最後まで、パーフェクトをやっていたわけだが。

 去年はオークランドが虐殺されて、今年はシアトルなのか。

 いやもう何も遠慮も区別もなく、ひたすら蹂躙し続けるのが、直史のピッチングと言えるのか。

 ラストバッターに向かって、直史はカーブを投げる。

 そしてそれはファールグラウンドに打ち上げられた。


 サードターナーが、特に問題もなくキャッチ。

 パーフェクトゲーム達成である。

 レギュラーシーズンにおいて五度目のパーフェクト。

 そして球数は85球と、とても完封をした球数ではない。

 三振も八つ奪っていて、見逃し三振が六つ。

 コントロールのいい技巧派の真骨頂と言えよう。


 試合後のインタビューにおいても、直史は冷静な応答を続けるのみだ。

 ただ二試合連続で90球以内完封というのは、ちょっとMLBの記録でも珍しい。

 全く気にしていなかったが、100球以内ならばともかく90球以内まで、記録しているというのか。

 ちなみに過去にやったのは、去年の直史であったりする。

 去年の直史は五試合、90球以内の完封を記録していた。

 100球と違ってキリの悪い数字なので、あまり意識はしていなかった。

 だが確かに、直史ぐらいしか出来ないことだ。

 100球以内の完封でさえ、今では年に数回、直史が以外は出るかどうかであったので。


 アナハイムはこれで開幕七連勝。

 どこまでこの記録が続くか、注目されるところだ。

 ちなみに去年のメトロズが九連勝。

 あちらもあちらで、まだ負け星が付いていない。


 一方的な試合が続くな、と直史はこれが、いいのか悪いのか判断に迷う。

 だが少なくともチームとしては、今のうちに勝ち星は稼いでおきたい。

 ヴィエラの離脱により、本来はローテでなかった選手がローテに回ってくる。

 そこでまで安定したピッチングが出来て、失点を抑えられるとは思っていないのだ。


 これにてシアトルとの三連戦は全勝。

 次は一日の休養があって、そしてまたも地元でテキサスを迎える。

 去年までアレクの所属していたテキサスは、今年は戦力が落ちている。

 やはり今年も地区優勝は、ヒューストンと争うことになるのか。


 翌日の新聞を賑わせるのは、やはり直史のパーフェクト。

 同じくパーフェクトをしても、さすがに武史はこれほどに省エネピッチングは出来ない。

 だがその分、三振をどんどんと奪う。

 おそらく今年、奪三振王は向こうのリーグでは、武史が取るのだろう。

 上杉の残した奪三振記録は、さすがに更新は不可能だと思う。

 だが先発で投げる分、どんどんと三振を奪っておかしくない。

 そしてその果てに、シーズン記録を更新しても、おかしくないなと思える。

 東海岸と西海岸で、佐藤兄弟が全く違う種類の、それでもパーフェクトなピッチングを続けていく。

 去年の上杉と同じように、とんでもない数字となるのか。

 この兄弟争いに隠れているように見えるが、大介のホームランや打率も、序盤は恐ろしいことになっている。

 またしても今年、MLBはその記録に、伝説を刻みつけるのだろうか。

 史上最高と呼ばれた、去年のシーズンを上回るのかもしれない。

 そんな期待がアメリカ全土を覆っており、またしてもMLB人気は、回復と新規獲得を果たしていくのであった。



×××


 ※ 期間限定パラレルは本日の第三話までを数日間公開します。

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