第73話 不思議なバッター
「神に祈るんだ」
インタビューに答えて彼は言った。
日本だったら即座にインタビュアーは精神防壁を固めただろうが、ここは大統領が神と言っても退任を求められたりしない国だ。
なので賢明にも、そのまま沈黙して続きの言葉を待った。
「するとバッターボックスに入った時、ピッチャーとキャッチャーの間に、ボールの通っていく線が見えるんだよ。僕はそこにどうやって上手くバットを出すか、それだけを考えてる」
これは何らかの暗喩なのか、それとも強烈な信仰心からなるゾーンへの没入なのか。
アメリカにおいてはバッターボックスに入る前、十字を切るバッターは少なくない。
キリスト教が生活に根付いているのだ。
それもまた人種差別の一つの理由になるのだが。
日本人はほとんど無宗教、あるいは薄宗教なので、そのあたりいくらでも融通が利くのが強い。
インタビュアーの問いは、やはり戸惑ったものになった。
「それでは、どんなボールでも打てると?」
「それはまた別の話。どんなボールが来るか分かっていても、僕のスイングが合っていなければ、それを打つことは出来ない。だけど」
そしてまた少し、恍惚とした顔で彼は言うのだ。
「理想どおりのスイングが出来たとき、僕は神と一体になったと感じて、どんなボールでも打ってきたよ」
「例えば、サトーが相手でも?」
「いや、対戦したことのないピッチャーは分からない。けれどきっと、僕が正しく努力し続ければ、どんなピッチャーだって打てるようになると思うんだ」
一流のアスリートになると、そのプレイの中に哲学を持っている人間がいる。
より適切に、より合理的に、より敬虔に。
集中力を高めて行うスポーツをする者は、その中でゾーンに入り、世界との一体感を感じるそうだ。
それを彼は、神との一体化と表現するのだろう。
オカルトのように聞こえるかもしれないが、合理主義であるはずのアメリカでは、むしろこういった話は受け入れられやすい。
何しろ裁判の時でさえ、聖書に手を置き神に誓うのだ。
大統領も最初に宣誓するのだ。
日本人はなんだかんだ言って、キリスト教を否定し続けてきた期間が長く、またこの世界的宗教はついに広く信仰を集めることがなかった。
逆に日常の中に取り込んでしまい、それを一つの祭りとしている。
それによって逆に、宗教を笑い飛ばすことが出来る。
単なる生活の一部とするのだ。
この青年は急速に、ルーキーリーグからスキップしてメジャー入りし、いよいよ本格的に戦う。
その相手には色々なスーパースターがいる。
だがメジャーのピッチャーの中でも、おそらく最も技巧の極みに達したあのピッチャーを、打てるのだろうか。
打てるかもしれない。
彼の、どこに投げてくるかが分かる能力というのは、別に彼に特有のものでもない。
言うなればそれは、洞察の一つの形だ。
逆にバッターの狙いを読んで、そこを避けるピッチャーだっているのだ。
もっともそれでも、ルーキーリーグからAAまで、四割を打った来たその打棒は、常識外のものではあるだろうが。
ペドロ・ブリアン。
ライトを守るまだじゃっかん20歳の青年は右投げ右打ち。
高卒後すぐにルーキーリーグで打ち出した彼は、OPSが1.4を超えていた。
この二年は大介の存在があったからこそ、その数字への注目は薄かった。
だが間違いなく、素材としては超一流。
バッティング技術だけではなく、練習に対する真摯な姿勢など、他に与える影響は大きい。
この神の敬虔な信徒である彼ならば、まさに悪魔のような蹂躙する怪物を相手に、まともな勝負が出来るのではないか。
最初にアナハイムと対戦するのは、六月に入ってから。
そこで直史が先発するかどうか、それはスケジュール次第。
だがこの若者に出会った多くの者が感じる、カリスマにも似た信頼感。
威圧的なものではなく、むしろ包み込むような感覚。
ミネソタは今年、ポストシーズンのさらにその先を狙う。
そう言えてしまうだけの、特別な何かを彼は持っていた。
神の実在について。
樋口は神を信じない。だから生きている間にどれだけのことを出来るか、そしてどれだけのことを残せるかが重要だと考える。
直史は神を信じていないわけではない。だがいてもいなくても、やることは変わらない。
二人に共通しているのは、キリスト教的な神は信じていないということだ。
無心論者の樋口も、神は万物に宿ると言われれば、その言い方なら納得できる、と答えるだろう。
「友人と宗教論争はしないことにしている」
「そういうものじゃなくもっと形而下の問題だ。この神の導きに従ってバットを振っている頭のおかしなやつ、どう理解する?」
「単なる脳のオーバークロックだろ」
樋口はとことん即物的な人間である。
若い頃にとことん、現実に神はいないと実感したからだろうが。
ハイスクールで六割以上を打って、高卒メジャー契約から、ルーキーリーグにAAをずっと四割を打ってきて、そしてメジャーに昇格。
そのインタビューを読んで、直史はこの若いバッターが、どういう存在なのか分析したいのだ。
「宗教的な陶酔の中で、意識的にオーバークロック状態になっているのかな?」
「そこまで明確でなくても、ルーチンとかもゾーンに近づく手段の一つだろうしな」
集中力の意識的な操作。
それはもちろん出来るようにしなければ、スポーツ以外の世界でも成功することは難しい。
四割打者。
今の人間に可能であることは、大介が証明している。
いや、大介が本当に現存人類なのかは微妙であるが、少なくとも佐藤家の人間と交配は可能なので、極めて近似の種であることは間違いないが。
隔世遺伝の可能性はある。
「単なるアベレージヒッターじゃなく、ホームランもコンスタントに打ってる」
「まあこのインタビューの記事だと、読みで打つタイプではあるんだろうな」
脳が計算したピッチャーの投げる球を、神の示す軌道という形で認識する。
保守的日本人としてごく普通に宗教嫌いの二人は、とりあえずその脅威を集中して考える。
直史は開幕先発に確定したため、もう調整に入っている。
ちなみに開幕戦の相手は、去年120敗したオークランドである。
神も仏も、少なくともオークランドの味方はしてくれていないらしい。
「オークランドもいい若手が出てくるらしいけどな」
去年までボコボコに最下位続きであったオークランドは、さすがにそろそろ若手の有望株が揃ってきている。
そんな年の開幕で直史と対戦するのは、神という名の作者もひどいことをするものである。
……サイコロで決めたんで、済まんね。
オークランドはボコボコにするとして、また話は戻す。
ペドロ・ブリアンというバッターに関してだ。
全米トッププロスペクトランキングでは堂々の一位。
ポジションは一応ライトだが、外野はどこでも守れる。
6ツールプレイヤーであり、特にミートと出塁に優れる。
バッターとしての傾向は樋口に似ているのか。走力も相当のものがあるし。
高校時代はピッチャーもやっていて、100マイルは出していたらしい。
高校生の100マイルなど、上杉か武史、あとは蓮池や小川といたごく一部のスーパーエースと同等ではないか。
MLBに来ると、100マイルは出して当たり前、で少し驚いたものだが。
「ルーキーリーグでそこそこいたのも、治療に時間がかかったわけか」
マイナーでは普通に、イニングイーターとしてビハインドの場面から勝利投手に持ってきたこともあるらしい。
ピッチャーもやれる二刀流のポテンシャルを持っているが、それでもバッターとしての能力の方が高い。
「大介とどっちが高いと思う」
「白石はわけが分からん」
樋口としてもそう言うしかない。
野球の神様が、あの小さな体格に、まるで遊びのように能力を込めた。
ただそれでも、全く手がつけられないわけではない。
去年の最終戦などは、もう初見殺しは通用しなくなってきていたが。
メトロズとの三連戦も、ローテが完全に進めば、第三戦で直史は投げることになる。
「ここでは負けるかもしれないな」
「最終的にチャンピオンリングを手に入れたらそれでいいだろ」
ピッチャーが負けるを、当然のこととして樋口は計算する。
ただそんなことを言うのは、直史に対してだけだ。
優先順位を間違えてはいけない。
アマチュアの世界と違ってプロの世界は、達成すべき目標が勝利ではなかったりする。
青臭い言い方をすれば、観るものに感動を与えなければいけない。
たとえ負けてもそこに驚愕のパフォーマンスがあれば、人々はそれで満足するのだ。
それがショースポーツだからだ。
上杉は去年一年間だけだったが、鮮烈な記憶を残した。
あれが本物の姿だ。
甲子園においても、無冠の帝王とも呼ぶべき、誰もが認める怪物。
ただ上杉は、周囲の期待に応えるだけだ。
たとえ大介に打たれても、他のバッターを打ち取って、相手のピッチャーを打線が援護すれば、メトロズには充分に勝てる。
だが今年のメトロズには、武史がいる。
樋口もまだ、底を見ていない武史の限界。
坂本のようなキャッチャーと組んで、どんな変化を見せるかが謎だ。
「敬遠だけは絶対になしだ」
「それを決めるのはベンチだけどな」
樋口はそう言うが、MLBは興行という点を、首脳陣も良く分かっている。
大介との勝負を、他のピッチャーには回避させても、直史だけはそうはしないだろう。
観客も視聴者も、裾野のファンは対決が見たいのだ。
結果的に試合に勝つという、チームとしての戦略を見たいわけではない。一部のコアなファンはそれを見たがるが、それは言うなればマニアであるのだ。
マニアにだけ開かれた市場は、小さなものとなってしまう。
オープン戦も進んでいくと、飛行機で移動してのものとなってくる。
これでもまだ移動距離は、レギュラーシーズンに比べると短い。
今年はインターリーグの試合をナ・リーグの東地区と行うので、より移動距離は長くなるだろう。
移動時間も仕事のうちと考えれれば、MLBは本当にブラックな職場である。
ただし稼げる人間は本当に稼げる。
ちなみに樋口の目標は、五年間はメジャーに在籍すること、である。
とてもささやかな目標に思えるが、メジャーリーガーの平均選手寿命を考えれば、今年には30歳になる樋口には、それなりに難しい目標だ。
なおどうして五年間かと言うと、それだけ在籍していれば、MLBから年金が出るのだ。
10年在籍していれば満額であるが、最低五年からは出て、年間10万ドルになる。
日本のプロ野球選手には、年金は存在しない。
正確にはプロ野球選手向けではないが、プロ野球選手も入れる事実上の年金的なものはあるのだが、大半はそれを知らないだろう。
老後に備えてそれだけの目標を持つ樋口は立派である。
直史は弁護士という死ぬまで働ける資格を得ているので、そのあたりはあまり考えていないが。
ホームランの割合こそそこまで高くはないが、長打はそれなりに打っている樋口。
どうやらアナハイムの打順は、一番アレク、二番樋口、三番ターナーでいくらしい。
直史からすると、えげつない打順だなとしか言いようがない。
確実に攻撃力は上がっている。
特に樋口が、得点圏にランナーを置いたとき、確実に打っているために。
あとはアレクがヒットを量産し、序盤からピッチャーの調子を崩していく。
オープン戦終盤、アナハイムは大きく勝ち越していた。
ターナーは今年こそ、ア・リーグのホームラン王を狙っている。
打順も去年のレギュラーシーズンより一つ前なので、その可能性は充分にある。
あとは怪我さえしなければ、というところか。
直史がわずかに心配していたのは、NPBのキャッチャーである樋口が、MLBに適応するかどうかということ。
坂本もまた日本人ではあったが、彼のキャッチャーとしてのスタンスは、MLB流のものであった。
樋口のやっていることは、主にキャッチング。
フレーミング技術はかなり上手いのだ。
あとはキャッチしたところでしっかり固定するため、意地の悪い審判もちゃんとストライクを取ってくれる。
肩の強さは坂本より上で、スローイングの速さも坂本より上。
体の大きさは坂本が上で、壁としては有利だったかもしれないが、そもそも樋口はキャッチングにミスして体で止めるということがない。
暴投しても大概は飛び跳ねてキャッチしてくれる。
さすがは日本史上、もっとも身体能力に優れたキャッチャーとまで呼ばれるはずである。
そんな樋口に対して、直史は現在のアナハイムの投手陣について尋ねてみる。
将来的に成長していきそうなピッチャーは誰かと。
ロースターに残ったピッチャーの中では、去年もそれなりに投げたレナードの名を挙げた。
あとはオープン戦の間に結局、マイナーに落ちていったピッチャーを数人。
スターンバックがFAとなり、ヴィエラとの契約が切れる来年、アナハイムは戦力を維持できるかどうか。
微妙なところだがマイナー選手の成長に、期待するしかないというところだ。
直史のいる今年と来年、今年はとりあえず開幕の時点では、戦力が揃っている。
だが来年は数人が抜けてしまうのに、充分なオファーを出せるのか。
直史のインセンティブが、想像以上に高くなってしまったのは、アナハイムとしても計算外であった。
だがメトロズがあれだけ補強をしているのだから、こちらもしないではいられない。
直接対決ともなれば、坂本というアナハイムの内情を知っているキャッチャーがいるメトロズが有利。
なので出来ればアナハイムも、今年はかなり陣容を変えたかったのだが。
勝っている時に体制を変えるのは難しい。
三年目まで果たして、戦力を整えておけるのか。
ワールドシリーズの舞台で、大介と対決する。
直史の考えている自分の役割は、そこまででしかない。
キャンプがいよいよ終わり、チームはフランチャイズに戻る。
そしてここで直史は、わずかながら憩いの時間を得る。
また長いシーズンが始まるのだ。
「樋口のところの奥さんはどうだったかな?」
「そんなに不安定なところは見えなかったけど」
樋口が海を渡ってきた事情は、瑞希も知らされている。
元は樋口の浮気性が原因で、それがパートナーと子供の危機につながったのだから、しゃれになることではない。
アナハイムの明るい陽光は、その精神状態を少しでも良くする効果があるかもしれない。
それにアメリカは、メンタルヘルス大国でもある。
日本人は信じられないことかもしれないが、アメリカ人は普通に一般でも精神科にかかって、現在の自分の状況の相談をしたりする。
そういったカウンセリングが必要な、ストレス社会であるのだ。
アメリカの負の側面というのは、あるいは日本よりもひどい。
それだけの格差があって、そこから犯罪が生まれる。
治安の悪さというのは、法の範囲から脱してでも、己の欲望を遂げたいと思う心だ。
現状に満足しているか、少なくとも妥協していられる人間がいる社会は、その平穏を捨てることを恐れて、なかなか犯罪いは踏み切れない。
瑞希としてはこの現状は、記録しておくにはとても価値があるように思える。
スポーツ選手の生涯というのは、それがトップレベルの選手であれば、普通に一冊の伝記になる。
瑞希は直史オタクとして、二次創作ならぬ一次創作をしているが、これが登場人物が多くなると、色々とメモは多くなるのだ。
直史を中心に、大介との対決などに主眼を置いているため、活用できるデータや見聞した出来事は、発表していないものでもたくさんある。
おそらくこれは本にするよりは、雑誌などで連載すればいいものだ。
いっそのこと自分でブログなどを立ち上げるのも、悪いことではないのだろう。
執筆するのに参考にしているのは、一般的な試合の進展、また報道のされ方、そして一番には直史への直接の聞き取り。
英語の微妙なニュアンスなどで、しっかりと分かるものでもないが。
直史は喋るよりも、聞き取ることの方が得意になっている。
これは瑞希の要求に応えるためのものだ。
去年のメトロズは、21世紀初の連覇を目指す、覇権チームを目指していた。
そして今年はアナハイムが、その覇権を争えるチームとなっている。
また直史は投げれば投げるほど、その記録は伸びていく。
連勝記録である。
去年はレギュラーシーズン、無敗の30勝。
今年のチームのローテ事情では、またも30試合以上に先発することとなるだろう。
レギュラーシーズンを安定して投げて、そしてポストシーズンでギアを上げていく。
ポストシーズンは五試合に投げて、打たれたヒットはわずかに五本。
44と三分の一イニングを無失点に抑えた。
そんなポストシーズンは確かに見事なものであったが、基本的にタイトルなどは、レギュラーシーズンでの結果に対して与えられる。
レギュラーシーズンを言うなら、こちらもわずかに自責点一と、神に近き数字だ。
ただそこまで頑張らなくても大丈夫と分かった今年は、よりコスパを考えてピッチングしていくことになるだろう。
それでも完封を続けていけば、それはすごいことである。
100球未満の完封をマダックスという。
81球未満の完封をサトーと言おう。
そんな謎の盛り上がりがネットでは広がっているが、今年一度も達成できなければ、それもなくなるのではないか。
全ての打者を三球三振でアウトにしても、81球がかかる。
それ以上の技術が、81球未満の完封には必要になるのだ。
よりにもよって開幕戦、相手はオークランド。
去年最もひどい目にあったオークランドが、今年も犠牲になるのかもしれない。
直史としてはそんな大層なことは考えていない。
だがより楽に、より多く勝つことは、常に意識している。
半世紀以上の時を超えて、またも誕生した30勝投手。
今年も出来れば、投げた試合では全て勝ちたいものだ。
カードは去年よりもさらに前の段階で決めているので、仕方がないことは仕方がない。
アナハイムはディフェンディングチャンピオンでありながら、開幕をアウェイで迎えることになる。
オークランドを相手に四戦し、それからホームでの開幕となる。
四月中に対戦する、ア・リーグ西地区以外のチームと言えば、東地区のトロントと、中地区のカンザスシティ。
その両方のチームを相手に、直史は投げる予定がある。
途中でローテに調整が入ることは普通にあるが、今のところ地区優勝を争うヒューストン相手には、しばらく直史は登板の予定がない。
スプリングトレーニングから結果を出している蓮池が、どういうピッチングをしているのか、それは知りたかったのだが。
「それじゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃい」
まず四日間の遠征なので、やや荷物は少なめ。
樋口と一緒に球団関係者が迎えに来て、空港へ向かう。
同じカリフォルニア州であるのに、直線距離で300km以上。
つくづくアメリカの広大さを感じさせる。
そんな直史を見送った瑞希は、自分の仕事に戻る。
入ってきた情報を、分類するのも彼女の仕事だ。
今年のMLBはまたも、日本人選手の話題が大きい。
ただしどの選手も30歳前後と、既に完成したスーパースターである。
スターというのはいつの時代も、若い年代から生まれてくる。
ペドロ・ブリアン。
少し変わっている名前のような気もするが、それは多民族国家アメリカ。
外見は金髪碧眼の、分かりやすいアメリカ人だ。
年齢はまだ20歳というから、これからどんどんと成長していくはずだ。
アメリカ人の中でもかなり保守的な層が、MLBのファンには多い。
この数年でアジア系のファンが増えたのは、おおよそ大介のおかげである。
ただそれでも白人と黒人が、MLBファンの中では多数を占めるのだ。
同じリーグだが地区が異なるので、それほど対戦の機会はない。
だがポストシーズンに入れば、ワールドシリーズへの道までに、立ちふさがることになるだろう。
そのコメントなどを見ていると、アメリカはこれを保守的と見るのかどうか、そういう視点で瑞希も考える。
現実において確かなことは、若さでは間違いなく、直史より大介より期待されているということだ。
ペドロは本来スペイン語やポルトガル語系の男性名で、ブリアンはフランスの姓だ。
ただフランスにおいてはペドロは、ピエールという名前になるらしい。
英語ではピーター、ドイツ語ではペーター、イタリア語ではピエトロと、それぞれ異なる。
ラテン語を大本として発生している英語圏の名前は、意味が同じでも名づける名前が国によって異なる。
それがごちゃ混ぜになっているので、違和感を感じたのだ。
アメリカは英語圏なので、ピーターと登録する方が正しい。
おそらく移民同士が結婚して、こういう名前になったのだとは思うが、日本ではなかなか珍しいことだ。
だが日本でも、沖縄の苗字などは、漢字と読みが本土とは違ったりする。
こういった人種的な背景も、この青年のバックボーンを考える上では重要になるのだろうか。
そして果たして、そこまでを調べることに意味はあるのだろうか。
他の男のことを、わざわざ調べていると知ったら、直史はどう思うだろう。
少しだけいたずらっぽい思考になりながらも、瑞希はこのスーパールーキーのことを調べはじめた。
四章 了
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