第58話 マイペース

 ワールドシリーズ第四戦を終えて二勝二敗。

 互角と見えるがこの試合をもし落としたら、ほぼアナハイムの優勝はなくなる。

 ただこの試合自体は、アナハイムが普通に有利であろう。

 直史が投げればよほどのことがないかぎり点は入らず、入ったとしても一点か二点。

 対してメトロズは第一戦で、直史に投げ負けたジュニアが先発。

 アナハイムの打線であれば、おそらく一点か二点は中盤までに取れる。

 そして勝ってさえいれば、メトロズの上杉にクローザーとしての出番はない。

 1-0なり2-0なりで、アナハイムが勝つだろう。

 問題はこの試合でどれだけ、直史の体力が削られるかだ。


 第六戦か第七戦、直史にはリリーフとしての役割があるかもしれない。

 だがとりあえず、アナハイムで投げるのは、今年はこれで最後だ。

 病室という名のホテルから出るときは、真琴の手を瑞希が振らせて行ってらっしゃいをする。

(あと二年か)

 果たして真琴がどう育つかは分からないが、父親として雄雄しい姿は記憶に残しておきたいものだ。

 娘に好かれたくない父親など、この世にはいないのだから。

 同時に、息子に尊敬されたくない父親も、この世にはいないだろう。

 さすがに明史が物心つくまで、投げていることは無理だろうが。


 球団スタッフの若林が運転する車で、スタジアムに向かう。

 軽く試合前に体を動かして、夕方には試合開始だ。

 アナハイムは陽光に恵まれた都市で、アメリカの中でも今のところは治安がいい。

 これがロスアンゼルスまで行くと、治安のいいところと悪いところが、はっきり分かれるらしいが。

 仕事に来ている直史は、結局ほとんどアメリカのどこも観光などしていない。

 日本に帰る前にどうしようか、などとは考えなかった。

 今はただ、目の前の試合に集中している。


 考えるのは、まず今日の試合も勝つということ。

 ペース配分などは、とりあえず無失点で勝つことを最優先する。

 そのために必要なのは完投することだろう。

 味方の打線の援護が、どれぐらい入ってくれるものか。


 あの夏の甲子園のようなことはしたくない。

 MLBは引き分けがないので、あるいは四時間や五時間の試合さえありうる。

 ただ上杉がここで投げてくることはないだろう。

 自分が二失点以内に抑えれば、おそらくは勝ってくれるはずだ。

 しかしそのためには、まず初回の表をどう抑えるか。

 先攻のチームの方が、先取点を奪える可能性は高い。

 そんな当たり前のことの重要性が、大介と対戦する上では問題となる。


 打率と長打を両立するシュミットや、強打者のペレスにシュレンプは、どうにか抑えきることが出来る。

 だが大介だけは、ヒット一本に抑えたのは運だ。

(それと今日は……)

 試合前に恒例のストレッチなどをして、その時を待つ。

 時差の関係で東海岸でも見られるように、夕方よりやや早めに試合は開始。

 客席はほぼ埋まっているが、空席はおそらくまだ仕事が終わっていない人のものだろう。


 既に聞かされてはいたが、スクリーンの表示には本日のスタメンが映し出されている。

 メトロズの一番バッターは大介。 

 そしてラストバッターがカーペンターとなっている。

 完全に大介の打力に依存した打順だ。


 一回の表の大介は、おそらく出塁を重視してくる。

 決め付けたら逆に、長打を狙ってくるかもしれないが。

 そしてヒットを打てれば、ノーアウト一塁でランナーが大介という状況が出現する。

 そこからシュミットと他の二人の長距離砲が、なんとか大介をホームに帰すという戦術。

 また二打席目以降は九番のカーペンターが、塁に出ている可能性を考えているわけだ。


 おそらく統計であれば無茶苦茶な確率になるのだろう。

 だが相手が直史であるなら、普通の統計を当てはめても仕方がない。

 とにかく最強のバッターが、ごくわずかでも多く対戦出来る可能性。

 そして一打席目は、先頭打者として塁に出られる可能性。

 一回の表から、早くも正念場というのはある。

 だが一回の表の先頭打者が正念場というのは、そうそうないことだろう。




 マウンドの上のピッチャーは孤独であろうか?

 否、と直史は否定する。

 マウンドの上に立つピッチャーは、孤高であるのだ。

 一回の表、投球練習を軽く終えた。

 そして迎えるバッターが大介なのだ。


 神がしつらえたのだろうか、この対戦の舞台を。

(まあそんなことは考えるまでもなく、そろそろ俺の方が不利かな)

 変に感情的になることも、感傷的になることもない。

 逃げることだけは避けて、直史は冷静に戦いに挑む。

 ピッチャーにとって敬遠は権利である。

 だからここで勝負を選択することは、エゴ以外の何者でもない。

 エゴではないと、そんな低俗なものではないと、証明する必要はない。

 間違いなくエゴであるからだ。

 だが勝利さえすれば、これはもっと高尚なものとして捉えられるだろう。

 

 それでもせいぜい、決闘ぐらいか。

 日本であればピッチャーとバッターの対決は、真剣勝負の決闘に例えられてもきた。

 前の対決となった第一戦は、総合的に見て直史の勝利だ。

 だが大介は打とうと思えば単打ぐらいなら、かなりの確率で打てることを証明した。

 そしてこの状況であると、ヒットを打たれるだけで先制点を取られる可能性は高くなる。


 試合自体を通して見れば、一点ぐらいを先制されても、まだいくらでも逆転は出来るはずだ。

 それでももちろん、先取点などは取られたくはない。

(初球はボール球から入る)

 ストライク先行の直史であるが、ゾーン内と選択肢を狭めてしまえば、打たれる可能性はある。

 初球にボール球という、滅多にない配球。

 これで初球、大介から上手くスイングを取れたら。


 外に逃げるのではなく、内角の腹を貫くようなスライダー。

 左打者の大介から空振りを奪うことは難しいが、それでも長打にするのは難しい。

 それなのに体を上手く開いた大介は、バットの根元でそれを打つ。

 右方向に明らかなファールであったが、見逃しも空振りもせず、内野ゴロにもならなかった。

 本人としては不本意だったかもしれないが。


 初球の内角に反応して、だがボール球とは見切れていなかった。

 打てるだけなら打てると、反射的に手が出たのだろう。

(タイミングが合えばあれでもヒットに出来るのか)

 直史はこの打席、単打までに抑えるのは難しいなと思う。


 二球目は外の球を使う。

 ツーシームをストライクのコースから、ぎりぎりボール球へと。

 普段の大介であれば、踏み込んで打ってしまうコース。

 どう反応するか、直史はクイックモーションから投げる。


 振るか、振らないか。

 打ったとしてもぎりぎり、左に切れていく打球になると思ったのだが。

 大介は振らなかった。

 そしてコールはボール。

 上手くいけばストライク判定が取れるかと思ったのだが、なかなかそこは甘くはない。

(外の球が逃げていくのを読まれていたのか)

 本当に、大介を相手にするのは疲れる。

 ベンチに戻ったら糖分を補給して、脳の活性化を促さなければいけないだろう。


 ストライクカウントをあと一つ加えて、ツーストライクにする。

 そうすれば大介は、難しい球でも見逃してはいけなくなる。

 特にそうなった場合、使いやすいのはカーブだ。

 ただスルーもまた、上手く低めに決めてストライクを取れるはずだ。

 見逃しも空振りも、あまり期待は出来ない。

 他のピッチャーを相手に、もっと気楽な舞台であれば、見逃しはしてくるのだろうが。

 今年の大介はレギュラーシーズン18個しか三振していない。

 単純計算で九試合に一つなのだが、ポストシーズンに入ってからは三振が一つもない。

 去年はレギュラーシーズン23個で、ポストシーズン三個。

 あまりにも三振をしないので、そのあたりが逆に攻略ポイントだ。


 他のバッターであれば空振りか見逃しをしてしまうボール。

 しかし大介はそれも打ってしまえる。

 難しいボールを投げて、それをミスショットさせる。

 三振までは行かなくても、レギュラーシーズンでの大介の凡退は、そういうパターンが一番多い。


 どうにか二つ目のストライクを取りたい。 

 そう思って直史が投げたのは、二球目と同じアウトロー。

 ただこのツーシームは、大介は振った。

 強烈なボールがサードの横を過ぎ、ファールラインの向こうのフェンスを破壊するような勢いで激突。

 下手にスタンドに入っていれば、本当に怪我人が出るのではないだろうか。


 今のは読みの勝ちか、それとも大介が打てると思ったのか。

 どちらにしたおファールを打たせてカウントを稼ぐという、直史の作戦は成功している。

(追い込んだが、さてここからどうするか)

 現実的には、ゴロを打たせたい。

 ゴロにはならなくても、低い弾道でさえあれば、ホームランにはならない。

 ボール球を投げられるカウントだというのが、この状況での直史の有利だ。


 ボール球を大介に振らせることは難しい。

 だが審判がボールと錯覚しそうなコースであれば、大介も振ってくる。

 ベース寄りに入ってくる横の変化は、際どいところなら大介は普通にカットしてくる。

 なのでやはり、縦の変化になるのだ。


 カーブか、スルーか。

 あるいはスルーチェンジか。

 主な選択肢はその三つであるが、もう一つ注意しなければいけないものがある。

 それは高めのストレートだ。


 直史のストレートは球速こそないものの、スピン量やスピン軸はかなり優れている。

 ストレートを意識していないところに投げられれば、フライで打ち取れるかもしれない。

 だがフライのボールは下手をすれば、スタンドにまで飛んでいく。

 いざという時には、あるいはリードしている時には、選択肢として上がるだろう。

 もっとも今はそうではない。

 一回の表の先頭打者なのだ。

 フォアボールよりも単打の方がいい。

 しかし一番いいのは、塁に出さないこと。

 また塁に出すにしても、球数は減らしておきたい。

(決めるぞ)

 直史はセットポジションから、普段よりもゆっくりと足を上げた。




 直史が投げた第四球は、やや内角寄りのコース。

 高低にさほどの特徴はなく、いわゆる打ち易い球。

 だが大介の動体視力は、これが落ちる球だと捉えている。


 スピードがある。そして伸びてくる。 

 スルーだ。スルーチェンジではない。

 軌道を予測してバットを始動する。だが思ったよりもボールは落ちる。いや、沈むように伸びる。

 膝を緩めてスイングの軌道調整。だがそれでもレベルスイングには至らない。

 ボールの上近くを叩いた。

 その打球はマウンドに当たって、そこから跳ねていった。


 高いバウンドは、一応はショートの守備範囲。

 だがそのボールをキャッチして、アウトのタイミングでファーストに投げられるのか。

 出来るのだ。

 グラウンドボールピッチャーである直史は、内野の二遊間守備に支えられている。

 高くジャンプしたショートの身体能力は、さすがにMLBのショートといったところ。

 空中でキャッチしてそのまま、体を捻って送球する。


 ファーストへのタイミングはしっかりとアウト。

 大介が膝を緩めて打ったせいで、踏み出しの一歩目が遅かったということもあるのか。

 だが確実に半歩及ばずにアウト。

 一打席目は結果的に、直史のほぼ完全な勝利に終わった。

 ベンチに戻っていく大介は、上を向いていた。




 最初の打席だけで、エネルギーの一割は使った気がする。

 いや、気がするのではなく、事実そうなのだろう。

 しかし次のバッターも、侮っていい相手ではない。

 今年のMLBの、日本で言うベストナインであるオールMLBチームに外野から選ばれそうな好打者シュミット。

 ワンナウトからならまだしも脅威度は低いと言えるが、それでも毎年だいたい30本はホームランを打っているのだ。


 大介が四球で終わってくれたのは、正直なところかなりありがたかった。

 一イニングにだいたい、12球で終わらせること。

 そしたら完投しても、110球には届かない。

(シュミットの弱点と言うか特徴は、初球からは振らないということ)

 まして今日の初対決なので、初球は様子を見てくるだろう。


 そんなシュミットに対して直史は、インハイにストレートを投げ込んだ。

 基本的に外角の方が危険が少ないのは、アメリカでも同じこと。

 だがインハイにいい球を投げられなければ、アウトローの出し入れもその威力は半減する。

 見逃したシュミットの腰が、わずかに引けていた。

 そして次に外角に投げるのだが、わずかにカッター変化をつけている。

 手を出せばボールは、一塁線を右に転がるゴロとなる。

 これで早くもツーストライク。

 そこから投げたスルーで、三振を取れた。


 直史にとってはブンブン振ってくるスラッガーは、脅威ではない。

 西郷のように打率も残せるスラッガーであれば、確かに脅威なのだが。

 ホームランの出にくい甲子園球場で、ホームラン王を取る西郷。

 あのパワーとミート力は、本当ならMLBでも通じていただろう。

 実際に対戦する各チームのクリーンナップ級にも、西郷に匹敵する者はまずいない。

 強打者を二番に置いているチームが多いという理由もあるが。


 三番ペレスはカーブを見逃して三振。

 やや不服そうな顔をしていたが、カーブは本来ストライクのゾーンを通っていても、ボール判定がされやすい球種なのだ。

 直史のコントロールによって、カーブのストライクゾーンはかなり広がっている。

 レギュラーシーズンを見れば直史の成績に、一番貢献した球種はこれだと思う。


 一回の表からいきなりのプレッシャー。

 それに負けないのが直史である。

 あとは先に、アナハイムの打線が点を取ってくれるのを待つばかり。

 DH制のMLBにおいて、直史はその恩恵を享受する。




 ベンチの中でスポーツ飲料に加えて、ブドウ糖をしっかりと捕球する。

 あとは若干のプロテインを入れたバナナスジュース。

 ピッチャーを温存するレギュラーシーズンに対して、ポストシーズンはピッチャーの削りあいとなる。

 メトロズのピッチャーであるジュニアも、ここでしっかりと抑えてくるだろうか。


 アナハイムも得点力を考えると、この一回の裏がかなり重要となる。

 一番リードオフマンに相応しい俊足高出塁率に、続いてブレイクしたターナー。

 ターナーもまた今年は、オールMLBチームに選ばれるのではないかと言われている。

 何点のリードを取ってくれるか。

 一回の表を無走者で抑えた時点で、試合の流れはアナハイムに傾きかけている。

 メトロズのエースはあくまでも、平凡なエースでしかないのだ。


 先頭打者は出なかったものの、二番のターナーはクリーンヒット。

 ワンナウト一塁から、三番はシュタイナー。

 ここで長打が出てくれればいいのだが、打ったボールは外野の深いところでキャッチされる。

 やはり飛ばすことは重要だが、今の場面なら内野の頭さえ越えれば、一気にチャンスは広がったのだ。

 

 長打を打てるバッターを、今のMLBは優遇しすぎのように思える。

 確かに長打を狙った方が、期待値は大きくなるのだろう。

 だが短期決戦は異常値に注目すべきだ。

 ポストシーズンはまだしも、送りバントなどを使うだけ、MLBも完全に柔軟性を失っているわけではないのだが。


 ただ四番は坂本だ。

 狙い済まして打つことには長けたバッター。

 初回であってもここで、先制点を取る価値は理解しているだろう。

 実際に第一戦は、直史が相手を完封した。

 逆に言うと直史は大介から、三振は一つも奪えなかったが。


 一点の価値が大きい。

 特に直史相手の試合は、一点を取られただけで負ける可能性すらある。

 そんなわけでメトロズは、カウントが悪くなったところで坂本を申告敬遠した。

 一二塁で得点圏にランナーが進んだわけで、アナハイムもまだ期待出来るバッターは続く。

 ただその五番は、外野フライでアウト。

 結局はどちらのチームも一回に先取点を取るのには失敗した。




 メトロズが大介を一番に置いて、それでもランナーすら出せなかった。

 対してアナハイムはヒットも打ってランナーはもう一人出したものの、結局は無得点。

 流れとしては得点の期待値的に、アナハイムが有利。

 だがアナハイムも、初回に得点出来そうな打順を組んでいたが、それで失敗している。


 ランナーがいくら出ても、得点できなければ意味がないのだ。

 もちろん来年の年俸に反映されるため、選手たちは塁に出ようとする。

 しかし采配を取るものは、点を取って勝利する判断をしなければいけない。

 レギュラーシーズンは統計で勝てても、ポストシーズンは統計では勝てない。

 以前から言われていることだが、統計のデータの活用方法にもよるのだ。


 直史はベンチで休んでいる間、ジュニアの攻略法などは考えていなかった。

 ひたすら考えるのは、メトロズの打線の攻略法だ。

 一点ぐらいは、取ってくれるだろうという期待がある。

 高校時代や大学時代と違い、DHでもう打席に立つことはないのだから。

 直史なりの考えでは、この第五戦が終わればまた、ニューヨークへの移動で一日が潰れる。

 それを考えれば休養となるため、上杉は三イニングぐらい投げてきてもおかしくはない。


 上杉から点が取れるのか。

 直史は味方の打線にそこまで過剰な期待はしていない。

 なのでまずは先取点を取ってもらうことが重要だ。

 出来れば五回までに。

 おそらく上杉を投げさせるにしても、今日の試合は三イニングぐらいまで。

 ジュニアからどうにか点を取らないと、アナハイムは勝てない。


 直史は二回の表も、しっかりとバッターを抑えていく。

 今日は最悪、延長の可能性すら考えないといけない。

 NPBではなかった、12回以降のイニング。

 MLBならばそれは存在するのだ。


 四番打者を見逃しの三振に、五番打者を内野ゴロに、六番打者を空振りの三振に。

 球速がなくても、直史はコンビネーションで三振を取れる。

 そして今日は今のところ、打順調整の必要はない。

 もしもするとしたら、このイニングでランナーを一人出し、大介の二打席目をツーアウトからになるように仕向けただろう。

 だが今日はラストバッターがカーペンターとなっている。

 いつも一番を打っていたカーペンターが、九番を打つということ。

 これは彼の出塁率に、メトロズが期待して並べたオーダーなのだ。


 二回の裏、アナハイムはあまり期待出来る打順ではない。

 それに下手に球数を投げさせて、早めにジュニアからリリーフ陣に、交代されるのも微妙であるのだ。

 三回か四回まで投げて、そこから継投を開始する。

 残り三イニングを上杉が投げるなら、そこからは点が入らない可能性が高い。

(どこかでどうにか点を取ってくれないとなあ)

 直史はそう考えるのだが、今日は頭をそちらに回す余裕がない。


 既に考えているのは、三回の表のこと。

 そしてアナハイムは出塁まではしても、得点にはでは結びつかない。

 過程は全く違うが、無得点という結果は同じ。

 直史はマウンドに立って、メトロズのベンチを観察する。


 大介と目が合う。

 無表情の直史に対して、大介は笑っていた。

 苦しい対決を、楽しんでいる。

 そんな余裕があるなら、最後に勝つのは大介のような気もする。

(そういうのは関係ないな)

 上達に必要なのは、成功体験やチャレンジするためのミスを恐れないこと。

 だが試合では、しかも短期決戦では、そういうメンタルコントロールはなかなか通用しない。

(この試合も勝つぞ)

 三回の表、メトロズの下位打線を相手に、直史のピッチングが始まる。

 一人でもランナーが出れば、ランナーがいる状態で大介の二打席目が回ってくる。

 割と足のある打者がそろっている下位打線が塁に出れば、大介の長打で一気に帰って来ることが出来る。

 単純に下位打線だからといって、簡単なわけではないのだ。

 もちろん直史は簡単には考えていないし、難しすぎるとも考えていない。

 いつも通り、普通に投げて、普通にアウトを重ねる。

 いつも通りのピッチングで、大介以外は封じていくのだ。

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