第54話 微調整

 四回の表、アナハイムの攻撃でランナーは一人出たものの、得点には至らず。

 そして四回の裏、メトロズも打順は二巡目となる。

 先頭打者カーペンターはショートゴロでアウト。

 あと一歩で足の方が早い当たりであった。


 どうにか転がしてくる三振の少ないタイプは、直史としては別に苦手なわけではない。

 ただ大介の前にいる打者としては、相性が悪いのだ。

 大介は普通に勝負すれば、長打を打ってくる確率が高い。

 このポストシーズンにおいても、15本のヒットのうち、12本が長打となっている。

 ホームランも五本打っているのだから、えげつないことは間違いない。

 カーペンターは足があるので、長打で一気に一塁から、ホームに帰ってくる可能性があるのだ。


 なおこれは大介にも言えることだ。

 後ろにいるクリーンナップ三人が、長打を打ったとする。

 ならば大介も一気に、ホームに帰ってこれるパターンが多いのだ。

 高打率、高出塁率、高長打率、盗塁成功率。

 相手をする側からすると、これほど嫌なバッターはいない。


 直史は割り切っている。

 大介とは勝負をする。それは約束であるし、自分も望むことだ。

 だが大介に打たれたとしても、勝つのは自分のチームだという状況を作る。

 この打席では大介相手には、最悪でも単打まで。

 前の打席で打った布石が、どこまで通用するか。

(悪いな大介)

 直史は割り切っている。

(お前が打っても、チームは勝てない)

 完全に、この対決を割り切って考えていた。




 アウトローいっぱいに入るツーシームを、大介は見逃した。

 打とうと思えば打てるはずだ、と直史は判断する。

 単純に目の前の勝負だけに、集中するわけにはいかない。

 それに直史が他のバッターを封じ続けることは、大介のやらなければいけないことを増やすことになる。


 エキシビションとは違う。

 あの時の大介はむしろ、負けることさえ望んでいたと思う。

 この舞台で直史と戦うために。

 だが今はもう、決戦の場所だ。


 二球目、ゾーン内に入る、落差の大きなカーブ。

 これをどうやって打ってくるかで、大介への今後の対処は決まる。

 大介のスイングは、鋭いレベルスイング。

 直史の横を通って、センターへと抜けていった。

 打球が速くて少し焦ったが、深く守っていた外野はちゃんと回りこんで捕球する。

 

 外野の間を抜けていたら、と怖い想像はしないでもない。

 だがライナーの打球に、スタンドまで届く角度がつかなかった。

 単打までならOKというのは、最初から決めていたことだ。

 そしてこれによってあと一つの手間をかければ、大介とかなり有利な状況で対決することが出来る。

(気付くのは三打席目かな?)

 上手く演じれば、四打席目もどうにかなりそうだが。


 ワンナウト一塁。大介の足でも、直史から盗むのは難しいだろう。

 坂本の肩がいいのもあるが、何より直史のタイミングは、ランナーにスタートを読ませないからだ。

 そして直史も、三番のシュミットを、全力で抑えるピッチングを考える。

 ゾーン内で追い込んでから、スルーを投げ込んだ。

 三振でもいいし、内野ゴロでもいい。

 そしてシュミットはどうにかバットに当てて、セカンド前にボールは飛んだ。


 勢いがついていないため、そこから二塁に送ってダブルプレイは難しい。

 一塁に送られて、無難な進塁打となる。

 これでツーアウト二塁。

 打てばランナーはスタートが切れるので、クリーンヒットでホームに帰ることが出来るかもしれない。

 だがここから直史は、考えていた通りのピッチングをする。


 カーブでカウントを整えてから、高めにストレートを投げる。

 これを四番のペレスは打ったのだが、打球は高く外野にまで飛んだ。

 ライトフライでキャッチアウト。

 パーフェクトは途切れたがランナーは残塁で、球数も節約することが出来た。

(41球か)

 四回を終わって、いいペースである。

 最初の打席で粘られたことを、直史はちゃんと課題としていた。


 ポストシーズン後の大介は、単打までに抑えれば合格点、とさえ言える成績を残している。

 それでも勝負するなら、打ち取りに行ってしまうのが、ピッチャーという人種だ。

 だが直史は文字通り、単打までに抑えた。

 ピッチャーとしての本能は、もっと勝負してもいい場面で、発散すればいい。

 そのためには味方の援護が必要となる。

(あと一点あれば、最後の打席は全力で勝負してもいい)

 こちらが既に一点を取った以上、パーフェクトを続けて味方の守備に、大きなプレッシャーを与える必要もない。

 2-0で勝つのが理想だ。

 それが直史にとって、現実的な決着である。




 五回の表、アナハイムは下位打線で、ランナーも出ない。

 そしてその裏、直史はまず二人を内野ゴロでしとめた。

 七番打者を相手に、沈む球を試してみる。

 これと高めのストレートを組み合わせたが、さすがに露骨すぎたのか、あるいは最初から打てないと思われていたのか、フォアボールを出した。

 まさか崩れるのか、とメトロズはわずかに期待したかもしれない。

 だが続く八番が内野フライでスリーアウト。

 攻守交替である。


 六回の表、アナハイムは一番からの好打順。

 そしてメトロズの先発ジュニアは、ややコントロールが甘くなってきていた。

 先頭打者に粘られてフォアボールを出した後、二番のターナー。

 三打席目は、この日二本目のヒットとなって、ノーアウト一二塁となる。


 そろそろ交代か、とアナハイム側は考える。

 この回の始めあたりから、メトロズはブルペンが準備を始めていたのだ。

 まだ球数はそれほどではないが、二点目を取られたら勝負は決まる。

(もしかしたら上杉さんが出てきたりするのか?)

 残り四回、上杉なら投げられるだろう。

 だがメトロズが出してきたのは、今季途中には先発としても投げて、しっかりと実績を残しているワトソンだった。


 ノーアウト一二塁は高校野球なら、かなりの確率で送りバントだ。

 ロースコアゲームになって次の追加点で勝負が決まるかもしれないのだから、一発勝負ではそれで間違いない。

 だが打順は三番で、アナハイムの主砲シュタイナー。

 はっきり言ってバントの仕方など知らない、というぐらいに打撃に期待されている。


 内野ゴロだけは勘弁してもらえば、次のバッターは坂本だ。

(ワンナウト一二塁か、あるいはゴロでもゲッツー崩れになれば)

 一番最悪なのは、サード正面に打って、三塁と二塁でダブルプレイを取られること。

 もっと最悪なのはトリプルプレイであるが、さすがにそれは難しいだろう。


 左打者のシュタイナーは、強引にボールを引っ張ったが、セカンドへのゴロ。

 ただボールの勢いは死んでいて、むしろ面白い打球となる。

 セカンドから二塁ベースカバーに入ったショートへ、そして一塁へ。

 こちらは必死で走ったシュタイナーが、なんとかダブルプレイを回避した。

 ワンナウト一三塁。

 悪くはない場面で、今日は先制点を叩き出した坂本。

 ヒットは打てなくても上手く犠牲フライなりなんなりで、一点は取れる場面。

 三塁ランナーが俊足なので、内野ゴロでもいいだろう。あとは坂本がそれで、ダブルプレイにならなければ。


 直史はそう考えていたのだが、メトロズはもっとリスクを取っていった。

 坂本に対して申告敬遠。

 五番には普段二番に入っている器用なバッターがいるのだ。

(一点を守っていくのか)

 一応理解出来なくはない。

 満塁でクリーンヒットが出る可能性は、坂本よりも次のバッターの方が低い。

 あと一点でも取られたら負けると、メトロズは認識しているのだろう。

 そしてそれは間違いではない。

 今季直史が負けた試合はないが、勝てなかった試合はたった一つ。

 味方の援護が一点もなかった試合だけだ。


 メトロズ首脳陣は、一点は取ってくれることに賭けたのだろう。

 なのでこの二点目は、絶対に阻止しなくてはいけない。

 大量点の可能性は増えたが、満塁にすればホームでフォースアウトが取れる。

 変則的なダブルプレイでも、失点を防ぐことは出来る。

 なのでここでバッターは、なんとしてでもヒットを打たなければいけない、などと考えると選択肢がせばまる。


 一塁ランナーの坂本も、打席の五番もそれなりに足がある。

 ダブルプレイ崩れの間に、三塁ランナーが帰ってこれれば、それで二点目だ。

(そのあたり、ちゃんと考えてるのかな?)

 日本なら高校野球でもプロでも、ここは泥臭く一点を取る。

 MLBでも坂本などは、泥臭くセーフティバントなどを使って一点を取ってくれた。

 だがここで、上手く内野ゴロで一点を取れるのか。

 そんな器用な、パワーに頼らないバッティングをしてくれるのか。


 やった。

 明らかなダウンスイングで、高く跳ねる球を打った。

 セカンドがキャッチしたが、二塁に向かう坂本にも間に合わない。もちろんホームもだ。

 一塁でワンナウトを取った。ただ、これで点差は二点。

 勝ったな、とアナハイムのファンとついでに、視聴しているレックスファンは思った。




 満塁から一点しか取れなかったと言うよりは、何よりもまず追加点を取りに行った、と言うべきであろう。

 防御率が0.03で完投してしまうピッチャーには、二点で充分だ。

 ただそれでも、直史はさらに贅沢に考える。

 もうあと一点ほしいなと。


 大介の打席は、あと二度回ってくる。

 ただその打撃による損害が、最低限になるようには、直史は計算している。

 六回の裏、メトロズの打順は九番から。

 さすがに強打のメトロズと言えど、一人ぐらいは打線に守備職人がいる。

 これをまずは内野フライで打ち取って、そして先頭のカーペンターに回る。

 今日は全くいいところのないカーペンターは、想定どおりに内野ゴロ。

 直史としては楽をしているわけではない。


 そしてツーアウトランナーなしで、大介の三打席目である。

 ここまでは完全に直史の予定通り。

 大介がヒットを打った時から、調整することは考えていた。

 もしもあのまま後続を全て打ち取っていたら、七回は大介が先頭打者となる。

 長打を狙っていきながらも、後続のバッティング次第でホームに帰ることは出来る。

 だがそれが、ツーアウトからであったらどうだろうか。


 バッターボックスに入った大介の視線からして、どうやら意図は伝わっていたらしい。

 直史は完全にメトロズ打線を、案山子のように考えている。

 もちろん案山子でないことは分かっている。

 カーペンターが上手く内野安打ででも出塁していたら、ここでの攻略はかなり限定されたものになっていた。

 加えて万一にもカーペンターが盗塁などを成功させていたら。

 その時はベンチから、申告敬遠が出されていただろう。


 だがそういった想定は全て外れて、直史の狙い通りの展開となる。

 ツーアウトでランナーなし。

 ホームランを打たれても、まだ一点差。

 大介はホームランか、最低でも長打を打たなければ、ここでの得点機会は消えると言っていいだろう。

 逆に直史は単打ならOKで、長打でも次のシュミットを打ち取ればいいだけだ。


 ランナーはいなくて、そしてホームランを打たれても、まだ敗北は決定しない。

 完全に直史が、安全に全力を出せる状態。

 本当ならここでの失点を防ぐなら、大介は申告敬遠させればいい。

 だがMLBのポストシーズン、最強のピッチャーと最強のバッター。

 舞台がそれを許さなかった。




 大介はこの状況に心当たりがある。

 高校時代、部内紅白戦をやったとき、直史はこの状況で大介と勝負するようにしていた。

 ツーアウトランナーなし。

 ホームラン以外は打たれても、その後ろを封じればいいという状況。

 メトロズ打線を舐めすぎだ、とは大介は思わない。

 チームメイトたちを信頼してはいるが、それは直史への信頼を上回るものではない。


 ホームランを狙うしかない。

 他は全て、大介の判定負けと言ってもいい。

 たとえヒットを10本打たれても、得点に結びつかなければチームとしては勝利。

 個人成績としては、もちろん大介に数字が残る。

 だがそれで満足するなら、チームスポーツなどはやらない方がいい。


 直史としてはここが妥協点であった。

 大介とは勝負をする。しかし確実に勝てる勝算などはない。

 他のバッターも同じことが言えるが、大介はその中でも特別だ。

 普段は八割の力で投げて、それでおおよそのバッターは封じることが出来る。

 織田や西郷のように、優れたバッターに対しては、それでは足りない場合もある。

 そして100%以上の力を使って、大介は抑える。

 

 二打席目の大介は、ワンナウトという状態であったし、直史のパーフェクトが続いていた。

 パーフェクトという状態は攻撃側にも守備側にも、大きなプレッシャーを与える。

 もっとも守備側のアナハイムは、直史のパーフェクトには慣れている。

 既にポストシーズンでも達成しているので、その意味ではさほどの緊張はなかった。

 だがこれはあくまでもワールドシリーズ。

 レギュラーシーズンともまた異なり、単なるポストシーズンとも違う。

 相手がメトロズだということも大きいだろう。


 去年のエキシビション、直接は見ないまでも、結果を知らないメジャーリーガーはほとんどいない。

 日本の優勝チームに、アメリカチームとかではなく、MLBの優勝チームがパーフェクトで負けたのだ。

 そのパーフェクトピッチャーが、今またメトロズと対戦している。


 さすがに大介はヒットを打ってきた。

 そして直史も珍しくフォアボールを出した。

 ただその結果、ツーアウトで大介を迎えられるという、最高の状況になっている。

 大介はホームランと打点でトップであるが、それ以上に得点が図抜けている。

 つまり出塁すれば、かなりの確率でホームに帰って来るのだ。


 その大介に、ツーアウトの状態から対決する。

(計算してるな)

 アナハイムベンチの首脳陣も、これは承知の上なのだろう。

 選手で知っているのは他に坂本ぐらいだろうが、だいたい見当はつく。

 直史なら抑えられるとチームメイトは思う。

 だがまだワールドシリーズは第一戦だ。

 ここまで球数は、普段よりは多い。

 少しでも体力を温存して、このワールドシリーズを戦いぬくつもりなのだろう。




 狙っているな、と直史は直感する。

 バッターボックスに入る前の、大介の軽い素振り。

 バッティングのと言うか、スイングの極意は何か、と大介は質問されたことがある。

 直史も気になったその返答は、大介らしいものであった。

「たぶんピッチングも同じだと思うけど、どれだけ無駄な力を抜いて、必要な瞬間に込めるかじゃないかな」

 大介のスイングスピードは速い。


 軽く振っていながら、それでもバットが空気を切り裂く音は鋭い。

 そしてインパクトの瞬間、力を込める。

 フォロースルーはそれほど大きくない。

 それが大介のバッティングなのだ。


 ホームラン以外ならOKというこの状況。

 直史が投げてくる球種は、おおよそ読めているはずだ。

 その読んでいるはずの大介に対して、直史はインハイのストレートを投げた。

 打ちにいけばホームランも打てたかもしれないそのボール。

 だが大介は、バットを動かさない。


 読みを外された。

 確かに第一打席は、ストレートで外野フライに抑えられた。

 だが二打席目はカーブで、打たされたのだ。

 初球をカーブで入ってくることは予想していた。

 そして予想が当たっても、打つつもりはなかった。

 しかしそこにストレート。

 打てば勝てた。


 大介はすぐにその思考を捨てる。

 バッターボックスの中で後悔はいらない。

 一打席に一度は訪れるチャンスだったが、自分はそれをもう逃してしまった。

 あとは自分自身でチャンスを作っていくしかない。


 ストレートの後には何を投げげるべきか。

 遅いカーブかチェンジアップで、カウントを整えてくるのが妥当だろう。

 それならば最後に速いボールを使える。

 最初の打席と同じように、フラットのストレートを投げていれば、今度は打たれる。

 三振を奪うコンビネーションは、かなり難しい。

 やはりミスショットを狙っていくのが、一番現実的だろうか。


 二球目はアウトローへのストレート。

 大介はこれを見逃した。

 インハイからのアウトローは、当たり前すぎだとも言える。

 それでむしろ、大介はそのパターンを考えなかったのか。


 とにかくこれで、ツーナッシング。

 だが初回もここから、随分と粘られたのだ。


 ストレート二つの後は、必ず変化球を投げる。

 それは直史のと言うよりは、技巧派ピッチャーの当たり前だ。

 上杉並のスピードがあれば、また話は違うのだろう。

 だがないものねだりをするよりも、建設的なことはある。

 ツーナッシングから確実に大介を打ち取る方法。

(縦のカーブ)

 落差の大きなカーブを、今度も審判は取ってくれるだろうか。

 直史はセットポジションからクイックで、カーブを投げた。

 大介は振らない。

 そして審判もさすがに、これはストライクと取らなかった。ゾーンを通っていても落差が大きすぎるのだ。


 カーブを続けて目をそちらに向けて、最後にはまたストレートで打ち取るか。

 前の打席もカーブは打たれて、シングルヒットになっている。

 この状況からならそれは、失点をしない極めていい判断だ。

 だがもう一つカーブを続けて、大介はそれを見逃すだろうか。


 打ってくる。確信がある。

 ストレートとカーブは使えない。

 ならば必要なのは、スルーを投げることか。

(そこまではまだ、見通してるだろうな)

 それでも直史は、スルーを投げた。


 真ん中やや低め。

 振らなければボール球になる。

 このスピードはスルーだ。そう判断してスイングの軌道を変える。

 見逃せばボールであろうに、大介は手を出した。

 そして打たれたボールは、ライト方向のファールスタンドに消えていく。


 見逃すでもなく空振りするでもなく、普通に打ってきた。

 ゾーンで判断しているのではなく、自分の感覚で判断している。

 打てると思ったならば打つ。

 それならやりようはあるはずだ。


 完全にワンバンするチェンジアップを、低めに投げ込んだ。

 これには手を出さない。出してもホームランになるとは思えなかったのだろう。

 完全に一発狙い。

 基本的に反発力のある、スピードボールを狙っている。

 内野ゴロを打たせることが出来ない。 

 かと言ってスタンドまで届かないフライを打たせるのも、かなり配球が難しいだろう。


 ホームランだけを狙っているくせに、単純な大振りをしない。

 ゾーンの中だけではなく、外でも打てるなら打っていく。

 カウントは有利であるが、完全に手詰まりだ。

 だからと言って一か八かで勝負するなど、直史のスタイルではない。


 六球目に投げるのは、ツーシームだ。

 だがこれもぎりぎりのボール球を、大介は簡単にカットしていった。

 七球目はストライク判定されかねない外のストレート。 

 ここもまた大介は、左方向にカットしていく。


 またフラットストレートを投げるしかないのか。

 だが今度はもう、大介の頭の中にその選択肢がある。

 直史が投げるのは、もっと単純な球だ。

 内角へ投げたカットボールを、大介は振りぬく。

 今度はライト方向へ、大きなファールとなる。


 投げる球がなくなってきた。

 正確には、打ち取れる自信のある球がなくなってきた。

 一応まだ、考えている球種はある。

 だがこれはもう、大介のミスショットを願うしかない。


 100%を求めていた直史が、最後に投げた球。

 それはストレートであった。

 確実にゾーン内に入るストレート。

 だが大介のバットは、わずかに振出が遅かった。

 打球はライナー性のものであり、それにセカンドが飛びつく。

 抜けることはなく、グラブの中に収まっていた。

 スリーアウトチェンジ。

 いくらいい当たりでも、アウトはアウト。

 三打席目の勝負は、直史の勝利となった。


 これがあと、一打席あるのか。

 ただこの後の打席では、他のバッターを封じるなら、ホームランを打たれても大丈夫。

 ならば次の試合のことを考え、試しておきたいことが色々とある。

(次の試合のために、確かめておかないと)

 残り三イニング。

 直史は六回を終わって、既に70球を投げていたのであった。



×××



※ このままNL編に行くと時系列は続きます。

※ 本日群雄伝を投下しています。六部二章ぐらいのお話です。

※ 近況ノートにある第八部はあくまでパラレルワールドであり、事実と異なる点が多くあります。

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