三章 世界一のマウンド

第53話 価値ある奇跡を求めて

※ 本日はピッチャー側とバッター側が同時系列ですので、好きな方からお読みください。



×××



 ワールドシリーズというのはこういう空気なのか。

 直史は目の前の光景を、興味深く眺めていた。

 日本シリーズも二度経験したし、甲子園の決勝も経験した。

 その中では一番、空気が厳粛である気がする。

 ただ個人的には、それでもあの夏の甲子園の熱量には負ける。

 灼熱のマウンド。

 おそらくあの空間は、二度と経験することはない。

 荘厳な中にも、どこか薄っぺらさを感じるのはなぜだろう。

 大介は去年、どういう思いでここを戦ったのか。


 メトロズの打順を見て、勝てるな、と直史は思った。

 去年散々に封じたメトロズは、大介を二番に置いている。

 少しでも得点の期待値を上げるなら、大介は一番に置くべきだ。

 ただそれを口にするのは、自分の傲慢かもしれないとも直史は思う。

「白石が二番じゃき、楽が出来るが」

 坂本はどうやら、思考は直史と同じ方向性であったらしい。

 ただそれをどう口にするかが、直史や樋口とは違うところだ。


 アナハイムはこれに対して、ターナーを四番から二番に持ってきている。

 二番打者最強論というのは、本来その二番打者が、オールラウンドな能力を持ってこそ成立する。

 ターナーはその点で言うと、やや走力に問題があるかもしれない。

 だがアナハイムの、新しく顔となる選手はターナーだ。

 まさか今年一年で、ここまで成長するとは、誰も予想していなかっただろう。

 今ではもう、球界を代表するスラッガーだ。


 メトロズを相手に投げる上で重要なことは、先制すること。

 メトロズと言うか、大介対策とも言えるが。

 二点リードしていれば、大介にソロホームランを打たれても、傷は最小限となる。

 大介と勝負する上で重要なのは、ただ大介に集中するだけではない。

 その前後を片付けてこそ、大介のみに集中出来るのだ。


 


 この日、レギュラーシーズンでもなかった二番打者となったターナーは猛っていた。

 もはや崇拝と言ってもいいほど、彼の直史に対する信頼は厚い。

 だがその直史が、勝つためには先取点が必要だ、と言ったのだ。

 メトロズ打線はさすがに、無失点で抑えるのは難しいと。


 またいつもの謙遜か、とチームメイトは思った。

 だが直史は必要なことは、ちゃんと必要だと言う人間だ。

 去年のポストシーズンの後、ワールドチャンピオンとなったメトロズは、日本のリーグの優勝チームであるレックスと、エキシビションマッチを行った。

 その結果は無惨なもので、MLBで優勝するということが、別に世界一になることではないのだと、MLBの選手たちは知った。

 そのメトロズを完全に封じた直史が、メトロズを警戒している。


 直史と大介との関係を、アナハイムの人間のほとんどは知っている。

 私人としては義理の兄弟であり、直史の方が兄。

 野球に関連しては、プロで一年間、大介と対戦していた。

 そして怪物バッター大介を、ほとんど唯一完全に封じた、もう一人のモンスター。

 だがこの二人はハイスクールでは、同じチームで日本一となったのだ。


 アメリカでも日本の甲子園というのは、ある程度知られている。

 おそらく世界で最も過酷な、はっきり言えば狂気としか思えない、未成年によるトーナメント。

 そしてそれにつながる軍隊じみた指導法は、人権蹂躙とさえ言われる。

 もっともそれで本当に結果を残すチームは、年々減って行っている。 

 単純に練習のさせすぎは、体を痛めつけるだけということが、科学的に明らかになってきたからだ。

 ただ直史も大介も、自分はそんなことには反対であるが、全否定しようとは思わない。

 それぐらいやって、限界を超えてみなければ、到達出来ない場所もある。

 実際に直史のやっていた練習は、そういうレベルのものであった。


 高校野球は未だに、多くの才能を浪費し続けている。

 だが地獄のような状況の中からでしか、誕生しない才能というのはあるのだ。

 MLBに今最も欠けているのは、そういった多様性ではないのか。

 合理性と効率を求めすぎれば、その練習やトレーニングに合った人間しか、メジャーリーガーにはなれない。

 昨今のスーパーエースの中に、特殊な経歴でそこまで登り詰めた者は、けっこう多いと思える。

 型枠通りの練習とトレーニングでは、純粋にスペックが優れていない限り、飛びぬけることは難しい。


 

 

 直史はこれ以上はないというぐらい、ピッチャーとして極めた成績を残していた。

 その直史が最大限に警戒しているのが、大介であるのだ。

 リードがないと不安だと言うなら、確かにその通りなのだろう。

 先頭打者が倒れて、二番のターナーが打席に入る。


 本日のメトロズ先発であるジュニアは、ターナーと年齢は一歳しか変わらない。

 リーグが違うため対戦はなかったが、MLBでは移籍は当然のようにあることだ。

 今後も長く、対戦する相手になるかもしれない。

 それに直史が、このピッチャーはまだまだ伸び代があると言っていた。

 そんなピッチャーをワールドシリーズで、調子に乗らせるわけにはいかない。


 マイナー時代も通じて、ターナーはジュニアとはこれが初対決。

 おおよそ初対決は、ピッチャーの方が有利である。

 ただし直史や坂本も含め、ジュニアの配球については、かなり厳密に調査している。

 直史や坂本からすると、MLBのリードというのは基本的に、NPBよりもずっと単純である。

 シンプルイズザベストと言うが、球威でバッターを抑え込もうという意識が強い。

 技巧に走ったり、投球術を使うのは、経験を積んでから。

 それでもマイナーである程度の実績を残したからこそ、ジュニアは今ここにいる。


 ただスコアを研究し、先頭打者を打ち取った状況から、次にジュニアが何を投げてくるかは、直史たちは読みきっている。

 この流れを止めないために、ジュニアは初球からゾーンに投げてくる。

 そしてコースは、困ったときのアウトローか、もしくは球威に任せてアウトハイ。

(アウトローとアウトハイ)

 アウトハイはおそらく、どう打ってもファールにしかならない。

(狙いはアウトロー)

 そしてその狙い通りに、アウトローへのボールが投げられた。


 読みは合っていたが、それでも球威が優った。

 よってスタンドまでは届かなかったが、ライトの頭の上を越えた。

 ライン際からファールゾーンへ、そしてフェンスで跳ねてライトのグラブの中へ。

 ターナーは二塁で止まり、これでワンナウト二塁。

 初回の表から得点圏にランナーが進む。

 ここで先制点が取れるかどうかは、この試合の中でも大きなポイントだ。


 読み通りのボールであっても、スタンド入りとはならない。

「101マイルか」

「それをびちびちのアウトローか」

 今季18勝3敗の売り出し中の若手は違うな、というのがアナハイムバッテリーの感想である。


 三番のシュタイナーには、あまりやかましく情報を与えてはいない。

 それでも普通に読みを加えて、打ってくるだろう。

 シルバースラッガー賞などを受賞したことはないが、それでもベテランは狙い球を絞っているはずだ。

 それに対してジュニアは、まず外に外してきた。

 定跡通り。

 ただここでインコースを攻められないのが、弱点と言うべきだろうか。

 左のシュタイナーに対しては、ボールが見やすくなるため、攻略が難しいというのはあるだろう。

 しかしこの攻め方はあまり良くないのではないか。


 ふと直史は気になった。

「メトロズのピッチャー、ひょっとしてピッチャー以上にキャッチャーが悪いんじゃないか?」

 MLBではサインは、基本的にベンチ主導であることが多い。

 それでなければ投げる弾はピッチャーが決める。

 キャッチャーのリードというのは、日本に比べれば重要度が低い。

 壁としてボールを前に落とす、あるいはキャッチングする、盗塁阻止のためのスロー。

 そもそもMLBは走塁に関する意識が薄いが。

 なので逆に直史は、散々にランナーを牽制で刺していた。


 元はピッチャーをしていた坂本は、ピッチャーの気持ちも分かるし、キャッチャーの気持ちも分かる。

 あくまでもピッチャーを尊重しながらも、対話をすることによってチームでの地位を築いてきた。

 その坂本からすると、メトロズは確かにたいしたキャッチャーではない。

「日本のピッチャーがアメリカで通用するのとしないのとはっきりしちょるのは、キャッチャーの問題かもしれんの」

 坂本は断言はしなかったが、おそらくそれも大きな原因なのだろう。

 日米のピッチャーのピッチングスタイルと、リードの主導権などの役割。

 キャッチャーがダメならピッチャーは育たないというのは、直史は良く知っていることである。


 この表、アナハイムはクリーンナップのヒッティングによって、先取点を一点獲得。

 直史のピッチングのコンビネーションは、大きく広がることになる。




 今季の直史はレギュラーシーズン30勝したわけだが、そのうちの三試合は1-0での勝利である。

 またポストシーズンでも、一試合を1-0で勝利している。

 他に一点しか取れなかった試合は、二つあって両方負けている。

 この事実からどう判断すればいいのか。


 直史が投げるなら、1-0でも勝てる。

 だが直史も、完全に点を取られなかったわけではない。

 なお二点しか取れなかった試合もあるが、これも直史だけが勝っている。

 アナハイムのピッチャーはつまり、三点以上味方に取ってもらわないと、まず勝てないということだ。

 なお試合自体は、五点を取っている試合が一番多い。


 直史はマウンドに登ると、色々と考えた。

 初回の攻撃で一点の援護が入った。

 メトロズのスタメンは、去年の悪夢を憶えているだろう。

 下手に振っても凡打となり、しかし振らなければ簡単に追い込まれる。

 ならばどういう思考で来るか。

 先頭打者への初球は、かなり重要になってくる。

 レギュラーシーズンの終盤以外、一番を打っていたカーペンター。

 今日もまた一番に戻っている。


 これに対して直史は、バックドアでアウトローいっぱいに入っていくバックドアのカットボールから入った。

 普段は使わない球種であるが、使えないわけではないのだ。

 カーペンターはこの際どいボールを見逃す。

 だが審判の宣告はストライクであった。


 直史が投げるとストライクゾーンが広くなる。

 それは誤りであって、変化球に角度をつけて、キャッチングするミットの位置を、ゾーンの範囲だと錯覚させるのだ。

 また坂本はこういう場合、上手くミットを引いて、ゾーンの中に入ったように見せる。

 カーペンターとしても文句の付けようのない、ぎりぎりの制球だ。


 二球目はインコースのボール球と思えば、そこから鋭くフロントドアで曲がった。

 これもコースいっぱいの、それでいて審判からは確実にストライクが取れるもの。

 カーペンターはそのコントロールに驚きはするものの、打てなくはないと思う。

 追い込んで投じたのは、カーブであった。

 落差のあるカーブは、確かにゾーンは通っている。

 だがこれをどう審判は判定するのか。

 見逃したカーペンターには、ストライクのコール。

 見逃しの三振で、まずは先頭を切った。




 カーペンターはいい前座になってくれた。

 直史としては審判の傾向も、ちゃんと把握はしている。

 だが全ての審判が、正しい判定を下せるとは限らない。

 あの最後のカーブは、ストライクに取らない審判も多いのだ。

 それを取ったのh、打てると判断したkら。

 あのスピードのカーブなら、あの変化でも打てるという判断。

 だがそれならばスピードだけ増した同じ軌道のカーブは、どういう判定を下すのだろう。

 それはどのみち、これから先に活きてくることだ。


 二番バッターは、本日のメインディッシュ。

 大介がバッターボックスに入ってきた。

「さて」

 ここからは打ち取るために、本当に運が必要となる。

 事前にいくつも攻略法は考えていた。

 だがそのほとんどが、確実性に欠けるものである。


 それでも大介からは、ホームランだけは打たれてはいけない。

 もう一つ重要なのは、大介にホームを踏ませないこと。

 ワンナウトなので内野ゴロでもコースによっては、二塁に進塁が出来る。

 ツーアウト二塁に出来ればさすがに問題はなさそうだが、盗塁の危険性も考えなければいけない。


 ここでしとめる。

 そう考えた直史が初球に選んだのは、カーブであった。

 落差はあるがスピードもあるパワーカーブ。

 カーペンター相手にはストライクだったボールを、大介もまた見逃す。

 判定はストライク。

 大介もまた、この判定は厳しいな、と感じた。


 出来ればこのカーブは、決め球に取っておきたかった。

 だが大介なら追い込まれてからのこのカーブは、カットしていっただろう。

 それもまた、直史としては作戦のうち。

 わざわざカットまでしてくるカーブは、やはりストライクなのだと判定させる。

 すると他のバッターに対しても、問題なくストライクを取れボールとして使えるのだ。

 

 二球目は、アウトローいっぱいから、わずかにボールに逃げていくツーシーム。

 これに手を出した大介だが、ミーとポイントがバットの先だ。

 それでも遠心力の乗ったバットは、ボールを遠くにまで運んでいく。

 レフトのポールの外側であったが、飛距離は余裕でホームランの打球が飛んでいった。


 大介はレフト方向にホームランを打つ場合は、打球がフライ性になることが多い。

 日本時代はどの方向にでもライナー性で打っていたので、技術的には進歩したのか。

 本質的には引っ張るプルヒッターであるが、左の方向にも打てる。

 それでもホームランの内容を見れば、右方向の方が圧倒的に多い。


 ツーナッシングと追い込むことは出来た。

 だが追い込んでからが、大変なのだ。

 本来のスタイルとは違うが、大介を打ち取るためには、ボール球で釣っていくことも必要だろう。

 三球目はアウトローを、ボール二つ分ほど外した。

 だが大介はこれも振ってきた。

 直史のピッチングから、これがカットボールでギリギリのゾーンをかするとでも思ったのか。

 バットの先に当てて、またファールとなる。


 四球目、投げたのはスルー。

 下に伸びていくボールを、大介は叩いた。

 だがこれも右に転がってすぐにラインを切る。

 四球投げて、まだ打ち取れない。


 五球目の落差のあるカーブも、大介はカットした。

 普通ならボール球だが、審判の判定は直史に甘くなっている。

 だがこれでどんどん、投げられる球は減っていく。

 あとはインハイに、ストレートが投げられるかどうか。


 六球目は内角に、またスルーを投げた。

 これも大介はカットするが、見逃せばボール球であった。

 少しでもストライクになりそうな球は、全てカットしていくのか。

 ならばこれはどうなのか。


 七球目のスルーチェンジに、大介はバットを止めた。

 ベースの手前で沈んだボールは、さすがにゾーンを外している。

 前はこれで打ち取れたが、今は配球が安易であったか。

 ただこうやって投げれば投げるほど、使える球が減っていく。


 八球目は外の高め、ボール球にバットを出さなかった。

 九球目はスライダーを投げたが、これもカットされた。

 一人のバッターにこれだけの球数を使うのは、いったいいつ以来のことか。

 球数が増えていくが、直史は恐れない。

 本気になれば150球までは、普通に投げられるはずなのだ。

 他のバッターに対しては、確実に打たせて取ればいいのだ。


 息が詰まる。

 我慢比べと言うならば、バッターの方が有利になっていくだろう。

 アナハイムは直史一人で、この試合を投げ切ってもらいたい。

 そのためには大介を、どうにか単打までに抑えてほしい。


 いっそのこと歩かせるか、とアナハイムベンチは考える。

 だが目の前の対決に集中した直史に、その指示を出すのは考え物だ。

 直史は大介が相手だから、こうやって集中力を維持している。

 それに歩かせたところで、大介の危険さはさほど変わらない。


 ど真ん中にストレートを、という坂本の提案は一蹴した。

 それはもう使ったことのある手段だ。

 何をどうすれば大介を打ち取れるのか。

 直史には確実なことは言えない。

 だがここで気迫に任せるなど、そんな工夫のないことはしない。


 問題はタイミングだ。

 セットポジションから、直史は呼吸を止める。

 ピッチングのメカニックがわずかに違う。

 そしてそこから投げられたのは、ストレートだ。

(打てる!)

 大介の直感は間違っていなかった。

 だがほんのわずかに、直史のボールがいつもとは違ったのだ。

 八球目の高めのストレートが、布石になっていた。

 インパクトの瞬間、大介は自分の敗北を悟った。


 打ったボールは高く上がり、そしてセンターの低位置まで届く。

 だが、つまりは平凡なセンターフライ。

 10球をかけてようやく、直史は大介を打ち取った。

 歩幅やリリースの位置など、微調整して投げた直史。

 そのボールの軌道はほんのわずかに、大介の想定よりもホップ成分が強かったのだ。

 八球目の単なるボール球とは、意味が違った。

 ボールの行方を見終えた大介は、ベンチに戻る。

 直史がああいった外野フライを打たれるのは、かなり珍しいことであった。


 ここで下手に息を抜いてしまうことなく、直史は続くシュミットも打ち取る。

(16球か)

 カーペンターもシュミットも、早打ちはしてこなかった。

 そして大介が、やたらと粘ってきた。

 打ってヒットになる球を無理に打つのではなく、微妙な球は全てカットしてきた。

 自分の普段のバッティングスタイルに、制御をかけてきている。

 今打ち取ったばかりの相手の、次の打席のことを考える。

 直史は全く、油断などはしていない。




 直史がもしも簡単に大介を打ち取っていたら、それで勢いは一気にアナハイムに流れただろう。

 だが勝負はそんなに甘いものではなく、他のバッターも安易に打って凡退をしてこなかった。

 それでもまだ大介以外は、直史の警戒対象ではない。


 大介と勝負するにしても、まだ直史は全てのコンビネーションを試したりはしていない。

 危険なコンビネーションを試すには、もっと点差が必要になる。

 二番の大介に四打席目が回るのは、ランナーが二人出た場合。

 それぐらいは普通に投げていても、レギュラーシーズンの直史なら出してしまっていた。


 ポストシーズンに入ってから直史は、二試合に投げて両方をマダックスに封じている。

 トロント相手には打たれたヒットも一本だけであった。

 そしてラッキーズ相手には、またしてもパーフェクト。

 ポストシーズンに入ってから、その調子は確実に上がってきている。


 二回の表、アナハイムの攻撃はそこそこ長く、ランナーも出た。

 だが追加点は入らず、二回の裏のメトロズの攻撃。

 ペレスやシュレンプといったスラッガーは、直史にとっては料理の簡単な相手だ。

 カーブが効果的に決め球となって、見逃しの三振。

 わずかに審判に文句を言いたそうな顔をしていたが、それを止めるぐらいの分別はあったか。

 しかしそういった反応をしてもらうと、わずかであっても審判の心象は悪くなるものだ。

(そうやって少しでもストライクゾーンを広げてくれれば、こちらとしてもありがたいもんだがな)

 本日の三振は、三つとも三球三振。

 そして大介に粘られた分を、たったの九球で、二回の裏を終わらせてしまう直史であった。


 期待した三回の表だが、アナハイムは得点することが出来ない。

 二番ターナーはこの打席も大きな当たりは打ったが、外野の守備範囲内のフライであった。

 少し休んでから、三回の裏のマウンドに登る直史。

 そしてそこから、極めて作業的なピッチングを行う。


 メトロズの下位打線は、下位打線でもかなり強力だ。 

 打てないバッターの多いショートやキャッチャーというポジションでも、メトロズはかなり強力なバッターを有しているからだ。

 その分の守備力は、せいぜい平均的。

 それでも打って、殴り合って勝つのが、メトロズの野球なのだ。


 そんなメトロズを相手にも、直史は三回もまた三者凡退でしとめる。

 単純に封じるのではなく、球数を制限しなければいけない。

 ただ大介以外は、追い込まれたら打ってしまっている。

 それだけ打てそうな球だから、というのもあるのかもしれないが、やはりピッチャーの方が一枚上手なのだ。


 序盤を三回まで投げて、直史はパーフェクトピッチ。

 ただし大介に投げさせられたボールが、球数以上の負担とはなっていた。

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