第16話 皇香織は部屋に入りたい
「よ、友一。来てあげたよ!」
ドアを開けると、私服姿の皇さんが「よ!」と片手を挙げて立っていた。
ああ、確かに皇さんなら可愛いと言われるのも納得……じゃなくて!
「……皇さん? どうしてここに? ていうかなんで家知ってるの?」
僕、皇さんに家を教えて覚えはないんだけど……?
ていうか、何の用事があって僕の家に……?
「何の用事って……決まってるじゃん! 友一に会いに来たの! 友一が昨日からずっと松山さんに構ってばっかりだったから……会いに来たの!」
でんでんとぽっけを叩きながら、そう言ってむすーっとほっぺを膨らませる皇さん……ど、どう言う事?
「細かいことは良いの! 取りあえず部屋にあげてよ、入らせてよ! 友一の家に入らせてよ、いいでしょ、別に! それともまだ松山さんが部屋にいるのかな? 金曜日だからってずっといちゃいちゃしてたのかな? いちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃしてて、それで私を部屋に入れられないのかな?」
「いや、そのそう言うわけじゃないけど……ちょっと怖いよ、皇さん」
真っ黒な目とすごい早口で、僕の方にグイっと迫ってくる皇さん……ど、どうしたんですか本当に!? なんか怖いから……怖いからヤダ!
「怖くないよ、私は全然怖くない! 私は可愛い可愛いあなたの友人、皇香織よ? だから全然怖くない、それに友達を部屋に招くくらい普通でしょ? だから、入れてよ友一の部屋? 今は私は友一の友達だから大丈夫でしょ? そう、今はあなたの友達、貴方の頼れる女友達、皇香織だよ? だから部屋に入れて、友一の部屋に入れて!!! 何か問題でもあるわけ? あの女がいるから私は部屋には言っちゃダメなの? 大丈夫だよね、私は、貴方の特別だから。友一の部屋に入るくらい何も問題ないことだよね?」
「いや、そうだけどさ、そうなんだけどさ……えっと……」
くらくらとするような距離で早口でまくし立ててくる皇さんをどうしようか迷っていると、リビングから「友一、早く入れてあげなさい!」というお母さんの声が聞こえてくる。ちょっとだけ間が悪いかもだよ、それ。
「ほら、お義母様もそう言ってるじゃない! お義母様が私の事認めてくれてるってことが何より素晴らしいことじゃないのかしら? お義母様も私の方があの子よりふさわしくて可愛いって認めてくださってるの? だから私を部屋に入れるという事は至極当然、世界の心理なのよ? だからお部屋に入れて、私の事を貴方も認めて、友一!」
「……わかったよ、部屋に入れればいいんでしょ。それじゃあ、ついて来て」
「ふふ、ありがと、友一……これで私色に……無理やり……そうして……だから……」
ブツブツと何か言っている皇さんはやっぱり怖かったけど、お母さんの言葉もあったし、とりあえず部屋に入れることにする。
「お義母様、こんにちは、お邪魔しています。改めまして皇香織です。これからもずっとよろしくお願いします」
「あらあら、本当に礼儀正しい子ねぇ……本当に友一にはもったいない子がたくさんいるわ!」
「お母さん、余計なこと言わんでいいから! 皇さん、部屋こっちだから、2階だから」
「ふふふ、そっか、2階か……それじゃあお義母様、友一君のお部屋、お邪魔させていただきますね!」
「はい、友一が変な事してきたら私に言うのよ! 大声出すのよ!」
「それは大丈夫ですよ、お義母様。その時は……その時ですから!!!」
☆
ガチャリと扉を開けて部屋に入ると、瞬間に皇さんの驚いたような声が上がる。
「おー、友一の部屋、結構きれいにしてるじゃん。普段からこんなにキレイなの? それとも私が来るからこんなにキレイにした感じ? 私のためにこんなにお部屋キレイにしてくれたの?」
「普段からこんな感じだよ。それに皇さん部屋に来ること知らなかったし」
「ハハハ、それはそうだけどさ! でも私のためにキレイにしてくれたなら嬉しいな、って……とう!!!」
ハハハ、と豪快に笑った皇さんは、そのまま僕のベッドの方に一気にダイブしていった……は?
「ちょっと皇さん、何やってるの!? どうしたの、急に!?」」
「ふふふ、ちょっとね、くんくん……このベッド友一の匂いがする……友一が毎日寝てる、汗の匂いとか、髪の匂いとか、身体の匂いとか、いやらしい匂いとか……そう言うのがいっぱい伝わってくるよ、友一に包まれてる感じがする! 友一が私をギュッとして、そのまま私とベッドの上で……んっ、んっ……ハァ、ハァ、友一のベッド凄いね、本当にいやらしくて素敵だよ……私ずっとここで暮らしたい」
恍惚の表情でベッドの匂いを嗅ぎながら、そう言ってシーツに包まる皇さん……は?
「皇さん、本当に何やってるの……後変な言い方しないでよ、変な声も出さないでよ! どうしちゃったの本当に!」
「どうしてもないよ、友一の匂い素敵だな、って思っただけ……そうだ、このベッドもう松山さんは寝たのかしら? もう松山さんは友一のベッドに入ったのかしら、もちろん、まだ……」
「それは入ってるけど。今朝、泉美ベッドの中にいたけど」
「……んんん!!!!! んんんんんん!!!! なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!!」
僕の言葉を聞いた皇さんはシーツに包まったまま勢いよくコロコロベッドの上を動き回る。ぐるぐるぐるぐる回って回って。
「ちょっと皇さん、ベッド壊れる、ぐちゃぐちゃになる!」
「ぐちゃぐちゃになればいいの! 上書き中だから! 上書きしてるから友一はちょっと待ってて! それか私と一緒に寝て! 一緒に寝ろ! 私と一緒に寝てよ、それだ、それが一番いいよ! ほら、隣でも上でもいいよ! 私の上で寝る? 私の上で寝てそのまま気持ちよくなろ? ……あ、でも私の上熱いよね、一緒に寝るのも熱いよね、ごめんごめん。ごめんね、気が利かなくて……そうだ、私服脱ぐよ、裸になるよ。服脱いだらギュッとしても多分熱くないから……だから友一も早く脱いで、早く脱いで一緒に裸で寝よ? そのまま一緒に気持ちよくなってさ、そして匂いも上書きしよ? 二人の匂いで、ちゃんと上書きしようよ! ほら早く、上書きしないと、染まっちゃうから! 染まっちゃうから早く脱ぎ脱ぎしてそのまま気持ちよく上書きしちゃお? あ、もしかして一人で脱げない? もう、しょうがないなぁ友一は……ほら、おてて挙げて! もう、一人で脱げないなら私がお手伝いしてあげよう! ほら、おてて万歳して? ほら、ばんざーい、ばんざーい!」
「……皇さん?」
「あ、そっか、友一は女の子から脱がしたいタイプだったんだね! そっかそっか……わかった、じゃあ私ここでじっとしてるから早く私の事脱がしてよ! ほら早く私の事脱がしたいんでしょ、裸にするのが好きなんでしょ? 大丈夫だよ、私は何も拒否しないから、友一のしたいようにしていいから! だから友一の好きなように、好きな風に色々して欲しいな! そして一緒にベッドの匂い上書きしよ? ベッドの上で暴れて、一緒に気持ちよくなって……そのままさ、松山さんの匂い、私で上書きさせてよ! この部屋私の匂いで、私と友一のいやらしくてエッチなにおいでいっぱいにしようよ! ね、友一いいでしょ? 大丈夫だよ、友一は友達でものすごく大事な私の友達だから! 友達同士ってこう言う事普通にするからさ、だから大丈夫! ほら、安心して私の事求めてほしいな!」
そう言ってニコッと微笑む皇さん。
その目には光は宿ってなくて、真っ黒な怖い目で。
「どうしたの、友一!!!!!! ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねね!!!!!!!!!!!!!!!」
《あとがき》
1月ぶりってマジ!?
感想や評価などいただけると嬉しいです!!!
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