おまけ 出会い

「最初はグー、じゃんけんポン……あー、負けた!」


 高校に入って初めての4月。


 新生活で、楽しいことばかり! って言いたいところだけど、いきなり僕には悲しいことが起こってしまった。


「ねえー、本当に図書委員会しなくちゃダメ? 誰かほかに変わってくれない?」


「ダメだ。公平にじゃんけんで決めただろ? それで友一が負けたんだ、民主主義に従って、お前が図書委員会だ!」


「えー、そげなー。僕の放課後がー……」

 ビシッと刺された指に、体の感覚が抜けていくのを感じる。


 図書委員会―それは放課後を週2くらいで潰される悪魔の委員会。

 僕本好きじゃないし、それに放課後は色々遊びたかったんだけど……じゃんけん負けちゃったよ、最悪だよ、もう!


「まあまあ、図書委員会で出会いがあるかもしれないし? だからそう言う委員会活動するのも悪くないんじゃない?」


「絶対出会いなんてないよ、悪いよ、しんどいよ……」

 図書委員会なんて押し付けられてやる委員会なのに、そんないい出会いなんてあるわけがない。


 本当にもう、やだな……でも、諦めて女の子の図書委員と合流するか。

 確か図書室現地集合って言ってたけど……そこに行けばいいのかな?



 ☆


 図書室に行くと静かな空間。

 本を読んでいる人もいない、そんな空間。


 そのカウンターに、ポツンと座っている生徒が一人。


 長い黒髪にダボッとした制服、目立つ要素が少ない女の子。

 同じクラスだけど、誰とも話しているところを見たことがない、そんな地味な女の子。


「えっと……松山さん? 君がもう一人の図書委員さんですか?」


「あ、はい、その……私がもう一人です、ごめんなさい……」


 その女の子―同じクラスの松山泉美さんに声をかけるとびっくりしたような、怯えるようなそんな声で反応した……そんな感じで来られるとちょっとしんどいんだけど。


「あはは、そんな怯えなくていいんだけど。まあ、これからよろしくね」


「はい、そのよろしくお願いします、えっと……」


「池江。池江友一だよ、クラス同じだから覚えてくれると嬉しいな」


「……その、池江君ごめんなさい。えっと……ごめんなさい」


「ハハハ、謝らなくていいよ。これから覚えてくれたらいいからさ」


「……ごめんなさい、本当に」

 シュンとした表情で、頭を下げる松山さん。


 それでいて、そこから始まるのは気まずい沈黙の時間。

 シーンとした空間に広がる気まずいふわふわとした空気。


 ……なんか話すと謝られるし、話しかけるのがしんどいな。


 ……でも、この空気の方がしんどいかも。


 えっと、話題話題……あ、これでいいや。


「あ、あの、松山さん。君も無理やり図書委員会にさせられたんだよね? いやー、本当に放課後は遊びたかったのに大変だよね!」


「い、いえ、その……私は、誰も図書委員をやりたがらなかったんで、自分から立候補しました。その、私本が好きですから。だから、大丈夫かなって、その自分から図書員会に……あの、ごめんなさい」

 オドオドした表情で、怯えたような声で。


 なんでこんな緊張しているんだろう、松山さん……?


「あ、そうなんだ。僕本とか全然読まないからわからないんだよね。なんかおすすめの本とかある? なんちゃって」


「え、おすすめの本ですか! それならこの本がおすすめです! 読みやすいですし、ストーリーもしっかりしていて! 他にはこの本も! これはシリーズ物で話が長いんですけど、でもめっちゃ面白くて……! それで、それで……!」


 場を和ませるために適当におすすめの本を聞くと、キラキラした目でおすすめの本のラッシュが飛んでくる。


 さっきまでの暗い印象とか、地味な印象と違って本当に楽しそうな、明るい印象を受ける声と顔。


 ……なんか、結構印象変わったかも。

 さっきまでしゃべってた感じでは、全然会話も続かなくて、これからどうなるかと思ってたけど、なんかこの感じだと全然大丈夫そうだ。


 普段は話さないだけで、すごく楽しい人なのかもしれない。


「それで、それで、この本も……!」


「ふふふ、そうなんだね。面白い本いっぱいあるね」


「はい、そうです! ……って、ごめんなさい、私ばっかり話しちゃって、その勝手に盛り上がっちゃってて……その、ごめんなさい。私ばっかり……」


「いやいや、大丈夫だよ。僕も結構楽しかったし」


「……でも、その、本当にごめんなさい。私、友達とか全然いなくて、こういう時話しすぎちゃって……高校に入ってからも友達が全然できなくて……」


 申し訳なさそうに長い髪をいじりながら、落ち込んだようにくるくるした表情でそう言う松山さん。


 ……僕、こう言う感じで好きなことをいっぱい語れる人、すごいと思うけどな。


「全然大丈夫だって、好きなことがあるのは良いことだし、それに僕もさっき言ったみたいに楽しかったし。あ、そうだ、友達がいないなら僕と友達になろうよ」


「……え? いや、その、だって、私なんか……池江君その、私なんかと……」

 もぞもぞと、控えめにそう言う松山さん。


 ……友達に、そう言うのは関係ないって。


「友達にふさわしいとかふさわしくないとかないって。僕もそう言う事言われ続けてたけど、気にしたらダメだよ。それに、友達になった方が図書委員会も楽しくなると思うし」


「……本当に良いんですか? 私なんかと友達になってくれて」


「うん、いいよ。またおすすめの本とか教えてよ」


「ありがとうございます。その……えへへ、高校で初めての友達です、嬉しいです。これからお願いします、池江君……えへへ、なんだか照れますね」

 そう言ってニコッと満面の笑みを浮かべる松山さん。


 その笑顔は本当に普段の印象と違って、その……なんかちょっと不思議な気分になった。



《あとがき》

 すみません、間に合いませんでした。

 皇さんの話、書けませんでした。


 すべてパワプロとウイポが悪いです。

 来週には出します、今日は出会いの話です。








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