Sub story2 Beat Black

 ―君の事が好きだった。

 中学校の時、友達といった旅行中。

 見知らぬ土地の、知らない広すぎるテーマパーク。


 友達とはぐれて、一人になって迷って大変な時に、助けてくれたのが君だった。


 君も旅行で来てたのに、君だって全然このテーマパークの事わからないのに、必死で探してくれて、励ましてくれて。


 最終的に迷子センター行けばよかったね、って君は合流した王鞍と笑ってたっけ。



 ……君は私の事、覚えてないんだろうな。


 だって私、当時ちんちくりんの貧乳だったし……それは別に今もあんまり変わらないか。


 でも当時は全然可愛くなかったし。

 オシャレとか全然興味なかったし、黒い大きな眼鏡かけてたし。

 今と全然、違う感じだったし。



 ……君のために頑張ったんだよ?

 君がテーマパークの中でもキレイな女の人に目移りしてたから、だから可愛くなれば君が見てくれると思って。


 キレイになったら、可愛くなって、君にふさわしくなるように。



 名前も学校も知らない君のために、可愛くなる努力をして、一番可愛い私になって……身体はどんだけ頑張って育乳とかしても成長しなかったけど。


 毎日君との未来を妄想して、君との生活を妄想して、ご飯中も、お風呂の中でも、ベッドの上でも耽って、悶えて、楽しくて。


 ……え、名前も知らないのに会えないだって?

 どんだけ頑張っても、会えなきゃ意味ないって?



 ……運命、信じてたから。

 私は君の一番になれるって、最初の子になれるって……運命、信じてたから。


 絶対に私たちは巡り合えるって、あなたの隣にいるのは私だって。

 どんな少ない確率でも、どんなに小さな可能性でも絶対に掴めるって。

 絶対に逃がさない、私と一緒に逃げ切るんだって。



 だから、叶った。


 同じ高校、同じクラス。

 運命のアカイイトってのは存在するんだ。


「こんにちは。私、皇香織って言うの! よろしくね」


「あ、はい。僕は池江友一です……その、よろしくお願いします」


「もう、そんなに緊張しないで、同じクラスでしょ? 香織でいいよ!」


「いや、でも、その……あはは」


 同じクラスの、隣の席。

 これが運命じゃなきゃ何が運命なんだって、あなたと私は結ばれる運命なんだって。


 ……周りからは「世紀の美少女!」「学校のマドンナ!」や王鞍と一緒に「king&princess」なんてちやほやされたけど、そんなのどうでもよかった。


「香織ちゃん、俺と付き合ってください!」

「……ごめんなさい」

 なんか野球部のアイドルみたいな人にも告白されたり、バスケ部で一番カッコイイみたいな人にも告白されたけど、やっぱり私は興味はなかった。


 君なんだよ、君だよ、友一君。

 私は君のために、君と会うためにこの学校に来たんだよ。

 君と一緒になるために生まれてきたんだ。


「あれ、友一偶然! ねえ、一緒に行かない?」

「あ、え、あ……その、大丈夫。僕、友達と来てるし、それに……ね?」


「ねえ、友一。この後ちょっとどう?」

「え? いや、その……僕はいいよ。遠慮します」


「友一、私とペア組む?」

「あ、その、僕は松山さんと組むから……皇さんはもっとかっこいい人と組んできて! 英ちゃんとか!」



 友一? 友一! 友一ー。友一☆ 友一!!! 友一、友一♡

 友一、友一、友一、友一、友一、友一、友一、友一……



 ……でも、どれだけ呼びかけても君は来てくれなかったな。

 いつもは普通に話してくれるのに、そういう時は、私を避けるように、周りの目を気にするように。



 ……私が可愛くなり過ぎたのかな?

 みんなからちやほやされるから、それで友一も付き合い辛くなったのかな?


 でも、これは君のためなんだよ?

 君のために可愛くなって、全部全部君と一緒になるために、君に喜んでもらうために。


 だから、他の人なんてどうでもいいの。

 君のための私だから、君だけの私だから。


 皇香織は君のものだから。


 だから君だけに見てほしい、君だけに味わってほしい、君だけに感じてほしい。

 他の人は邪魔だから、雑音だから……君だけを感じてたい。



 ……でもやっぱり君は振り向いてくれない。

 ……石橋を叩いて渡りすぎてるのかな? もっと強引に行った方がいいのかな?


 ……でも、今は私が一番だよね? いいスタート決めてるし、後ろは絶対に離してる。

 友一は今照れてるだけ。すぐに垂れる、素直になれてないだけ。



 ……そんなことを考えて、だから大丈夫だって安心して。


 ……打ち破るべき黒い音が近づいていることに気づかず、私が一番だって安心して。

 からかうような態度で、声で友一と話して、話して……もっと好きになって。



 気づかないうちに、その黒い音は友一を捕まえていた。

 気づかないうちに独走され、私の手の届かないところに行ってしまった。


 黒い音に逃げ切られ、安心していた私から、まんまと逃げきって。

「君はミスキャストだ」なんて嘲笑わんばかりに逃げ切って。


 私の黄金の計画が、黄金色の未来の計画が、友一との計画が一気に崩れた。




 ……ねえ、あの子より私の方が可愛いよ?

 私の方が君のこと思ってるよ、君の事幸せに出来るよ?


 君のためなら何でもできるよ、好きな事何してもいいよ?


 君が嫌なら、今からでも可愛くなくなるよ、君が好きだって言うなら私はどんなことだってするよ? 


 ……なんで私じゃダメなの?

 友一と一緒にいたのは私だよね、ずっと一緒にいたよね?


 隣の席でいつも話して、学校から帰っても、夢の中でもずっと一緒にいたよね?

 部屋の中でも、お風呂の中でも、ベッドの中でも……ずっと一緒にいたよね?

 幸せだね、って、君が好きだ、って、ずっと一緒だよ、って言ってくれたよね?


 ねえ、なんで私じゃないの?


 その子のどこがいいの? どこが好きなの?

 私何でもするよ、君のためなら何でも。


 だからさ、考え直してよ? 

 私が一番なんだって、君を一番考えているのは私なんだって。


 だから私はミスキャストなんかじゃない。

 私こそが一番で、あの女の子がミスキャスト。

 私の黄金色の計画が未来が、こんなところでなくなるなんてダメだ。


 絶対に友一を取り戻す。

 私の手に、友一の彼女って言う栄冠を取り戻す。



 ……そうだ、今日友一一人で帰ってたな。


 友一の家は何度か後ろをついていったことがあるから知っている。


 ……これは神がくれたチャンス、私の一世一代のチャンス。


 浮気? 略奪愛?

 そんな言葉、どうでもいい。


 そんな黒い言葉、全部私が打ち破る。


 私は今、刺客だから。

 君を狙う青い刺客。


 だから、待っててね、友一。



《あとがき》

 2日間投稿してませんでした、申し訳ございません。

 ちょっと色々ありまして……あ、桜花賞はすごいレースでしたね!


 sub storyは何話続くかわかりませんが、今日は皇さんの回です。

 石橋騎手のヘドバン追い、僕はめっちゃ好きです、最近あんまり見ないけど。


 次のsub storyのタイトル、当てれた人はすごいです。

 

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