第14話 友達ちゃんと無色透明な安らぎ

《泉美視点の話です》


 友達に指定された、少しオシャレなカフェの中。


 その友達が、ちょっと遅れちゃったので、私はそわそわしながら、ふかふかの椅子に座ってお水を飲んだ……うん、こういうオシャレなお店はお水まで美味しい。


 久しぶりに会う友達、私の唯一の友達と言ってもいいさつきちゃん……あ、友一君は彼氏だから。私の大好きな、誰にも渡したくない彼氏だから。


 ふふふ、久しぶりに会う友達って言うのは、どうしてこうも緊張するんだろう? ものすごいワクワク感もあるんだけど、でも緊張の方が強いって言うか……でも楽しみな事には変わりがない。


 ちゃんと喋れるかな、変な感じにならないかな……大丈夫かな?


 そんなことを考えながら、そわそわした気持ちで待っていると、カランカランとカフェのドアが開く。


 ドアの方に目をやると、少し制服を着崩した女の子が……!


「おーい、さつきちゃん、こっちこっち!」

 ドアの前で店員さんと何かを話していたさつきちゃんにブンブン手を振った。


 ☆


「もう、こんな人前で名前呼ばないでよ……恥ずかしいじゃない」

「えへへ、ごめん、ごめん……でも、嬉しくって、つい」

 私の言葉に、前に座ったさつきちゃんは「もう」と呟きながらお水を啜った。


 大阪さつき―私の中学校のお友達。


 いつも一人だった私に声をかけてくれて、それからほとんど毎日一緒にお昼ご飯を食べたり、一緒に遊んだりして過ごした。


 さつきちゃんは私と違って、明るくて元気な感じの女の子だったけど、一緒に遊んでくれてすごく楽しかったな。


 高校に入ってからは、イケイケのグループに入って、彼氏さんもいっぱいいる! って言ってた、まさに私とは全然違うところに住む人。

 今日も当日のお昼に誘ったから、来てくれるかわかんなかったけど来てくれてよかった!


「それで泉美、急に私を呼び出してどうしたの? 何かいいことあったわけ?」

 店員さんにカプチーノを注文した(私も同じもの!)さつきちゃんが、楽しそうに聞いてくる。


「うん、いいことあったの! さつきちゃんにしては普通かもだけど……私彼氏ができたんだ!」

 ぶふぉ、っと言う何かを吐き出す音がする。


 見てみるとさつきちゃんがお水をテーブルに吐き出していた……!


「大丈夫、さつきちゃん!?」


「ゲホゴボッ……だだだ大丈夫よ、泉美、ちょっとびっくりしただけだから! そそそそれで、泉美かかか彼氏ができたって、本当かしら?」

 プルプル震える指でお水を飲みながら聞いてくるさつきちゃん……本当に大丈夫?


「うん、彼氏できたの。これ写真!」

 心配しながらも、昨日二人で撮った写真を見せる。

 多分これが、一番見やすい!


 写真をまじまじと眺めたさつきちゃんは、少し顔色悪く私の方を見てくる。

 大丈夫かな……って思ったけど、昔からこんな感じだった気もする。


「へ、へー、本当に彼氏じゃない……い、泉美に彼氏できたんだ……へー、本当、マジで……へー……よ、良かったじゃない、すごいわね、泉美!」


「えへへ、ありがとう! それでね、経験豊富なさつきちゃんに少しお願いがあるんだ!」


「な、何かしら! そう、私は経験豊富だからね、彼氏だって今は15人くらいいるし! だからなんでも相談して頂戴! 私は経験豊富だから!」

 そう言って、ドンと胸を叩くさつきちゃん。

 やっぱりさつきちゃん、すごく頼もしい!


「ありがとう、さつきちゃん! あのね、私明日デート行きたいんだけど、その、どんな感じで行けばいいかわからなくて……だから、おすすめのデートプランみたいなの教えて欲しいんだ!」


「で、で、デート! デートね、デートだね! そうだね……あ、カプチーノが来たわ、まずはこれを味わいましょう!」

 確かにここはカフェ、お話しするんじゃなくて味わうところ。


 店員さんからカプチーノを受け取って、一口すする。

 うん、甘くて美味しい!


 かぷーっとカプチーノを味わっていると、口におひげを蓄えたさつきちゃんが話始める。可愛い。


「それで、デートなんだけど……私的には二人の好きなところに行くのが一番だと思うわ! その、デートとか……けど、でも好きなところに行けば絶対に外れはないと思うの。うん、お互いの好きな場所がいいわ!」

 うんうん頷きながら、アドバイスをくれる。


 参考になります! それで、好きな場所、好きな場所……

「ええっと、本屋さんとかご飯屋さんとか回ればいいってこと?」


「……うーん、それじゃあ、ちょっと弱い気がするわね。なんというか、微妙というか……そうだ、逆に普段とのギャップを活かすのはどうかしら?」


「ギャップ?」


「そ、そうよ、ギャップ! 泉美は普段は本読んでるインドア系でしょ? だから、その、お外で遊ぶ姿を見せればもっと彼氏さん好きになってくれるんじゃ、ないのかな! うん、ギャップ、ギャップよ! ギャップが大事よ!」


「な、なるほど……勉強になる!」

 流石経験豊富のさつきちゃん。

 私だけじゃ室内だけで過ごしてたから……このアドバイスありがたい!


「ありがとう、さつきちゃん! すごく勉強になった! やっぱりさつきちゃんすごい!」


「そそそ、そうでしょ! 私は経験豊富なんだから! 私は強いのよ!」

 おーほっほっほっほ! と腰に手を当てて笑うさつきちゃん。

 本当に凄いや、さつきちゃんは……あ、そうだ。


「さつきちゃんはさ、普段はどんなデートしてるの?」

「ヴぇ?」


「私にはまだ早いかもだけど、さつきちゃんの普段のデートも聞きたいな、って。ほら、すごいことしてるんでしょ?」


「あ、当たり前よ、そんなこと! そそそそ、そうね……私は例えば、こ、公園でダンビュライしたり、学校でダンビュライしたり!」


「ふぇふぇふぇふふぇ……ふぇ!? さささささつきちゃんそんな……え!? そんな、え、ダメだよ、ダンビュライなんて……か、過激すぎるよ、ここお外だよ! そんなダンビュライ……え!?」

 さつきちゃん、経験豊富なのは知っていたけど、そんな……え!? 

 過激すぎて、私にはちょっと、まだ……ふぇ!?


「こ、こんなのはまだ序の口よ! 後は、そうだ、先生の前でもダンビュライしたし、その、プールでもダンビュライだし、それに彼氏5人ぐらいでダンビュライしたこともあったわね!」


「ごごご5人でダンビュライ!? そ、そんな、さ、さつきちゃん……ぴゅへー」

 さつきちゃん、すごすぎるよ……私にはまだ、全然ついていけない世界だ……ダンビュライ……


 ☆

 さつきちゃんのダンビュライの話を聞いてゆでだこになって、それから色々お話して6時過ぎ。


 それそろお家に帰る時間だ。


「ありがとう、さつきちゃん。色々お話聞いてくれて。その、アドバイス参考になったし、それで……ダンビュライも」

「そ、それなら良かったわ……また、遊びに誘ってね、泉美。私待ってるから」


「……その、私なんかが誘っていいの? さつきちゃんはその彼氏さんとダンビュライだったり、友達とダンビュライだったりで忙しいでしょ?」


「ううん、親友の頼みより、大事なことなんてないよ」

 そう言ってニコッと微笑んでくれる。


 ……なんだかわからないけど、涙が出てきた。

「さつきちゃん……ありがとう、こんな私を……!」


「もう、泣かないでよ泉美……ほら、また遊ぼうね。それじゃあ、また!」

「うん、またね、さつきちゃん!」

 手を振って走り出すさつきちゃんが見えなくなるまで、私は全力で手を振り続けた。




「はーーーーーーーーっつ、泉美彼氏って……マジ? 私なんて友達も……えーーーーーーーーーーっ!?」

 大阪さつき、今までの話全部嘘! 

 高校で友達ゼロ、彼氏なんていたことのない、見栄っ張り少女!!!




《あとがき》

 なんかもう、ごめんなさい。

 諸事情により、卑猥な言葉はすべてダンビュライになっております。ご想像下さい。




 

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