第13話 英ちゃん
「ごめんなさい、スーちゃん。今日は私一緒に帰れないです……ごめんなさい」
「……え、どうして、トマちゃん?」
6時間目が終わって、うっきうきの放課後タイム。
今日も今日とて泉美と一緒にどこかに遊びに行こう、金曜日だしひゃほっへい! って思ってたけど、その希望は泉美の言葉によってはかなく打ち砕かれた。
え、もしかして僕、なんか嫌われてしまうようなことしたっけ……イチャイチャしすぎたかな……?
「あ、その、違います、そんな落ち込まないでください友一君! その、私今日、別の友達と遊ぶ用事があったので帰れないだけで……そのスーちゃんの事は、大好きですから! 本当は一緒にいたいですから!」
シュンと落ち込む僕を見て、毎度のごとくわちゃわちゃ焦りながら、可愛く理由を話してくれる泉美。
なんだ、そんなことか。
良かった、嫌われてなくて。
友達と遊ぶ、それは大事なことだからそこまでは束縛はしません!
「そっか、わかった。楽しんできてね、泉美」
「はい、楽しんできます……ん」
パカっと、楽しそうに口を開いた泉美がいつものように大きく手を広げる……ふふふ、いつものやつだね、僕も欲しかった。
「よし、おいで泉美」
「んん……えへへ、たっぷりチャージしますからね!」
「僕もトマちゃんいっぱいチャージする!」
ポーンと飛び込んでくる泉美をしっかり受け止めて、ギュッと抱きしめる。
明日から休みでもしかしたら会えないかもしれないから、僕も存分に泉美を堪能した。ふわふわでもこもこで……大好き。
☆
「それじゃあ、友一君、また今度です。あ、でも声は聴きたいので今日の夜、お電話しますね……それじゃあ、サヨナラです!」
「うん、わかった。いっぱいお話しよ……それじゃあね!」
手を振ってテトテト走り出す泉美が見えなくなるまで手を振る。
名残惜しいけど、でも、友達と遊ぶってならしょうがないよね。
よし、それじゃあ僕も帰って……
「おーい、友一。イチャイチャタイムは終わったか?」
帰ってゲームでもしよう、と思っていると、後ろから肩をポンポンされる。
振り向くと、イケメン。
英ちゃんが立っていた。
後ろに立たれると、振り向いたときに心臓に悪い……そうだ、今日は英ちゃんと一緒に帰ろう!
「あ、ごめん英ちゃん。イチャイチャタイム終わったよ、一緒に帰る?」
「うん、帰ろうぜ、友一。それを言いに来たんだ」
そう言った英ちゃんはニコッと輝くような笑顔を見せる……僕が女の子だったらこれだけで惚れそう、本当にカッコイイ。
なんでずっと僕と仲良くしてくれてるのか、いまだにわからないや、嬉しいけど。
「……ん、どうした? 俺の顔に何かついてる?」
「……え? あ、別に。何でもないよ」
「そうか……そうだ、ちょっと聞きたかったんだけどさ、さっき松山さんと話してたじゃん? その……トマちゃん・スーちゃんって何?」
不思議そうに首を傾けながら聞いてくる。
……確かに、あだ名にしては何の脈絡もないもんね。
英ちゃんは名前だし、僕の昔のあだ名のデスクも……いや、あれもなかなか脈絡ないな。
「あだ名だよ、あだ名。泉美はトマトが好きだからトマちゃん。僕はお寿司が好きだからスーちゃん……どう、可愛くない?」
「うん、まあ可愛いけど……お寿司が好きだからスーちゃんってどうなのよ、それ……」
……英ちゃんのツッコミももっともだと思います。
でも泉美がつけてくれたあだ名だから嬉しいの! めっちゃ嬉しいの!
「ほんっと、ラブラブだよな、お前ら。羨ましいぜ、本当に」
僕のにやけ顔を見て、ため息をつきながらそんなことを言う英ちゃん。
「でも、僕は英ちゃんも羨ましいよ? 女の子にずっと囲まれてるし」
「やめてくれよ、俺は一途に生きてんの。だから、いくら女の子に囲まれても、好きな女の子が振り向いてくれなきゃ……ね?」
手をひらひらしながらこっちにウインクをしてくる……そんなことするから囲まれるんだよ、って言いたかったけど、それ以上に英ちゃんの好きな人が気になった。
校内1のモテ男の好きな人、それに僕の親友の好きな人。
気にならないわけがない。
「その、つかぬことをお聞きしますが……ずばり、王鞍英明さんの好きな人とは、誰なのでしょうか!?」
「ハハハ、何だその聞き方は……まあ、友一は親友だし、それに……この件にはお前も関わりそうだし。いいよ、教えてやる。ちょっと耳貸して」
苦笑いしながら、それでも僕に名前を教えようと顔を近づけてくる英ちゃん。
その顔に僕も耳を近づける。
「聞いてくれ、友一。俺の好きな人はな……」
「うん、好きな人は……?」
「好きな人は……その、「あの、王鞍君! 私たちと一緒に帰りませんか!」
英ちゃんが好きな人をいったと同時に、甲高い声が僕たちの耳に入ってくる……聞き逃しちゃったな、好きな人。
近くを見ると、女の子3人組……あ、この子たち英ちゃん親衛隊のメンバーだ。
「あ、そのお取込み中でしたか? その、ごめんなさい、お友達さんのこと、見えてなくて」
声をかけてきた女の子が申し訳なさそうに呟く。
まあ、僕身長ちっちゃいし、英ちゃんと並ぶとオーラないししょうがないけどね。
「取り込み中だった。少し考えてほしかった!」
英ちゃんが怒ったように、ぶっきらぼうな話し方でそう言う。
「ごめんなさい、その……でも、一緒に帰ってほしくて。ダメ、ですか?」
「うん、ダメ。今日は友一と帰るから、また今度にして欲しいな……ほら、帰ろ、友一」
上目遣いで頼む女の子にも容赦なくそのお願いを切り捨てる。
言われた女の子は少し泣きそうに……ダメだよ、英ちゃん。
「英ちゃん、その子たちと帰ってあげて。僕は一人で帰るからさ」
「いや、でも、俺はお前と……」
「ううん、僕は良いって。英ちゃん人気者なんだしさ、僕なんかといるよりその子たちといてあげてよ! だから、チャオ!」
「ちょ、友一! 俺は……」
何か言いたげな英ちゃんをスルーして、僕はダッシュで廊下を駆け抜ける。
英ちゃんはカッコいいんだから僕なんかより、キラキラした世界にいてほしい。
僕とゲームするより、女の子と遊んでいる方があってるんだ。
「その、お友達さん帰っちゃいましたし……一緒に帰りませんか?」
「……わかった。帰ろう」
「えへへ、嬉しいです……ところで、さっきのお友達さん、王鞍君とは、その……」
「何? 友一の事バカにすんの? そう言うの一番嫌いなんだけど?」
「いえ、そんなこと、ないです……」
《あとがき》
イケメンの友達、大体優しい。
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