第12話 ヤンデレ彼女はお弁当を食べたい
キンコーンカーン☆コーンと昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
4時間目の授業は化学、内容もよくわからないし眠たくなる声だしで……うん、自分でも眠らずによく耐えたと思う。
いつ寝てしまってもおかしくない感じだったけど耐えれて良かった。
「……友一君、友一君、お昼ご飯、一緒に食べませんか?」
トテトテと僕の隣にやってきた泉美がコテっと首を傾げて聞いてくる。
可愛い、絶対一緒に食べたい。
それに二人で食べたい、教室ではないどこかに行きたい。
「うん、食べよっか……それじゃあ、屋上とか行く?」
「いいですね! 屋上なら二人で……えへへ///」
「もう、泉美、お口がゆるゆるだよ……それじゃあ、行こっか!」
ゆるゆるのお口で笑う泉美の腕を取り、一緒に屋上へ向かうことにした。
……一旦、隣でぐにゃってる皇さんが無視して。
☆
「はい友一君、こちら今日のお弁当になります」
屋上につくと、可愛い手提げカバンから大きなお弁当を取り出してくれるので、それを受け取る。
ずっしりと重くて、ギュッと中身が詰まっているのを感じる。
「ありがとう、泉美。泉美が作ってくれたの?」
「はい、私が作りました! お口に合うかはわかりませんが……」
「泉美が作ったものが合わないわけないよ! 絶対美味しいって!」
「にへへ、嬉しいです……それじゃあ、お昼休みが終わらないうちに早くご飯を食べちゃいましょう!」
そう言った泉美が出したのは、僕に渡してくれたものよりもう1段階大きなお弁当箱……いっぱい食べる君が好き!
「それじゃあ、友一君、いただきますしよっか。せーの」
『いただきます!』
パチンと手を合わせて、泉美と二人でしっかりいただきます!
パカっとお弁当箱を開けるとカラフル豊かで美味しそうなおかずが盛りだくさん!
「すごい、泉美これ本当に泉美が作ってくれたの!? めっちゃ美味しそうなんだけど!」
「えへへ、私が作ったんです! ほら、ぜひ食べてください!」
「ありがとう! それじゃあ、食べるよ、いただきます!」
にへらと笑う泉美に促されたので、パクっと美味しそうなエビチリを口に運ぶ。
ジューシーで、結構辛みが強いけど、でもびっくりするくらいの辛さじゃなくて……うん、美味しい! すごく美味しい!
「泉美、このエビチリ美味しい! ちょっと辛すぎる! と思ったけど、後々からまろやかな味が来るって言うか……めちゃくちゃ美味しい!」
「にへへ、友一君にそう言ってもらえるの嬉しいですね……ふふふっ。それじゃあ、ここで泉美のクッキングクイズです! このエビチリの決め手は何でしょう!」
にへへと嬉しそうに笑った泉美は、デンと指を突き出して「クッキングクイズ」なるとても可愛いクイズを始める。
決めて、決めて、このエビチリの決め手……!
「わかった、泉美の愛情!」
「うーん、それは決めてじゃなくて基礎です! 愛情は、当たり前です!」
「わー、ありがとう! 泉美大好き!」
「ぬへへ、私も大好きですよ!」
そうしてギュッと手を握る。可愛いな、楽しいな、嬉しいな!
「にへへ……こほん。それじゃあ、クイズの続きです。決め手は何でしょう?」
「あ、そうだったね……えっと、卵、とか?」
「ぶっぶーです、違います! このエビチリに、卵は入ってません!」
口の前でバッテンをして、楽しそうにそう言う泉美。
適当に言っちゃたから、やっぱりハズレか、それにしてもそのポーズ良いね!
「うーん、決めてか……ねえ、泉美、何かヒントくれない?」
「ふむふむ、しょうがないですね……よし、それじゃあ、ヒントはこれです!」
そう言った泉美は立ち上がって、でろーんと大きく腕を広げてゆらゆら揺れ始める……えっと、これなんだ?
「えっと、泉美どういうヒント?」
「ふふふ、ヒントは私です。私がヒントです……ゆらゆら~」
ゆらゆらと横揺れする泉美からは、正直可愛い以外の気持ちが湧いてこない。
ゆらゆら~って、僕もしようかな……いや、クイズ答えてからにしよう!
ゆらゆら~、ゆらゆら~……ユラ!
「わかった、昆布だ! ゆらゆら~で昆布!」
「うーん、違います! 昆布じゃないです!」
ゆらゆら揺れる泉美はまたもや口にバッテンをして、僕の答えをぶっぶーしてくる。
えー、昆布じゃないのー?
本格的にわかんなくなったな?
「ふふふ、お悩みのようですね、友一君! じゃあ、ラストヒントです! ラストヒントは、私の体を流れる赤いものです! 私の体を~、あかい~もの~!」
首を傾げる僕を見て、相変わらずゆらゆらの泉美がふにゃふにゃ歌いながら、最後のヒントをポンとくれる。
泉美の体を流れる赤いものか……赤いもの……え?
「……も、もしかして、その……血とか? 泉美の血を、入れたってこと?」
悪い考えが頭をよぎった。
体を流れる赤いものなんて、僕は血しかしらない。
真っ赤に流れる僕の血潮しか知らない。
昨日首輪着けたり、僕に唾液を飲ませようとした泉美の事だ、もしかしたら……本当に僕に血を飲ませようとして……!
私の味をって、私の血をって……泉美ならありそうだ!
少し怯えながら、ちょっと怖くなりながら泉美の方を見ると、プンプン顔を赤くほっぺぷくぷくさせて怒っていた……あれ?
「もう、そんなことしないです、友一君! 私がそんなことするような人に見えますか!」
「え、あ、その……」
プンプン腰に手をやって怒る泉美だけど、正直、ちょっと見えるというか何というか……
プンプン怒った泉美は僕の方を見て、キリッと言う。
「もう、友一君まじめにしてください! もう正解言いますね……正解はトマトです! このエビチリの切り札はトマトです!」
「……は?」
……トマト? エビチリにトマトって……ケチャップ使うし意外と……それに、泉美の体?
困惑する僕をよそに、泉美は演劇チックに体を震わせ始める。
「はい、トマトです。ケチャップではなく完熟したトマトを使うことで、味にさらなるまろやかさを出しているんです!」
「……な、なるほど! でも、体を流れるって言うのは……?」
「さっき私はトマトを食べました。いえ、さっきだけではありません、昨日も一昨日もずっとずっとトマトを食べています……そのトマトたちは、リコちゃんたちは、私の血となり、肉となり、身体中を今も元気よく駆け回っています……だから、私の体には今、トマトが流れてるんです……!」
体を大きく広げて、何かを感じるように、空を見上げて。
すべてのトマトに感謝を込めるように、大きく天を仰いで。
「……トマちゃん」
「……え?」
ボソッと、口から言葉が洩れた。
不思議そうに泉美がコテンと首を傾げる……トマちゃん。
「だって、泉美そんなこと言うくらいにトマトが好きなんでしょ?」
「……好き、ですけど」
「ふふふ、だからトマちゃん。トマトが好きだからトマちゃん……どう、可愛くない?」
「ふぇ?」
そう言うと泉美は驚いたような素っ頓狂な声を出す。
そうしてもじもじと、恥ずかしそうに口を開く。
「あの、その……トマちゃん、って言うのはあだ名、ってやつですか?」
「うん、そうだけど……どうしたの?」
その言葉に泉美の顔がパっと輝く。
嬉しそうに、楽しそうにパカッとした笑顔で。
「嬉しいです! 私あだ名なんてつけてもらったことなかったから……ねえ、友一君! もう一回呼んでもらっていいですか?」
キラキラした笑顔で、まっすぐこっちを見つめて。
「うん、わかった……トマちゃん」
「えへへ、もう一回」
「トマちゃん!」
「ぬへへ、ありがとうございます! ……そうだ、友一君の好きなものは何ですか?」
「泉美!」
「もう、私以外でお願いします……そんなストレートに言われると恥ずかしいです……」
「ごめん、ごめん……そうだね、僕は……お寿司が好きかな?」
「なるほど……それじゃあ、スーちゃんですね! ふふふっ、友一君はスーちゃんです!」
「なにそれ……トマちゃん!」
「ふふふっ、スーちゃん!」
太陽みたいな煌めいた笑顔で、笑った。
《あとがき》
実際に友人にナスちゃんってあだ名はつけたことあります。
感想などいただけると嬉しいです。
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