Sub story1 fenomeno

「でも、、私は王鞍さんより、友一君の方がイケメン、だと思います……!」

「え、本当、泉美!」


「えへへ、ありがとう。僕も泉美が世界で一番可愛いと思うよ」

「……友一君……」


 ……目の前で繰り広げられる親友カップルのいちゃつきに俺は苦笑いするしかなかった。

 まあ、でも付き合ったばっかりでラブラブしたいのもわかるし、それに……友一の恋は素直に応援したいし。


「……はいはい、ごちそうさまでした。まあ、二人ともいつまでもお幸せにな!」


 そう言って、邪魔しない様にどこかに移動しようとした時。


 友一のに視線が集中していることに気が付いた。


 そこには……!


「ちょっと、皇、こっち来い!」

 隣の席に座る皇の腕をガシっと掴む。


「……は、何、急に! ちょっと、王鞍、やめてよ!」

 騒いで抵抗する皇を「いいから!」と強引になだめ、その腕を掴んだまま、教室をでる。


 少し黄色い声援が聞こえた気がしたが、今は無視だ、無視!



 ☆

「ちょっと、王鞍、マジで意味わかんない。あんた、どういうつもり、私をこんなところ連れてきて!」


 人があまり来ない渡り廊下の袋小路。

 皇の手を離すと、開口一番大きな声で文句を言われる……こっちは助けてやったんだぞ。


「ちょっと、何あんた……何かしゃべりなさいよ」

 叫ぶように、怒鳴るような皇の声。

 でも、その手は……


「……なあ、皇、それ無意識なのか?」


「……何がよ?」


「気づいてないなら言ってやる……お前、ずっと教室で胸揉んでたぞ。それで、他の男がすごい目で見てた。すごいエロイ目で見てた」


「……は、変態なの、あんた? バカじゃない?」

 蔑むように、やばいものを見るように俺を見る皇。

 でも、その手はやっぱり胸に向かっていて……!


「そんなこと言うならその手やめろ! マジでやめろって!」


「……あんたには関係ないでしょ。私が何してようが、あんたには関係ない」


「関係ある! 俺は、お前がエロい目で見られるの、その……嫌なんだよ。だって、その、お前はさ……だから、その俺は嫌なんだって」

 出した手を振り払った皇に、自分の気持ちを吐き出す……最後に全然足りなかったけど。


「……そうか」

 でも、少し言葉が通じたみたいで、皇の手はピタッと止まる。


「そ、そうだよ。だからさ……」

「あのさ、王鞍。男ってさ、やっぱりおっぱい大きい方が好きなの?」


「……え?」

 自分の胸を見ながらそう呟く皇。


 ……え?


「え、じゃないよ、変態。早く答えて」

 冷たい目で、どこかうつろな目でこっちを見てくる。


 ……えっと、その……え?


「いや、その一般論的にはそうかもだけど、でも俺はお前くらいの……」


「あっそ、わかった、本当に変態……やっぱりおっきい方がいいんだな。私みたいな貧乳は、用なしか」

 そう言って悲しそうに笑う。


 いつも元気なその瞳も、元気に跳ねるパーカーもえくぼも……全部、落ち込んだように、普段とは違うように。


 いつもの超常現象みたいな、明るくて、可愛くて、完璧な最強の怪物・皇香織じゃなくて、脆くて、弱い、皇香織で。


「……そんなことない、皇。俺は小さくても……」

「ハハハ、励まそうとしてくれてんの? でも、そう言うののほうが傷つく……ほら、もうチャイム鳴る、教室戻ろ」


「……その、皇! 俺は……」

「……やめて、今は何も言わないで。みじめになるだけだから……そうだ、王鞍先に帰ってよ。私と一緒に帰って、変な噂になっても嫌でしょ?」


「いや、俺は……」


「帰って。少し一人にしてよ」

 寂しい声で消えそうな声で。

 見たことないような、姿で。


「……わかった。でも、絶対戻って来いよ? 俺は、お前が……」


「心配だ、って言いたいの? ありがとう、でも大丈夫。大丈夫だから」

 作った笑顔で、見えない笑顔で。


「……本当に来るんだぞ?」

「……何回言うんだよ、変態」

 

 でも俺は弱すぎて、そんな皇に何も言えなくて。



 結局、皇は俺からちょっと遅れて教室に帰ってきた。

 少しの騒ぎになったけど、皇は胸を揉むのはやめたけど、相変わらずのうわの空で、何も聞こえてないみたいで。


 ……いや、聞きたくないのかな。

 周囲の音を遮断して、何も聞こえない様に、何も見えないように、机に顔を埋めて、イヤホンをして、世界を遮断して。




「……ねえ、英ちゃん。皇さん何かあったの? その……なんか今日元気ないけど、大丈夫かな?」

 友一が心配そうな声で耳打ちしてくる。


「……さあな。まあでも……心配するだけにしとけ。こういう時の女の子に話しかけるのは良くないぞ」

「……そっか。英ちゃんが言うならそう、なのかな?」

 首を傾けて、笑顔でそう言う友一。




 ……でも、その原因は……皇がそうなった原因は多分友一なんだ。

 


 俺の隣で心配そうに顔をゆがめてる親友のお前が、皇の超常現象の原因なんだ。




《あとがき》

 今回は王鞍君視点の話です、サブストーリーです。

 サブストーリーはたまに書くと思います、次は皇さんかな?

 明日は普通の話に戻ります。


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