第3話 ヤンデレ彼女は甘えたい

「人、来なくて良かったね」


「そうですね……見られるのは、少し恥ずかしいですから」

 そう言ってはにかむ泉美の笑顔はやっぱり可愛い。


 あの後、しばらく泉美とお互いを確かめ合うように抱き合って。

 その間、図書室には人が来なかった……人が来なくて良かった。


 そんなことを考えていると腕に柔らかい感触が伝わってくる。


 隣を見ると泉美が僕の腕をとって、寄りかかっていた。

「どうしたの?」

「もっと友一君の事を感じてたいから……ダメですか?」

 楽しそうに、少し不安そうに上目遣いで聞いてくる。


「ダメなわけないよ。けど、これじゃあ、本が読めないね」

「じゃあ、私が読んであげます、読み聞かせしてあげます!」


「ふふふ、嬉しいね。泉美の読み聞かせ、楽しみ」

「えへへ、嬉しいですね。それじゃあ、読みますよ……」


 泉美の読み聞かせは、透き通るような声で、聴きやすくて。

 スッと頭に入ってくるような、本の世界が見えてくるような。


 ……


「……泉美ってさ、結構胸あるんだね」

「君に……って、急に何言うんですか? 変態さんですか?」

 言葉ではそういうものの、泉美は楽しそうな表情で僕の腕を離さず、逆にもっと寄ってくるみたいで。


「ごめん、ごめん。でもさ、制服で見る感じではわかんないけど、実際に触れてみると、意外と大きいっていうか……」

「ふふふ、友一君はおっぱい星人なんですか?」


「ハハハ、否定はできません。でもさ、おっきい方が嬉しいっていうか、なんていうか……わかる?」

「わかりません、友一君は本当に変態さんです……でも喜んでもらえるなら、嬉しいです」

 さらにギュッと体を寄せて、ニコニコ笑顔で僕の方を見てくる。

 柔らかい感触とか、吐息とか、心臓の鼓動とか……色々直に伝わってきて。


「……嬉しいけど、ちょっとくすぐったいね」

「ふふふ……それじゃあ、もっと寄ってあげますね」

 ニヤニヤ笑顔でもっと体を寄せて。


 限界まで近づいて泉美の頭が僕の肩にコテンと乗る。


「……友一君、私今すっごく幸せです」

 うっとりしたような、熱っぽくて艶っぽい表情と声で。

 幸せをかみしめるように、喜びを逃さないように。


「うん、僕も。泉美と一緒ですごく幸せ」

 幸せを共有するために、泉美の頭に、僕の頭を重ねる。



 ☆


 ブーブーっと、図書室を閉める時間の合図のブザーが鳴る。

 下校時間より少し早い、特殊なブザー。


「……もう、終わりですか。寂しいです……」

 肩に頭をのせたまま、寂しそうに泉美が呟く。

 僕だって寂しい……でも、終わりってわけじゃない。


「泉美、今日暇? もしよかったらどっか遊びに行かない?」

「良いんですか!?」

 僕の言葉に、見上げる泉美の顔がパッと輝く。

 この顔が見たかった。


「うん、僕も予定ないし。どっか行けたらな、って」

「嬉しい、です。その、学校が終わってまで友一君と一緒にいれるなんて……!」


「ハハハ、大げさだな、泉美は」

「だって、嬉しいんですもん、今まで我慢してたんですもん……」

 赤い顔で、恥ずかしそうに頭を寄せてくる。


 照れてぷくぷくになった泉美の頭を優しく撫でる。

「ふふふ、泉美は可愛いね、本当に」

「……撫ですぎです、友一君」


「だって、本当に可愛いから」

「……もう、変態さんです、友一君は」

 でも、泉美はコテンと頭を寄せたままで、甘い息で。

 甘えたそうに頭をうずうずさせていて。


「……大好きです」

 しばらく、頭を撫で続けた。




 この時間は楽しいけど、いつまでも図書館にいるわけにもいかないので、カギを閉めてお家に帰ることにする。


「本当に一人で大丈夫? 一緒に行かない?」

「大丈夫です。それに私ちょっと職員室に用事があるので……友一君は先に教室、行っておいてください」


 職員室に一人でカギを返しに行こうとする泉美についていこうと思ったけど、用事があるみたいで断られてしまった。しょうがない、僕は先に教室に行こう。


「……ん」

「?」

「……ん!」

 教室に行こうと思っていると、無言の赤い顔で、手を広げた泉美に止められる。


「……んん!」

「……!」

 メッセージの意味が理解できたので、泉美をギュッと抱きしめる。

 温かくて、柔らかくて、甘い匂いの、幸せな感覚。


「えへへ、エネルギーチャージです」

 お腹に頭を摺り寄せる泉美の体を、もっとギュッとする。



 ☆


「あ、やっと。よ、友一お疲れ」

「……どうしたの、皇さん?」


 教室の前の廊下の窓際、手すりに寄り掛かった皇さんが、僕の姿を見つけてよっ、と右手を挙げる。


「もう、また……どうして、って、まあ、いいじゃない。私だって色々あるんだよ?」

 そう言って首を傾げる皇さん。

 動くたびに髪の毛とかパーカーとかがゆらゆら揺れて、いちいち絵になる人だ。


「それよりさ、友一……君、松山さんに告白したの?」

「……え!?」

 皇さんの鋭すぎる言葉にドキッとなる。え、何で、急に……?


「ハハハ、何その反応? もしかして本当に告白したの?」

「……うん」


 頷いた僕を見た皇さんの耳がピクっと動く。

「……え、マジ? ホント? 告白どうだったの!?」


「ちょっと、近い、近いよ、怖いよ、皇さん……その、えっと……」

 グイっと顔を近づける皇さんに若干の恐怖を感じながら、考える。

 言って、大丈夫だよね? 隠したいとか全然ないし、ないと思うし。


「その顔……よし。あ、あのさ、もし良かったらこの後メタマ「成功した」


「……え?」

「告白成功した。だから、泉美と付き合うことになった」

 だから、事実を伝える。

 僕と泉美が付き合ったってこと。


 一瞬驚いたような表情をした皇さんだけど、すぐにいつもの完璧スマイルになる。

「……へえー、良かったじゃん! さっすが、友一!」

「うん、ありがとう。皇さん、僕の事、応援してくれてんだよね。ありがとう」


「……ハハハ、そりゃ、応援するよ……だって、友達の……友達の恋路だもん!」

「本当にありがとう。皇さんとの会話がきっかけでもあったから……皇さんは、僕らの恋のキューピットだよ」


「アハハ、キューピットか、そっか、友一の恋のキューピットか……ハハハ、そういってもらえるなら嬉しい、かな」

「皇さんのおかげでもあるから。応援してくれたし、本当にありがとね」


「……げじゃないけど……そ、それじゃあ、友一、また明日ね! 松山さんのこと大事に、するんだぞ!」

「うん、ありがとう、皇さん。優しい友達をもって、僕良かったよ」


「……バカ……バイバイ、友一」

「うん、バイバイ」


 後ろを振り返って走り去っていく皇さんに、手を振り続けた。


 やっぱり優しいな。

 応援してくれて嬉しかったな、ありがとう。




「……痛っ!?」

 そんなことを考えているとわき腹をムニュっと強くつままれる感覚。


「……ど、どうしたの?」

「むー……」

 振り返ると僕のわき腹をつまんだ泉美がむくれた顔で、そっぽを向いていた。

 え、なんかしたっけ?


「ごめん、僕なんかした?」

「……ぷくーだ」

 聞いても、赤いほっぺをハリネズミみたいに膨らませてそっぽを向くだけ。


「もう、泉美、言ってくれなきゃわかんないよ。どうしたの?」

「……楽しそうだった」


「楽しそう?」

「……友一君、皇さんと話しててすごく楽しそうだった。だから、怖くなった」

 そっぽを向いて、不安そうな声で呟く。

 わき腹を掴む力がさらに強くなる。


「痛いから離して、泉美。皇さんとはただの友達だから大丈夫だよ」


「……でも可愛いもん。皇さん私なんかよりずっと可愛いし、ずっと明るいから……だから心配なんだもん」

 相変わらずの不安そうな声で、本当に心配している声で。

 ギュッと握った指は少し震えていて。


「そんな心配しなくて大丈夫。皇さんとは何もないし、それに、泉美の方が可愛いよ」

 震える小さな手を取って、目を見つめてそう言う。


「……そんなこと言われても、やっぱり心配です。だから、その友一君には、その……私の味を、しっかり覚えてほしいです!」

 赤い顔をさらに赤くして、泉美はそう叫んだ。






《あとがき》

昨日の高松宮記念の余韻がまだ残っています。

ナランフレグと丸田騎手、ずっと応援していたコンビなので嬉しいです。

おめでとうございます!

そしてエールちゃんもよく頑張った!!!


タイトル、色々変えましたが全然しっくりこないです、また変わるかもです。

感想などいただけるとじゃんばら喜びます。

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