第1話 彼女を好きだが告白できない

 放課後。


 授業中の眠たいふわふわした空気が、一瞬で解放感と活気に満ち溢れる時間。

 学校にいるのに、学校にいないような不思議な時間。


 そんな不思議な放課後の時間、僕も普段は例に漏れずテンションが上がる。


 普段は、だけど。



「はーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 学校からの解放感で、ウキウキしながらスマホをみた僕の口から意識せずとも長いため息が漏れる。


「……どうしたん、友一? そんなでっかいため息ついて」

 隣の席の皇香織すめらぎかおりが呆れたような笑顔で僕―池江友一いけえゆういちの方を見てくる。

 ちょっと話聞いてもらおうかな。


「いやー、皇さん、ちょっと話聞いてくれる?」

「香織でいいよ、っていつも言ってるのに……それで、どうしたの?」


「あのね、友達とさ、日曜日どこか遊びに行こうと思ってたのよ。ほら、明後日から3連休じゃん?」

「そうだね、3連休だね……あ、もしかして遊ぶの断られたとか? かわいそうなやつ!」

 ニヤニヤしながら聞いてくる皇さん。

 そんなことなら良かったんだけどねぇ……


「それだけならこんなことになりません。あのね、そいつね、彼女できたんだってさ! 年上の、可愛い彼女が! デート行くから遊べないって! しかも写真も送ってきたがって……かーっ! 見んね、皇さん! 浮かれた男ばい!」


 報告とともに友達から送られてきた写真を見せる。

 腕を組んで、楽しそうな笑みを浮かべたそいつと、恥ずかしそうな笑みを浮かべた彼女さんとのツーショット。

 幸せそうで羨ましい!


「ハハハ、こんな写真が送られてきたの? それは確かにドンマイかも?」

「でしょー! ほんと、羨ましいって言うかさ、別に写真は送らなくていいって言うかさ……」

 写真を見ながらクスクス笑って首を傾ける皇さんに、共感の声を上げる。

 色々浮かれるのは良いけど、惚気とか、見せつけるとか、そう言うのはやめてほしい。


 ぷくー、っとしながら机に突っ伏す。


「ドンマイ、ドンマイ。友一にもいい人出来るって。だからそんな落ち込むな」

 突っ伏した僕の肩を皇さんがポンポンと優しく叩いてくれる。


「ありがとう、皇さん。優しいよね、ほんと」


「えへへ、どういたしまして……あ、もしだったら私が友一の彼女になってあげようか? 今ならお買い得ですぜい?」


「ハハハ、からかわんといてよ、皇さん。」

 萌え袖パーカーで、えくぼに指をやってニコッと笑った皇さんにひらひら手を振る。


 赤のインナーカラーの入った短めの黒髪に、整った顔。

 イケメンの王鞍英明おうくらひであきと二人で「king&princess」なんて呼ばれている、告白された回数が両手両足で収まらないようなみんなの憧れの女の子。

 冗談でも嬉しいけど、流石にわかる、超高額物件さん。



「……けど……それじゃあさ、友一は今好きな女の子とかいるの?」

「え!?」

 少しむくれたような皇さんに、そんなことを聞かれて、変な声が出る。


「ははは、何その反応? ちょっと気になったから聞いたんだけど?」

「いや、急に聞かれたから……その好きな人、いるには、いるけど……」

 僕の呟いた言葉に皇さんの耳がピクッと超反応する。


「え、本当? 誰々? どんな人? この学校の人? 可愛い? 何してる人? 教えてよ、友一!」


「近い、近い、恥ずかしい、ちょっと離れて皇さん! いや、その、それはちょっと言いにくいって言うか……」

 顔を近づけてくる皇さんに少し照れながら、バサバサと手を振って否定する。

 だって、ここじゃ言いにくいっていうか……


「えー、何何? 恥ずかしいなら、耳元でそっとでもいいよ。ほら、言ってみ? 何言われても驚かんよ?」

「いや、そう言う事じゃ……」

 その、そうじゃなくて、それが、その……


「ほら、ほらー!」

「いや、だから……」


「あ、あの、池江君! その、図書委員会の、仕事です!」

 答えに困ってあたふたしていると、後ろから声をかけられる。


「あ、ごめん、松山さん……!」

 振り向いた先には長い黒髪の女の子。

 しっかりと制服を着た、地味めな女の子。

 松山泉美―僕の好きな女の子。


 ☆

 松山泉美―教室では常に隅っこの机で本を読んで、周りと話しているところをあまり見ない。

 授業中に当てられても、誰かに話しかけられても、あたふた小さな声で答え、服装も髪型も目立たない、いわゆる地味な女の子。


 でも、同じ委員会の僕は知っている。

 彼女のいいところも、可愛いところも。


 本の事になると熱くなること、何事も一生懸命にこなすこと、キレイ好きなこと、意外と大食いなこと、笑顔が可愛いこと……図書委員会として、一緒に活動していくうちに、普段は見れない松山さんの一面が見えて、それがすごく魅力的で、可愛くて……松山さんの事を好きになって。


 でも、勇気が出ないから、関係が崩れるのが怖いからいまだに告白出来ずに、もう1年生も11月。


 体育祭も、文化祭も終わって、告白の絶好の機会を失って、結局いまだに変わらない関係。


 なんか、ずっとこのままな気もする……


「あ、その、お話中、ごめんなさいでした。でも、行かなきゃ、なので……」

「いやいや、大丈夫! 大丈夫だよ、松山さん! ごめん、早く図書室、行こ!」

 オドオドしながら、申し訳なさそうに言う松山さんに、こっちも少しあたふたしながら答える。

 その、なんか……恥ずかしい!


「ほーん、なるほど……ごめんね、松山さん、友一ずっと捕まえてて」


「いえ、その……こちらこそすみません」


「なんで謝ってんの。ほら、友一、仕事でしょ、行っといれ」

 何かに納得した様な皇さんに背中をポーンと押され、松山さんと図書室に向かうことにする。


「その、すみません、池江君……」

「だから大丈夫だって。仕事だし、行かないとね」

「そう、ですね。ありがとうございます」

 そう言ってニコッと笑う松山さん。

 やっぱり可愛くて、少し眩しい。





《あとがき》

作者です。鈴音です。

少し長くなったので半分に切りました。

少し後に次の投稿します、ぜひ読んでください。


感想とか頂けたらありえん喜びます。

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