第29話 1999年
マルスには支配されなかったし恐怖の大王も降ってこなかった1999年、思い出すら失うレベルで暗黒の中にいた虫けらに、一条の光が差した。いや、光はおかしいかも知れない。まだ当時は一般家庭に光回線など引けなかったし。そう、とうとう虫けらの部屋にインターネットがやって来たのだ。
もっとも、その当時の記憶もハッキリ残っている訳ではない。ただ買ったデスクトップPCのOSはWindows98 SEだったのは間違いないし、Windows2000はたぶんまだ出ていなかったはずだ。従って虫けらがPCを購入したのは1999年であると考えるのが妥当である。
しかし最初に買ったこのIBMのPCはいきなり初期不良をつかまされ――故障だと思って修理に出したらCPUの不良だった――実際にインターネットを楽しむまでには紆余曲折があった。ただ当時は言うまでもなく電話回線にモデムで繋いでいたので、いまのネットのように屋内工事が普通は必要なく、開通は簡単だった。
で、インターネットを導入して虫けらが何をしたのかと言えば、アイドルの水着画像探しである。あと、たまにエロ画像も見つけることができた。もちろんコンピューターウイルスというモノは当時から存在したが、よほど変なサイトにでも足を踏み込まない限りは大丈夫、という緩い時代。虫けらは生まれて初めてエロ本に接した小学生のように毎日PCに向かっていた。
そんな中で時折、アニメキャラクターのエッチな画像も見ることがあった。それがどこ由来なのかは当時知らなかったのだが、いま思えばアニメ雑誌の付録や同人誌をスキャンしたものだったのだろう。最初は何の気なしにそれらを横目で見ていた虫けらだったが、いつの頃からか感付き始めた。このインターネットの中には、自分と同じような連中がいるのではないか、と。まさに天啓の如しであったと言える。これがなければ、いまこんな文章を書いていたりはしなかったろう。
とは言え、その同好の士を見つけるのはなかなか難しかった。何せ当時はまだ2ちゃんねるが誕生した直後、ただでさえアングラだったインターネットの世界で、さらにアングラなところにあったそれに、すぐたどり着けるはずもない。Google が日本で検索サービスを開始するのは2000年、まだググるという言葉も存在してない、検索と言えば Yahoo! くらいしか思いつかないような頃。その時代の空気の中で虫けらは足掻き、気付けばまたアニメに近付いて行くこととなった。
1999年もWOWOWは元気だった。「星方天使エンジェルリンクス」「デュアル!ぱられルンルン物語」「Arc The Lad」「課長王子」「魔法使いTai!」「THE ビッグオー」「今、そこにいる僕」「WILDARMS〜Twilight Venom〜」「D4プリンセス」「臣士魔法劇場 リスキー☆セフティ」「鋼鉄天使くるみ」「アレクサンダー戦記」「星界の紋章」「人形草紙あやつり左近」など。この年のテレビアニメの新作は100本ほどあるが、その1割以上をWOWOWのアニメが占めていた訳だ。
後に地上波で放送された作品もあるのだが、この中で虫けらの記憶に残っているのは1本しかない。「THE ビッグオー」である。と言ってももちろん衛星放送など観られるはずはない。何度もしつこいようだが、当時はネット配信など有り得ないしな。ビッグオーは後にレンタルビデオで観たのだ。これがハマった。いやあ面白い面白い。こんな凄いアニメがまだ創れる余地があったのか、とアニメーションという表現手段の奥深さに感嘆した記憶がある。この年を代表するアニメとしては、この作品を挙げたい。
ただし上にも書いたようにビッグオーを観たのは1999年ではない。この年、虫けらを深い闇の中から引きずり上げてくれた作品は別にある。その切っ掛けとなったのは「天使になるもんっ!」と「
しかしこの2本を最終回までキッチリ追うことはできなかった。まだ心の中にはイロイロなせめぎ合いがあったのだ。だが年の後半出会った作品に、虫けらは再び目を見開くことになる。それが「地球防衛企業ダイ・ガード」である。
いったいこの作品の何がそこまで琴線に触れたのだろうな。いや、面白いのは文句なく面白かったのだが、決して時代を変えるような特殊な作品ではなかった。マジンガーZのような衝撃も、ガンダムやボトムズのような特異性も感じられない。普通の人間が普通の生活をしながら突拍子もない事態に対応する作品としては、宇宙船サジタリウスのような先例もある。虫けらの「知らない世界」はそこにはなかったのだ。
いや、だからかも知れない。そこには虫けらの「知っている世界」があった。社会人としての面倒臭さや生臭さ、個人としての思いや組織人としての葛藤、そして巨大ロボットや正義に対する憧憬など、何から何まで虫けらのよく知っている景色がエンターテインメントに昇華されていた。当時の虫けらはそういう作品を求めていたのだろうか。
虫けらは面倒臭いヤツで、理解されるのが嫌いである。誰とは言わないが「おまえのことを理解しているぞ」的なメッセージ性の強い歌とか大嫌いだ。だがダイ・ガードにそういう不快感はなかった。押しつけがましさはなく、ただ本当にそういう世界があるかのように描いている。そんなこと当たり前のように思うかも知れないが、実際に物語を作るとなると簡単にはできないのだ、これが。
ダイ・ガードは1話から最終話まで完走できた。この作品をちゃんと観ることができたのは、虫けらのこの年、いや人生において大きな収穫であったと言っても言い過ぎではないだろう。またアマプラで配信とかしてくれると嬉しいのだがな。
他にこの年のアニメで知られた作品と言えば、「ONE PIECE」「おジャ魔女どれみ」「HUNTER×HUNTER 」「無限のリヴァイアス」「ゾイド -ZOIDS-」「デジモンアドベンチャー」「メダロット」「へっぽこ実験アニメーション エクセル♥サーガ」「ベターマン」「将太の寿司」「神風怪盗ジャンヌ」「宇宙海賊ミトの大冒険」「ゴクドーくん漫遊記」「コレクター・ユイ」「ジバクくん」「サイボーグクロちゃん」「GTO」「おるちゅばんエビちゅ」などがある。
ワンピース、ゾイド、メダロット、クロちゃん、エビちゅ、くらいかな観たことあるのは。全話観た作品はない。そこまでの余裕はまだなかった模様。
1999年のOVAは「最遊記」「サクラ大戦 轟華絢爛」「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 追憶編」などがあった。虫けらは巨大ロボットアニメが大好きで、それなりに知っているつもりなのだが、この年のOVA「超神姫ダンガイザー3」と「思春期美少女合体ロボ ジーマイン」はタイトルを聞いたことすらまったくない。OVAそれ自体に興味を失っていたからなあ。あ、成人向けだが「ワーズ・ワース」が出ている。話はともかく、絵はしっかりしたファンタジーだ。話はともかく。
1999年の劇場用アニメ映画は、シリーズ物が「ドラえもん のび太の宇宙漂流記」「それいけ!アンパンマン 勇気の花がひらくとき」「クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦」「名探偵コナン 世紀末の魔術師」「劇場版ポケットモンスター 幻のポケモン ルギア爆誕」。ジブリ作品は「ホーホケキョ となりの山田くん」、ピクサーの「トイ・ストーリー2」、あと「アイアン・ジャイアント」もこの年だ。アイアン・ジャイアントは廉価版DVDを持っているのに観ていない。
この年、アニメ以外の映画は「ゴジラ2000 ミレニアム」「ガメラ3
1999年の特撮は、シリーズ物はスーパー戦隊シリーズの「救急戦隊ゴーゴーファイブ」だけだが、東映が「燃えろ!ロボコン」、円谷プロが「ブースカ!ブースカ!!」を制作している。声優ブームに乗っかった「ボイスラッガー」もあった。深夜枠では「千年王国III銃士ヴァニーナイツ」が放送された模様。
翌年、ロボコンの後番組として始まるのが「仮面ライダークウガ」である。このヒットにより特撮番組への社会的な注目度が変化する。結果が現われるのはまだ数年後になるのだが。
そんな20世紀最後の西暦2000年、意外なことに新作アニメの本数はガクッと減少する。しかしそれ以前から続く長期シリーズや、新しく始まる長期シリーズもあり、アニメを巡る景色にさほどの変化はない。大きく動き出すのは2001年以後になる。
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