第28話 1998年

 民放地上波キー局がBSデジタルチャンネルを開局した――放送開始は2000年12月かららしい――この年、テレビアニメの世界ではWOWOWが元気だったようだ。「ブレンパワード」「鉄コミュニケイション」「南海奇皇ネオランガ」「熱沙の覇王ガンダーラ」「アンドロイド・アナ MAICO 2010」「ああっ女神さまっ 小っちゃいって事は便利だねっ」、そしてあの「カウボーイビバップ」を全話放送したのもWOWOWである。


 WOWOW以外にもカートゥーンネットワークやアニマックスなど、衛星放送チャンネルの台頭でアニメを視聴する手段の裾野がどんどん広がっていた1998年、虫けらはどんどんアニメから離れていた。まあ、うちには衛星放送を見るアンテナなどなかったしな、世間の動きなど関係なかったと言える。


 いや、それ以前の話として、虫けらはもう30歳を超えていた。21世紀の現代ならどうかは知らないが、「ノストラダムスがー」とか世間で騒がれていた20世紀の世紀末である。30歳を過ぎてアニメだの特撮だの観ているなんて、ちょっと普通とは言い難い存在だった。家族は世間様に対して、さぞ肩身の狭い思いをしていたことだろう。


 そんな空気の中で、この年のテレビアニメの記憶などあろうはずもない。虫けらの諦念はピークに達していた。「放送されているアニメを全部好きになる必要はない」どころの騒ぎではなく、未来も見えぬまま行き詰まり、文字通り言葉通りの「夢も希望もない」生活をただひたすら送っていたのではないか。そう、アニメや特撮だけではなく自分自身に対する記憶も印象もほとんど残っていないのが1998年。つらかったの苦しかったのといった記憶すらない。思い出が欠落して穴が空いている。


 Wikipediaを見る限り、最初のテレビ朝日版「遊☆戯☆王」がこの年らしい。「頭文字D」「カードキャプターさくら」「ガサラキ」「デビルマンレディー」「銀河漂流バイファム13」「快傑蒸気探偵団 TV ANIMATION SERIES」「トライガン」「バブルガムクライシス TOKYO 2040」「MASTERキートン」「星方武侠アウトロースター」「ロスト・ユニバース」「魔術師オーフェン」「ポポロクロイス物語」「まもって守護月天!」「万能文化猫娘」「アリスSOS」「ジェネレーターガウル」などなど。知名度のある作品もちらほらあるのだが、本放映時に観た記憶はまるでない。この1年はいったい何をしていたのだろうな。


 1998年のアニメ映画は「ドラえもん のび太の南海大冒険」「それいけ!アンパンマン てのひらを太陽に」「クレヨンしんちゃん 電撃!ブタのヒヅメ大作戦」「名探偵コナン 14番目の標的」、そしてシリーズ第1弾の「劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲」が公開されている。ピクサーの「バグズ・ライフ」もあった。


 ブタのヒヅメは後になってテレビで観たのだが、当時は確か「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」(2001年)の公開よりも後だったように記憶している。ブタのヒヅメの評価がかなり低くてオトナ帝国の評価が極めて高かったことに驚いた記憶があるからだ。もちろんその時点ではオトナ帝国は観ていないのだが、ブタのヒヅメは文句なしに面白かった。この面白い作品より評価の高いオトナ帝国ってどんな映画なのだろうと興味を持ったように思う。


 ガンダム映画で「機動戦士ガンダム 第08MS小隊 ミラーズ・リポート」「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz 特別篇」の同時上映があったらしい。覚えてないなあ。どっちもOVAの再編集版らしいのだが、話題になったっけかなあ。


 あと、「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 DEATH (TRUE)² / Air / まごころを、君に」というのがあったらしいのだが、まったく知らない。これは2本セットの映画ということなのだろうか。話題になったのかどうかすら記憶にない。


 この年は本当に見事に何も覚えていない。「銀河鉄道999 エターナル・ファンタジー」は主題歌がTHE ALFEEだったのだけ覚えているが、それだけ。ただ「スプリガン」は劇場に行ったのかどうか記憶が定かではないものの、どこかで観た記憶がある。今度ネトフリで新作をやるらしいけど。


 アニメ以外の映画は「モスラ3 キングギドラ来襲」「HANA-BI」「踊る大捜査線 THE MOVIE」「アルマゲドン」「ディープ・インパクト」「スポーン」「スター・トレック 叛乱」「ロスト・イン・スペース」「トゥルーマン・ショー」「海の上のピアニスト」、他に「アベンジャーズ」(あのアベンジャーズではない)、「パラサイト」(あのパラサイトではない)、「GODZILLA」(マグロ食うヤツ)もあったようだ。


 この年、OVAは一般向けと成人向けを合わせても40本に満たなかったらしい。しかし松本零士作品の再評価でもあったのか、「火聖旅団 ダナサイト999.9」「クイーン・エメラルダス」が映像化された模様。「青の6号」はCMを見た記憶だけあるな。CG作品だったと思う。そして何より「真ゲッターロボ 世界最後の日」がリリースされている。真ゲッターは後にテレビで観て衝撃を受けた。いやあ面白い面白い。機会があれば観て損はないのではないかと思う。


 1998年の特撮は、メタルヒーローシリーズが「テツワン探偵ロボタック」、スーパー戦隊シリーズが「星獣戦隊ギンガマン」、ウルトラシリーズは一旦区切りになる「ウルトラマンガイア」が放送された。深夜枠では「仮面天使ロゼッタ」「サイバー美少女テロメア」「美少女新世紀 GAZER」などがあったらしい。深夜枠の特撮ドラマは「牙狼-GARO-」(2005年)以前はまったく知らない世界だ。


 そんなこんなで思い出もなく記憶喪失のようにただ生きていた1998年を通り過ぎ、とうとう迎えた1999年、恐怖の大王はやって来なかったものの、闇の中に居た虫けらには一条の光が差した。新しい文明の光が。

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