第27話 1997年
この1997年、テレビアニメの新番組の本数は前年より急増はしなかったものの、前年から引き続いた長期シリーズが増えているため、印象的には90年代前半よりもかなり沢山のアニメが溢れていた感じだったかも知れない。その中で、虫けら個人の「収穫」と呼べるのは「剣風伝奇ベルセルク」「勇者王ガオガイガー」の2本だけである。「だけ」である。
ベルセルクはどこから情報を仕入れたのだったか、とにかく凄いらしいと聞いて「本当かよ」と疑いながらアニメを観て、慌てて原作を買いに走った。原作者の三浦建太郎氏が逝去されてしまったために、もはや物語の完結を見ることは叶わないが、それでも日本のファンタジー界に燦然と輝く金字塔であろう。ガッツの大剣「ドラゴンころし」の面影は様々な創作作品で目にする。日本でダークファンタジーを描こうとするなら素通りはできない物凄い漫画である。
アニメの方は原作を読んでしまうと、どうしても不満はあるものの、それでも決して出来は悪くない。黄金時代編を中心に描いたのもナイスチョイスと言えるだろう。当時の深夜アニメの空気に見事ハマっていたような印象がある。
ガオガイガーはいわゆる「勇者シリーズ」の最終作であるが、従来の勇者シリーズのファンからは評価が高くない。「これは勇者シリーズではない」と否定的な意見を目にしたことも何度かある。しかし勇者シリーズにこだわりのまったくない虫けらから見れば、ここまで面白い「巨大ロボットアニメ」はそうざらにはないのだ。
とにかく外連味、迫力、メカ描写、そして骨太のストーリー。かつて虫けらが子供の頃「宇宙戦艦ヤマト」に見たそれらを彷彿とさせながらも、巨大ロボ物のお約束をキチンと押さえている。言うなればヤマトとマジンガーZとエヴァンゲリオンの美味しいところを寄せ集めたような作品かも知れない。ガオガイガーの人気は放送終了後も長く続き、OVAで、さらにはテレビ局も時間帯も変えて続編が制作され放送された。勇者シリーズとしてどうかはともかく、日本の巨大ロボットアニメ史を振り返るとき、特筆すべき作品だと思う次第。
アニメの歴史という観点に立てばこの年の「少女革命ウテナ」も革新的な作品だったのだろう。幾原邦彦監督の作品を虫けらが初めて意識したのは「
幾原監督の作品は、おとぎ話的世界観とでも言うのだろうか、現実的な部分と非現実的な部分の振れ幅が大きい。端から端まで計算し尽くして描くというより、勢いに任せたアクションペインティングみたいな物語進行で、それでも最後にはそれなりに綺麗にまとまる。考察が好きな人にとっては何度でも楽しめる要素が満載なのだが、同じ監督の作品でありながら、虫けらには合うモノと合わないモノがある。ピングドラムと「ユリ熊嵐」(2015年)は素直に楽しめたものの、ウテナと「さらざんまい」(2019年)は入り込めなかった。ただこれは幾原監督の欠点ではない。「同じような物」を創っていないという証であると思う。
もう一本、アニメ史に残る作品と言っていいのだろう、「ポケットモンスター」もこの年から始まっている。観ていないので書くことは何もないが。他にゲーム原作は「
巨大ロボットアニメとしてはこの年、シリーズ第3作「超魔神英雄伝ワタル」、まったく見たことも聞いたこともないが「ネクスト戦記
ラノベ原作アニメは「MAZE☆爆熱時空」「スレイヤーズTRY」が放送されている。児童文学を原作とする作品は「はれときどきぶた」「夢のクレヨン王国」があった。古典文学の「白鯨」を原案とする出崎統監督のSFアニメ「白鯨伝説」がNHKのBSで、同じく出崎統監督の「手塚治虫の旧約聖書物語」がWOWOWで放送されている。
漫画原作では「金田一少年の事件簿」「中華一番!」「烈火の炎」「HARELUYA II BØY」「EAT-MAN」「学級王ヤマザキ」「CLAMP学園探偵団」「ケロケロちゃいむ」「さくらももこ劇場 コジコジ」など。
あと、「キューティーハニーF」「マッハGoGoGo」「ドクタースランプ」といったリメイク作品もあった。他にこの年のオリジナル作品は「バトルアスリーテス大運動会」「新・天地無用!」など。大運動会はメディアミックス作品で、OVAの方が先に出ている。
1997年のOVAは上の大運動会の他、「機動戦艦ナデシコ」(1996年)からのスピンオフ「ゲキ・ガンガー3 熱血大決戦!!」、夢枕獏氏が原作の「サイコダイバー 魔性菩薩」、テレビゲーム原作の「サクラ大戦 桜華絢爛」「超光速グランドール」「ヴァンパイア」「ありす in Cyberland」、アダルトゲームが原作の「エルフ版 下級生 あなただけを見つめて…」「同窓会 Yesterday Once More」「ヴァリアブル・ジオ」などなど。テレビシリーズの続編や漫画原作も相変わらず多いのだが、印象には残っていない。
1997年の劇場用アニメ映画は、「ドラえもん のび太のねじ巻き都市冒険記」「それいけ!アンパンマン 虹のピラミッド」「クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡」といったお馴染みのシリーズに加えて、コナンシリーズの第1作「名探偵コナン 時計じかけの摩天楼」、今敏監督の「パーフェクトブルー」、さらに「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生」「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」、そしてスタジオジブリの「もののけ姫」が公開されるなど、大変賑やかだった。
この中で実際に映画館まで観に行ったのは、もののけ姫だけであるが、もはや解説不要の名作である。宮崎駿氏の作品の中では個人的に一番好きだ。暴力性が云々と言われることもあるが、人間の負の側面を描くときに暴力性を排除して何になるというのか。暴力性を排除しても負の側面を描くのは可能だが、それは暴力性を排除すべき必然性があることの証明にはまったくならない。
アニメ以外の映画はこの年、「モスラ2 海底の大決戦」「タイタニック」「メン・イン・ブラック」「オースティン・パワーズ」「ジャッキー・ブラウン」「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲」「スターシップ・トゥルーパーズ」「コンタクト」「フィフス・エレメント」などがあった。
1997年の特撮は、メタルヒーローが「ビーロボ カブタック」、スーパー戦隊シリーズが「電磁戦隊メガレンジャー」、ウルトラシリーズは「ウルトラマンダイナ」が放送され、その他ヒーロー系ではないドラマとして「エコエコアザラク」「ねらわれた学園」があった。ゴジラ映画の映像などを使った「ゴジラアイランド」という番組もあった模様。
もうアニメからもかなり距離を置き始めたこの頃、テレビには見る番組が少なくなっていた。こういった傾向は翌年も強まるのだが、世間は地上波民放キー局がBSデジタルチャンネルを開局し、賑やかになって行く。虫けらは時代に取り残されつつあった。
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