第26話 1996年
いま「アニメとか好きそう」と言われると悪口らしいのだが、虫けらはずーっとアニメとか好きそうなヤツのまま人生を過ごしてきた。それは現在進行形である。しかし、ではいま現在アニメを積極的に観ているのかと問われれば、必ずしもそうではないのが現状と言える。
だからといって「いまのアニメは面白くない。昔は良かった」などと思うのかと言えば、まったくさにあらず。昔であろうが現在であろうが、面白いモノは面白いし、面白くないモノは面白くない。どこかに「昔」と「今」を分ける線を引いて、それ以前と以後で評価を変えるようなことに意味があるとは思わない。
なら何故いまはアニメをあまり観ていないのか。それは第1に数が多すぎる。「1話だけでも目を通そうか」と思っても、全部観るのに何日かかるか。小説を書く時間がなくなってしまうではないか。故に、何らかの理由、要素、特徴などが琴線に触れた作品だけを観ることになる。加齢による体力の低下も影響はあると思うが。
そして第2に、虫けらが若い頃とはアニメというものの「社会における立ち位置」が違っている。アニメが好きだからと言ってすべてのアニメを好きになる必要など、もうないのだ。そしてその立ち位置の変化が目に見える形で生じたのが、この1996年という年かも知れない。
このアニメ・特撮雑史を最初から読んで頂ければおわかりかと思うが、昔々はアニメは単に小さな子供向けのテレビ番組だった。そこに最初の立ち位置の変化が生じたのは1974年、「アルプスの少女ハイジ」と「宇宙戦艦ヤマト」の登場による。特にヤマトは大きくアニメの立ち位置を変化させた。つまり、「アニメとか好きそう」な視聴者をメインターゲットに据えたのだ。
ヤマト以後、小さな子供向けアニメ作品はシェアを縮小し、一方「アニメとか好きそう」な視聴者向け作品はどんどんシェアを拡大した。それが当たり前である時代が長く続き、虫けらもそれに慣れきっていた。だがこの状況に最初に違和感を突きつけたのは、1988年の「それいけ!アンパンマン」だったかも知れない。もちろんアンパンマンが大ヒットしても、それでアニメ界の大勢が目に見えて変わった訳ではないが、時代は動き始めていたのだろう。
やがて「ちびまる子ちゃん」「クレヨンしんちゃん」などで親子が同じアニメを観て笑うようになり、そしてどう見ても「アニメとか好きそう」な視聴者に向けて作られたであろう「新世紀エヴァンゲリオン」が社会現象を巻き起こしてしまった。ここでアニメを制作する現場の意識が決定的に変わったのかも知れない。「アニメとか特に好きじゃない人」を客として取り込めるのではないかと。
アニメ業界にとってアニメファンは上客である。それは間違いない。ただし一部のファンはアニメにマニアックな意識を向け、ときとして執拗に批判する。これに対応しなくてはならない製作者側にとっては厄介な一面があるのも事実。そして一番の問題点として、アニメファンは声はデカいが絶対数が少ない。テレビの視聴率にせよ劇場の観客動員にせよ、アニメファンに頼った商売をすると儲けが少ないのだ。
いまのように豊富なグッズを展開し、しかもそれがインターネット通販で飛ぶように売れる時代ではない。まだWindowsが95の頃、アニメのネット配信など空想の未来物語の中にしか存在し得なかった。それでいつまでもアニメファンに頼った商売を続けるのは、いまにして振り返れば相当な無理があったろう。だが、流れは変わった。
無論、この年にアニメファン向けの作品が作られなかった訳ではない。「機動戦艦ナデシコ」「魔法少女プリティサミー」「VS騎士ラムネ&40炎」「セイバーマリオネットJ」「天空のエスカフローネ」「スレイヤーズNEXT」「機動新世紀ガンダムX」「超者ライディーン」など。決して少なくはない。かなり話題になった作品もある。
ただしこの1996年のテレビアニメは50本を超える。前年までより10本近く増えたのだ。その増えた分がそのままコアなアニメファン向けの作品に向けられたりはしなかった。
この年は漫画原作のアニメが多い。タイトルを列挙してみよう。「名探偵コナン」「こちら葛飾区亀有公園前派出所」「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-」「みどりのマキバオー」「地獄先生ぬ~べ~」「花より男子」「赤ちゃんと僕」「こどものおもちゃ」「水色時代」「ガンバリスト!駿」などなど。これに「美少女戦士セーラームーンセーラースターズ」「ドラゴンボールGT」も加わる。漫画原作のアニメで広く視聴率を取りに来ている、という印象を持つのは虫けらだけだろうか。
もちろん異論はあるだろう。「誰向けに作られようとアニメはアニメだ」という意見もあるに違いない。それらを否定するつもりは毛頭ない。ただ、虫けらの中ではこの辺りから「ああ、自分はもうメインの客層にはいないのだな」と思うことが増えてきたのだ。「アニメが好き」な層ではなく「アニメも嫌いじゃない」層の支持を得ることで現在のアニメは成り立っていると思う。その現状を作り上げる端緒となったのが、この1996年であるように感じられてならない。
そんな訳で、この年を代表するアニメは「名探偵コナン」だと思うところ。
1996年、名作劇場は年度の前半に「名犬ラッシー」、後半に「家なき子レミ」を放送した。これで地上波テレビにおける名作劇場の歴史は一旦終了である。NHKでは「YAT安心!宇宙旅行」、教育テレビで「はりもぐハーリー」、BSで「シンデレラ物語」を放送した模様。テレビ岩手開局25周年記念のテレフィーチャー「イーハトーブ幻想〜KENjIの春」や、児童文学原作の「少年サンタの大冒険!」という作品もあったらしい。
巨大ロボットアニメは「勇者指令ダグオン」「ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー」があった。ダグオンはともかく、ビーストウォーズは誰をターゲットにした作品なのか判断に苦しむ。
その他「エルフを狩るモノたち」「ハーメルンのバイオリン弾き」「B'T-X」「わんころべえ」「きこちゃんスマイル」「爆走兄弟レッツ&ゴー!!」「はじめ人間ゴン」「バケツでごはん」「いじわるばあさん」などが放送されている。
1996年のOVAは、「機動戦士ガンダム 第08MS小隊」「バイストン・ウェル物語 ガーゼィの翼」「それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ」「鉄腕バーディー」「エンジェル伝説」辺りはなんとなく印象に残っている。「新破裏拳ポリマー」はどうだったっけか。かなり後になってから「覚悟のススメ」は観ているはずだ。まったく観たことも聞いたこともない作品なのだが、「Ninja者」というOVAは日本初のDVDビデオソフトらしい。
この年のアニメ映画は、ドラえもん映画「ドラえもん のび太と銀河超特急」、アンパンマン映画「それいけ!アンパンマン 空とぶ絵本とガラスの靴」、クレヨンしんちゃんは「クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険」、ルパン映画の「ルパン三世 DEAD OR ALIVE」、ディズニーの「ノートルダムの鐘」などが公開されている。「金田一少年の事件簿」のテレビアニメより先に劇場版が作られていたのは知らなかった。
アニメ以外のこの年の映画は、「ガメラ2 レギオン襲来」「ウルトラマンゼアス」「Shall we ダンス?」「スワロウテイル」「インデペンデンス・デイ」「スタートレック ファーストコンタクト」「エスケープ・フロム・L.A.」などがあった。ガメラ2はこの年、というより90年代で一番好きな映像作品かも知れない。
1996年の特撮は、メタルヒーローシリーズが「ビーファイターカブト」、スーパー戦隊シリーズが「激走戦隊カーレンジャー」、シリーズではない東映特撮「超光戦士シャンゼリオン」、久しぶりの東宝特撮「七星闘神ガイファード」、そして円谷プロのウルトラマン誕生30周年記念作「ウルトラマンティガ」が放送されている。シャンゼリオンとガイファードはどちらもテレビ東京である。この年はテレビ朝日系とテレビ東京系に2本ずつ特撮ヒーロー番組があったのだ。
一方TBS系のウルトラマンティガは記念作と書いたが、正確には映画のウルトラマンゼアスもウルトラマン誕生30周年記念作である。ゼアスはウルトラシリーズのセルフパロディ的なコメディ色の強い作品だったが、ティガは従来のM78星雲系統とは違う新たなウルトラマンとなった。
新しいシリーズを立ち上げるというのは商業的に考えれば冒険である。そもそも従来のウルトラシリーズの人気が、この時点でなかった訳ではない。それどころかウルトラシリーズを待望する声は高かったように思う。ウルトラマン80から16年、つまり80を観て幼稚園に通っていた子供が成人するだけの時間が経っていたのだ、もうそろそろ新しいウルトラマンがやって来てもいいのではないかという空気はあったろう。
そこで安全に、無難に、従来のウルトラファミリーの設定を継承してもビジネス的には良かったはずだ。しかし円谷プロは新シリーズを開始した。そのチャレンジ精神は大いに評価され、ウルトラマンティガは大ヒット作となった……と思ったのだが、Wikipediaとか見ると視聴率や関連商品売り上げはイマイチだったと書かれている。
ただ昔より子供の数が減っている状況――日本政府が定義した少子社会の始まったのは1997年から――で、親子で観るのが普通になりつつあったアニメに対してウルトラマンのメイン視聴者が子供世代であることを考慮すれば、世間に対するインパクトはかなり強烈なものがあったような気がするのだがなあ。子供の娯楽がウルトラマンと仮面ライダーしかない時代ではもはやなかったのだから。
翌年は1997年であるが、正直書くことがあまりない。しかし思い出がない訳でもないので、何とか頑張ってみたいと思う次第。
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