第22話 1992年
1992年のOVAは成人向けを含めても60本(シリーズ)台、前年より25%減といったところだが、話題性はかなりあった。まず何と言ってもこの年は、十傑衆走りでお馴染み「ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日」が登場している。これをテレビ番組として制作することができなかった事実が、当時のアニメ周辺の実情を表しているのだろう。
一方、さすがにこれはテレビでは難しかろう「BASTARD!! -暗黒の破壊神-」がOVAとして映像化されている。今度ネトフリでやるそうだが、果たしてテレビにまで降りてくるかどうか。他社のネット配信止まりかも知れない。
永井豪作品の「あばしり一家」「
藤田和日郎作品の「うしおととら」が最初にアニメ化されたのもこの年。正直に言うと、この人の作品は映像化に恵まれていないと思う。何なのだろう、巡り合わせなのか。
個人的に大好きな平井和正作品の「ウルフガイシリーズ」が原作である「ウルフガイ」も出ている。これは未見である。たぶん文句しか出ないだろうから観ないのが正解なのだろうが、気にはなるな。たとえばもし現代にアニメ化とかされると、削らなきゃいけないシーンがかなり出て来る作品なので、そっとしておいて欲しい気持ちと、でもやっぱり映像で観てみたいという気持ちが混在している。
小説のOVAと言えば山田正紀作品の「機神兵団」もそうか。懐かしの漫画からは「マグマ大使」とか「バビル2世」といった名前も見受けられる。「伝染るんです」も映像化されていた。そんなこの年のOVA事情である。
1992年の劇場用アニメは、ドラえもん映画の「ドラえもん のび太と雲の王国」、アンパンマン映画の「それいけ!アンパンマン つみき城のひみつ」、ジブリ映画の「紅の豚」、あとディズニーの「アラジン」もこの年である。他に特筆すべき作品は思いつかない。30本くらいは公開されているらしいのだがな。
アニメ以外の映画は「ゴジラVSモスラ」「シコふんじゃった」「七人のおたく」「エイリアン3」「ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間」「天使にラブソングを…」「バットマン リターンズ」などがあった。
1992年の特撮は、不思議コメディシリーズ「うたう!大龍宮城」、メタルヒーローシリーズ「特捜エクシードラフト」、スーパー戦隊シリーズ「恐竜戦隊ジュウレンジャー」の3本。寂しい限りだが、しかし翌1993年より円谷の名前が最前線に戻ってくる。
1992年のテレビアニメには書くことが少ない。名作劇場は「大草原の小さな天使 ブッシュベイビー」。他に「風の中の少女 金髪のジェニー」「ファンタジーアドベンチャー 長靴をはいた猫の冒険」「おやゆび姫物語」「チロリン村物語」「そらいろのたね」「フランダースの犬 ぼくのパトラッシュ」「スペースオズの冒険」などなどがあった。
シリーズ物として、勇者シリーズ「伝説の勇者ダ・ガーン」、エルドランシリーズ「元気爆発ガンバルガー」、ビックリマンシリーズ「スーパービックリマン」、テッカマンシリーズ(なのか?)「宇宙の騎士テッカマンブレード」、あとこれもシリーズと言っていいのだろうか「超電動ロボ 鉄人28号FX」があった。
鉄人28号FXに関しては、興味の「き」の字も持てなかったことしか覚えていない。デザインがな。普通のロボットじゃん、と思っただけで終わった。観れば面白かったのかも知れない。でも食指が動かないものはどうしようもない。
漫画原作としては「幽☆遊☆白書」「美少女戦士セーラームーン」「南国少年パプワくん」「姫ちゃんのリボン」「お~い!竜馬」「クッキングパパ」「ツヨシしっかりしなさい」「みかん絵日記」などがあった。
幽白とセーラームーンについてはまあ、夫婦揃って凄まじい。嫌味でも何でもなく素直に羨ましいとしか言いようがない。30年経ってもまだ語り草だし、いまだにファンがいるのは凄いだろう。幽白は2年以上、セーラームーンなど5年近く放送が続いた上に海外展開も行なわれている怪物コンテンツである。この年に揃って出てきたのは偶然なのだろうが、90年代では特筆すべき年なのかも知れない。なおリメイクは何ともかんとも。
ただしこの年に出現した怪物コンテンツは幽白とセーラームーンだけではない。もう1つ、世間に影響を与えに与え、轟々たる非難を浴び、それでもいまや国民的アニメの一員と誰もが認めるようになった作品、「クレヨンしんちゃん」が始まったのもこの年である。
いまさら言うまでもないが、この作品の原作は元々青年向け漫画雑誌である「漫画アクション」で連載されていた。当然、アニメも大人向けの毒の強い作品だった。にもかかわらず――放送された時間帯もあったのだろうが――視聴者からは抗議が殺到した。「子供が真似をする」と。
虫けらは子育てというものの経験がないからこう思うのかも知れないが、「観せなきゃいいだろ」と当時思ったものである。子供のチャンネル権を取り上げる程度のことが何故できないのか、と。本当に大人なのか? と。そこまで言うんなら、朝から晩まで死ぬまでずーっとアンパンマン見せときゃいいんじゃないの? と。
とは言え、テレビ局としてはそう言い放つ訳にも行かなかったのだろう、クレヨンしんちゃんの内容には何度も手が加えられ、いつの頃からか立派に毒も牙もないお子様向けアニメに変貌した。虫けらがそんなアニメを観なくなるのは当然と言えば当然である。
この傾向は、何もクレヨンしんちゃんに限ったことではない。「ちびまる子ちゃん」も本来毒の強い作品だったはずなのに、いつの間にやら毒を抜かれてしまった。もはや夕方に放送されるアニメには一切毒があってはいけない、それは明文化されていなくとも半強制的なルールに事実上なっているのではないか。管理社会バンザイ。
現在、夕方の時間帯に放送されているアニメは少ない。それはアニメスタジオのビジネスモデルが変化したことも大きな理由だろうが、表現者として夕方の時間帯で規制に縛られながらアニメを制作するより、深夜帯でなるべく自由に作品を創りたいという積極的な意思の表れかも知れない。「鬼滅の刃」(2019年)が大ブームを起こしたとき、テレビ局にこんなクレームがあったらしい。「何でアニメを夜中に放送するのか」。あなたたちのおかげなんですが。
しかし、それでもこのアニメの作った現代まで続く道筋は偉大なものである。商売としてアニメを考えたとき、何を選択しどの方向に進めば良いのかを体現している作品と言えるだろう。後に続く多くの関係者にとって示唆に富む歴史がそこにある。そんな訳で、この年を代表するアニメは「クレヨンしんちゃん」である。時代のスケープゴートとされたことに哀悼の意を表して。
翌年は1993年。先に言ってしまうのもアレだが、大きな動きはない。虫けらは相変わらず迷走していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます