第16話 1986年
少し遡るが、世界初のOVA(オリジナルビデオアニメーション)の「ダロス」が発売されたのが1983年、18禁の「くりいむレモン」シリーズが1984年から始まり、「戦え!!イクサー1」「幻夢戦記レダ」、そして芦田豊雄版「吸血鬼ハンター"D"」などが1985年である。言うまでもなくOVAはビデオテープが販売されていたのだが、Dとレダが前年同時上映で劇場にかかっている。
そんな流れの中、この年は「ウインダリア」「ガルフォース」「アモン・サーガ」「魔物語 愛しのベティ」などが劇場でも公開された。こういったOVAや、「東映まんがまつり」などを含めると、この年映画館にかかったアニメ作品は40本を超える。そんな中、話題となったのは手塚治虫氏の漫画「火の鳥 鳳凰編」をアニメ化した角川映画「火の鳥」である。
さすが角川映画だけあってCMはバンバン打たれていたし、渡辺典子氏の歌もラジオなどでかかりまくっていた記憶がある。手塚氏にタッチさせなかったことも幸いしたのだろう、映像は非常に美しかった。作品のネームバリューも相まって、多くの人が劇場に足を運んだ。虫けらは映画館まで行ったのだったっけか。記憶にないのだよなあ。ただ作品をどこかで観たのは間違いないのだが、面白かったかと言われれば、首をかしげざるを得ない。面白さを求めるのなら原作の方が格段に面白いと個人的には思う。併映は「時空の旅人」。これはまったく記憶にない。なら映画館では観ていないのかも知れない。
安彦良和氏の原作・監督した「アリオン」、萩尾望都氏原作の「11人いる!」、ドタバタアクション百合コメディ「プロジェクトA子」などはアニメ雑誌では大きく取り上げられていたが、世間的な関心を集められたかと言えば疑問である。
ドラえもん映画は「ドラえもん のび太と鉄人兵団」、他にそれなりに話題となったのは「うる星やつら4 ラム・ザ・フォーエバー」と「北斗の拳」くらいか。どれも観には行っていないはずだ。あとあまり話題にはならなかったが、「GREY デジタル・ターゲット」と「強殖装甲ガイバー」という少年キャプテン連載漫画のアニメ化作品が同時上映されている。こちらも興味はあったのだが観には行っていない。
結果として話題性は火の鳥が独占したこの年のアニメ映画だが、その話題にならなかった有象無象の中に、とんでもない作品が混ざっていた。これに虫けらが気付いたのは、テレビ放映されてから。その作品の名前は、「天空の城ラピュタ」。そうなのだ、虫けらはラピュタを劇場で観るチャンスがあったのに、見逃したのである。
アニメ雑誌では当然高く評価されていたし、虫けらがラピュタの名前を知らなかったはずはない。ナウシカの宮崎駿監督であったことも知っていたはずだ。なのに映画館に行かなかったのだ。アホか俺は! と、後に悔しい思いをすることになる。
アニメ以外のこの年の映画は「エイリアン2」「クロコダイル・ダンディー」「スター・トレックⅣ 故郷への長い道」「トップガン」「ザ・フライ」などがあった。
1986年の特撮は東映不思議コメディシリーズの「もりもりぼっくん」、メタルヒーローシリーズは「時空戦士スピルバン」、スーパー戦隊は「超新星フラッシュマン」、スケバン刑事は風間三姉妹の「スケバン刑事Ⅲ 少女忍法帖伝奇」、そしてスケバン刑事のフォロワーと言って良いだろう「セーラー服反逆同盟」がある。セーラー服反逆同盟は1話だけ観た記憶が。それで面白ければ観続けたのだろうけれど。
1986年のテレビアニメの話題は主に「ドラゴンボール」と「機動戦士ガンダムZZ」が担ったものの、年末時点で話題の中心にいたのはおそらく「聖闘士星矢」だったろう。女性人気ばかりが語られる傾向にあるこの作品だが、男性人気ももちろん高かった。なお蟹座の人が悲しい思いをするのは翌年である。
しゃべる犬たちが熊と戦うと言えば「銀牙 -流れ星 銀-」である。原作シリーズはいまも続き、ときどきネット上で話題になっている。どれがデマでどれが本当の原作漫画かよくわからないことがあるが、たいてい本当に原作漫画だったりする。
タツノコプロはこの年「ドテラマン」と「剛Q超児イッキマン」の2本を送り出しているが、どちらもパッとしなかった。もはや往年の、とか、かつての、とか言われるアニメスタジオとなってしまった感がある。ただ、あくまで虫けらの好みではあるが、ドテラマンは良くできていたと思う。タツノコ臭さは抜けきっていなかったものの、決して面白くなかった訳ではない。イッキマンは、まあアレだ。「オリジナルスポーツ物のはしり」と言えるが、「コブラのラグボールじゃん」とは当時から言われていた。
3月に「うる星やつら」が終了し、「めぞん一刻」が始まったのがこの年。それなりに話題にはなった。アニメ雑誌でも大きく取り上げられていた。ただ虫けらは観ていない。声が原作のイメージに合わないと感じた初めての作品だと思う。それまでは原作付きのアニメを観ても「原作は原作、アニメはアニメ」と割り切れたのだが、めぞん一刻だけはどうしても好きになれなかった。まあ、そんなこともある。ただし村下孝蔵氏の「陽だまり」は好きな曲である。使われるのは翌年だが。
巨大ロボットアニメはZZ以外に「マシンロボ クロノスの大逆襲」と「戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー2010」だけだ。マシンロボは主題歌が子門真人氏。久しぶりに歌が聞けて嬉しかったが、本編はほとんど観ていない。はずだ。金田ジャンプしてたこと以外、何も記憶にないからな。
女の子向けアニメとしては「メイプルタウン物語」「魔法のアイドル パステルユーミ」、漫画原作の「OH!ファミリー」があった。パステルユーミはスタジオぴえろの魔法少女シリーズ第4弾だが、ここでシリーズは一旦終了となる。
名作劇場は「愛少女ポリアンナ物語」。「オズの魔法使い」や手塚アニメの「ワンダービート
いまアニメは深夜帯に放送されるのが当たり前となっている。しかし、この時代まではあまり一般的ではなかった。23時台放送の「六法やぶれクン」(1969年)や、――深夜帯とは言えないが――22時台放送の「花の係長」(1976年)などは例外的な存在と言えるのではないか。だが、この年わたせせいぞう氏原作の「ハートカクテル」が放送され、以後少しずつ深夜帯のアニメが増えて行く。花の係長は30分番組だったが、六法やぶれクンとハートカクテルは5分枠の番組だったようだ。
あとはマイナーなところで「ドリモグだァ!!」「ボスコアドベンチャー」「Bugってハニー」なども、かすかに記憶にある。
そして最後に1本、この1986年で一番好きだったアニメを紹介する。ベタかも知れないが「宇宙船サジタリウス」である。まず影山ヒロノブ氏が歌う主題歌が素晴らしい。オープニング、エンディングともに名曲だ。大人になればなるほど胸に突き刺さる歌と言えるだろう。
アニメにはよく「普通の」という肩書き付きの登場人物がいる。一例を挙げるなら「機動戦士ガンダム」(1979年)の主人公アムロは「普通の少年」だった。だが実際にアムロが普通の少年として描かれたことはあまりない。第1話から「すげーなコイツ」の連続、まあそうでもないと主人公として描くのが難しいのは理解できる。しかし宇宙船サジタリウスではシビップはともかく、トッピーもラナもジラフも最初から最後まで、本当に「普通の」人物像だった。
聖人君子にも悪人にもなれない、ましてスーパーヒーローになんて絶対になれない人物たちが、流され、足掻き、慌てふためき、七転八倒のたうち回りながら、それでも目の前の現実を乗り越えて行くのだ。胸を突かない訳がない。お涙頂戴の感動巨編ではない。それでも「人生」という言葉の意味を、わかりやすく噛み砕いて教えてくれる名作である。もし目にする機会があるなら、観て損はないと思う次第。
この年も新作テレビアニメは30本を超える。もはやブームとは言い難いが、完全に定番番組としてテレビ編成に組み込まれていた。アニメファンとしては可もなく不可もなしと言ったところか。ただ、アニメ業界的にはどうだったのだろう。ヤマトやガンダムに盛り上がったアニメファンはもう成人しており、それに合わせて制作されるアニメの対象年齢も高くなる。良きにつけ悪しきにつけ、その影響が見えてくるのはまだ先の話だが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます