第15話 1985年

 この年、話題作と呼べるアニメ映画はほぼなかった。強いて挙げれば、漫画家のますむらひろし氏がキャラクターデザインを手がけた杉井ギサブロー監督の「銀河鉄道の夜」くらいだろうか。すべて猫で描かれたこの映画には賛否両論あるようだが、賛否両論ある時点で成功だろう。誤解されない表現などというものは存在しないし、誤解を怖れる表現など碌な物ではない。


 ドラえもん映画は「ドラえもん のび太の宇宙小戦争」。このシリーズの人気と話題性は安定している。


 他に大作映画としては角川の「カムイの剣」、宇宙戦艦ヤマトの西崎義展氏が原案の「オーディーン 光子帆船スターライト」、サンリオ映画の「妖精フローレンス」や、ルパンのアニメ映画第3作「ルパン三世 バビロンの黄金伝説」、「うる星やつら3 リメンバー・マイ・ラブ」などがあったものの、たいした話題にはならなかったと記憶。この年も20本くらいはアニメ映画が劇場にかかっているのだが、もはや長編アニメというだけでファンが興味を示す時代ではなくなったのだろう。


 アニメ以外の映画はこの年、「さびしんぼう」「テラ戦士ΨBOY」「バタリアン」「未来世紀ブラジル」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「マッドマックス/サンダードーム」などが公開されている。


 1985年のテレビアニメ、の前に前回1984年の巨大ロボットアニメでトランスフォーマーの名前を出したが、この作品はアメリカでの放映が1984年で、日本での放映は1985年らしい。どうしたものかな。まあ、ここに書いたから書き直さずに置いておこうか。


 他の巨大ロボットアニメとしてはこの年、アニメファン待望(してた、のか?)のガンダムシリーズ第2弾「機動戦士Zガンダム」、いい加減に誰か説明してやって欲しい「蒼き流星 SPTレイズナー」、後のOVAが本編かも知れない「超獣機神ダンクーガ」、後発の忍者ロボットの源流となったのだろう「忍者戦士飛影」があった。


 Zガンダムとレイズナーは話題性もあったしファンの間で人気も高かった。しかしレイズナーは、ファンに人気があるだけではもうダメなのだと痛感させる形で打ち切りを食らった。テレビアニメの「商業的価値」を視聴者が意識せざるを得ない時代に入ったのだろう。


 名作劇場は「小公女セーラ」。NHKは「おねがい!サミアドン」と「へーい!ブンブー」を放送しているが、どちらも観たことがない。「オバケのQ太郎」が3回目のアニメ化、「ゲゲゲの鬼太郎」も第3期(オカリナを吹き始めたヤツ)が放送されている。


 その他漫画のアニメ化は「タッチ」「六三四の剣」「コンポラキッド」「ハイスクール!奇面組」「はーいステップジュン」「昭和アホ草子あかぬけ一番!」「炎のアルペンローゼ ジュディ&ランディ」などがあった。テレフィーチャーとして横山光輝版を原作とする「三国志」が放送されている。FENCE OF DEFENSEの主題歌はよくラジオで流れていた記憶がある。


 オリジナルアニメとしては「魔法のスター マジカルエミ」「夢の星のボタンノーズ」があったらしいが観ていない。


 この1985年を代表するようなアニメは、難しい。飛び抜けた作品は話題性のZガンダムくらいか。でもあえてこの年らしい1本を、というのなら「ダーティペア」かも知れない。「美少女」「アクション」「大爆発」という頭空っぽで観られる、アニメファンの好きそうな「要素」をとにかく放り込んで、それでいて尖らず適度にまとまっている。大言壮語を吐かず、必要十分を繰り返す。現代では当たり前になった有り様の源流の1つであるのは間違いなかろう。


 1985年は日本の特撮界に異変が起きた年。従来の特撮番組は変身ヒーローや着ぐるみなどが人気だったのだが、人気のアイドルにちょっとした特撮要素をふりかけると数字が取れることにテレビ局が気付いたのだ。そう、「スケバン刑事」の放送開始である。


 この年は斉藤由貴氏の初代スケバン刑事、そして11月からは南野陽子氏の第2弾「スケバン刑事Ⅱ少女鉄仮面伝説」が放送され、好評を博した。スケバン刑事シリーズは翌年の風間三姉妹の「スケバン刑事Ⅲ少女忍法帖伝奇」で一旦終わりとなるが、その後もアイドル+特撮のシリーズは消えては現われ、消えては現われを繰り返す。この流れがなければ、ウルトラマンや仮面ライダーにアイドルやモデル出身の俳優が採用される動きは起きなかったやも知れない。当時はそんな意識はなかったのだろうが、いま振り返れば画期的な出来事であった。


 この年の他の特撮は、東映の不思議コメディー「勝手に!カミタマン」、宇宙刑事シリーズに次ぐメタルヒーロー「巨獣特捜ジャスピオン」、スーパー戦隊は「電撃戦隊チェンジマン」、星雲仮面マシンマンの後を受けた「兄弟拳バイクロッサー」などがあった。特撮界は冬の時代を抜けたと言っていいだろう。


 特撮の動きは明るい材料であるが、アニメの方は全体的に印象が薄い。作画技術は10年前より上がっているのに、平均的に小粒になった気がする。とは言え、それはどんな表現手段であれ通る道なのかも知れない。この傾向は80年代を通じてあり続ける。

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