第14話 1984年
80年代の劇場アニメにはザックリ分けて2つの流れがあった。1つは「機動戦士ガンダムⅢ 哀・戦士編」や「伝説巨神イデオン発動編」、あるいはこの年の「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」のように、金を払って観た客が「こんなの作ってアニメーターは無事だったのか」と心配になるレベルのクオリティーを見せつけた映画と、まあタイトルは挙げないが「テレビより綺麗な絵」が動くだけの、上映中に何度もアクビをかみ殺さねばならないような作品があった。「アニメファン以外の映画好きを呼び込む」とかいう勇ましい声を上げていた作品はたいてい後者で、虫けらにはただの言い訳にしか思えなかった。
しかしこの年、本当に「アニメファン以外の映画好き」から高い評価を受けるアニメ映画が登場する。それも2本。押井守監督の「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」と、宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」である。
ここはあくまで虫けらの個人的趣味に基づく雑文置場なのでハッキリ書くが、虫けらがうる星やつらの劇場映画で唯一面白いと思えたのがビューティフル・ドリーマーだ。ストーリーはわかりにくいしセリフは無駄に難解だし、メガネはメガネだしで押井守氏のカラーが前面に押し出された作風は、好き嫌いがハッキリ出る。受け付けない人にはまったく合わないと思う。しかし虫けらはこういう「むせかえるような」濃いアニメが大好きなので、非常に面白かった。
一方のナウシカには、むせかえるような濃さはない。それが個性とも言えるのだろうが、ともかく一見尖ったところのない、極めて優等生的な作品に思える。しかし、それまでのアニメが培ってきた「やるべきこと」を「とんでもなく高い水準で」キチンとやれば、ここまで面白い物が創り出せるのだ、と世間に見せつけた作品であるとも言える。
昔からフィクションには「普段は頼りないが本気を出せば凄い」キャラクターがよく登場するが、「日本のアニメが本気を出せば、このレベルの作品が作れるんだ」と当時のアニメファンの心を震わせたのが「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」であり、「風の谷のナウシカ」であり、「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」であった。
この年には聖悠紀氏の「超人ロック 魔女の
角川アニメは「少年ケニヤ」。いったい誰に観せるつもりなのだろう、と当時の虫けらは首をかしげたが、いまでも理解不能である。ドラえもん映画は「ドラえもん のび太の魔界大冒険」。「SF新世紀レンズマン」が公開され、THE ALFEEの歌う主題歌「STARSHIP―光を求めて―」がヒットしたのもこの年。何だかんだでアニメ映画が20本くらい劇場にかかることに、アニメファンはもう慣れてしまっていた。しかし映画界におけるアニメブームは、この1984年までと考えた方が良いのかも知れない。
アニメ以外では「ゴジラ」「さよならジュピター」「スター・トレックⅢ ミスター・スポックを探せ!」「ターミネーター」「ゴーストバスターズ」「デューン/砂の惑星」「グレムリン」「ネバーエンディング・ストーリー」などが公開されている。
1984年の特撮は東映の不思議コメディーシリーズ「どきんちょ!ネムリン」、ようやく主題歌が歌えるスーパー戦隊「超電子バイオマン」、当時ブルーのボディが新鮮だった「宇宙刑事シャイダー」、そして観れば良かったと後悔した「星雲仮面マシンマン」が始まった。少しずつ特撮の世界が盛り上がって来ているのがわかる。
当時毎月購入していた「月刊OUT」では、編集長にコスプレをさせて「宇宙刑事アウトシャイダー」というコーナーを設けていた。虫けらがシャイダーを観るようになったのはそこからだったように思う。当時の虫けらはイロイロと難しい時期だったのだが、シャイダーは割とすぐ馴染んだ。主題歌は各方面から怒られない内容の歌詞となったが、これはこれで大好きである。
マシンマンは口が見えているデザインが受け付けなくて観なかったのだが、イロイロな方面で評判になっていたらしい。やはり食わず嫌いはよろしくないな。
さて、映画界におけるアニメの勢いが退潮するのと歩みを合わせるように、テレビアニメの世界も雲行きが怪しくなって来る。まずこの年を代表するアニメを先に挙げておこう。超時空シリーズ第3弾の「超時空騎団サザンクロス」と、たがみよしひさ氏のクセの強いキャラデザインを何とか動かそうとした「超攻速ガルビオン」がこの年らしいアニメだと思う。このタイトルを読んで眉を寄せた方もおられるかも知れない。その通り。
やるべきことを高い水準で、とはナウシカのところで書いたが、サザンクロスとガルビオンは「できもしないこと」を適当にぶち上げて、とりあえずアニメファンが好きそうな「要素」をぶち込めば視聴者は喜んで観るだろう、みたいな良く言えば「割り切った」、悪く言えば「視聴者をなめきった」姿勢で作られたとしか当時の虫けらは感じなかった。
誤解のないよう書いておくが、別に視聴者を敬って崇め奉れなどと言う気は毛頭ない。仕事なのだからビジネスライクな部分は必要だろう。しかし、だからといって馬鹿にされれば不快に感じるのは当たり前である。
どんな仕事にだって事業計画というものがある。できるかどうか事前に確認するのも仕事の内なのではないか。「できますよ! やれますよ!」と言うだけ言って、いざ始まったら「やっぱりできませんでした!」はなかろう。どっかのブログか。もちろんイロイロ込み入った事情はあるのだろう。同情できる理由もあるに違いない。しかし、どう転んでも結果を高く評価するのは無理だ。まあ向こうも、こちらに評価して欲しいなどと思っていないだろうから、何の問題もないのだろうが。
長いアニメの歴史の中で、サザンクロスとガルビオンだけがこんな調子だったのだとしたら、わざわざ取り上げる必要もない。ただの嫌いな作品、取り上げる価値のない失敗作と扱えばいい。しかしこの1984年以降、こういった感じの作品がポツポツと散見されるのだ。アニメの業界がこの時期にどこか変化した、あるいは何か限界を迎えた証左やも知れない。ガルビオンは主題歌が凄くいい曲でなあ、キャラデザも好きだったし、物凄く期待したのだけれどなあ。サザンクロスはともかく。
この年の巨大ロボットアニメは他に、ロボットデザインの革命だったかも知れない「重戦機エルガイム」、蛇腹剣を世に出した「機甲界ガリアン」、動く動く安彦アニメ「巨神ゴーグ」、乳首ビームの「星銃士ビスマルク」、時代的に早かったのか「超力ロボ ガラット」、キーボード連打「ビデオ戦士レザリオン」、ロボ? マジンガー?な「ゴッドマジンガー」、ダイアクロンとかミクロマンとか懐かしい「戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー」などがあった。
名作劇場は「牧場の少女カトリ」。「名探偵ホームズ」はテレビ放映に先駆けてナウシカの併映作として映画館にかかっていたな。「宗谷物語」なんてのもあったらしいが、「宇宙よりも遠い場所」(2018年)が好きな人なら興味があるだろうか。
少年漫画誌からのアニメ化作品としては、「北斗の拳」「夢戦士ウイングマン」「よろしくメカドック」「Gu-Guガンモ」「ふたり鷹」「あした天気になあれ」「らんぽう」など、少女漫画誌からは「ガラスの仮面」「オヨネコぶーにゃん」などが放映されている。「魔法の妖精ペルシャ」はこの括りに入れていいのかどうか。
そして最後に紹介するのは、この年1984年に虫けらが一番楽しめた作品。「とんがり帽子のメモル」である。文句を付けようと思えば付けられる部分はある。宇宙人設定をまったく活かしていなかったこととか。だがそれを入れてもなお、本当に丁寧に上質に創られていた作品だ。
現代の小説投稿サイトでは「幼なじみが負けない物語」が一定の人気を保っているが、この作品は幼なじみが負けない。その辺も上手く描いている。現在主流の創作作品に見られる様々なエッセンスが、38年前のこの時代すでにちゃんと形になっていたことに驚く人もいるかも知れない。派手に目立つ作品ではないが、間違いなくオススメできるアニメである。なお主題歌の作詞は、現在「ちびまる子ちゃん」のまる子役で知られるTARAKO氏だ。元々ミュージシャンだからな。
この年のテレビアニメは40本ほどある。数だけ見ればアニメブームはまだまだ続いているようにも思えなくもないが、実際はもうブームとしては終焉に向かっていたと見るべきではないか。この先のアニメは、いわゆる「定番」「お約束」といった要素が重要視されるようになる。それも進化の1つの形なのかも知れない。
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