第13話 1983年
この前年、大友克洋氏は漫画「AKIRA」の連載を開始する。その話題の大友氏をキャラクターデザインに迎えた角川の長編アニメ映画第1弾、「幻魔大戦」が公開となるのがこの年。当時の角川は邦画の世界に「角川映画」というジャンルを、良い意味でも悪い意味でも確立していた。それがアニメ映画にも参入してきた訳だ。
虫けらは平井和正氏の原作のファンであったから、大友氏のキャラクターデザインを見た瞬間に「ダメだこりゃ」と思ったのは正直なところ。「絶世の美少女」であるルナ王女がアレだしな。おまけに監督は「銀河鉄道999」のりんたろう氏だし、何より角川映画だし、期待できる部分はほぼなかったと言っていい。でも観に行ったのだな、「もしかして」を期待して。そして期待は見事に裏切られる訳だが。
綺麗な絵(大友キャラではあるが)が派手に動いてはいた。音楽には疎いのでキース・エマーソン氏がどれだけ凄いのかは知らなかったが、いい音楽だとは思った。物語も難解ではなく、原作のいろんな要素をそれなりにまとめてはいた。でもやっぱり、これは「幻魔大戦っぽい何か」でしかなかったように思う。プロモーションビデオとしては豪華だが、もう一度金を払ってまで観たい作品ではない。なおこの年、「魔法のプリンセス ミンキーモモ」の最終回でこの映画のパロディと思われるシーンが登場する。胸の内にくすぶっていた不満が浄化されたようで、ちょっと嬉しかった。
この年は他に「うる星やつら オンリー・ユー」「ゴルゴ13」を映画館まで観に行った。どちらも微妙な作品だ。「宇宙戦艦ヤマト完結編」が公開されていたのはもちろん知っているが、これは観に行かなかった。さすがに見えている地雷までは踏まない。
1983年のドラえもん映画は「ドラえもん のび太の海底鬼岩城」、安彦良和氏監督の「クラッシャージョウ」も公開されている。手塚アニメの「ユニコ 魔法の島へ」や「はだしのゲン」が公開されたのもこの年だ。「パタリロ! スターダスト計画」はテレビのあのテンポを再現できていなかったのが残念なところ。
アニメ以外の映画では「スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還」「スーパーマンⅢ/電子の要塞」「ジョーズ3」などがあった模様。
テレビの特撮は、東映不思議コメディーシリーズの「ペットントン」、スーパー戦隊シリーズは「科学戦隊ダイナマン」、そして宇宙刑事シリーズは「宇宙刑事シャリバン」である。シャリバンは、主題歌の現在ならイロイロと怒られそうな感じは前作から引き継いだが、少し印象が地味になったのは何故だろう。色味的には派手になっているのだけれど。
昭和の特撮ヒーロー界にはシリーズ物である場合、主人公が変わってもコンセプトやパターンが変化しないウルトラ式と、主人公が変わるたびに何か変化を付けようとするライダー・戦隊式があったが、宇宙刑事シリーズはウルトラ式を選んだ。これはこれで良い判断だったのではないか。子供たちが安心して観られる。戦隊が変化するのだから宇宙刑事は変えなくていいだろう、という配慮があったのかどうかは知らない。
そんな1983年、アニメ界はもう何かバタバタしていた。しかしバタバタついでに書いておくと、前回1982年のページで「魔法のプリンセス ミンキーモモ」の後を「魔法のスター マジカルエミ」(1985年)が継承したと書いたが、もちろんこの年の「魔法の天使クリーミーマミ」の間違いである。お詫びして訂正する。虫けらがどれだけこのジャンルに興味がなかったのかおわかり頂けたかと思う。いや、別に開き直っている訳ではないのだけれどな。
そんな女の子向けアニメとしては、この年他に「愛してナイト」「伊賀野カバ丸」「レディジョージィ」があったが、もちろん観ていない。少年漫画からのアニメ化は「ストップ!ひばりくん」「キャッツ・アイ」(・はハートマーク)「キャプテン」「キン肉マン」「キャプテン翼」「みゆき」「プラレス3四郎」があった。この頃からジャンプ系は強いな。
タツノコプロのアニメは3本。宗教アニメの「パソコントラベル探偵団」、シリーズ最終作「タイムボカンシリーズ イタダキマン」、そしてSFアクションの「未来警察ウラシマン」である。
ウラシマンは色使いとか絵のセンスとか凄い格好いいのだが、もうちょっと物語に重点を置いても良かったように思う。何が何でもコメディにしなきゃ死ぬ病気にでもかかっているのかと思うくらいに、無理矢理コメディタッチを押し込んだような印象がある。ネクライムのルードヴィッヒとか物凄くいいキャラクターなのに、イマイチ活かしきれなかったのはもったいない気がした。
ちょっと変わったところでは、科学教養アニメ「ミームいろいろ夢の旅」がこの年に開始している。「プラレス3四郎」と「パソコントラベル探偵団」、「ミームいろいろ夢の旅」に共通するのはパソコンである。この1983年にはもうパソコンという概念がアニメの世界を通じて子供の世界にまで広がっていた訳だ。もちろん、当時のパソコンはまだとても一般家庭で扱えるレベルではなく、専門家にしか使えない難解な道具だったが、いつか誰でも使えるようになるのでは、という近未来を夢見ることができた。それはいま実現している。やや通り過ぎた感もあるが。
名作劇場は「アルプス物語 私のアンネット」だった、らしい。この辺はもうまったく印象にないな。NHKで「子鹿物語」と「スプーンおばさん」が始まっている。
あとは「パーマン」「ベムベムハンターこてんぐテン丸」「ななこSOS」などもあった。
さて、ここからが本番である。この年は巨大ロボットアニメの大当たり年。とにかく並べて行こう。まずマクロスに続く超時空シリーズ第2作目の「超時空世紀オーガス」、マクロスっぽいがまったく違う変形システムを用意した「機甲創世記モスピーダ」、J9シリーズ3作目の「銀河疾風サスライガー」、ゲッターロボになれなかった「光速電神アルベガス」、トランスフォーマーにも出演しているらしい「特装機兵ドルバック」、主題歌もストーリーもいいのにそれ以外が壊滅的なナックのマジンガー「サイコアーマー ゴーバリアン」、ゴリラゴリラゴリラでお馴染み「亜空大作戦スラングル」、SF巨大ロボット版十五少年漂流記「銀河漂流バイファム」、ちょっと早かった異世界転生「聖戦士ダンバイン」、そしてむせる「装甲騎兵ボトムズ」と総勢10本ある。
当時とは録画機器の性能が桁違いの現代でも、年間10本のロボットアニメを1話から最終話まで追うのは難しい。ましてこの時代のアニメファンをや。確かダンバインの最終話の日、虫けらは高校の修学旅行で観られなかったはずだ。ホテルのテレビにかじりついてもよかったのかも知れないが、1人部屋ではなかったしな、まあ仕方ないと諦めた。
とにかく物語が理解できる程度の話数に目を通したのは、他にモスピーダ、サスライガー、バイファム、ボトムズくらいか。それ以外は数話しか観ていないはず。アニメを観るだけで生きていられた訳ではないので、とても時間が足りなかった。
この中で1本挙げるとしたら、やはりボトムズしかないだろう。バイファムもダンバインも凄いのだが、ボトムズが一番凄いと虫けらは思う。何せもう放送開始から40年近く経っているのに、まだ同じ主人公で新作を、という話が出て来るのである。サザエさんか。ガンダムのように別の主人公で別の設定で別の世界で物語を創るのならまだ話はわかる。しかしボトムズはずーっとキリコ・キュービィーの物語。ここまで愛着を持たれる巨大ロボットアニメも他になかろう。
ボトムズを知らない人のために簡単に書いておくと、これはSF・巨大ロボット・ハードボイルド・ミリタリー作品である。明るいか暗いかで言えば暗い物語だが、同じ高橋良輔監督の前作「太陽の牙ダグラム」のような湿った暗さではない。ロボットは使い捨ての兵器で、簡単に壊れる。兵器より操縦する兵士の方が価値が高いという、ある意味当たり前のことを徹底した作品で、巨大ロボットアニメというジャンルの中にあった「ガンダム的なグループ」から「リアルロボット系」という新たなジャンルを枝分かれさせる決定打となった。ダグラムだけで終わっていたら、その後のリアルロボット系の歴史はなかったかも知れない。
この年よりちょっと後くらいからかな、虫けらは部屋にキリコのポスターをずっと長いこと貼っていた。平井和正氏の「ウルフガイシリーズ」の主人公・犬神明と、このキリコ・キュービィーは、虫けらにとって理想の主人公だった。なれるものなら、こんな風になりたいと真剣に考えるほど入れ込んでいた。この2022年のいまでもどこかでそれを引きずっている。
そんなこんなで、後に伝説を生む名作が何本も輩出された1983年だが、翌年あたりからアニメ界の雲行きが怪しくなってくる。続きはまた次回。
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