第11話 1981年

 アニメはテレビを飛び出し、劇場で長編アニメ映画が公開されるのが当たり前となっていたこの年、再放送からの人気と折からのガンプラブームの後押しを受け、3月より「機動戦士ガンダム」の公開が始まった。劇場の前には長蛇の列。すでに人気は全盛期の「宇宙戦艦ヤマト」シリーズに匹敵するレベルだったろう。少なくとも、前年に公開された「ヤマトよ永遠に」よりは「旬」であった。


 虫けらも電車に乗って映画館に行き、パンフレットを購入した。そこにはタレントのタモリ氏による「続編を作らないのがいいところ」というガンダム評が書かれていた。「わかってるね、この人」みたいな言葉も書かれていたが、後年「機動戦士Zガンダム」(1985年)の制作が決まったとき、スタッフはどう思ったのだろうな。


 他にアニメ映画の話題作としては「さよなら銀河鉄道999」、前年の「ドラえもん のび太の恐竜」に続く第2弾「ドラえもん のび太の宇宙開拓史」をメインとした藤子不二雄映画群、声の出演以外は素晴らしい高畑勲監督の「じゃりン子チエ」、サンリオ制作のフルアニメーション(1秒間に24枚の絵を使う)作品「シリウスの伝説」、手塚アニメのファンタジー「ユニコ」、テレフィーチャーを劇場にかけた「宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち」、劇場版で物語が完結した「宇宙戦士バルディオス」、あとは「あしたのジョー2」や恒例の「東映まんがまつり」などがあった。全部観たヤツは業界人か余程のマニアだけだろう。


 ではテレビアニメは、と言うと少し困る。後々話題になる有名作は何本かあるのだが、飛び抜けた大ヒット作がない。いや、視聴率的にはともかく、これこそ1981年のアニメだ! という指標となりそうな作品は見当たらないのだ。まあ、順番に挙げて行こう。


 まず巨大ロボットアニメとしては、オープニングが超有名だろう「銀河旋風ブライガー」、実際に火のつくライターが玩具売り場に並ぶことになった「黄金戦士ゴールドライタン」、現在で言う腐女子の皆さん御用達だった「六神合体ゴッドマーズ」、海外では「ボルトロン」の一部として大人気だったらしい「百獣王ゴライオン」、サンライズ版の水戸黄門「最強ロボ ダイオージャ」、ブンドル局長が美しかった「戦国魔神ゴーショーグン」、リアルロボット系の元祖と言える「太陽の牙ダグラム」、あとこれも巨大ロボットアニメに入ると思うタイムボカンシリーズの「ヤットデタマン」、これくらいか。


 ダグラムは、流れとして「機動戦士ガンダム」(1979年)の下流に位置するのは間違いないのだが、ガンダムシリーズにあるエンターテインメント性をザックリ削ぎ落とし、その分、人間ドラマに尺を取った作品である。かなり人を選ぶ。エンターテインメント性に特化したブライガーやゴーショーグンと同じ年に出てきたのは、何だか面白い現象だ。


 ゴールドライタンは言うほどシリアスな作品ではないが、それでも「科学忍者隊ガッチャマン」(1972年)や「新造人間キャシャーン」(1973年)、「宇宙の騎士テッカマン」(1975年)などのタツノコヒーロー的な香りを残している。そういった作品が好きな人にはハマるだろう。


 ダイオージャは前年の「無敵ロボ トライダーG7」の流れを引き継ぎ、子供向け巨大ロボットアニメとして非常に良く出来ていた。合体シーンのワクワク感演出も優秀だ。この年に「まんが水戸黄門」も放映されていたのは偶然だろうが。


 ゴッドマーズは端的に言ってしまえば「格好良いだけのハリボテ」であるが、決して楽しめない訳ではない。ヤットデタマンは気を抜いて観ていると「あれ、意外と格好良くないか?」と思える瞬間がある。ゴライオンは……まあ、好みは人それぞれだしな。


 名作劇場は「家族ロビンソン漂流記 ふしぎな島のフローネ」だったが、この年カルピスが提供で日本アニメーションが制作した「愛の学校クオレ物語」がTBS系列で放送されたのだそうな(名作劇場は1978年の「ペリーヌ物語」までカルピスの1社提供だった)。「若草物語」のアニメ化作品「若草の四姉妹」も東京12チャンネルで放送されている。若草物語は現在までに5回ほどアニメになっているらしいのだが、観たことがない。「わんわん三銃士」「名犬ジョリィ」もこの仲間に入れていいだろうか。


 SFは松本零士アニメの「新竹取物語 1000年女王」があった。翌年に劇場映画が公開されるものの、物語はまったく別の話である。テレビ版の主題歌は作詞:阿木燿子、作曲:宇崎竜童というアニメソングらしからぬ2人の手によるものだったが、普通にいい曲だし個人的には大好きだ。しかしいま、高梨雅樹氏の歌うオリジナル音源が手に入らない模様。物語の内容は記憶にない。映画も観に行ったが何も覚えていない。


 ギャグ・コメディ作品がどっと増えたのはこの年の特徴だろう。「うる星やつら」と「Dr.スランプ アラレちゃん」が始まり、映画版とは声優の大半が異なる「じゃりン子チエ」、藤子不二雄作品では「忍者ハットリくん」、映画「男はつらいよ」を原案とした「フーセンのドラ太郎」、他には「新・ど根性ガエル」「ダッシュ勝平」「おはよう!スパンク」「まいっちんぐマチコ先生」「めちゃっこドタコン」が始まった。


 新・ど根性ガエルはとんねるずが主題歌を歌ったりして、それなりに話題を振り撒いたが、虫けらは観た記憶がない。1972年版の旧作が本当に良くできていたからな、比較されるのはちょっと可哀想だったかも知れない。


 アラレちゃんは1997年に一度リメイクされているのだが、さすがにこれは早すぎてほぼ空気になってしまった。だからって、いまリメイクされたら観るかと言われると、何とも返答に困る。こちらもやはり、この1981年のアニメが非常に良くできている。技術的に同じような物を創ることは可能だろうが、そこに意味があるとも思えない。


 うる星やつらも今度リメイクされるが、まあ原作準拠となるだろう。この時代の良くも悪くも原作を逸脱したムチャクチャさ加減は再現できまい。仮に押井守氏を呼んできたところで、その点はどうしようもない。しかし原作が面白いのだから、そのままアニメにしても面白いのではないか。


 ここで疑問に思う方もおられるかも知れない。「1981年を代表するアニメはうる星やつらでいいんじゃないの?」と。うん、それはそうなのだ。虫けらも何か1本この年のアニメを挙げろと言われたら、うる星やつらを挙げると思う。「1981年を代表するのはうる星やつらだよな!」と誰かが言っても、それを否定する気は毛頭ない。一切ない。ないのだが。


 どうも自分の中で違和感が拭えないのだよなあ。うる星やつらは確かに最初から高視聴率だったらしいし、間違いなくヒット作なのだろうけど、肌感覚として一時代を築いたのはだいぶ後になってからだと思う。この年ではない。「そんなこと言い出したら、ヤマトもガンダムもそうだろ」という声もあるだろうが、ヤマトとガンダムは再放送が人気を呼んだのであって、うる星やつらのように途中から急激に評価を上げた訳ではないのだ。


 ヤマトとガンダムは、人気が爆発するポテンシャルを本放送時からすでに持っていた。時代が追いついていなかっただけなのだ。しかし放送が始まった当初のうる星やつらには、その後のムーブメントを起こすようなポテンシャルはなかったように虫けらは思う。もちろん、「じゃあ何年の何話からポテンシャルを獲得したのか」とか言われると答えようがないのだけれど。


 名前だけ記憶しているアニメが「タイガーマスク2世」と「ハロー!サンディベル」、それ以外にもまったく記憶にない作品が何本かあった模様。


 1981年の特撮は「太陽戦隊サンバルカン」と「ロボット8ちゃん」の2本のみ。まさに特撮にとっては冬の時代と言える。サンバルカンのメッセージ性の強い主題歌は好きなのだけれどな。本編は観ていないが。


 しかし、翌年1982年は特撮に光が当たる。ここから反攻が始まるのだ。

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