第10話 1980年

 前年の「機動戦士ガンダム」によってアニメ界の情勢はガラッと変わっ……たりはしなかった。この年のアニメで明確にガンダムの作った流れの中にある作品と言えるのは、同じ富野由悠季監督の「伝説巨神イデオン」だけだろう。


 イデオンは放映当初は観ていなかった。だがこの年、虫けらの同級生にはアニメファンが何人かいて、彼らが口を揃えて「イデオンを観ろ」と言うので渋々観たらハマってしまったのだ。富野監督の名前が虫けらの頭にインプットされたのは、おそらくこの頃だろう。


 イデオンは記録全集も通信販売で買ったし、映画の「接触篇」「発動篇」(1982年に同時上映)も劇場まで観に行った。もちろん虫けらはお金持ちのご子息様ではないため、小遣いを貯めてイデオンに注ぎ込むのは大変だったが、それが楽しかった覚えがある。


 当時はH.G.ウェルズの「宇宙戦争」など知らなかったし、何で重機動メカが三本脚なのかは理解できていなかったものの、わからないことはわからないなりに勝手な考察をしたりして、随分と楽しめた作品である。


 いま観れば、イデオンは決して「リアル」とは言い難い面もある。しかしフィクションにおけるリアリズムとは、必ずしも現実をなぞることではない、と教えてくれたのはイデオンだったかも知れない。なお、劇場版はいまアマプラで観られるようだ。有料だけどな。


 この年に放映された巨大ロボットアニメは他に4本、「宇宙大帝ゴッドシグマ」、「宇宙戦士バルディオス」、「無敵ロボ トライダーG7」、そして2回目のアニメ化となる「鉄人28号」(いわゆる太陽鉄人)である。


 この中にガンダムの波をモロにかぶった作品はない。バルディオスはシリアスだがリアルさは特になかったはず。日本の甲冑をベースにしたデザインはガンダムっぽくもあるが、内容は別だ。まあ数回しか観ていないから、ほぼ記憶にないのだけれど。制作したのは葦プロ。月刊OUTなどでは主題歌をもじって「葦プロ救えバルディオス」などと言われたが、救えなかった。それでも熱心なファンの声を受けて劇場版で物語の終わりを迎えられたのは、まだ恵まれていたのかも知れない。


 トライダーG7はガンダムの後番組だが、一転して子供向きのお話になった。でも虫けらは嫌いではない。かなり丁寧に作られているしな。トライダーは普段、地下格納庫にあるのだが、顔の部分だけ地上に出ており、周囲は公園になっている。発進するときはアナウンスがあり、公園が収納されてから飛び出すのだ。これはいいアイデアだなと当時思ったのを覚えている。


 主人公は小学生ながら零細企業の社長であり、お金のためと言いながら地球のために侵略者と戦う。しかしその姿を学校の同級生たちは知らない。それが最後に解消されたのは、胸がスッとする思いがした。子供向けが何でもかんでも幼稚な訳ではないのだと知れた作品である。


 ゴッドシグマはまったく観ておらず、歌しか知らない。太陽系の惑星の順番をこれのエンディングで覚えた子供は当時多かったようだ。新谷かおる氏のキャラデザインを割と活かした作品だとは思うが、合体スーパーロボットを特に観たいとはこのときの虫けらには思えなかった。


 一方、ビックリしたのは鉄人28号だ。「この時代に鉄人とか、アホか」と舐めてかかっていたら、まあこれが面白かった。もちろんリアルさはない。鉄人を操縦するリモコンのデザインが現代的になったり、鉄人のデザインがメカメカしくなったりはしたものの、「ガンダムなんぞ知るか!」と言わんばかりの振り切った内容は観ていてスカッとした。オープニング主題歌はあの映像込みで、いまでも大好きである。


 SFアニメとしては、「宇宙空母ブルーノア」の後に演芸番組を挟んで「宇宙戦艦ヤマトⅢ」が10月から開始となる。8月に劇場公開された「ヤマトよ永遠に」の続編であり、ボラー連邦が登場する話だが、イマイチ物語が地味だったせいか、あまり盛り上がらなかった印象がある。まあ、さすがにヤマトはもう飽きたという声もあったのだが。


 他に連続シリーズとして「ムーの白鯨」、テレフィーチャーとして松本零士アニメの「マリンスノーの伝説」と、24時間テレビ内の手塚治虫アニメ「フウムーン」が放送された。


 ムーの白鯨は輪廻転生、そしてムー大陸とアトランティス大陸の戦いを描いたファンタジックSFである。いまとなっては珍しいジャンルの作品だと思う。メロドラマ要素が強すぎた傾向はあるが、当時の虫けらはかなり好きだった。マリンスノーの伝説は主題歌が好きだったが内容は特に覚えていない。フウムーンに至ってはまるで記憶にない。


 スポーツアニメとしては「あしたのジョー2」「がんばれ元気」というボクシング物が2本に、野球物として「キャプテン」が放映されている。あしたのジョー2の最初のオープニングアニメーションは、大嫌いだ。何をわざわざコンピューターゲーム調にする必要があったのか。意図がわからん。主題歌それ自体はいい曲なのに、あのアニメーションで台無しである。当時の虫けらはそれで腹を立てて観なかった。


 がんばれ元気はその点、変な方向に走らずちゃんとした作品だった。ただ物語が暗すぎて、虫けらには耐えられなかったのだが。


 キャプテンは、リアルという言葉を使うのは間違っているのだろうが、中学生が野球をする、ということに対して誠実に描かれた作品だと思う。梶原一騎的野球世界とも水島新司的野球世界とも違う、独自の路線である。いまの時代に合うかどうかは知らないが、面白いのは間違いない。


 タツノコプロのアニメは3本、タイムボカンシリーズの「タイムパトロール隊オタスケマン」、最近リメイクされた「とんでも戦士ムテキング」、あと「森の陽気な小人たち ベルフィーとリルビット」がある。


 ムテキングは目がチカチカしそうな色を使いながら、実際にはチカチカしない。色の効果に詳しい人がいたのだろうな。インパクトとセンスの塊のような映像だった。内容はこれまで観てきた安定のタツノココメディという印象。


 名作劇場はこの年、「トム・ソーヤーの冒険」。名作つながりで言うと、連続シリーズとして「ニルスのふしぎな旅」「メーテルリンクの青い鳥 チルチルミチルの冒険旅行」が、そして「若草物語」「坊っちゃん」「二十四の瞳」の3本がテレフィーチャーとして放送されている。


 この1980年は2回目のアニメ化というのが多い年で、上記の鉄人の他に「怪物くん」と「鉄腕アトム」も2回目のアニメ化を迎えた。怪物くんは安定の藤子不二雄アニメだったが、それでも間違いなく80年代のアニメだ。しかし鉄腕アトムは。絵は確かに綺麗だしカラーだったが、動きは明らかに1世代前のアニメである。ムテキングと同じ年に放映されたとは信じ難い。映像センスに天と地ほどの差がある。もう手塚アニメの時代ではないことを痛感させられた作品だった。


 ちょっと毛色の変わったところでは、いしいひさいち氏原作の「おじゃまんが山田くん」、矢口高雄氏原作の「釣りキチ三平」もこの年だ。アイドルのキャンディーズをモデルにしたアニメ「スーキャット」もあった。東映魔女っ子シリーズ最終作である「魔法少女ララベル」も放送されていたようだが、まったく記憶にない。


 テレビアニメの新番組も30本を超えるのが当たり前となった。劇場では「火の鳥2772 愛のコスモゾーン」なども公開され、アニメブームはまだまだ続く気配を見せていたのが1980年である。


 この年の特撮は「電子戦隊デンジマン」「ぼくら野球探偵団」「ウルトラマン80」「仮面ライダースーパー1」の4本。ウルトラマンと仮面ライダーは前年久しぶりの復活を遂げたばかりだが、このシリーズ終了でまた休眠に入る。特撮界はスーパー戦隊が何とか支えている状態だった。これは翌年もまだ続く。

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