第8話 1978年
映画「スター・ウォーズ」がアメリカで公開になったのが1977年5月。日本での公開はこの年1978年6月だったが、その時点ですでに影響が日本の映像作品に及ぶには十分な時間が経っていた。
5月、スター・ウォーズに先駆けて公開となった映画「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」にも影響の片鱗は随所に見られる。いや、それどころか7月からテレビ放映された巨大ロボットアニメ「宇宙魔神ダイケンゴー」にすら影響が見られたのだから、スター・ウォーズ・ショックの大きさが想像できる。ダイケンゴーでは魚の骨みたいな戦闘機がレーザーを撃ちながら飛行するシーンがあるのだが、そこがもう明らかに。
しかしSFと言えば「スター・トレック(邦題:宇宙大作戦)」(1966年)も先行作品としてある訳だが、アニメの中で素人目に見ても明らかにスター・トレックを真似したな、というシーンを挙げるのは難しい。たまに見かけるのは正面に透過光の集中線ができるワープのシーンくらいか。だがスター・ウォーズは挙がるのだ。これは根拠のない勝手な想像なのだが、スター・ウォーズはコロンブスの卵だったのではないか。「この程度のシーン、俺たちにも作れるのに!」みたいなアニメーターの悔しさが籠もっていたのかも知れない。しかし当たり前だが、コロンブスの卵は見つけたヤツが偉いのである。
さて、ことほど左様にアニメにすら影響が出るのだ、同じジャンル(と言って良いのか?)である特撮の世界に影響が出ない訳がない。まずこの年の4月に東宝が劇場映画「宇宙からのメッセージ」を公開し、この作中の映像を再利用する形で7月からテレビで連続ドラマ「宇宙からのメッセージ 銀河大戦」が放映された。さすがに劇場映画から持ってきただけあって、特撮シーンは金がかかっているな、と思わせた。それだけ。虫けらはすぐに見なくなった。
いや、面白かったという人もいるのだろう。だが当時の虫けらにはもう生理的に無理だった。上記のように金がかかっていることは感じられた。しかし面白い物を創るためには金が必要だが、金さえかければ面白い物が創れる訳ではない。沢山の資料を揃えて高価なPCを買いさえすれば必ず面白い小説が書けるなら、誰も苦労などしないのだ。
映画館で宇宙からのメッセージが公開されているとき、テレビでは日本特撮界の雄である円谷プロが制作したSFドラマ「スターウルフ」が放映されていた。これはかなり期待して観ていた。何せ映像がこなれていると言うか、やはり見せ方が非常に上手かったのだ。
そして何より主題歌。作詞:林春生、作曲:森田公一、歌唱:ヒデ夕樹の「青春の旅立ち」は凄い。素晴らしい。「果てしない宇宙には誰も知らない道がある」という歌詞は人生訓として胸に刻まれている。この歌はもう、「ザ・ヒデ夕樹」である。子門真人氏でもささきいさお氏でも水木一郎氏でも違うのだ。ヒデ夕樹氏でなくてはこの味は出せまい。本当にいい曲だと思う。
当時の日本としては最高レベルの特撮映像と、最高の主題歌を揃えた期待のスターウルフだったが、やがて熱も冷める。内容がなかったからな。まあ、そんなこと言い出したら本家のスター・ウォーズだってたいした内容はないのだが、それでも、もうちょっと何とかできたろう。「高重力下で生まれ育ったウルフ星人は地球人より身体能力が高い」という設定を全然活かせていなかったのは子供だって気付く。
余談だが、後に漫画「ドラゴンボール」(1984年)で高重力下トレーニングによって短期間で体を鍛えるシーンが出てきた。このアイデアがスターウルフから来たものなのかどうかは知らない。世代的に鳥山明氏が観ていても不思議はないのだがな。
この年は当時の人気アイドル大場久美子氏主演の「コメットさん」も放映され、円谷プロ作品でもないのにウルトラセブンが登場したことが話題となった。また、一部で「ダーマ」としてコアな人気を誇る東映版「スパイダーマン」も1978年だ。他に「透明ドリちゃん」「UFO大戦争 戦え!レッドタイガー」「恐竜戦隊コセイドン」「ふしぎ犬トントン」が放送されていた。
一方、アニメは22本の連続シリーズが新番組として放送された他、単発の長時間アニメ(いわゆるテレフィーチャー)として「大雪山の勇者 牙王」「町一番のけちんぼう」「100万年地球の旅 バンダーブック」の3本が放送された。
牙王は戸川幸夫氏の「牙王物語」を原作とする作品で、簡単に言えば犬がクマと戦う物語である。どっかで聞いたような話だが、まあアレの源流と考えて良かろう。町一番のけちんぼうはチャールズ・ディケンズの「クリスマス・キャロル」が原作、バンダーブックは24時間テレビ内で放送された最初の手塚アニメである。
この年、アニメ界は松本零士ブームを迎えていた。上記の通り映画館ではさらば宇宙戦艦ヤマトが公開され、テレビでは「宇宙戦艦ヤマト2」が放映された。これもまた劇場版からカットを流用しており、映像的には初代ヤマトとは隔世の感がある。映画とは違うラストに文句を言う視聴者もあったものの、これはこれで良かったという声も少なからずあった。もっとも、この作品のおかげでヤマトシリーズはこの先延々と続くことになった訳だが。
「宇宙海賊キャプテンハーロック」「銀河鉄道999」「SF西遊記 スタージンガー」が始まったのもこの年である。虫けら的には、この最初のテレビシリーズのハーロックが一番格好良い。後の映画などに出て来たハーロックは、微妙に違う気がする。まあ、原体験が一番インパクトが強いのは当たり前なのだが。
999はもうそろそろリメイクしてもいいのではないか。もちろん時代が違うので当時のまんまをテレビで放送するのは無理だろうが、エッセンスを抽出するなら可能なのでは。「蛍の街」や「雪の都の鬼子母神」、「ミーくんの命の館」、「永久戦斗実験室」、「透明海のアルテミス」などなど。現代人でも胸に来るエピソードがいくつもあるだろう。「なまけものの鏡」とか「17億6500万人のくれくれ星」とか強烈だぞ。ヤマトはリメイクできたのである、999もできそうなのだがな。これだけのコンテンツを埋もれさせておくなんてもったいないと思う次第。
スタージンガーはあまり印象にないな。オーロラ姫はメーテルをアッサリ描いたようなキャラである。別にメーテルがくどいと言っている訳ではない。
松本アニメ以外だと、水島新司氏にも風が吹いたのがこの年。「野球狂の詩」と「一球さん」(一休さんではない)が始まっている。野球狂の詩は午後8時からの1時間アニメだった。何かイロイロと凄いことになってたんだろうな裏側は、と思ったりするところ。
NHKで「未来少年コナン」が始まったが、これまた本放送では観ていない。この当時、まだ虫けらの頭には「宮崎駿」という名前がインプットされていなかった。いまから思えば惜しいことをしたものだ。NHKと言えば、「キャプテン・フューチャー」もこの年である。
テレビアニメがそれだけ歴史を積んできたことの表れだろう、ヤマト2だけではなく、「科学忍者隊ガッチャマンⅡ」「新・エースをねらえ!」といった続編やリメイクが当たり前となってきたのもこの頃から。しかしガッチャマンⅡはイマイチ評判が良くなかった。ゴッドフェニックスのデザインがな。何であんなゴチャゴチャしたデザインにしたのだろう。初代のゴッドフェニックスがゲスト登場したときに盛り上がったのは皮肉というか何と言うか。
日曜午後7時半の名作劇場は「ペリーヌ物語」。名作劇場と間違われることが多い冒険アニメの傑作「宝島」が日曜午後6時半から始まったのもこの年である。
巨大ロボットアニメはこの年3本、上記のダイケンゴーと「闘将ダイモス」、「無敵鋼人ダイターン3」。ダイモスは正直、「いま空手なの?」とビックリした記憶がある。アニメ「空手バカ一代」(1973年)からも、ブルース・リーの「燃えよドラゴン」(日本公開は1973年)からも時間が経っているしな。だが空手バカ一代の実写映画が1977年に公開されているし、ジャッキー・チェンの「酔拳」から第2次カンフーブームが起きるのが翌年1979年である。見立ては悪くなかったのかも知れない。人気が出たかどうかは別として。
ダイターン3は本放送では観ていない。特に何が気に入らなかったという印象もないのだけれど。再放送では普通に観ているし。ダイケンゴーは堀江美都子氏の声優デビュー作である。それだけ知っていれば十分だろう。
あと有名だがまったく観ていない作品としては「はいからさんが通る」「魔女っ子チックル」がある。アニメそのものはまったく有名ではないが、「ピンク・レディー物語 栄光の天使たち」というのもあったようだ。キャンディーズをモデルにした「スーキャット」(1980年)よりピンク・レディーの方が早かったのか。調べてみたらサウスポー、モンスター、透明人間、カメレオン・アーミーの時期だな。年がら年中、街中のそこら中からピンク・レディーの歌が聞こえていた時代である。
アニメはあと何本かあるのだが、名前すら記憶にないので割愛。
この時代、まだアニメは子供向けの映像作品だったが、それでも「子供番組のうちの1ジャンル」ではなくなりつつあった。アニメ(当時はまだアニメという呼称は一般的ではなかったが)番組をテレビで放送することで、ある程度確実に視聴率が見込めるようになっていたのだ。そして翌年、またアニメの世界に大きな波が起こる。
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