第46話 フレイム夫妻の事件の真相①
「アスミがメモを渡した時には紙がボロボロだった。それも水で濡れたように。お盆から取った時以来、誰一人触ってないことは本人が証言したわ。アスミ以外に濡れた手で触った人はいない。彼女は何らかの理由で手を濡らし、それに気づかずメモを触ったのよ。メモがこれほど濡れているということは、かなり手が濡れていたということ。ワインを運んだ時には、全く手が濡れていなかった。メモを取ったのは、厨房でお盆を拭いている時。それなら、手が濡れたのは『大広間から厨房へ戻る間』ということになるわ。
毒が盛られたのは『厨房から大広間へ行く間』で、アスミの手が濡れたのは『大広間から厨房へ戻る間』よ。これを覚えておいて欲しいの」
エリリカの言葉に全員が頷く。両端がボロボロになったメモ。実物を目にしているから、状況をイメージしやすい。
エリリカは、静かにメモを机に戻した。次は、全員が見やすいように、右手を突き出して二を表す。
「確認しておきたいことが二つあるわ。これは毒が盛られたとされる時間、『厨房から大広間へ行く間』の話よ。
一つ目、アスミがワインを持ってきた時間は、パーティー開始から少しだけ遅れていた。言い換えれば、少ししか遅れていなかった。
二つ目、大広間の扉の両脇には花瓶が置いてある。
単刀直入に言うと、アスミの手が濡れた原因は花瓶が倒れたからなの。花瓶が棚の端にあったのか、紐か何かで引っ張ったのかは分からない。いくら大勢の使用人が慌ただしくしていたとしても、紐で引っ張ったらバレそうだわ。後者はないように思う。とにかく、アスミが通るだけで、花瓶が倒れるようにしなければならなかった。結果、アスミは花瓶を倒して盛大に水を零したのよ。この時、入口にはイレーナ大臣がいたわ。花瓶の水が彼女にかかったのね。アスミはお盆を棚に置いて、布を取りに行った。これで犯人の計画通り、ワインだけがその場に残されるという状況が生まれた。後は、気づかれないように毒を入れるだけ。
少しだけ遅れたっていうのは、布を取りに行ったからよ。イレーナ大臣が自分にかかった水を拭けるように、布を渡して大広間へ入っていったのね」
エリリカが説明を一段落させたところ、セルタ王子が間髪入れずに質問してきた。面白がったローラが、その後に続く。
「花瓶を倒したのに、割れる音がしなかったのは何故ですか」
「アスミさんは、どうして先に片付けをやらなかったんですか。それに、花瓶が倒れて水が零れたっていう証拠もなさそうですよね~」
セルタ王子が怒るような目つきでエリリカを見る。いつもはおどおどしているのに、珍しくはっきりと話していた。反対に、ローラは長い足をブラブラさせて、気の抜けた調子で話している。緊張感がまるで感じられない。
「花瓶が割れなかったのは、地面に落ちる前に受け止めたか、傾いて水が出るまでに留まったか。このどちらかです。
先に片付けをしなかったのは、ワインを運ばないとパーティーが始まらないからよ。自分のせいで、パーティーの開始が遅れないようにしてくれたのね。
自作自演できるから確実な証拠とは言えないけど、その場の写真は撮ってあるわ。花瓶が倒れたカーペット部分だけ、濡れて染みになっていた。それから、倒れた花瓶だけ明らかに水が減っていたわ。倒れた花瓶の花は、隣の花に比べて少し枯れていたってことも、根拠の一つよ」
「濡れた跡や水の量、花の枯れ具合で分かったんですね。なるほど~」
ローラは納得したようだが、セルタは納得しきれていないらしい。未だに目の前のエリリカを睨んでいる。それに気づいていながら、エリリカは全く気にした様子を見せない。
「イレーナ大臣に布を渡し、大広間に入ってからはワインを配る。アスミが慌てて出ていったのは、水を零したままにしていたから。その後は、零した水を拭き取り、すぐに厨房へ戻った。早くしないと、遅れた時間に何をしていたのか、コック長に聞かれるからよ。慌ててお盆を拭いたから、自分の手が濡れていることに気づかなかったのね。そして、その手でメモを触ってしまった。
アスミ、合ってる?」
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