第44話 決戦前夜のエリリカとアリア
城に戻った後は、明日に備えて各々仕事を終えることにした。「仕事を終えて事件も解決」とエリリカは張り切っている。
溜まっている仕事は山ほどある。それに、そろそろフレイム王国の次期大臣も決めなくてはならない。今まで話題にこそ上がっていないが、エリリカもアリアも考えていることだった。次期大臣が決まったら、すぐにでも引き継ぎができるよう、アリアは任命書の作成をしておく。
その他の作業も終えて、一日が終わった。後は明日に備えて寝るだけ。しかし、緊張からか、ベッドに入っても寝られなかった。仕方がないので、何か飲もうとベッドを出る。春先の肌寒さも城内にいれば関係ない。スリッパを履いて、のそのそと自分の部屋を出た。
アリアが厨房まで降りて行くと、グラスを持ったエリリカの姿があった。
「アリア、どうしてここに。ははぁ、さては寝られなかったな」
「ここにいる時点でエリリカ様も同じですわよね」
「バレたかぁ」
二人は顔を見合わせて吹き出す。緊張の糸が切れた。お互いがお互いに、厨房で会うとは思っていなかった。どれくらい笑っていたかは分からない。ひとしきり笑った後、やっとのことで落ち着く。アリアは、笑いすぎて目尻に溜まった涙を拭い取る。
エリリカは、小さく息を吐いて呼吸を整えた。
「はぁ。笑ったわ。アリアの前では強がっていても無駄ね。私も緊張して眠れないの。ほら見て。手が震えてる」
「大丈夫ですわよ」
アリアは両手でエリリカの右手を優しく包み込む。エリリカは体温が高い。アリアが彼女の手を温めることはできない。でも、励ますこと、隣で見守ることはできる。震えを止めることだって。
「エリリカ様は明日真実を暴くのでしょう。大勢の前で事件を解明するのに、今から怖がっていてどうするのです? あなた様なら大丈夫ですわ。きっと、私達を最善の道へと導いて下さいます。信じていますわ」
「任せない。どんな結末が待っていようとも、私は最後まで突き進んでみせる。アリアが隣にいてくれるなら、私は無敵よ。あなたに、アリアに、最高の結末を見せると約束する。どんな終わりになったとしても、私が選ぶ未来が最善策だと確信してる。私は間違えたりしない」
「うふふ。それでこそ、エリリカ様ですわ」
エリリカは力強い瞳をアリアに向ける。彼女の緑色の瞳には、迷いや不安は一切映っていない。瞳の奥では、強い意志を宿した炎が揺らめいている。ここに立っているのは、フレイム王国の王にして女王、エリリカ・フレイムなのだ。
エリリカは空いている左手を自分の頬に添える。
「それに、アリアから手を握ってくれるなんて。明日は台風かしら。嬉しいわ」
「へ。・・・・・・い、いえ、これは違いますわ」
アリアは大慌てで両手を離す。じわじわと自分の頬が熱くなるのを感じた。
「ふへへ。大丈夫。恋人としては当然よね」
「何が大丈夫なのか分かりませんわ。そもそも恋人じゃないですし、笑い方が気持ち悪いですわよ」
「そ、そこまで言うっ!? 明日は決戦の日なんだけど」
「頑張って下さいませ」
「投げやりだわ」
顔を見合わせて、先ほどよりも大きな声で笑い合った。笑いすぎて、アリアは呼吸が苦しくなる。最近は事件ばかりだったから、これほど笑ったのは久しぶりだ。アリアはエリリカの存在の大きさを改めて実感した。エリリカが隣にいるだけで、アリアは安心できる。感情一つが簡単に動かされる。
「そろそろ寝ましょうか」
「そうですわね」
エリリカが静かな声で囁く。アリアも囁くように返した。二人で階段を上り、三階で別れた。エリリカのお陰でやっと眠ることができる。アリアの体は緊張から解放されていた。ベッドの寝心地を感じることができる。
明日は事件の決着が着く。どのような結末になっても最後。エリリカが導き出した結論を、結果を、未来を、しっかり最後まで見届ける。それが、アリアの役割。その強い意志を胸に、アリアは深い眠りに落ちていった。
そして、大広間には集められた九人が揃っていた。これから、エリリカによって事件の真相が明かされる。
最後の一幕が上がるのだ。
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