第43話 配達人とイレーナ大臣宛ての手紙
いつも通り関所までゆっくり歩いて行く。この時間には珍しく、並んでいる者は一人もいなかった。エリリカ達は関所に待機している警備兵に声をかける。
「こんにちは。この手紙を出したいの。お願いしても良いかしら」
「ひっ、姫様っ!?」
警備兵は勢いよく立ち上がって、見事な角度の敬礼を見せた。急いで立ったせいで、机に足をぶつけたらしい。ゴンッという音が聴こえた。
「座って座って。はい、手紙をお願いね。それから一昨日の夜に手紙を配達した人って誰か分かる」
「はっ。後ろの休憩室で休んでおります」
「申し訳ないけど、その方呼んでもらっても良いかしら」
「かしこまりましたっ」
警備兵はエリリカから受け取った手紙を大事に持ち、後ろの休憩室まで走っていく。それから数十秒の後、警備兵が配達人を連れて、休憩室から飛び出してきた。しかし、配達人は体を傾けてゆっくり歩いてくる。建物の窓は小さいため、外からだと胸から下が見えない。
「お待たせ致しました。何か御用でしょうか」
「休憩中にごめんなさいね。聞きたいことがあるのよ。そこから出てきてもらっても良いかしら。辛いだろうから、焦らなくて大丈夫よ」
「え、姫様、どうしてそれを」
配達人は至極不思議そうに建物から出てくる。アリアは配達人が片側を傾けて歩く理由に気づいた。これなら納得。それと同時に、また、疑問が浮かぶ。何故エリリカは知っていたのだろうか、と。
「足、辛そうね。大丈夫? いつから怪我していたの」
包帯が巻かれた足を見て、エリリカは顔をしかめる。
「一週間ほど前です。今も右足を引きずっておりますが、配達はできますので、休まず続けております」
「そう、お大事にしてね。無理はしちゃダメよ。その足では配達に時間が掛かって大変でしょうし」
「ありがとうございます。お待たせして申し訳ありませんが、いつもより二、三十分遅れての配達となっております」
申し訳なさそうにする配達人に、エリリカは眩しい笑顔を向ける。
「いいえ、責めてる訳じゃないのよ。ゆっくり休んで。それで、聞きたいことはもう一つあるの。一昨日、アクア城に手紙を配達したのはあなたかしら」
エリリカの質問は核心に入っていく。アリアにも何となく理解できた。事件の推理をする上で、配達人が怪我をしていたことに気づいたのだ。しかし、配達人の怪我と事件の結びつきが分からない。
配達人が頷いたのを確認して、エリリカは話を進める。
「その中にイレーナ大臣宛ての手紙はあった?」
「送り主は記載されておりませんでしたが、イレーナ大臣宛ての手紙が一通ございました」
「ありがとう。聞きたいことは全て聞けたわ。くれぐれも無理はしないでね」
「ありがたいお言葉です。無理のない範囲で仕事に励みます」
警備兵と配達人に見送られて、関所を後にする。二人は、エリリカとアリアの姿が見えなくなるまで敬礼を崩さなかった。
今のやり取りを聞いても、アリアにはヒントらしき物が全く分からなかった。対照的に、エリリカの表情は晴れ晴れとしている。アリアは堪らずエリリカに質問した。
「さっきは何を確認されていたのですか」
「それもあし―」
「明日発表はなしですわよ」
「食い気味っ!?」
アリアが詰め寄るも、エリリカにはぐらかされてしまった。やはり、自分で解くか明日まで待つかの二択になる。一人になったら頑張ってみよう、とアリアは意気込んだ。
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