第35話 アスミの様子
城に戻ってからは、各々の仕事をこなして再集合することになった。もちろん、あの資料を見るためだ。二人が探し求めていた、「罪」に繋がる可能性のある資料。
アリアが二階の廊下を歩いていると、階段からローラが降りてきた。彼女はアリアを見つけ、最後の数段を飛び降りる。
「そろそろ上がりの時間ですか。それなら、一緒に大浴場へ行きません? あたしはもう上がったんで、今からお風呂に入って、ご飯を食べるところなんですよ」
「そうなの? 私もそろそろお風呂に入ろうかしら」
「え、え。今日は仕事終わったんですか」
断られると思っていたのか、珍しくローラが驚いている。最近のアリアはエリリカの捜査に付きっきりだった。なかなかローラと過ごす時間が取れていない。
アリアは申し訳なさそうに眉を下げる。
「まだ終わりではないわね。仕事や食事、お風呂を済ませたら、エリリカ様のお部屋に行く予定なの。これから捜査会議ってところかしらね」
「やっぱりお嬢様か~。まぁ、良いや。一緒にお風呂行きましょう! 入浴セット持ってくるの、待ってますね」
「分かったわ。すぐ取ってくるわね」
アリアも階段を上がり、自分の部屋から入浴セットを持ってくる。住み込みで働く使用人が少ないため、全員が一人部屋なのだ。部屋に入った時点でプライベート扱いとなるため、部屋にいる使用人に仕事を持ちかけることは禁止されている。住み込みで働いているため、仕事と休憩の区別がつきにくいからだ。朝や夜通いでくる使用人は、城での宿泊も可能になっている。裏庭の待機所は、二階以上に泊まれる部屋や大浴場などが完備されている。一階同様に快適な設備が整っている。
アリアはローラと合流して、大浴場に行った。彼女はアリアと話せることに大喜びしている。
「やっぱり、お城のお風呂って、大きくて温かくて最高ですね。一日の疲れがすっかり取れますよ」
「お風呂ではしゃいじゃ駄目よ。危ないわ」
「は~い」
ローラは左手を高々と挙げる。それからは、アリアの横に大人しく座り、肩までお湯に浸かっていた。
「この後アリアさんは、お嬢様と捜査に戻るんですよね。遊びたかったのに」
「ごめんなさいね。でも、解決する一歩手前にはいると思うの。解決したら遊べるわよ」
アリアはローラのことだって大切に思っている。ローラへフォローを入れると、お湯をバシャバシャさせて、飛び上がった。
「ほんとっ!? 約束も忘れてない?」
「もちろんよ。あなたが成人したら好きな所に連れて行くって話よね」
「楽しみです。私の願いを叶えて下さいね」
ローラは満面の笑みでアリアを見る。自分の指を折って、やりたいことを順番に数えていた。アリアはそれを保護者の気持ちで見守る。
厨房でご飯を受け取るのだが、空き状況を確認するため、先に食堂へ行くことにした。食堂では、執事長のトマス・ルートとメイドのアスミ・トナーが食事をしていた。二人とも仕事が終わったところらしい。
「私達もご一緒してよろしいでしょうか」
「もちろんですとも」
「は、はい」
アリアが声をかけると、トマスは優しく微笑んで箸を机に置いた。アスミは目を合わせないように返事をして、淡々とスプーンを動かしている。
トマスは気を遣ってか、二人のご飯を運ぼうと席を立った。
「お仕事は終わったのですから、運んで頂かなくても大丈夫ですわ。ローラ、ご飯を取りに行きましょう」
「はーい。トマスさんありがとうございます」
二人は厨房でご飯を受け取り、食堂へ戻ってきた。食堂へ入ると、入れ違いにアスミが出ていった。
「アスミさん、お食事終わったんですね。残念。久しぶりに話すチャンスだと思ったのに」
「きっと疲れているのよ。最近いろいろあったから。早く部屋でお休みになった方が良いわ。トマスさん、アスミは食堂に来てからあの調子でしたか」
「随分急いで食べていらっしゃいました。食堂へ来てから一言もお話していませんし、相当お疲れのようですね」
三人でアスミの心配をしていたが、折角の食事だからと楽しい話題に変えた。誰もが事件やフレイム王国の今後について、触れないように。
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