第33話 盗賊
☆
クレメからダイダルへと向かう道のりは深い森を抜ける必要があり、日中でも暗い森の中は先の見えないアンリとミドリの旅を表しているようで、どうしても二人は陰鬱な気持ちにならざるを得なかった。
ただ唯一の救いは、所々に水源があったり木の実が実っていたり動物がいたりと、食べ物には困らないということだった。
二人は足元や木の少し上の方を見て何か食べられそうなものが無いかを探しながら歩いていると、妙な音が聞こえてきた。
「ミドリ、何か聞こえないか?」
アンリは森の中から聞こえてくるこれまで聞こえてこなかった異質な音に耳を澄ませて足を止めた。
「言われてみれば何か聞こえるな。人の足音か?」
「確かに枯れ葉を踏むような足音がする。このリズムは動物ではないな。………でもかなり遠いぞ」
「試しに石でも投げてみるか」
ミドリは足元に落ちていた手の中に握れる程度の大きさの小石を手に取ると音のする方向へと投げた。
投げた石はころころと転がってそのまま地面に落ちたが、その方向から声が聞こえてきた。
「まずい、見つかったぞ!」
「どうする!」
「かまうな!行けッ!」
するとミドリが投げた石の近くから5人の男たちが勢いよく飛び出し、ミドリとアンリの前に立ちはだかった。
男たちの手にはサバイバルナイフのような刃物や、鉄の棒のようなものが握られていて、明らかに二人に対して敵意をむき出しにしている。
「アンリ!これはどういうことだ!」
「盗賊だ!街の外では盗賊がしばしば出るらしいっていうのは耳にしていたけれど、ほんとに出くわすとは……」
アンリは街で情報を集めていた時に近くで盗賊が出るという話を聞いていたことを思い出したが、まさか自分たちが遭遇するとは考えてもいなかったために今まで忘れていた。
「なんだって!?どうしたらいい」
「どうするもこうするも、最近の盗賊は過激で、襲われた行商人に死者がでているという話も聞く。まともに言葉が通じる相手とも思えない」
アンリとミドリは20メートル先の間から現れた男たちを前に動けずにいる。
「へっへっへ。何だよ、バレたかと思えば子供じゃねぇかよ。拍子抜けだぜ」
「ほんとだぜ、お頭ァ。どうします」
五人の男の中で真ん中を歩くひと際大きな斧をもった男が盗賊の頭らしい。他の男たちはニヤニヤとミドリとアンリを見ながら指示を仰いでいる。
ミドリとアンリは近寄ってくる男たちに対してじりじりと後ずさりをして距離を取った。
「おっと、逃げるんじゃないぞー?もし走って逃げたとしても捕まえるまでどこまでも追いかけてやるからな」
盗賊の頭は二人に対して釘を刺した。
「お前たちは何者だ!何が目的だ!」
アンリは男たちに向けて言い返した。
「何者だぁ?俺たちゃ盗賊だよ、盗賊。ガキでも盗賊くらい聞いたことあるだろう。盗賊に出会ったらまずどうするんだ?学校で習わなかったか?」
盗賊の頭は二人に向けて片方の口角を上げて気持ちの悪い笑みを浮かべながら近づいてくる。
そしてミドリよりも少し前に立っていたアンリの目の前に立ちはだかるともう一度言った。
「さぁ、どうするんだぁ?」
「さぁな、どうしたらいいんだ。真っ当な仕事の探し方でも教えてやればいいのか」
「ガキが舐めた口きいてると痛い目見るぞ。金だよ、金。少ないとはいえ全く持っていないなんてことはないだろう。早くした方がいいぜ」
盗賊の頭はアンリの返答に苛立ったのかアンリの胸ぐらを掴むとすごんだ。
想像以上に強い力で掴まれたアンリは流石に怯んだのか、奥歯を噛みしめながら腰につけていた金貨や銀貨を入れておくポーチに手を伸ばした。
「そうだ、分かればいいんだ。子供はおとなしく金を出せばいいんだ。そしたら痛い目には合わせねぇよ。俺は弱者をいたぶる趣味は無いんだ」
アンリが金の入ったポーチを取ると満足したように盗賊の頭は掴んでいた胸ぐらから手を放したが、ポーチを渡そうとするアンリの手をミドリが抑えた。
「そんな下衆野郎に金を渡す必要はねぇ」
「ミドリ…………」
アンリはミドリに手を押さえられて俯いていた顔をハッと上げた。
「なんだと、てめぇ。おい、コラ、ガキがでしゃばってんじゃねぇぞ」
盗賊の頭は今度はミドリに対して声を荒げた。今までは静かにすごんでいたが、今回は森に響き渡るほどの声だった。
「お前に渡す金は一銭もねぇって言ってんだよ。言葉通じねぇのか」
アンリは至近距離で吠えられて体をビクッとさせたが、ミドリは全く意に介さない様子である。
「どうやら本当に殺されたいみたいだな……いいだろう。貴様のようなガキが盗賊に逆らうとどうなるかをその身体に教えてやるッ!行けッお前ら!」
すると盗賊の頭は合図を出して自分は後ろに飛びのくと、それと同時に盗賊の頭の背後にいた手下の男たちが武器を振りかざしてミドリとアンリに襲い掛かってきた。
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