バイト☆ヒーロー
空本 青大
バイト☆ヒーロー
「金もねぇし、ヒーローすっか」
築50年を超えるボロアパートの一室でスマホを眺めながらぼやく。
俺の名前は
今年20歳を迎えた、夢と希望と絶縁状態の成人男子だ。
俺がいる世界には、”ヒーロー”と”怪物”と”怪人”の3つが存在している。
70年前、世界中で未曽有の大地震が起き、さらに上空より巨大隕石が飛来した。
この”ダブル・ディザスター”と呼ばれる災害は、
人類やあらゆる生物に大きな変化をもたらした。
主に野生の生物が異形化したものたちを”怪物”、
その怪物を使役する力を持った人間を”怪人”、
超人的な力を有した人達を”ヒーロー”と呼んだ。
”怪物”と”怪人”になったものは、思考や行動が破壊活動に傾倒する傾向がある。
そのためなにかと人類に牙をむいてくる。
怪物と怪人には重火器類の攻撃は一切効かず、通じるのはヒーローの攻撃のみ。
各国政府はこの危機に対し、世界中でヒーローを統括する組織を作り出した。
今現在では、国家レベルの業務に従事する『国家公務員ヒーロー』。
ヒーローや怪物関連の民間の企業に属する『サラリーマンヒーロー』。
組織に属さず活動する『自営業ヒーロー』
・・など今やヒーローは世間一般的な職業として認知されている。
正義のために使われるヒーローの力だが、結局危ない力であることは明白だ。
仕事でヒーローの力を使う以外は、国から支給される、力を抑えるブレスレットを装着することが義務付けられている。
こうしないと暴れて犯罪を犯す奴が後を絶たないからな。
というか付けないと普通に警察に捕まる。
結局この力はヒーローと名の付く職業につかないことには発揮できないのだ。
この俺もヒーローになるため日々切磋琢磨しているわけだが、
自分が目指してるのは『国家公務員ヒーロー』。
人気も収入もトップクラスで、
小学生のなりたい職業ランキングで10年連続1位である。
そしてなによりモテる。
だがかなり難易度の高い試験をくぐり抜けないとなれない。
実技もそうだが筆記試験もだいぶレベルが高い。
国家所属のヒーローになると、国内のみならず海外へも派遣されることがある。
しかも戦いながら避難誘導や、怪我人の対応、現場で使うヒーロー活動の補助機器の扱いなど、業務は多岐にわたる。
俺は昔から腕っぷしには自信があったが頭に関しては・・まあ・・うん・・。
18歳より試験は受験可能だが、2年連続落ちてしまった。
現在浪人生活も3年目に突入し、もう勉強が嫌で仕方ない。
俺の最大の敵は、怪物でも悪の組織でもなく・・筆記試験だった。
モチベーションが下がってきても、勉強の傍ら生活費も稼がなくてはならない。
金のために俺がいつもお世話になっているのが、
ヒーロー専用バイトアプリ『バイト☆ヒーロー』である。
ヒーローの力を持ったものに仕事を斡旋してくれるもので、巷では【バイロ】と呼ばれている。
怪人や怪物もピンキリで災害級にヤバいやつもいれば、クソ雑魚もいる。
俗にいう正社員組のヒーロー達は、国に危険指定されている怪物及び、怪人達によって組織された悪の秘密結社の壊滅に忙しい。
よって雑魚狩りは非正規雇用のヒーローに任されているのだ。
「今日はどんなものかな、っと」
俺はアプリを操作し、怪物討伐任務の欄を眺める。
怪物が現れるとこの欄に依頼が表示され、依頼画面をタップすると押した者の案件になる。(ちなみにいち早くタップした者が取れる早い者勝ち制度。)
『現在の怪物発生件数:0件』
「ハハッ、平和で何よりだな!俺の懐は絶賛ピンチ中なわけだが」
仰向けでスマホを眺めて30分後、スマホからピコン♪とSE音が流れる。
『2km先、
「うっし、きた!おらっ!」
急いで画面をタップすると、『この任務はすでに他の方が受注しました』と表示される。
「くっそう!はえーよ!!ずるいずるいずるぃい~~~~~」
取れなかった悔しさで駄々っ子のように手足をばたつかせる。
15分後―
再びスマホからSE音が流れ、画面に依頼が表示される。
『3km先、
「おらぁ!っしゃ!!取れた~~~~~~」
内容を確認する前に依頼が表示された瞬間、人差し指で連続でタップすることでようやくGETできた。
するとスマホ画面に今現在怪物が出現している場所が表示される。
『予定退治時間約30分』
一応目安ではあるが画面に書かれている時間内に倒すのが求められている。
俺は急いで愛用の赤ジャージに着替え、ママチャリで現場へと向かう。
12分後、指示通りの場所に到着すると河原の草むらでガサガサ動く影が見えた。
「あれは・・ゴーレム型か?」
土属性の怪物はゴーレム型と分類され、トップクラスの危険な奴は数十メートルサイズの巨岩怪物で破壊の限りを尽くす。
だが、今俺の目の前にいる奴はゴーレム型の中でも最弱の、スライムっぽい泥の怪物である。
こいつがやることはせいぜい花をむしりまくるだけなのだが、放っておくと公園や人様の花壇の花を摘みかねないので討伐対象になっている。
俺はアプリの【討伐開始】のボタンをタップする。
すると力を抑えるブレスレット機能が一時停止され、自分の能力が解放される。
力を使うときはアプリの運営と国が開発したAIによって監視されており、退治するときや有事の際以外で使うと、速攻でバレて警察のお世話になる。
ちなみに今この場所には俺と怪物しかいない。
なぜかというと町に住む一人一人に【危険探知機】が配られているからだ。
町中にはセンサーが張り巡らされ怪人や怪物を捕捉すると、半径200m以内にいる人間に探知機より警告が入る。
そして、避難する方向を指示される仕組みだ。
それと危険度が低いと緑色、中程度は黄色、危険度Maxは赤色のランプが点滅する。
俺は目視で人がいないことを確認すると拳を固く握り、怪物めがけて拳を振り下ろす。
「オラぁ!!!」
ドゴォ!という音とともに泥の怪物は蒸発するように四散した。
『討伐お疲れさまでした。報酬をお受け取りください』
ウキウキでスマホの画面を見ると、
『300円』
と金額が表示されていた。
虚無な気持ちに包まれた俺は晴れ渡る空を仰ぐ。
「誰に称賛されることもなく、低賃金で働く・・今の自分は果たしてヒーローなのか・・誰か教えてくれ・・」
不意に愚痴がこぼれてしまったその時、スマホからSE音が鳴る。
画面を見ると、
『2km先、
と表示されていた。
「擬態型めんどいけど、金のためだ・・」
意を決したように画面をタップした。
10分後目的地につくと公園の一角に猫の集団が見れた。
擬態型は自身以外の生き物に変身できる怪物である。
上位のものは人間に擬態できるが、低ランクの擬態型は小動物に限定される。
こいつらはネズミやらカラスやらの害獣と変わらない悪事しかやらないが、迷惑なことには変わらないので討伐対象になっている。
バイトが退治できるやつは猫の大きさぐらいのものまでだ。
「あの猫集団の中にいるんだろうけど、どうやって探すかな」
俺が思案していると一匹の猫が俺の存在に気づき猛然とこっちに向かってくる。
「げっ!やばい!!」
逃げようと思ったが相手の機動力に圧倒され、あっという間に腕を嚙まれる。
その様子に気づいた他の猫達も後に続き、俺の体を攻撃し始めた。
俺の体はヒーロー体質の弊害で、野生の生き物たちの気分を害する何かが出てるらしく、昔から襲われることが多かった。
「いたいたいたい!やめっ!あふぅ!的確に急所噛まないで!そ、そこは子孫繁栄できなくなっちゃうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
俺が壮絶な戦いを繰り広げていると、公園に一人の男子小学生が入り込んでくる。
「おいこら少年!あぶねぇから避難しろ!むしろ俺が助けてほしいけども!」
「すみません!ここに黒い猫いませんか?僕の友達なんです!」
俺は全身に嚙みついてる猫の姿を確認すると、右太ももと左太ももに一匹ずつ黒猫が確認された。
「ここにいるけどどうした?今怪物退治で忙しいんだが?」
「その子とここでずっと遊んでたんだけど、家で飼いたいなぁと思ってパパとママにお願いしたらいいよって言ってくれたから迎えに来たんです」
なるほどと納得した俺は今現在の事情を話した。
この猫達の中に怪物が混じってるのでそれを退治するまで渡せないと告げる。
「お兄さんヒーローなんですね。それはそうと大丈夫ですか?」
「ではないな。その黒猫をまず確保したいから、呼びかけてくれ!」
「は、はい!クロ~クロ~!」
しかし猫達は一切反応せず俺への攻撃を続けた。
「だめか!」
「クロ~クロ~」
少年が何回も一向に見つける気配がないまま数分。
もうだめかと思ったその時―
「にゃ~ん♪」
「あ!クロ!」
少年の後ろから一匹の黒猫が少年の足にすり寄ってきた。
「お兄さんいました!」
「こっちにおらんかったのかい!」
そこであることに気づいた俺は少年に勢いよく訊ねた。
「そいつの体の特徴あったら教えてくれ!」
「えっと、額に十字の傷があります!」
俺は右の太ももに噛みつく猫の顔を確認すると、額に十字の傷を見つける。
「おまえかぁ!おらぁ」
討伐を完了した俺は猫を嬉しそうに抱える少年を見送る。
「ヒーローのお兄さんありがとう!これからもがんばってね~」
バイトとはいえヒーローやってて久しぶりに言われた感謝。
気持ちが少しだけ上向けになった俺は家へと向かった。
「さて、勉強しますか」
バイトから本物のヒーローを目指して―—
バイト☆ヒーロー 空本 青大 @Soramoto_Aohiro
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