過去と影絵とサイコさん 5

 サイコさんとの会談から、三日後。

 僕は久しぶりに登校したレンズと、夕暮れ時の公園で落ち合った。

 いつも通り、ブランコに座ってゆらゆらと揺れていたレンズは、僕の姿を認めるとさっと立ち上がった。なぜか妙に不機嫌な顔で、こちらに駆け寄ってくる。

「どうした」

「聞いたよ」

「なにを?」

「あ、とぼけるんだ。ふーん」

「……なにが?」

 とぼけている訳ではなく、本当に、心の底からレンズの不機嫌の理由がわからない。どうやら僕に原因があるらしいのはわかるが、心当たりがない。なにか悪いことを──いや、悪いこと自体はしたことがあるのだが、レンズを不機嫌にするようなことはしていない。

 困惑する僕を、レンズは上目遣いに睨んだ。

「先輩から、お手紙貰ったんだって?」

「……ああ、それ」

 すっかり終わった話の気でいたので、反応が遅れた。

「なんだったのかなぁ。ラブレター?」

「そんないいものじゃない」

「じゃあ、なに?」

「……もしかして、僕が手紙貰ったときの状況は聞いてないの」

 あの異様な雰囲気で渡された手紙に対して、ラブレターかな? などと思える人間は、とんでもなく呑気な性格の持ち主だけだろう。

「状況?」

「ああ、やっぱり……」

「どういう状況だったの?」

 僕はかいつまんで、当時の様子をレンズに話して聞かせた。口頭の説明でどれだけあのときの空気感が伝わるかは不安だったが、レンズはだいたい理解してくれたようだった。

「なに、それ。なんか変だね」

 一通り話し終えた時には、レンズは眉を下げ、不安そうな顔になっていた。

「手紙の内容は? どんなだったの?」

「知らない住所と、あと日付と時間」

「なにその手紙……なんか、気持ち悪いね」

「ああ。だから、無視したよ」

 僕は嘘を吐いた。本当のことを言ったら、なにもかもレンズに話さなくてはならなくなる。そんなことをするつもりは欠片もない。──特に、神隠しと影絵のことは。

「あれっきりなにも言ってこないし、気にしなくていいよ」

「うん……」

 なおも不安そうなレンズを促して、帰路につく。

 帰り道は、燃えるような朱色に染まっている。空も、街並みも、朱一色だ。影は黒々と濃く、くっきりとしている。

 そんな日だからだろうか。

 隣を歩くレンズの身体が、二重写しになる。そしてぶれるようにして、レンズの身体から影絵のレンズが姿を見せる。真っ黒な、レンズの形を写し取った影絵の少女。髪を揺らし、スカートの裾をひるがえして、レンズを追い越していく。軽やかな足取りで、僕らの前を歩いて行く。

 影絵のレンズ。

 彼女は生まれつき、レンズと共にいたわけではない。

 ある出来事をきっかけとして、レンズの隣に姿を見せるようになった。

 ──神隠しをきっかけに。

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