13.兄上が修行させてくれるらしい1
ルークはその日も山へと出かけて、クエストをこなしていた。
適度に攻撃を受けて経験値を稼ぎながら、モンスターを討伐していく。
そして、正午を少し過ぎたころ、持ってきたポーションが底を尽きたので、帰路についた。
だが、山を下りてきたルークの前に、よく見知った男が立ちふさがる。
「……ルード?」
ルークの前に現れた男、ルード・スプリングスティーン。
ルークの腹違いの兄。
そして数日前にルークを、森に置き去りにした男であった。
ルークは、ルードと再会した時に、絶対に言わなければいけないことがあった。
「兄上、こないだはありがとう。おかげでスキルに目覚めました」
――そう。お礼である。
ルークは、ルードによって高レベルモンスターがいる森奥に置き去りにされた。
普通に考えれば、ルードのそれは万死に値する行為であった。
だが、ルークは、兄が弟を殺すようなことをするはずがないと考えていた。
そして事実として、ルークはあの出来事があったからこそスキルに目覚めることができた。だからルークは、兄の行動は、全てを見越してのことだと思っていた。
ルードのことを、家族だと思っているルークにとっては、それはつじつまの合う話なのであった。
だからこそ、お礼の言葉ができた。
が、その言葉を聞いてルードは困惑する。
「スキルを身に着けたのか……?」
兄の言葉は、即ち彼が外れスキルの持ち主ではなかった可能性を示唆する。
それが事実ならルードにとって極めて都合が悪いことだった。
もしルークが優秀だとなれば、ルードは途端にスプリングスティーン家の跡取りではなくなってしまうだろう。
だから、それはあってはいけないことだ。
「……そうか。スキルを手に入れたのか。よかったな」
ルードはひきつった笑みを浮かべながら答える。
ルードにとって、ルークがスキルを得たという話も驚きだったが、もう一つおかしいと思ったのはその態度だった。
森に置き去りにした自分に、まさかお礼を言ってくるとは思いもしなかったのである。
(いや、あいつが気にしてないならそれでいい……。それより今はあいつがどれくらい強くなったのかが大事だ)
ルードは考える。そして名案を思いついた。
「なぁ、ルーク。<聖騎士>の俺が、修行を付けてやるよ!」
そう。修行と称して、ルークをめった打ちにする。
その中で、スキルが大した事なさそうであれば、それでよし。
もしスキルがそれなりに強そうであれば、その時は殺す直前まで追い込んで、二度と戦えない体にしてしまう。
(仮にルークが強くなっていたとしても、最強のクラスである<聖騎士>に勝てるほどではないはずだ。なら、今のうちに芽を摘んでおく)
それがルードの作戦であった。
それに対して、ルークは、
「いいの?」
無邪気にそう答えたのだった。
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