14.兄上が修行させてくれるらしい2

「<聖騎士>の俺が、修行を付けてやるよ!」


「いいんですか?」


 ルードの提案に、ルークは素直に喜んだ。


<聖騎士>は低レベルのうちから上級冒険者並の力があるクラスだ。


 そんな最強クラスを持つルードと戦えることは、ルークにとって良い経験になる。


 そもそも対人戦自体があまりないことなので、ルークとしては願ってもない機会だった。


(聖騎士の攻撃はどれくらい気持ち……いや、強いんだろう……)


 ルークは聖騎士の強さに期待を寄せる。


「じゃぁ、いくぞ」


 ルードの言葉で修行、という名の戦いが始まった。


「<神聖強化>!」


 ルードが聖騎士のスキルを発動させる。


<神聖強化>は、聖騎士のユニークスキルで、自身の身体に強力な結界をまとわせる。これは防御力が上昇するだけでなく、身体能力を極限まで高めて攻撃力を高める効果もある。


 攻めにも守りにも効く強力なスキルだ。


「ハッ!!」


 ルードが剣で斬りかかる。その攻撃をルークは正面から受け止めた。


「うッ!!」


 ルークはルードの剣をまともに受けたことでそのまま背後に吹き飛ばされた。


 やはり、聖騎士の攻撃力は圧倒的であった。


(強いッ!)


 ルークは立ち上がり、剣を構える。


 だが、そこにルードはさらに畳みかける。


「<爆裂剣>!!」


 ルードが攻撃スキルを発動する。火炎系上位剣技<爆裂剣>は強い剣士が好んで使う攻撃スキルだ。


 その威力は元より強力だが、ルードの場合は<神聖強化>でそもそもの攻撃力が底上げされている。従って、彼の<爆裂剣>は並の人間では到底太刀打ちできないほど強力な技に仕上がっていた。


 ルークは剣で攻撃を受け止めるが、剣からほとばしる火炎に身を焼かれる。


「――――ッ!!」


 一気に結界(ライフ)が削られ、強烈な痛みがやってくる。


 その一撃で、ルークの結界は半分以下まで落ち込んだ。


 だが、それにより<闘争本能>が発動。一気に身体能力が高まっていく。そしてその力で、ルークは火炎から逃れるように跳躍して後方に逃れる。


「なんだ、大したことないな」


 ルードが鼻で笑う。


「兄上、さすがですね」


 ルークは兄の戦闘能力を素直に褒める。


 基本的な力を伸ばす<神聖強化>。


 そして、高い攻撃性能を持つ<爆裂剣>。


 この2つだけで、他者を圧倒する力をルードは兼ね備えていた。


(さすがは聖騎士!)


 だが、感心している暇はなかった。


「オラオラ!!」


 ルードは畳みかけるように剣戟を繰り出す。


「<爆裂剣>!」


 さらに繰り出されるスキルに、ルークはひたすら耐え続ける。


 <闘争本能>によりステータスが上昇しているので、そう簡単にはやられないが、しかし着実に結界を削られていく。


 そして、その中で違和感を感じる。


(……修行って、こんな気持ち……いや、危なくていいのかな?)


 ルークの頭にふとそんな疑問が浮かぶ。


 ルードはこれは「修行」だと言う。


 しかし、既にルークの結界(ライフ)は1/3以下になっている。


 これ以上攻撃を受ければ、命の危険がある。


 だと言うのに、ルードは攻撃の手を緩めない。


「オラオラ! どうした!」


 そこにはためらいはまったく感じられなかった。


(まさか……本気で僕を殺そうとしてる……?)


 ルードの放つ殺気が、ルークにそんな疑念をもたらした。


 ルークの本能は「殺される」と感じている。


 そして考えてみれば、ルークは自分が恨まれていてもおかしくはないと思い至る。


 今まで父ジャークは、ルークだけに期待し、ルードのことはまったく気にもかけていなかった。


 その恨みが知らないところで積みあがっていたとしてもおかしくはない。


 ――ルークの額に汗が浮かぶ。


「くらえ!!」


 ルードが再び<爆裂剣>を放つ。防戦一方のルークはそれをまともに食らい、吹き飛ばされる。


(……次食らったら、結界がなくなる……!)


 通常、人間同士の練習で、ここまで相手を追い詰めることはない。


 結界が半分を下回った時点で、戦いを止めるのが普通だ。


(やっぱり……本当に殺そうとしてる?)


 そのルークの疑問に答えるように、ルードは剣を振りかざした。


「<爆裂剣>!!」


 その圧倒的な火力に、再びルークは吹き飛ばされる。


 強烈な痛みがルークを襲う。


「――ッ!!!」


 地面に叩きつけられ、その痛みも襲ってくる。


 ルークはルードを迎撃するために起き上がろうとするが、しかしすぐには反応できなかった。


「兄上……」


 ルークは兄を制止しようとする。


 だが、その声はルードには届かない。


(本当に殺されるッ!!)


 もはやルークを守るものは何一つない。


 極限まで追い詰められたルーク。


 ――――だが、だからこそ。


『スキル<危機獲得>が発動しました』


 “危機的状況”で発動するスキル、<危機獲得>。


 そのスキルの発動を女神が告げた。


『スキル<神聖強化>を獲得しました』


『スキル<爆裂剣>を獲得しました』




◇◇◇ルーク・スプリングスティーンの所持スキル


<苦難>

<闘争本能>

<身体学習>

<危機獲得>

<ドラゴンブレス>

<神聖強化> ← new!

<爆裂剣> ← new!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る