12.【side】ルークが活躍しているだと?


 <聖騎士>を授かったルード・スプリングスティーン。

 ルークの腹違いの兄に過ぎなかった彼は、今やスプリングスティーン家の次期当主であった。


「おい、お前ら! 酒と肉が足らん。早く用意しろ」


 メイドを怒鳴りつけ、料理を運ばせる。


 <聖騎士>になった彼は、特に修行をするでもクエストを受けるわけでもなく、館で怠惰に過ごしていた。


 <聖騎士>は数あるクラスの中でも圧倒的な力を持つ。

 その強さは、初日に確認済だった。

 それゆえ、ルードはこれ以上努力をする必要をまったく感じていなかった。


「大変遅くなりました!」


 料理を運んできたメイドは謝りながらそう言った。

 そのメイドは元々ルークの使用人であったが、ルークが追い出された今、ルードに仕えている。


「ったく、もっと気を利かせろよな。もういい、下がれ」


 ルードはメイドを部屋から追い出す。

 そんなメイドの後ろ姿を見て、ルードはかつて彼女が仕えていた弟のことを思い出す。


「ルークの野郎、天国で楽しくやってるかな」


 クラスを授かったあの日。

 ルードは何のスキルも持たない弟を、高ランクモンスターがうじゃうじゃいる森に置き去りにした。当然生きて帰れるはずもない。今頃トロールかオークのエサになっているはずであった。


 ルードは骨だけになっている弟を想像して、ニヤリと笑った。

 だが、そんな妄想は長くは続かなかった。


 部屋に父親であるジャーク・スプリングスティーンがやってくる。


「父上、どうかされましたか?」


 それまでの態度とは打って変わって、こびへつらいの声色で尋ねるルード。


 父ジャークは、不機嫌に言う。


「ルークが街で冒険者として活躍しているらしい」


「はい?」


 父の報告を聞いて、ルードは驚いて口を開けた。


「なんでもギルドでCランクのライセンスを取ったらしいぞ」


 ジャークは、その事実を知り合いから聞いて、気分を害していた。

 自分が無能と思って追い出したルークが、どうやらギルドで活躍していけるくらいの力はあるらしかったと分かれば、穏やかではいられないだろう。


 だが、それ以上驚いたのはルードだった。


(ルークは死んだはず)


 ルードはそう思い込んでいた。

 だが、確かに考えてみれば、実際に死ぬところを目にしたわけではなかった。


(誰かに助けてもらったのか……あるいは運よく、助かったのか……)


 だが、そのどちらでもないとしたら。

 それはルードにとって脅威であった。


 妾の子であるルードは、あくまでルークが「無能」だからこそ、スプリングスティーン家の跡取りになることができたのだ。

 その前提が崩れてしまうと、また「妾の子」に逆戻りすることになる。


「父上、なにかの間違いですよ。あいつは経験値が上がらない無能ですよ? モンスターと戦えるはずがありません」


「ああ……そうだな」


 父もそう相槌を打つが、しかし疑念は払しょくできないでいた。


「父上、私が確かめてきます。ルークが相変わらずポンコツだとすぐにわかりますよ」


 ルードが言うと、ジャークはうなずいた。


「そうだな。確かめてこい」


 

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