10.ドラゴンスレーヤー
ルークは炎が収まったのを見計らって、かつてドラゴンだったものの近くまで歩み寄った。
牙と頭蓋骨は溶けずに残っている。そしてその間に、キラリと光るものが見えた。
――フレイムドラゴンのコアとなっていた魔石。
他の魔物の魔石とは違い、圧倒的に粒が大きい。
赤く輝くそれは、一目見てドラゴンのものとわかる。
それを、神託を受けて2日のルークが持ち帰ったとなれば、ギルドは騒然となるだろう。
「……っていうか、<危機獲得>のスキルすごすぎるな……」
ルークは、レベルアップして得たスキルの効果に今さらながら驚く。
<ドラゴンブレス>は、魔法使いの中でも極めた者でないと覚えられない奥義級のスキルだ。
それを、レベル2で覚えてしまうとは、普通なら考えられない出来事だった。
「まぁ、死にかけたんだけど……」
スキルの説明にある通り、危機的状況でないとスキルを覚えられないとなると、かなり危なっかしい。
ただ、それでも高度なスキルを低レベルのうちから覚えられるのが破格であることに変わりはない。
「他の技も覚えられるか……試してみないとな」
それがルークの宿題だった。
「……さて、帰ろう」
もう手元にはポーションは残っていない。
この状況で、強力なモンスターと戦うことになったら危険だ。
それに結界(ライフ)だけでなく、魔力ももう残ってなかった。
<ドラゴンブレス>は強力なスキルだが、その分魔力を消耗する。
今のルークなら、一発撃つのが限界だった。
「<ドラゴンブレス>の打ちどころは考えないとな」
ルークは、強いモンスターとは会いませんようにと祈りながら、帰路につくのだった。
†
その後、強いモンスターに遭遇することもなく、ルークは無事街まで帰ってくることができた。
ギルドの受付で、モンスター討伐の証明である魔石を差し出す。
「こ、これは!?」
受付のお姉さんが再び目を丸くする。
「まさか、ドラゴンを倒したんですか!?」
「ええっと、はい。フレイムドラゴンを……」
ルークが答えると、お姉さんは唖然としてしばらく言葉を失っていた。
ドラゴンは中級の冒険者が束になってもなかなか勝てないほど強力なモンスターだ。
それを、神託を受けてから二日しか経っていない冒険者が倒したというのは前代未聞の出来事だった。
「あの……どうやって倒したんですか?」
お姉さんが恐る恐るという感じで質問をしてくる。
「ええっと……レベルアップして……」
ルークが説明しようと口を開くと、次の瞬間にはお姉さんが驚きの声を上げた。
「ええッ!? レベルアップ!?」
「ええレベル2になりました」
「たった二日で!?」
またしばらくお姉さんは言葉を失う。
そして、少ししてから息を吸い込んで、呟く。
「……本当に……もう何が起きているのか……」
「まぁ……僕も驚いてます」
ルークは本心からそう言った。
ルークはこれまでいろいろなことを学んできたが、二日でレベルアップしたり、レベル2で<ドラゴンブレス>を覚えたりと言った話は、聞いたことがなかった。
「……あの、もしかしてなんですけど……」
と、お姉さんが呟くように言う。
「もしかして……ルークさんは伝説の勇者様なんじゃ……」
――――勇者。
それは、千年に一度、世界が危機に陥ったときに現れるといわれる、強力な力を持った冒険者のことだ。
伝説によれば、圧倒的な力を持っており、世界を滅ぼさんとする<魔王>に対抗する力を持っていると言われている。
だが、あくまでそれは伝承に過ぎず、おとぎ話の世界だと思われていた。
<勇者>も<魔王>も、あくまで伝説上の存在。そう思われている。
けれど、ルークの強さは尋常ではない。
それこそ、伝説の存在なのではないかと思ってしまうほどに。
「……いや、まさか」
ルークは頭をかきながら否定した。
(僕が<勇者>なんて、さすがに……)
「……まぁ、それはそうですよね……でも、そうかなってくらい強いので」
お姉さんは笑いながら言った。
それからお姉さんは魔石と引き換えに、報酬を渡してくれる。
「リザードマン5体の討伐報酬が銀貨1枚。それからフレイムドラゴンの討伐報酬を含めて全部で金貨5枚になります」
ルークは莫大な報酬に目を丸くする。
貴族の家に生まれたルークだが、決して贅沢をして過ごしてきたわけではなかった。金貨を持ったことも実はなかった。
「ありがとうございます……!」
「ちなみに……強いモンスターと戦っているんですから、装備ももう少しちゃんとしたものを買った方がいいと思いますよ……?」
お姉さんが金貨と、ルークの装備を交互に見て言った。
ルークが身に着けているのは、平凡な剣一本と、麻の服に革袋だけであった。
とてもドラゴンと戦った人間とは思えない装備である。
「そうですね……このお金で買います」
「お強いのはわかりますが……鎧くらいはあったほうがよいと思いますよ」
お姉さんは優しく忠告する。
だが、
「いえ、防具は買わないです!」
ドMのルークはそう即答した。
「え、でも危険ですよ……」
「いや、痛いのが良い……じゃなかった、攻撃重視で行きたいので!」
お姉さんは言葉の意味がわからなかったが、とりあえずキラキラした目をしたルークにそれ以上何も言えなかった。
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