9.<危機獲得>


『スキル<危機獲得>を獲得しました』


 女神が告げたのは、またしても聞いたことのないスキル。

 だが、確認するとそのスキルの効果は破格のものだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


スキル : <危機獲得>

危機的状態で攻撃を受けると、そのスキルを獲得する。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「こ、これは!」


 一目見ただけで破格とわかるスキルの効果。

 だが、


(危機的状況ってどれくらいなんだろ……)


 その効果の範囲がルークにはわからなかった。

 それにダメージを受け過ぎて、死んでしまったら元も子もない。


「……今はとにかく、少しでもドラゴンにダメージを与えよう」


 ルークはひとまず、目の前のドラゴンと対峙する。「攻撃を受ける」という条件は、考えずとも自然と満たせるはずだからだ。


「よし!!」


 ルークはドラゴンに向きなおる。


 ドラゴンは間隔を開けないとドラゴンブレスを使えない。だから、今はドラゴンに攻撃するチャンスだ。


(しかも、レベルアップでステータスも上昇している!)


 今までよりさらに力がみなぎってくるのを感じた。今なら、ドラゴンと戦える気がしたのだ。

 ルークは地面を蹴って、ドラゴンの方へと駆け出した。


 ドラゴンは、そのしっぽを横なぎに振り回してきた。ルークはそれを跳躍して避ける。そしてそのままドラゴンの背中に剣を突き立てた。


「グルァアア!!」


 龍を守る硬い結界を前に剣先は阻まれるが、着実に削っていた。


 ドラゴンは身震いしてから翼をはばたかせた。飛んでルークを振るい落とす気だ。

 ルークは咄嗟にドラゴンの背中を蹴り上げ、地面に着地する。


 ドラゴンは再び後ろ足で踏みつけようと急降下してくる。


 だが、レベルアップしたルークは、先ほどよりも機敏な動きで後方に飛び去る。

 フレイムドラゴンの前足が、地面にめり込み、衝撃が地面を揺らす。


(当たれば一撃必殺。でも当たらなければ単なる隙(すき)!)


 ルークは着地したその衝撃を、反作用でそのまま跳躍に変えドラゴンへととびかかる。


 足が地面にめり込んだドラゴンは一瞬身動きが取れなくなった。

 無防備になった一瞬をルークは見逃さない。渾身の力を振り絞って、その胴体を斬りつける。


 装甲が弱いお腹はドラゴンにとって弱点だった。


「グァァァァァ!!」


 フレイムドラゴンは、それまでとは明らかに違う悲鳴とも聞こえる咆哮を上げた。


(ドラゴンとちゃんと戦えてる!)


 ルークは確かな手ごたえを感じていた。

 レベルアップによるステータスが上昇と、<闘争本能>による強化が相まって、ドラゴンとまともに戦えるようになったのだ。


 だが、実際に倒せるかどうかは別問題だ。


 圧倒的な攻撃力が注目されるドラゴンだが、実のところその真価は高い防御力にある。

 魔力を豊富に持っており、攻撃を与えてもなかなか致命傷にならないのだ。


 つまりドラゴンを倒すためには、ドラゴンのように強力な攻撃を浴びせる必要があるのだ。



(……どうする!)


 ルークは攻撃を重ねつつ、思考した。

 着実にダメージを与えてはいるが、このペースではドラゴンの厚い結界を削り切るにはまだまだ足りない。


 そして、時間が立てば、再びあの異常なまでに高火力なスキル<ドラゴンブレス>が発動してしまう。ポーションがあるので次はまだ耐えられるかもしれないが、その次はない。


(ジリ貧だけど……)


 そう自覚しながら、しかし他にどうすることでもできず、ひたすら剣を振るい続ける。

 だが、そうこうしているうちに、ドラゴンが大きく息を吸い込んだ。


「ッ――!!」


 その挙動は明らかにドラゴンブレス。

 ルークは全速力で後方に下がる。

 そして残っていた、岩の陰に隠れる。


 だが、例によって岩の脇から灼熱の炎がルークに襲い掛かる。


「――――痛いッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 結界が焼けていく。加速度的に大きくなる痛みに耐え、最後のポーションを使う。

 なんとかそれで首の皮一枚つなぐ。


 なんとか炎が止んだ頃には、背中の岩はほぼ解けかけていた。


 熱さから離れるように、さらに後方に飛びのく。

 身体が軽い。

 なぜか――ダメージを受けて結界がほとんど残っていないからだ。

 <闘争本能>は、危機に陥るほどステータスが強化される。

 そして、今がまさにその最高到達点。つまり、次に攻撃を受ければ、死ぬ。

 まさしく危機的な状況。


 ――――でも、そんな状況だからこそ。


『<危機獲得>の効果が発動しました』 


 と、突然ルークの脳裏に再び女神の声が響いた。

 それは、ルークが心の底から待ち望んでいたものだ。


「キタッ!!!!」


 危機的状態で攻撃を受けると、そのスキルを獲得する<危機獲得>。

 そのスキルが、<ドラゴンブレス>によって極限までダメージを受けた今まさに発動したのだ。


『――スキル<ドラゴンブレス>を獲得しました』


 本来ドラゴンか、攻撃魔法を極めた最高位の魔法使いにしか使えないスキル。

 奥義<ドラゴンブレス>。


「――これなら!!」


 ルークは再びドラゴンと対峙する。

 そして、剣を固く握りしめ、地面を強く蹴り上げる。


「グルゥァァァ!!!!!」


 ドラゴンはルークをその前足で踏みつけようと向かってきた。


 ――まさか、ルークが一撃必殺の奥義を身に着けたとは知らずに。


「<ドラゴンブレス>!!」


 ルークの剣にまばゆいばかりの炎が宿る。熱量をまき散らしながら、剣の軌跡が横なぎにフレイムドラゴンへと放たれた。

 一閃からとめどなくあふれ出した爆炎が、ドラゴンの巨体を包み込んだ。


「グルァア――――――――!!!!!!!!!!」


 その体は業火に焼かれ、そしてやがて悲鳴を出すことさえできなくなった。

 炎が止んだころには、巨体は焼けただれ、原型をとどめていなかった。


「……か、勝った……?」


 炭となって崩れ落ちていくフレイムドラゴンの身体を見て、ルークは現実を確かめるようにそう呟いたのだった。


 夢なのではないかと思ってしまうほどの出来事だが、事実だった。

 その証拠に、いまだ体には業火に焼かれた痛みが残っていた。





◇◇◇ルーク・スプリングスティーンの所持スキル


<苦難>


<闘争本能>


<身体学習>


<危機獲得>


<ドラゴンブレス> ← new!

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