8.レベルアップ


 それから二時間ほどで、ルークはリザードマン10体を倒した。


 クエストの要請は5体の討伐だったので既にクリアしていたが、まだまだ体力に余裕があったので、そのまま山間を進んでいくことにした。


 気が付くと、ルークは山のかなり奥深くまで来ていた。


「リザードマン、いないな……」


 30分ほど歩いたが、ルークはモンスターを一匹も見つけることができないでいた。それまでは順調に見つけていたので、どうしたものかと思案する。


 だが、次の瞬間、なぜリザードマンと遭遇しなくなったのか、その原因がわかった。


「グァアアアアアアアアアアアア!!!」


 突然、耳をつんざく轟音。


 荒々しい風によって土煙が舞い上がる。


 ルークが音のした頭上に目をやると――――そこには翼を広げたドラゴンが舞っていた。


「でたぁッ――!!」


 赤色の体をしたフレイムドラゴン。

 強者(つわもの)の冒険者パーティでもそう簡単には倒せない最強クラスのモンスターだ。


「……遭遇したら逃げろって言われたけど」


 ルークの頭の中に、一瞬ギルドのお姉さんの言葉がよぎる。


 だけど。


「戦わない手はない!!」


 ルークは剣を引き抜き、ドラゴンと対峙した。


「かかってこい!!」


 次の瞬間、ドラゴンは頭上から急降下してきて、その後足でルークを押しつぶそうとしてきた。


 ――一瞬、その攻撃を受けたら、今までとは比べ物にならないほどの快感(いたみ)だと思ったルークだが、さすがに直撃したら致命傷だと理性が判断した。

 全速力の跳躍で、背後に飛び去り、攻撃を避ける。


 だが、ことはそう簡単にはいかなかった。


 ドラゴンの巨体が急降下したことにより起きた風と、前足が吹き飛ばした地面の土が合わさってルークに襲いかかった。

 ルークは空中で姿勢を崩し、勢いよく吹き飛ばされる。

 そして近くの岩に叩きつけられる。


「うッ!!」


 結界が半分以下になっていたので、ちょっとしたダメージでもかなりの痛みを感じる。


 だが、それだけでは済まない。


 そこに追い打ちをかけるように、ドラゴンが口から炎を飛ばしてきたのだ。

 姿勢を崩していたルークはもろに攻撃を受けて、さらに大きく後ろに吹き飛ばされた。


「グァァ!」


 どうだ、とばかりにドラゴンが吠えた。


 ルークの結界(ライフ)は、もう紙同然にまで削られていた。

 次に攻撃を受けたら、間違いなく死ぬ。


「――ッ!!」


 ルークは近くの岩場に隠れ、腰の革袋からポーションを取り出す。即効性のある高級品を惜しげもなく使用する。


(さすがにドラゴンは強い……!!」


 なんとか一撃を耐えきれるまで結界を回復させる。


 それから、どうやってドラゴンを倒そうかと思案を巡らせる。

 だが、ドラゴンは攻撃の手を緩めない。


 次の瞬間、空気が吸い込まれる音がした。


 ルークは直観で身の危険を感じたが、次の瞬間には轟音とともにルークが隠れていた岩場が炎に包まれていた。


(ドラゴンブレス!!)


 ドラゴンの切り札、ドラゴンブレス。


 あたりは灼熱の業火に包まれた。


 岩のおかげで炎が直撃することこそなかったが、炎はルークのところまで確かに回ってきた。

 周囲の地面ごと高温にあぶられる。

 鈍い痛みとともに、結界がみるみる削られる。


 文字通り火事場の馬鹿力でルークは決死の跳躍を試みる。

 そうしてなんとか炎から逃れた。


「死ぬぅぅぅう!!!!!」


 そう叫ぶが、しかしかろうじて生きていた。

 背後を見ると、隠れていた岩は解け落ちていた。


「グァァァ!!」


 フレイムドラゴンは身を隠していたルークを見つけるや咆哮した。


「ヤバすぎるって!」


 遠距離でも炎の攻撃に焼かれる。

 かといって近距離でも圧倒的な体重から来る攻撃も一撃必殺だ。

 こうなると万事休すだった。


(さすがに逃げるしかないか)

 

 ――――だが。

 次の瞬間、脳裏に予想外の言葉が響く。


『――――経験値が一定に達しました。レベルアップしました』


「レベルアップ!?」


 先ほどのドラゴンブレス攻撃を受けてレベルが上がったのだ。


 今日のそれまでの戦闘で分かっていたことだが、<身体学習>で得られる経験値はピンチの時ほど大きくなる。

 ドラゴンブレスを受けたときは文字通り死にかけたので、それだけ獲得できる経験値も大きかったのだ。


 そして、大事なのはレベルアップによる特典――――


『スキル<危機獲得>を獲得しました』


 女神が告げたのは、またしても聞いたことのないスキル。


 だが、確認するとそのスキルの効果は破格のものだった。

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