4.ドM力覚醒


 ルークは来た道をゆっくり戻っていく。

 モンスターたちの注意を引かないように、なるべく音を立てずに歩いていった。


 だが、そんな風にしていても、モンスターがうじゃうじゃする森ではあまり効果がない。

 ものの十分ほどしたところで、とうとうルークはモンスターに遭遇してしまう。


「トロール!」


 先ほど兄が瞬殺した敵。


 だが、トロールは“森のボス”と呼ばれるほど強力なモンスターだ。

 レベル1・経験値ゼロの人間が単独で挑んで倒せるような相手ではない。


 だが逃げようにも、今のルークのステータスでは簡単に追いつかれてしまう。

 愚鈍なイメージのあるトロールだが、それは手練れの冒険者に比べて、という話だ。

 クラスを得たばかりのルークとトロールでかけっこをしたら、間違いなくトロールが勝つ。


「……倒すしかない!」


 ルークは剣を構えて、トロールを見据える。


「グォオォォ!!!」


 トロールが雄叫びを上げる。

 そしてルーク目掛けてこん棒を横なぎに振りかざしてきた。


 ルークは絶妙にタイミングを計り、バックステップでそれを躱す。そして、こん棒が空回りした次の瞬間、地面を蹴って、逆にトロールに一閃を浴びせた。


 だが、先ほどと同様、大したダメージは与えられない。

 それどころか、トロールを逆上させただけだった。


「グォォ!!」


 こん棒のリーチの内側に入ってきたルークを、トロールはそのまま右足で蹴りつける。


「うッ!!!」


 ルークは衝撃を受けて吹き飛ばされた。


 攻撃が当たった瞬間だけは何も感じなかった。

 だがすぐその後、半分近く結界をえぐられたことによって痛みがやってきた。


 ルークは初めてモンスターからまともに攻撃を受けた。

 つまり、それは初めての痛みでもあった。


 結界が半分近くなると、かなり痛みも出てくる。

 慣れていない冒険者なら、泣き叫んでしまうだろう。


 だが――。


(き、気持ちいぃ!!!!)


 ルークはちょっと、いやだいぶ違った。


 痛みで苦しい。まともに息ができないほどだ。

 だが、それは心の奥底でルーク(ドM)が求めていたものだった


 次の瞬間、トロールが距離を詰めてきて、再び地面に転んでいたルークを蹴り上げた。


「ぐッ!!!!!!」


 それによって、ルークの結界が大きく削り取られた。

 極限まで減った結界に、もはや痛みを緩和する力はなかった。

 常人なら失神してもおかしくないほど強烈な痛みが、ルークを襲う。


 だが、それでもルークはその状況に悦びを感じていた。


「い、いいね」 


 ほとんど結界は残っておらず、少しでも攻撃を受ければ死ぬ。 

 そんな状況を、ルークは楽しんでいた。


 そして、だからこそか。


『結界が一定値を下回ったことで、スキルの獲得条件を満たしました』


 突然、ルークの脳裏に、女性の声が響いた。

 ルークにとって初めて聞く声だったが、それがなんなのか知識としては知っていた。


 新しいスキルを獲得すると、脳裏に響く女神の声。


『スキル<闘争本能>を獲得しました』


『スキル<身体学習>を獲得しました』


 なんとルークは同時に二つものスキルを獲得した。


 多くの本でスキルについて勉強してきたルークだったが、その2つのスキルはまったく知らないものだった。


 だから、頭をよぎるのは、<苦難>のように“外れスキル”なのではないかという疑念もあった。

 だが、それをすぐさま体が否定した。


(……なんか、力がみなぎってくる!?)


 それまでとは全然違う。ちょっと元気になったとかそういうレベルでないことはわかった。


 ルークは体内に魔力がみなぎっているのを確かに感じた。


「これなら!」


 ルークは、すかさず剣を持ち直し、トロールへと向かっていく。

 再び一閃。


 不意を突かれたトロールは、まともにその攻撃を受ける。

 そして次の瞬間、


「グァアア!!!」


 トロールは断末魔を上げて、そのまま倒れこんだ。


「い、一撃で倒した!?」


 ただの斬撃。

 別にスキルを使った攻撃でもない。

 それなのに、まるで上級スキルのような攻撃になった。


 ルークは自分でもその結果に唖然とした。


 <闘争本能>

 <身体学習>


 命が危険にさらされた中で得たこの2つのスキル。


「もしかしてすごいスキルなんじゃ……?」




◇◇◇ルーク・スプリングスティーンの所持スキル

<苦難>

このスキルを持つ者は討伐によって経験値を得ることができない。


<闘争本能> ← new!

??


<身体学習> ← new!

??

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