銀行強盗

くにすらのに

第1話

 ジリリリリリリリ!!!


 建物内に非常ベルが鳴り響く。

異常を察知してすぐに出口から走り去る者。

訓練だと思ってソファに腰掛けたままの者。

 銃を突き付けられ両手を挙げる者。

 その反応は様々だった。


「今すぐ金を詰めろ。今すぐだ! 警察が来る前に、早く!」


 ヘルメットを被った犯人が興奮気味に叫ぶ。

 声がこもっているが声質から察するに男性のようだ。


 銃を向けられた銀行員は足がすくんでしまっているのかその場から動かない。

 周りにいる職員も同様、ジリジリと犯人から距離を取るのが精一杯だった。


「ちくしょう! 100万でいいんだ! この中に100万持ってるやつはいねーのか!」


 犯人の問い掛けに一人の婦人が恐る恐る手を挙げた。


「あの、息子が会社のお金をあれしたみたいで。それで下ろしたお金なら」


「あ゛!? それ詐欺だろ。まあ、いい。よこせ」


「ひぃいい!!!」


 70代後半と思われる恰幅の良い婦人は現金の入った封筒を落とし、そのまま尻もちをついたまま後ずさる。

 犯人はお金にしか興味を持たない様子で封筒を拾い上げると人質を取ることなく銀行を後にした。




***




「素直にありがとうなんて言えないよ」


 特別に解放してもらった病院の屋上で一人の少女がつぶやいた。

 まだリハビリ途中で強風が吹いたら飛ばされてしまいそうな小さな体を祖母がそっと抱きしめる。


「本当にバカな息子だよ。正直に言えばお金くらい貸すのに……いや、可愛い孫のためだ、そのままくれてやったよ」


「おばあちゃんも素直じゃないもんね」


「ふんっ! あんなバカ息子、いなくなって清々する」


 言葉とは裏腹に祖母の目はじんわりと潤っていた。


「そういうこと言わないの。詐欺から守ってくれたんでしょ?」


「たまたまだよ。元はと言えば、あのバカ息子なら会社のお金を失くしそうなんて思わせるのが悪い。もっとちゃんとしてれば最初から騙されなかったよ」


「でも、おかげで私は生きていられる。被害に遭ったのはおばあちゃんだし、誰も被害に遭ってないようなものじゃない?」


「バカ言え。あやうく犯罪者の娘になるとこだったんだよ」


「うん。わかってる。世間的には強盗犯で、しかも法律的には最初からお父さんでもないって。それなのに必死に私が生きられる道を探してくれた。ものすごく不器用で素直じゃない。だから、お父さんとはもう呼ばない」


「それがいい。お前が成人するまではしっかり面倒見るから。こう見えて若い時はものすごく働いたからね。貯金もあるし年金だって結構貰ってるんだよ」


「うん。だからね。ヒーローって呼ぶことにする」


 祖母は孫娘の発言に開いた口が塞がらなかった。

 犯罪者の息子をヒーローなんて呼ぶのは、この世でただ一人だろうから。

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