第10話秘密結社「名古屋老若連合」

三月二十日、オレは登校すると大貫さんに声をかけられた。

「岡部、神宮を昨日見かけたんだ。」

「えっ!?一体、どこで?」

「昨日、スーパーマーケットで買い物をしていたら、ぐうぜん見かけたんだ。明らかに辺りを警戒している感じがした。神宮はそれから車に乗っていったけど、その車のナンバーは覚えた。」

「おお、さすが大貫さん!それでその車を探すのですか?」

「ああ、そのことはすでに警察に報告してある。これで警察が車を見つければ、神宮の居場所を突き止められる。」

オレと大貫さんは、神宮が見つかることを大いに期待した。

ところが翌日の三月二十一日、オレが再び用務員室をたずねると、大貫さんは難しい顔をしていた。

「どうしたの、大貫さん?」

「岡部・・・、どうやら警察でもダメだったみたい。」

「え?どういうこと?」

「それがおれがナンバーと特徴を教えた車を見つけることはできたんだ、だけどその車は盗難車だったんだ。おそらく自分の車だと足がつくかもしれないことを恐れて、盗難車にしたんだと思う。」

「そんな・・・、それじゃあ神宮には近づけなかったということ?」

ぼくは肩を落とした、これで神宮校長から遠ざかってしまった。

やっぱり捜査は思う通りにはいかない、オレはあせる気持ちでいっぱいになった。

「一体、どうしたら神宮校長を見つけることができるのだろう?」

オレは下校しながら、神宮校長を見つけることだけを考えていた。

しかし方法が思い浮かばない、どうしたらいいかわからないオレのところに東阪さんがやってきた。

「よお、岡部くん。難しい顔をして、一体どうしたんだ?」

「東阪さん・・・、実は」

オレは東阪さんに今までのことを話した。

「神宮校長の失踪なら知っている、仲間内でも話題になっている事件だ。元々神宮には黒いウワサが絶えない人物で、教育長の田中とのコネクションがある。だから出世したい教師は、神宮に近づくのが一番だそうだ。」

「黒いウワサって何?」

「神宮は田中のためにお金を集めている、そのために給食費や教師の給料の一部を横領しているということだよ。」

「えっ!?それは犯罪じゃないのか?」

「ああ、これが本当なら大事件だよ。だけど今まで証拠が見つからなかったから、事件になることはなかったけどね。」

神宮校長は実は悪いやつなのか・・・?

「それで君の学校で起きた殺人予告状の騒動だけど、オレは神宮のしかけたウソだと思うな。」

「東阪さん、どういうこと?」

「神宮は自分たちがしていることがバレるのをおそれて、見せかけの事件を起こすことでみんなの注意をそらそうとしたんじゃないかな?」

「えっ・・・?それじゃ、あの殺人予告状はウソだったの?」

東阪さんはうなずいた。

オレはバカバカしくなった、悪事をかくすためにみんなを大混乱にさせるなんて・・。

入学式が中止になったことで、一体どれほどのショックを与えたのか、神宮校長はわかっているのか・・・?

オレは神宮校長がゆるせなくなり、怒り心頭になった。

「・・・もし、東阪さんの言っていることが本当なら、オレは神宮校長が許せない。そのためにも、神宮校長の居場所を突き止めたい。」

「それはおれも同じだ、そこでおれはある所に神宮校長の調査を依頼することにした。」

「ある所ってどこ?」

すると東阪さんは辺りをキョロキョロすると、小声でオレに言った。

「大きな声じゃ言えないが、神宮校長の調査を秘密結社に依頼したんだ。」

「えっ・・・秘密結社って、本当なの?」

「ああ、おれの知り合いにその秘密結社のメンバーがいてな、独自に神宮のことを調べるように依頼したんだ。」

「その秘密結社の名前は・・・?」

名古屋老若連合なごやろうにゃくれんごう、というんだ。」

秘密結社と言うよりも、公共福祉団体みたいな名前だ。

だけどその秘密結社が神宮校長のことを調べているとしたら、ぜひ協力してほしい。

「それで東阪さんは、今度はいつ名古屋老若連合へ行くの?」

「今日の午後九時に会うことになっているから、八時前には家を出ないといけない。」

「ぼくも連れていっていいかな・・・?」

「えっ、岡部くんが?」

「うん、神宮校長の捜査に行き詰まっていたところなんだ。だから何か情報が得られたらいいなって。」

「そうか、君も神宮のこと追いかけていたんだよな。それじゃあ、おれが口を利いてあげるよ。」

そう言うと東阪さんは、スマホに連絡をかけた。

「もしもし、東阪です。実は例の話し合いなんですけど、一人だけ出席させたい人がいまして・・・はい・・・ありがとうございます。それでは失礼します。」

東阪さんは通話を切ると、オレに言った。

「君を連れていってもいいと言ったよ、とりあえず今日の午後八時におれの車に乗って行くからよろしく。」

「わかった。」

そして午後七時五十分、夜ご飯を食べ終えたオレは東阪さんの車に乗った。東阪さんが一緒ということで、遥輝と真理は許可してくれた。

家から車を走らせて三十分後、待ち合わせのために春日井駅前にやってきた。

すると目の前に赤い車が見えた、東阪さんは車を停めて降りると、赤い車からもだれかがおりてきた。

そしてオレは車から降りた、東阪さんは赤い車から降りた男を紹介した。

「こちらは緑山さん、おれの知り合いだ。」

「こんばんわ、緑山です。きみが岡部学戸くんだね、それじゃあ大島さんのところへ行きましょう。」

「大島さんってだれ?」

「おれたちの、頼りになるボスだよ。」

こうしてオレと東阪さんは、緑山さんの運転する車に案内されて大島さんの家へとむかった。

二十分後、オレの目の前に今までに見たこともない大きな屋敷が目の前に見えた。

屋敷の駐車場に車を停めて、オレと東阪さんは車から降りた。

「すごい屋敷だなあ・・・」

「さあ、こちらへどうぞ。」

緑山さんに連れられて、オレと東阪さんは屋敷の中へと入っていった。洋風で落ち着いた印象の廊下を進み、客間に案内された。

「緑山です、例の二人が参りました。」

「ご苦労様、どうぞ。」

オレと東阪さんが部屋の中へと入ると、紳士の格好をしたおじさんの姿があった。顔にシワがあるものの、若々しい感じがした。

「はじめまして、大島愛知といいます。それでは、ソファーにおかけくださいませ。」

オレと東阪さんはソファーに腰を落とした。

「さて、東阪さん。話しというのは、教育長の田中の素行調査ということですね?」

「はい、自分で追ってみてわかったのですが、やはり田中は何かあると思います。あいつは、学校の統合化を強引に進めています。」

「学校の統合化って何?」

オレが質問すると大島さんが言った。

「少子高齢化は知っているかな?」

「はい、子どもが減ってじいさんと婆さんが増えているということですね。」

「簡単に言うとそうだね、子どもが減るということは学校が必要じゃなくなるということだ。それで廃校になる学校が出てくる、田中は裏で廃校になった学校の土地を売っている。」

「えっ!?廃校って売れるの?」

「そうだよ、広い土地や大きな建物は改装すれば他の建物になることができる。前に廃校を改装してできた水族館が、テレビで話題になったことがあるだろ?」

「なるほど・・・、でもそれと神宮校長の失踪とどんな関係があるの?」

「実はね・・・、神宮校長と田中は裏でつながっているんだ。」

東阪さんの口から衝撃的な事実を聞かされた。

「田中と神宮校長が・・・?」

「ああ、神宮校長は自分の将来のために田中に金を渡している。過去に神宮校長は前の学校で何度も校長になっているが、それは田中に金を渡し続けたからなんだ。」

オレは東阪さんと大島さんが語る事実に、おどろいて何も言えなかった。

「それで話をもどすね、神宮校長が失踪したということだけど、おそらく裏に田中が絡んでいる。神宮校長をかくして、おそらく何かしかけてくるに違いない。」

「神宮校長をかくして、何をするの?」

「おそらく神宮校長のウソを利用して、岡部くんが追いかけてこられないようにするつもり」

「そんな・・・、そんなの絶対に嫌だよ!大島さん、どうしたらいいの?」

「とりあえず、向こうがどう出るかうかがうしかない。もし何かしてきたら、私に報告しなさい。手を貸してあげよう」

大島さんは冷静に優しく言った。

「ありがとうございます。」

「東阪さん、いい人を連れてきてくれてありがとう。岡部くんの心にはとても関心したよ、頼りたい時はこれからも声をかけてくれ。」

「ありがとう、それと大貫さんにも力を貸してください。学校を助けたい気持ちは、大貫さんも同じなので。」

「ああ、いいとも。」

それから話し合いを終えたオレと東阪さんは、大島さんの屋敷を後にした。

大島さんはとてもおおらかで頼りになる人だと思った、オレはとても心強くなった。







三月二十一日、オレが教室に入るとクラスの様子がかなりざわついていた。

ただならないこの感じ・・・、何かあったのかと思っていると、菊乃が声をかけてきた。

「ねえ、ここに来る途中で怖い人に会わなかった?」

「怖い人・・・?」

「派手なかっこうの男なんだけど、もうニヤリとしながらこっちを見てくるのよ。それで怖くなって、大急ぎで学校へ向かったの。このことをみんなに話したら、他にも同じ目に遭った人がいるの。岡部くんもそんな人に会ったの?」

「いや、今日は会ってないよ。」

「よかった・・・、でもこれから気をつけたほうがいいかもしれないわ。」

みんなはとても怯えている印象だった、どうしてこんなことが起こるのだろうか・・?

オレがあれこれ考えている間に水島先生が入ってきた。朝礼が始まると、水島先生からこんな知らせがきた。

「えー、大変急な話になりますが、とても悲しいお知らせが来ました。今年度をもちまして、春日井市立西庄学校は廃校することになりました・・・」

突然の発表にみんなががく然とした。

「廃校・・・、そんな急に・・・」

入学式を取り戻すために大貫さんと奔走している時に、まさかの廃校だなんて・・。

オレは冷静でいたものの、内心はとても戸惑っていた。

その日の放課後、オレは用務員室の大貫さんに会いに来た。

「大貫さん!廃校の話聞いた?」

「ああ、もちろんだよ。こんな急に決まるとは思わなかった・・・。」

「たぶん、これは田中が何かしたんだと思うんだ。」

「田中が・・・って、市の教育長の田中がか?」

オレは大貫さんに昨日の夜のことを話した。

「お前・・・、あの大島さんにあったのか?」

「大貫さん、知ってるの?」

「ああ、刑事だった時に聞いたことがある。愛知の平和を守るために、天性のカリスマと圧倒的人員を駆使した作戦とネットワークで、悪を討つビッグボス・・・。」

「そうなんだよ、本当に頼りになりそうな感じがするんだよ。」

「その大島さんが言うならまちがいないな、それにしても神宮と田中がつながっていたとはなあ・・・。」

「こんなことになるなんて・・・、一体どうしたらいいんだ?」

オレと大貫さんは不安に満ちた表情で考え込んだ。
















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