第9話神宮を追え
牛山から電車で二十分、犬山駅に到着したオレと大貫さんは聞き込みを始めた。
内容は神宮校長と別居しているという妻の花代さんの所在である。
とりあえず色んな人に花代さんのことをたずねてみたが、花代さんのことについてめぼしい情報は手に入れられなかった。
「中々、先に進みませんね・・・」
「ああ、だがあきらめずに聞き込みをしよう。だが、その前におなかがすいたな。」
「そういえばもう十二時をすぎましたね、どこかで腹ごしらえをしましょう。」
そしてオレと大貫さんはそば屋に入って、かけそばを注文した。
そしてオレはかけそばを食べている間に、店長に質問した。
「ねえ、花代さんという人を探しているんだけど、だれか見ていない?」
「ああ、この人ならいつもここに来るよ。」
店長が言うと、オレと大貫は「本当ですか?」とおどろいた。
「ああ、本屋の『スミレ堂』という店にいるよ。そういえば、ダンナと別居しているという話を聞いたな。」
「スミレ堂の場所は、解りますか?」
「この店の裏にある路地を抜けて、左にまがって三軒先の方にある建物がスミレ堂だ。」
「ありがとうございます。」
オレと大貫はそばを食べ終えると、店長に言われた通りに歩いた。
「あ、あの建物だ!」
そこには「スミレ堂」と書かれた木の看板のついた小さなお店があった。
オレと大貫さんが中に入ると、質素な着物を着たきれいなおばさんがいた。
「いらっしゃいませ」
「あの、
「はい、あたしに何かご用ですか?」
「神宮政道さんについてお聞きしたくて参りました、オレは神宮さんの学校の生徒の岡部学戸といいます。」
「私はその学校で用務員をしています、大貫虎二といいます。」
「まあ、主人の学校の・・・。主人が行方不明になって、気にかけてくれている人がいるなんて・・・。」
花代さんはほおづえをつきながら言った。
「岡部くんに大貫さん、もしよければお茶を飲みながらお話をしましょう。」
「はい、ありがとうございます」
こうしてオレと大貫さんは、花代さんに連れられて茶の間に通された。
そして花代さんがお茶を入れると、オレから話し出した。
「まず、失礼ながらどうして別居しているのかわけを教えてください。」
「そうね、あの人の宴会がイヤだったからね。毎回、酒を飲んではみんなでゲラゲラ騒いでうるさいし、後始末はみんなあたしがやらなきゃいけないし、酒代で多額の出費になるし、もうイヤでしょうがなくて。それである日ケンカして、実家の本屋に帰って来たというわけ。」
「そうでしたか、それでは政道さんがどんな人と飲んでいたか覚えていますか?」
「そうね・・・、教頭先生の美野島さん、お隣の朝熊さんくらいだった・・・あっ!そうそう、確か教育長の田中という男がいたわ。」
「教育長の田中・・・?」
「そう、あの人が一番尊敬していた人よ。あの人には仕事のことでお世話になったと言っていたわ。ふだんから少しえらそうなあの人も、田中の前ではいつもペコペコしていたもの。」
オレはこの田中という男が、みょうに気になった。田中と神宮校長がつながっている、これが一連の事件と関係があるような気がするのだ。
「それで、神宮校長がどこにいるのかわかりませんか?」
「それはわからないわ、別居してからあの人から一度も連絡が来ていないし、行きそうな場所もわからないの。お役に立てなくてごめんなさい」
「いいですよ、話を聞かせてくれてありがとうございました。」
そしてオレと大貫は花代さんにお礼を言って、スミレ堂を後にした。
「手がかりなしでしたね・・・」
「ああ、一体どこにいったんだ?」
オレと大貫さんは重い足取りで犬山駅へと向かっていった。
神宮政道が失踪して三日が経った。
職員室では神宮に代わって美野島が教師たちをとりまとめていた。
美野島は神宮が失踪した理由について、田中に消されてしまったのではないかと考えた。
「きっと神宮の失態を知って、口封じをしたにちがいない・・・。次は私の番だ・・」
美野島は明日にも逃げ出したい気持ちになっていた。
そんなことを考えていた時だった、美野島のスマホに連絡が入った。
「えっ・・・神宮さん?」
なんと神宮からの連絡がきた。
美野島は人に聞かれるとまずいと感じ、職員室から出て、通話に出た。
「もしもし、神宮さん?」
『美野島か、今日の夜会えないか?』
「今日ですか、はいすぐに会いに行きます。」
『春日井駅前の『ホワイトポット』というマンションに来てくれ、オートロックの番号は503だ。』
「かしこまりました。」
そして通話ら切れた。
美野島は神宮が生きていたことに安心しつつも、なぜ自分を呼んだのか疑問に思った。
そして午後七時三十分、美野島は仕事を終えたその足で神宮のところへとむかった。
学校からホワイトポットまでは車で二十分かかる。美野島はホワイトポットに到着すると駐車場に車を停めて、指定された番号を押してオートロックを解除した。
エレベーターに乗って五階まで上り、503号室の部屋につくと、ドアをノックした。
「美野島です、ただいま参りました。」
「おお、よく来た。入ってくれ」
美野島が部屋の中に入ると、見覚えのあるスーツ姿の男がいた。
まちがいない、田中だ。
「美野島、よく来た。とりあえずすわって話を聞いてくれ。」
美野島はその場で正座になった。
「神宮・美野島、お前たちはほんとうに何をやっているのだ?いくら自分たちのしていることをかくすためとはいえ、下手なウワサと芝居なんかするから、余計にあやしまれるじゃないか。」
田中は淡々とハッキリ言った、目で怒っているのが神宮と美野島に伝わっている。
「本当に申し訳ございません・・」
「とはいえ、このままでは私の計画がくるってしまう・・・。」
田中は自身を校長とする私立校の設立という、大きな野望を持っている。それは教育関係の有名人へとのしあがるためだ。
どんな手を使っても、この危機を脱しなければならない。
田中は考えに考えた末、あることを思いついた。
「神宮、お前が勤めている春日井市立西小学校、あそこを廃校にする。」
「ええっ!?」
神宮と美野島は口をあんぐり開けておどろいた。
「廃校って、そんなことができるのですか?」
「ああ、最近は少子高齢化で子どもの数が減っているからな。この地域でも学校の統制を図る目的でなら、問題ないはずだ。」
「ちなみに、どうして廃校にするのですか?」
「それはこの私の私立校を建てるためだ、そうすれば教育熱心な教育長として、私の株は上がりもうけられる。もちろん、私立校の役員にはお前たち二人を雇ってやる。」
「それは本当ですか!?」
神宮と美野島がたずねると、田中はもちろんとうなずいた。
「しかしこの計画には失敗はゆるされない、次失敗したらお前たちはどうなるか・・・、それでもやるか?」
神宮と美野島は息を飲んだが、覚悟を決めて「やります!」と言った。
「よし、それじゃあ計画について説明していく。お前は西小学校に殺人犯がやってくるとニセの予告状を出した、それを利用して学校で事件を起こす。」
「事件ですか・・・?」
「そうだ、事件についてはこちらに任せればいい。そして神宮には、自分が無事だということと、犯人に追われていることを伝える手紙を書いてもらう。」
「はい、かしこまりました。」
「そして美野島、お前は手紙を持って学校に行き、手紙の内容をみんなに報告しろ。ただし、警察には言わないように念押しするようにな。」
「承知しました。」
「では神宮さん、早速書いてもらおう。」
田中は神宮に原稿とボールペンを渡した、神宮は原稿に手紙を書き込むと、封筒に入れて美野島に渡した。
「では美野島くん、後は頼みますよ。」
「はい、かしこまりました。」
そして美野島は封筒を持ってホワイトポットを後にした。
三月十九日、オレが学校へ行くと教室ではみんながある話で持ちきりになっていた。
オレが自分の席に座ると、菊乃が話しかけてきた。
「ねぇ、岡部くん聞いた?」
「聞いたって、なんの話?」
「校長から手紙がとどいたのよ、教頭先生あてに。」
「えっ!?それがどうしたんだ?」
オレはおどろいて、菊乃の顔を見た。
「くわしいことはわからないけど、校長はだれかに命をねらわれているみたい。そしてあの予告状を送りつけたのもそいつの仕業だって言っていたわ。」
「そうか、それで校長はどこにいるんだ?」
「まだわからないわ、教頭先生にとどいた手紙にも住所が書かれてなかったもの。」
「あー、そうか・・・」
本人から手紙がとどいたというだけでは、神宮校長の
それから放課後になって、オレは用務員室へとやってきた。
「大貫さん、いますか?」
「おう、どうした岡部?」
「神宮校長が美野島に手紙をおくったそうです、大貫さんはご存知ですか?」
「ああ、朝から先生たちもそのことでさわいでいたよ。」
「大貫さん、どう思います?」
「うーん・・・、本当に神宮が命を狙われているとするなら、とっくに神宮自身から警察に通報しているはずだ。そうしていないとするのなら、考えられる可能性は二つ。」
「それはなんでしょうか?」
「神宮校長が犯人に捕らわれている可能性、そしてもう一つは逃亡の理由がちがうという可能性だ。」
「逃亡の理由がちがうって、どういうこと?」
「例えば犯人に追われているのではなく、自分自身が犯人で、自分の悪事がバレるのを恐れて身を隠している。」
「神宮校長に、何か疑惑があるのですか?」
「詳しくは捜査してみないことには何も言えないが、とにかく神宮校長の行方不明について考えられる理由の一つとして、頭の中に入れておけ。」
「わかりました、これからオレたちはどうしたらいいでしょうか?」
「そこなんだよな・・・、せめて少しでも神宮の目撃情報があればいいのだが・・。」
オレと大貫さんは、どうすればいいのか考えたが、いい答えがうかばなかった。
その日の午後八時三十分、学校から帰ってきた大貫は、トイレットペーパーと夜ごはんの
会計を終えてもう帰ろうと出口へ向かっている時だった、目の前に神宮の姿を見つけた。
「あの人は・・・、何でここに?」
買い物袋は持っていない、ということは外食かだれかと待ち合わせか?
神宮は辺りをキョロキョロしている、大貫は気づかれないように尾行を始めた。
やがて神宮はスーパーマーケットを出て、駐車場の車に一目散に走ると乗り込んだ。乗り込んだ車は灰色の軽自動車、大貫はとっさにナンバーを覚えた。
そして車はそのまま走りさった、しかし大貫は神宮への手がかりを一つ手に入れることができた。
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