第14話みんなの入学式

四月七日、校庭のさくらが散り始めたころに、オレの入学式が行われることになった。

「岡部くん、用意はできたの?」

「うん、できてるよ!」

「今日は入学式だもんな、私と真理も後で行くよ。」

オレはイスにすわって、朝ごはんを食べた。

「それにしても、 廃校の話が無くなってよかったわね。」

「ああ、もしそうなった時のために色々準備していたけど、今まで通りが一番いいよね。」

遥輝と真理が話していると、那谷さんと山中さんがやってきた。

「おはよう、そういえば今日は岡部くんの入学式だよね?」

「うん、そうだよ。」

「入学式、できるようになってよかったね。あの時からかなり色んなことがあったけど。」

みんなで田中を襲撃した直後、田中は警察へ連行されていった。そして田中は不法に土地を買収して不動産に売却しようとしたことと、オレと大貫さんと東阪さんを監禁した容疑で逮捕された。矢沢・神宮・美野島の三人も、田中と関係があったということで連行され、すぐに逮捕された。

当然田中は教育長を解任、オレの学校をふくめて七つの小学校が、廃校をまぬがれた。

そして新しい校長が決定し、今日の入学式を迎えることになった。ちなみに大貫さんは引き続き学校の用務員をやることになった。

朝ごはんを食べ終えたオレは、ランドセルを背負い、くつをはいてげんかんを出た。

学校に向かうとちゅうで、菊乃と出会った。

「岡部くん、おはよう。」

「おはよう、菊乃」

「入学式、できるようになってよかったわね。」

「ああ、なんとかなったよ。オレだけじゃない、大貫さんやみんながオレに手を貸してくれたから、入学式ができるようになったんだ。」

「そうだね、あの時は入学式ができるかどうか不安だったけど、岡部くんたちががむしゃらにがんばったから、廃校を阻止して入学式ができるようになったんだ。」

「ああ、今日はすばらしい一日になるぞ。」

オレは達成感に気分が上がり、思わずスキップしたくなった。









午前八時二十分、入学式が始まった。

オレは在校生で、新一年生の入場を拍手で迎えた。

そして新しい校長先生の話が始まった、席に座りながら聞いていると、思いがけないことが起きた。

「えー、今回の入学式をとりおこなうことができたのは、小学五年に進級した岡部学戸くんと、用務員の大貫虎二さんのおかげです。その感謝の意として、二人に感謝状を贈ります。それでは岡部くんと大貫さん、教壇の前に来てください。」

まさか入学式で呼び出されるなんて思ってもいなかった、オレと大貫さんは二人並んで教壇へと上った。

そして校長先生は賞状を読み上げた。

「感謝状、岡部学戸殿おかべがくとどの大貫虎二殿おおぬきとらじどの。あなた方はこの春日井市立西小学校の危機を救った者として、ここに感謝の意を印します。ありがとうございました。校長・春山文夫はるやまふみお

オレは感謝状を受け取って礼をすると、在校生・新入生・先生と保護者たちから大きな拍手がひびいた。

オレと大貫さんは、照れくさくなった・・。








入学式が終わると、オレはクラスのみんなから改めてお礼を言われた。

「ありがとう、岡部くん!」

「どういたしまして・・・、みんなも協力してくれてありがとう。」

「いいってことだ、ということで今年も学級委員長よろしくな。」

神田がオレのかたに手を置きながら言った。

「えっ!?みんなは、それでいいの?」

「当たり前じゃないか、なあ?」

神田が周りに聞くと、みんなうなずいた。

「そうか、じゃあ今年も学級委員長になります!」

オレが宣言すると、教室に大きな拍手がおきた。

そして下校の時間になり、オレは用務員室をたずねた。

「大貫さん、いますか?」

「おう、入れ」

オレはランドセルをその場に置くと、大貫さんと話し始めた。

「なんだか、オレたちすっかり人気者だね。」

「ああ、おれもおどろいているよ。思いがけないことになったな。」

「オレはあの時、ただ入学式を守りたいという気持ちでいっぱいだった・・・。いろいろある学校で、時には行きたくなくなることだってあるけど・・・、やっぱり学校は楽しいところだから。」

「岡部・・・、うれしいこと言ってくれるぜ」

大貫さんは目頭を押さえて泣き出した。

その様子を見て、オレはうれしくなった。

「ああ、思い出した。大島さんから伝言を預かっているんだ。」

「えっ、大島さんから?」

そう言うと大貫さんは、一枚の手紙を取り出して、オレに渡した。そこにはこんなことが書かれていた。

『岡部くん、進級おめでとう。君の活躍を応援することができて、とても楽しかったよ。これからの活躍を期待しているよ、また困ったことになったら、頼りしてくれ。』

「大島さん・・・、ありがとうございます。」

「あの人には本当にお世話になったな、今度お土産持っていくか。」

「そうですね、いつ行きましょうか?」

すると校内放送のアナウンスが聞こえた。

『五年生の岡部学戸くん、そして用務員の大貫さんは、至急多目的室に来てください。』

えっ、オレたちが呼びだされている?

オレと大貫さんはなんで呼び出されたのか、それを確かめるために、三階へ上っていった。

多目的室の扉を開けると、いっせいにクラッカーが鳴った!

「ありがとう!!」

そしてオレを大貫さんの目の前にあったのは、クラスのみんなと担任の先生と、そして大島さんの姿だった。

「大島さん!?どうしてここに?」

「いやあ、実は田中の家に襲撃した後、岡部くんのクラスのみんなから、岡部くんをお祝いしたいという願いを聞いて、サプライズを計画したんだ。あっ、ちゃんと許可を取って多目的室を借りたから大丈夫だよ。」

「みんな・・・」

「だって、岡部くんと大貫さんはみんなのヒーローだもん!」

「ああ、そしてこの学校の最強コンビだぜ!」

みんなから称賛を受けて、オレはまた泣いてしまった。

「みんな・・・、うれしいことしてくれるじゃないか。」

「よかったな、委員長。」

大貫さんが優しく肩を置いて言った。

「さて、みんなでお祝いと行こう!」

「って、授業はいいの?」

オレが言うと、担任の先生が言った。

「アハハ、真面目だね。大丈夫、次の授業はきみと大貫さんのお祝いも兼ねたレクリエーションということになってる。」

「それなら、いいか。」

「つまんないこと言わないで、早く遊ぼうぜ!」

そしてオレと大貫さんは、みんなの輪の中に入っていった。







その日の帰り道、オレは人生で一番うれしい気持ちになっていた。

そして家に帰ると、さらにうれしいことが待っていた。それはオレの本当の父と母が帰ってきたことだ。

「父さん、母さん!帰ってきてたの!?」

「ああ、二時間前に空港についたんだ。悪かったな、入学式に参加できなくて。」

「気にしてないよ、父さんと母さんが無事に帰ってきてくれて、うれしいよ。」

「それにしても、ずいぶん危ないことしたそうじゃない?真理から聞いたわよ、誘拐どころか監禁までされて、よく生きていたわ。」

「えへへ、心配かけてごめんなさい。」

「全く、あなたは命を大切にすることを覚えなさい。」

オレは母さんに小突こづかれてた。

「岡部くん、お帰り。入学式、どうだった?」

東阪さんが現れた。

「うん、みんなからとにかくお祝いされたよ、大貫さんも同じく。」

「そうか、それはよかったな。おれもいい記事がかけて、スクープ賞がもらえることになったんだよ!」

「おお、すごいな。」

「東阪さん、学戸がご迷惑をかけてすみません。」

「気にしないでください、むしろ協力してもらったものですから、逆に感謝ですよ。」

「よし、岡部くんが帰ってきたことだし、今夜は進級祝いと行こうじゃないか!」

父さんはすっかりはりきっている、そしてその日の夕食は、豪華な食事になった。

「それでは、岡部くんの進級をお祝いして、かんぱい!」

父さんのかけごえで、全員でかんぱいをした。

「岡部くん、進級おめでとう!ところで、小学五年生になっても、学級委員長はやるの?」

「うん、なんかみんなから「やってほしい」って言われて、立候補するつもりだよ。」

「ほー、さすがはわが息子。リーダーの素質があるな。」

「そういえば岡部くん、今週の土曜日って空いているかな?」

「空いているけど、どうしたの東阪さん?」

「実は君と大貫さんの活躍を警察が賞したいということで、感謝状が授与されることになったんだ。」

「えっー!?」

オレを入れた全員がおどろいた。

「ウソだろ・・・!」

「いや、本当だって!今やこの地域のちょっとした有名人だよ。」

東阪さんは地域新聞を持ってきて、オレにみせた。

するとそこには、オレと大貫さんの活躍が一面で載っていた。

「天才小学生探偵と用務員のおじさん、執念の調査で悪を暴く・・・」

「新聞に載るなんてすごいわね。」

「どうしよう・・・、明日ちゃんと外歩けるかな・・・?」

オレはうれしいことが続いて、少し不安になった。だけどお祝いされたうれしさで、すぐに不安は書き消された。








入学式から一週間後、さくらの花が散る校庭でオレはみんなとドッジボールをしていた。

校庭のかたわらで、大貫さんは庭の手入れをしていた。

「よーし、行くぞ!」

神田くんがボールを思いっきり投げた、するとボールは大貫さんの背中に当たった。

「あっ、またタイガーに当たった!」

「おい、だれだ?このボールを投げたのは?」

「おれです、すみません」

「おう、気をつけて遊べよ!」

そう言うと大貫さんはボールを神田くんに返してあげた。

あんなに恐れられていた大貫さんだけど、今となってはすっかり有名人。相変わらずタイガーと呼ばれているけど、親しまれるようになった。

「岡部、今日も委員長がんばっているな。お疲れさん。」

「大貫さんこそ、毎日学校を整備してくれてありがとう」

オレと大貫さんは次の事件が起きるまで、それぞれ学校での日々を送るのだった。



















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

学級委員探偵と用務員刑事 ・入学式への予告状 読天文之 @AMAGATA

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ