第12話ちびっ子審査員

それから時が過ぎて、三月二十六日。卒業式を終えたオレは、春休みをむかえていた。

あれから特に田中からの動きはなく、神宮校長の行方もわからないままで、西小学校の廃校は決定的だとささやかれていた。

そんな時、大貫さんからの電話で「会って話がしたい」ということで、オレはまきばで会う約束をした。

十一時三十分、オレがまきばに来ると大貫さんがすでにカウンター席に座っていた。

オレがソーダ、大貫さんがコーヒーを注文して、話が始まった。

「あれから何も無いね。」

「ああ、あいつらも下手に動けないと、用心しているんだ。」

「うーん、何か田中にとって致命的な証拠を掴むことができたら、田中を一気に追い込むことができるが・・・」

そんな証拠をどうやって手に入れたらいいんだろう・・・?

危険なことはあるかもしれないけど、ここまでした以上最後までやりとげたい。

「そのためには田中の居場所をつきとめないといけない。」

「一体、どこにかくれているのか・・・」

「どうしましたお客様?」

するとマスターが話しかけてきた。

「あっ、マスター。いえ、何でもないんです。」

「そんなこと言わずに、私でよければ話してください。秘密は守ります。」

オレと大貫は顔を見合わせて考えた、そしてマスターには秘密ということで、今までのことを話した。

「なんと・・・、まさかそんなことが起きていたなんて。政治家なんて、大体は信用できませんね。あっ、そうそう田中といえば、これがあった」

マスターは一枚のチラシを持ってきた、そこには「春の交通安全絵画こうつうあんぜんかいがコンクール」についてのお知らせが書かれていた。

「これって、ここの市内で毎年やっているよね?」

「ああ、そうなんだ。実は今年度は子どもの審査員しんさいん募集ぼしゅうしていてね、締め切りは明日までなんだけど、これに当選したら田中に近づくことができるかもしれない。」

オレと大貫さんは、「おお!」と顔をあわせてよろこんだ。

「おお、ありがとうマスター!」

オレはマスターにお礼を言った、そして大貫さんとわかれたオレはすぐに家に帰って、チラシの裏面にある申し込み用紙の空欄に必要なことを書き込んだ。

そして切手を貼ると、すぐに家から近いポストのところへ向かい、申し込み用紙を入れた。

そして家に帰ってくると、東阪さんが声をかけてきた。

「岡部、一体どこへ行っていたんだ?」

「うん、交通安全コンクールのちびっこ審査員に応募してきた。」

「ああ、あの話題のちびっ子コンクールに応募してきたの?地域新聞で話題になっていたよ。」

「うん、もしかしたらこれで少し田中に近づくことができたりして・・・」

「それにしても、コンクールか・・・。田中の主催するコンクールって、あまりいい話を聞かないんだよね・・・」

「えっ?東阪さん、どういうこと?」

オレが質問すると東阪さんは話し出した。

「これはあくまでうわさくらいの話しなんだけど・・・、田中はコンクールで賞を取りたい応募者からお金をもらって、入賞するようにしているんだ?」

「ええーっ!そんなの反則じゃないか!そもそもどうしてこんなことをするんだろう・・・?」

「そりゃ、コンクールで入賞できたら近所や学校でじまんできるからね。それにもし自分の子どもを将来画家にしたり、美術関係の仕事をさせたい親にすればコンクールでの入賞は強い足がかりになる。」

「そうか、田中はそういう人たちにつけこんでお金を集めているということか・・・」

オレは田中がますますゆるせなくなった、そんなにお金がほしいのか?

「そこでおれは、今回の絵画コンクールにてこのうわさの真相を突き止めてくる。ついでに、神宮の一件についても聞いてみるよ。」

東阪さんは、どこかウキウキした表情をしていた。

それからオレは大貫さんの家に電話を入れた。

「もしもし、大貫さん。お願いがあるけどいいかな?」

「おう、岡部。どうしたんだ?」

「もしオレが当選したら、公民館へ来てくれないか?田中のことについてどうしても調べたいんだ。」

「いいぜ、おれに任せておけ!」

「ありがとうございます。」

オレは電話を切った、果たしてオレは当選しているのか・・・?







それから二日後の四月四日、オレの家に応募の結果が届いた。

「学戸!あなた、ちびっ子審査員に応募したの?」

「うん、それがどうしたの?」

「当選したのよ、ちびっ子審査員に!」

オレは真理からハガキを受け取った、そこには当選したことが書かれていた。

「本当だ!当たったんだ!!」

「あなた、大変よ!学戸がちびっ子審査員に選ばれたって!」

その日はみんなでオレの当選を祝ってくれた、ただ田中のところへ近づきたいのに、なんだか恥ずかしい気分だ。

もちろん大貫さんにも連絡を入れた。

ハガキには「明日選考会を行うので、公民館へ九時に集合」と書かれていた。

オレは大貫さんのところへ電話をかけた、誘拐された日から何があってもいいように連絡先を交換したのだ。

「もしもし、大貫さん。オレ、ちびっこ審査員に受かったよ!」

「おお!それはすごいなあ、おめでとう!」

「それで田中に近づくために手を貸してほしい、九時に審査が始まるから、十時に来て。東阪さんにも言っておくから、合流してくれないか?」

「わかった、だけどかなり危険だぞ?」

「それは承知しています」

「よし、それじゃあよろしくな。」

通話を切ると、オレは東阪さんにも同じ話をした。

「いいよ、その話乗った!」

東阪さんも乗ってくれた、後は明日を待つだけだ。






そして三月二十七日、オレは公民館へ向かった。

受け付けに当選のハガキを見せると、すぐに案内してくれた。

このちびっ子審査員はオレを入れて五人、部屋で待っているとコンクールの主催者しゅさいしゃが入ってきた。

「みなさん、ちびっ子審査員の当選おめでとう。みなさんにはこれから絵をみて、それぞれ評価と感想をこの紙に書いてもらいます。」

主催者が見せた紙には、評価のところが五つ、そして絵の感想を書くところがあった。

「あの、質問です!オレたちは一枚の絵に対して、一枚感想を書くのですか?」

「はい、そうです。今回君たちに見せる絵は十枚、君たちに見てもらうために、私たちが先に選ばせてもらったよ。」

「わかりました。」

こうしてちびっ子審査員による審査が始まった、絵の中には中学生が書いた絵もあり、オレは紙に感想を書いていった。

そして休憩をはさんで午後二時十分、オレを入れた五人は全ての審査を終えた。

「みなさん、お疲れさまでした。もう帰ってもいいですよ。」

そしてオレ以外のメンバーは家へと帰っていったが、オレは一人で主催者の後を追った。

そしてスマホで大貫さんへ連絡を入れた。

「これから主催者の後を追いかける」

『了解、東阪も一緒だから、これからすぐに向かう。見つからないように健闘を祈るよ」

オレは通話を切ると、主催者の後をつけた。

すると主催者はとある部屋へ入っていった、部屋の扉には『関係者以外立入禁止』の貼り紙が貼られていた。

「あそこで何をしているんだろう・・・」

オレは扉に耳を当てた、主催者とある男の会話が聞こえた。

「子どもたちの評価はこの一番の絵ですね。」

「しかしここは、三番の絵だな。」

「えっ、どうしてですか?一番の絵は我々と子どもたちから評価が高い作品です。金賞はこの作品にしましょう。」

「ダメだ、やはり三番だ。」

「あの、田中様はどうして三番の絵がいいのですか?」

田中という言葉をきいて確信した、主催者と一緒に田中が部屋にいる。

「この三番の絵の作者の親から、入賞させてほしいとお願いされている。」

「それは不正じゃないですか?審査の意味が無いですよ!」

だま青二才あおにさい!」

田中がいきなり声を荒げた、聞いていたオレは心臓が止まるかと思った・・・。

「いいか?私はだれが賞を取ろうがどうでもいい、ただ私に金を払ってでも賞を取らせてあげたいという親の気持ちを叶えさせてあげているだけだ。ちびっ子審査員を提案したのも、ただ世間の話題なればと思って提案しただけのこと。評価なんて関係ないわ」

こいつ・・・、最低の中の最低だ。

どこまでも自分のことしか考えていないやつ、どうしてこういう人が教育長なんかになっているんだ?

「おい、聞こえるか?」

小声のする方を見ると、大貫さんと東阪さんがオレを呼んでいた。

「今、あの部屋の中で田中が絵の審査について話しているのですが、やはり評価が自己中心的なようです。」

「やっぱりそうか、とりあえずここから離れて様子を見よう。」

すると突然、ドアが開いて田中が現れた。オレたち三人は、目を大きくしておどろいた。

「おい、そこで何をしている?」

「やばい、気づかれた!」

「お前たち、あの三人を捕まえろ!」

オレと大貫さんと東阪さんと一緒に、走り出した。田中の仲間が追いかけてくる。

しかし運動が得意じゃないオレは、途中で転んでしまい捕まってしまった。

「岡部!!」

「お前ら、この子どもを返したかったら、言うとおりにしろ!」

オレを捕らえた田中の仲間が、オレをエサに大貫さんと東阪さんをおどした。

「オレのことはいいから・・・」

「さあ、どうする?」

「・・・わかった、あんたについていくよ。だから岡部を放してくれ。」

「おれからも頼む。」

大貫さんと東阪さんは、男に頭を下げだ。

「分かればいい、一緒に来い」

こうしてオレと大貫さんと東阪さんは、男に案内されてあの部屋へと入っていった。

中に入ると田中と主催者の男を入れた六人が待っていた。

「あ!きみは岡部くんじゃないか、どうしてこんなところにいるんだ?」

「なに、岡部だと・・・?」

田中はおどろいた顔をした、そしてオレのところに来るとこう言った。

「お前が私を探っている岡部か・・・、なるほど、いい顔をしている。子どもにしては、かなりの天才だ。」

「くっ・・・、お前がオレの学校を・・・」

オレはオレを見下ろす田中をにらんだ。

「それで、そこの二人は何者だ?」

「大貫だ・・・、こっちは東阪だ。」

「大貫・・・、なぜここに来たんだ?」

「理由は、岡部がよく知っている・・)」

すると田中はゲラゲラ笑いだした。

「こんな小学生のために手を貸すなんて、お前らはこの小学生のどこにひかれたんだ?」

「・・・この子は決意と度胸がある。これまで危険を承知で、がんばってきた。だからオレと東阪は、最後まで手を貸すことを決めたんだ!」

「そうだ、金稼ぎにしか興味がないお前よりかっこいいぞ!」

「ふん、戯言たわごとをほざくな。連れていけ!」

こうしてオレと大貫さんと東阪さんは、田中によってどこかへと連れていかれてしまったのだった。







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