第7話岡部救出作戦

オレが目を開けると、そこは薄暗いコンクリートの部屋だった。

どこかの車庫か倉庫なのかわからない、けどオレが捕まってしまったことは間違いない。

「ぐっ・・・、手がうごかない・・・」

どうやら手を縛られているようだ、完全に身動きができない。

するとシャッターが開いて、二人の男が入ってきた、サングラスとマスクで顔を隠している。

「おいガキ、お前が岡部学戸か?」

「そうですけど、あなたたちがぼくをここへ閉じ込めたのですか?」

「ああ、今からお前には大貫を呼び出すための人質となってもらう。とにかくそこから逃げるんじゃねぇぞ」

「ちょっと待て、あんたたちは神宮校長の仲間なのか?」

「神宮校長・・・、そんな奴は知らん」

「隠しても無駄だ、お前たちがだれなのか知っている。神宮校長と美野島教頭だ、サングラスとマスクを外せ!」

オレが二人の男に向かってさけぶと、一人の男がおれに向かってさけんだ。

「だから違うと言ってるだろ!」

「まあ、気にするな。お前はとにかく人質であることを覚えておけ。」

もう一人の男がたしなめると、二人の男は岡部をそのままにして、シャッターを閉めて部屋を出た。

「くそっ・・・、一体どうすればいいんだ?」

なんとしてでもここから脱出しなければならない、しかし手が縛られているこの状態では脱出どころではない。

しかもオレがいるところには窓がない、おそらくどこかの貸倉庫だと思われる。

オレはなすすべなく、その場にすわることしかできなかった・・・。









岡部を倉庫に閉じ込めてその場を後にした鷹山と烏丸からすまるは、サングラスとマスクを外した。

「鷹山、とりあえずこれでいいんだよな?」

「ああ、後は美野島さんからの連絡を待つだけだ。」

「ところで約束の三十万円、忘れてないだろうな?」

烏丸は鷹山の大学の先輩で、鷹山と同じくニート。

就職できずにバイトで生活費を稼ぐ日々に嫌気を感じていた時、鷹山からこの仕事を紹介され、三十万円の報酬に魅力を感じ参加した。

すると鷹山のスマホが鳴った、美野島からの連絡が来た。

「もしもし、上手くいったか?」

「もちろんです、今貸倉庫に閉じ込めました。」

「ご苦労だった、二人とも神宮校長の家に来い、報酬を払ってやる。それから鷹山にはもう一仕事してもらう。」

「へーい、かしこまりました。」

鷹山は通話を切ると、烏丸と一緒に車に乗り込んだ。

「それにしても誘拐の仕事とは思わなかったよ、三十万円の報酬も納得だ。」

「先輩、絶対誰にも言ってはダメですよ。」

「わかっているって、それよりも三十万円もらったらどうしようかな・・・?」

烏丸は大金ですっかり舞い上がっている。

そして神宮校長の家についた二人は、神宮から分厚い封筒をそれぞれ受け取った。

「手渡しで三十万円貰えるなんて、すごいな・・・。」

「烏丸くん、今日はありがとう。後のことは美野島と鷹山に任せておけばいい。」

「はい、ありがとうございました。」

烏丸は足早に神宮校長の家を後にした。

「鷹山、いい先輩を紹介してくれてありがとな。」

「いえいえ、そんな・・・」

「それよりも、はやく仕事をしてくれ」

「へーい」

鷹山はそう言って、自分の部屋へと向かっていった。







三月八日、大貫が住んでいるアパートに一通の封筒ふうとうが届いた。

大貫の名前はあるが切手も消印もない、例の予告状と同じだ。

大貫が封筒を開けると、こんな文章が殴り書きされた手紙が入っていた。

『岡部は預かった、返してほしければ手を引くことを紙に書いて、指定の住所に持ってこい。期日は五日以内、手紙を受け取ったらすぐに岡部を解放する。この手紙のことは警察に言うなよ』

文章の下には指定の住所が書かれていた。

「あいつ・・・、絶対に捕まえてやる。」

大貫が闘志を噛みしめていると、スマホが鳴った。出ると相手は山上だった。

「もしもし、大貫か?お前が見た車の所在がわかったぞ。」

「本当か!?」

実は大貫はあの時、岡部を連れ去った車の特徴とナンバーを覚えていた。

これは事件に遭遇した時に大貫が身につけた特技で、犯人を逮捕するためにどんな手がかりでも集めるという大貫の信念だからこそなせる技だ。

あの時の車は、ナンバーが『春日井600・た・45-18』で水色の軽自動車だった。

「お前が見たあの車は、レンタルされたものだったとわかったぞ。ただ、レンタルした店によると、借りたやつはまだ店に車を返していないようだ。」

おそらく、どこかで乗り捨てたのだろう。

「それでその車を借りた奴は誰だかわかったか?」

「ああ、名前は烏丸長からすまるたける・二十四歳、ニートで仮免許を所得している。」

烏丸・・・、こいつが予告状の犯人である可能性は高い!

「それで烏丸の住所は?」

「おっと、悪いがそこまでは教えられない。烏丸の逮捕は我々の仕事だからな。」

「そっか・・・」

大貫は自分が刑事を辞めていたことを一瞬忘れていた。

「わかった、教えてくれてありがとう。人に言えない話だが実はさっき、予告状の犯人から手紙が来たんだ。」

「本当か!?それで手紙にはなんて書かれていたんだ?」

「岡部を返してほしかったら、手を引くことを手紙に書いて指定の住所に持ってこいってさ。」

「その住所は?」

大貫は山上に住所を伝えた。

「わかった、すぐに現場に行く。」

「いや、待て。その前に私が準備しておく、そしたら合流しよう。」

大貫は犯人を逮捕する作戦を立てた。

「犯人と接触するつもりか?危険だぞ」

「でも岡部を救出する絶好のチャンスなんだ、頼むやらせてくれ!」

大貫の熱意に押された山上は、ため息をつくと言った。

「わかった、なるべく早く頼むぞ。」

通話を切った大貫は、予告状の指示通りに手紙を書くと、学校に休むと連絡をして家を出た。











大貫が合流地点に到着すると、山上と鹿目ともう一人の警官が待っていた。

「大貫さん、よく来てくれました。あの犯人狩りの虎に会えてうれしいです!」

「鹿目、感動してないで早く乗るぞ。」

山上にせかされて大貫と鹿目はパトカーに乗り込んだ。

犯人からの指定住所へ向かう途中、山上が大貫に言った。

「お前が教えてくれた住所だが、貸倉庫があることがわかった。おそらく誘拐された岡部くんは、そこに閉じ込められている。」

「わかった、とにかく行こう。」

合流してから十五分、パトカーは目的地の近くに停まった。

そこから歩いて一分、手紙に書いてあった住所についた。

そこは住宅地の一角にある、貸倉庫が6つ並んでいる場所だった。

「あっ、あそこにいます。」

電柱のかげにかくれた鹿目が指さした方を見ると、黒の上着を着た男がいた。フードを被ってキョロキョロしている。

「あいつが犯人だな・・・」

「よし、まずは君が犯人と話している間に私たちが犯人に近づく、そして隙をついて一気に取り押さえる。いいな?」

山上が言うと大貫はうなずいて、男のところへと向かった。男は大貫の迫力におどろきつつも、低い声で言った。

「よお、お前が大貫だな?」

「ああ、ちゃんと言うとおりにしたぞ。ほら、これが手紙だ。」

大貫が手紙を渡すと、男は手紙をその場で読んだ。

男が手紙を読み終えた時、大貫は男に質問した。

「おい、ところでお前は烏丸か?」

すると男の顔色が変わった。

「ちがう、おれは烏丸なんてやつは知らない。」

男の動揺を大貫は見逃さない、さらに質問する。

「岡部の誘拐は学校の中で行われた、烏丸の身元を調べたがやつは教師じゃない。となると学校の中に潜むには、学校に関係の深い人間の協力が必要だ。そういう人間のこと、知らないか?」

大貫はトラのような目で相手を見ている、男はますます動揺する。

「知らないって言っているだろ・・・!それ以上質問すると、この中にいる岡部の命はないぞ!」

男は精一杯吠えた、大貫は冷静に言った。

「まあ、いい。それよりも、お前はもうすぐ捕まるぞ。」

「な・・・、まさかお前、警察に言ったのか!?」

「違う、お前に口止めされる前に誘拐に使った車の特徴を伝えた!お前はもう逃げられない、観念しな烏丸!」

大貫が叫ぶと山上たちが現れた、あわてふためく男はその場から逃走した。

「逃がすか!!」

逃げる男に大貫がタックル、男はその場に倒れ山上たちに取り押さえられた。

「ナイスプレー」

「ありがとよ、それより岡部を助け出さないと。」

大貫は男に岡部の居所を追及すると、男は「T02の倉庫にいる」と言った。

大貫がT02の倉庫のシャッターを開けると、倉庫の奥に岡部がいた。

「大貫さん・・・?」

「岡部、無事か!?」

「来てくれたんだ、ありがとう」

大貫は岡部の手を縛ったロープを切った、そして岡部を連れて外へ出た。

「大貫さん、助けてくれてありがとうございました。」

「いいってことよ。さあ、みんなが心配しているから、このまま家に行くぞ。」

「はい、わかりました。」

そして岡部と大貫は、パトカーに乗って岡部の家へと向かった。








岡部の家についた岡部と大貫を、吉野夫婦が出迎えてくれた。

「岡部!心配かけて・・・もう、あんたって子は・・・」

「大貫さん、学戸のこと本当にありがとうございました。」

「父さん、母さん・・・心配かけてごめんなさい。」

「とにかく無事で良かった、それじゃあ岡部、また学校で会おうな。」

「うん、またね。」

帰宅する大貫の背中に、吉野夫婦は何度も頭を下げて見送った。





三月八日、オレが教室に入るとクラスのみんながオレを出迎えてくれた。

「岡部、よく生きて帰って来たな。」

「本当にそうよ、犯人に嫌なことされなかった?」

神田と菊乃がオレに詰め寄ってきた。

「いや、ただ倉庫に閉じ込められただけだよ。でも大貫さんが助けてくれなかったら、オレはずっとあのままだっただろうな。」

「え・・・、大貫さんってあのタイガーのことか?」

「うん、あの人本当に頼りになるんだ。」

「そうか・・・、あの人こわい感じしかしなかったけど・・・?」

「そうでもないよ、大貫さん意外と優しいよ。人は見かけによらないものさ。」

「そういえば、今朝のニュース見た?あの理科室の火事、火を付けた犯人が逮捕されたって。」

「えっ、本当か?」

オレは毎朝ニュースを見ているが、そのニュースは見ていない。

「ああ、鷹山という男と細野先生だって。なんでも学校の怪談をテーマに動画を撮影していたら、アルコールランプが倒れて火が燃え広がったそうだよ。」

「鷹山なんて先生、この学校にはいないよ?」

「そうなんだよ、鷹山がどうやって学校の中に入ったのかはまだわからないみたい。」

それからオレは家に帰って新聞を見ると、理科室火災事件の記事が載っていた。

それによると犯人は鷹山と細野という男で、動機は「軽い気持ちで、子どものころに流行っていた怪談をやってみた。」ということだ。

さらに鷹山はオレを誘拐した犯人として逮捕され、事情聴取によって理科室火災事件に関与していたことがわかった。

結局、一番怪しかった美野島は逮捕されなかった。でもオレは美野島を一連の黒幕だという考えを、頭から離すことはなかった。

































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