第6話誘拐
三月七日、オレが教室に入ると菊乃が慌ててオレのところにやってきた。
「岡部くん、大変だよ!とうとう合唱の練習が無くなったって・・・」
「何だって!?」
オレの学校では卒業式になると、在校生がクラスごとに卒業生を送るための出し物をやるのが定例となっており、今年度の四年生は合唱をやることが決まっていた。
「岡部くん、本当に卒業式が無くなってしまうのかな・・・?」
菊乃は悲しそうな顔をしていた、それを見ているとオレまで悲しくなる・・・。
「ふん、大げさなんだよ。合唱の練習が無くなって良かったじゃないか、これで面倒な練習をしなくていいからよ。」
「神田・・・、お前そんなこと言って、本当に悲しくないのか?」
オレは神田に質問した、学校の行事が面倒だと言っている彼には、どうしても聞きたいことがあるからだ。
「どうしたんだよ委員長?」
「お前は行事が面倒だとか言っているけど、本当に行事の全てが面倒なのか?そりゃ、準備は大変だし他にやりたいことだってあるけどさ、当日はとても楽しいじゃないか。みんなが盛り上がるから楽しい、それはお前もわかっているはずだろ?」
「それは、そうだけど・・・、毎年同じことしてるだけじゃないか。それに学校行事が嫌だって言う人もいるし。」
「そうだけど、ここでの入学式も運動会も学芸会も卒業式も、ここでしか体験できない素晴らしいイベントじゃないか。オレたち後二年しかここにいられないし、一年ごとに違う思い出を作れるチャンスなんだ。だからやらなきゃいけない同じことじゃなくて、楽しいお祭りなんだよ、学校の行事というのは。」
「委員長・・・」
神田はオレの前に来ると、少しモジモジしながら言った。
「さっきは悪かったよ・・・、おれ学校行事のことバカにしてた。」
「わかってくれたらいいよ。」
オレと神田は握手をした、そしたらみんながオレと神田に
放課後、オレが歩いていると水島先生から声をかけられた。
「岡部くん、教頭先生がきみのこと探していたよ。」
「えっ?教頭先生がですか・・・?」
「ああ、クラスごとに渡す特別なプリントがあるから、五年生のクラスは君に持ってきてほしいって。だから職員室へ来て」
「わかりました」
美野島がオレと大貫のことを狙っているのは知っている、しかし学校での用事を断るわけにはいかない。オレは不安ながらも、美野島のところへ向かった。職員室に行くと、なぜか美野島の姿がなかった。
「教頭先生、失礼します。」
オレは職員室に入ったが、だれもいなくて静かだ。
オレが辺りを見回した時だった、突然後ろから口にハンカチを当てられた。
「だれだ・・・」
そしてオレは
その日、大貫は裏庭の草抜きをしていた。
そして一息ついて休んでいると、不審な動きをする二人を見つけた。
大貫はとっさに物陰に隠れて様子を見ると、二人ともフードとサングラスで顔を隠している、そして二人が運んでいるのはなんと岡部だった。
「おい、なにをしているんだ!」
大貫は気づいて走り出した、二人は急いで岡部を車に乗せると、車を発進させた。
大貫はギリギリのところで、二人を取り逃がしてしまった。
「くそっ、今のは間違いなく岡部だ!まさか誘拐されるとは・・・、あの二人は何者なんだ?」
大貫は疑問を持ちつつも、直ぐに警察へ通報した。
そして山上と鹿目が到着すると大貫は事件の
「まさか岡部くんが誘拐されるなんて・・」
岡部に用事を頼んだ水島はすっかり
「水島さん、あなたは岡部くんに用事を頼んだそうですね。」
「はい、教頭からクラスごとに渡すプリントがあって、四年のクラスの担当は学級委員長の岡部くんに
「なるほど・・・、それでそのプリントとは一体なんですか?」
「はい、こちらになります。」
美野島はプリントを山上に渡した、そこには卒業式と入学式の中止に関する情報が書かれていた。
「まだ保護者に渡す情報がなかったので、早急に作成していました。」
「このプリントの配布は、全教師が知っていたのですか?」
教師全員がうなずいた。
「それでは誘拐されたと思われる午後二時二十五分頃、何をしていたか教えて下さい。」
山上は教師全員から事情聴取をした。
「なるほど・・・、つまりその時刻はだれも職員室にいなかったということか・・・。」
「でもその後、職員室に入った岡部くんを連れ去るなんて・・、やっぱり内部者の仕業である可能性が高いです。」
「そうだな・・・。大貫、岡部を連れ去った奴の顔は見たか?」
「いや、サングラスもフードで顔を隠していたからよく見えなかった。」
「となると外部からの侵入者か・・・、だとするとこの時間に学校で誘拐するのは、至難の業だな。」
「もし、ここの教師の内一人が誘拐犯の仲間だとしたら・・・至難の業では無くなるが」
大貫よ突然の言葉に、全教師がざわめきだした。
「大貫くん、滅多なことを言うんじゃない!」
美野島が大貫を一喝した。
「すみません、ですが犯人の可能性を考えるなら、この考えもありなのではないかと思います。」
元刑事である大貫の言うことに説得力があり、美野島は何も言い返せなかった。
「とりあえず犯人逮捕は任せてください、それと岡部くんの保護者に連絡をお願いします。」
そして山上と鹿目は学校から去っていった。
「まさかこんなことが起こるなんて・・」
「最近、トラブルが立て続けに起きているけど、この学校は大丈夫なのか?」
相次ぐ不可解な出来事に不安を隠しきれないのは、教師たちも同じだった。
しかし美野島はそんな教師たちをよそに、ホッとした表情を浮かべるのだった。
岡部が誘拐されたことについては、放課後が終わった後すぐに生徒たちに報告された。
「ウソだろ・・・、岡部が誘拐されるなんて・・」
「信じられない、どうして学校で誘拐されるのよ・・・」
突然の知らせに菊乃も神田も呆然とした。
その日は五時間目・六時間目の授業を止めて、全生徒一斉下校になった。
「岡部、おれが不甲斐ないばかりに・・」
大貫はあの時、岡部を助けられなかったことを後悔していた。
そして大貫は謝るために、岡部の家へ向かった。
インターホンを押すと、以前に出迎えた男と出会った。
「ああ、那谷さん。」
「大貫さん、今日はどうしたんですか?」
「今日は岡部くんの保護者に謝罪しに来ました。お宅にいらっしゃいますか?」
「あなたが大貫さんですか?」
その時、遥輝が玄関にやってきた。
「はい、私が大貫虎二です。」
「親代わりをしている吉野遥輝です、ここではなんですから家に上がってください。」
大貫は家に上がった、リビングのテーブルに座りお茶を入れて貰うと、大貫は謝罪した。
「この度はおれが不甲斐ないばかりに、岡部を危険な目に合わせてしまいました・・。本当に申し訳ありません!」
「いえいえ、そんな気にしないでください。岡部くんが誘拐されたのは辛いことですが、彼は生きていることを信じています。」
「はい、私も岡部が生きていることを信じています。」
「それでお聞きしますが、あなたは用務員ですか?」
真理が大貫に質問した。
「はい、岡部くんとはよく学校でよくお話ししていました。」
「それであなたは、学戸と一体何の話をしていたのですか?」
大貫は事件を追っていることを言うべきか迷った、しかし何も話さずに不安にさせるわけにはいかない。
大貫は岡部と話していたことを、吉野夫婦に打ち明けた。
「そんなことが・・・」
「あの子ったら、また探偵みたいなことして・・・」
吉野夫婦はおどろきつつも、やれやれという表情をしていた。
「あの、岡部くんってどういう子なんですか?」
「ああ、学戸は真面目そうに見えてとても正義感が強く、どんなことにも向かっていく子なんです。」
「それはいいことなんですけど、危険な目に遭わないかハラハラすることもあります。」
どうやら岡部の性格は幼いころから続いているようだ。
「そうだったんですか・・・、いやあそれはたいしたことです。彼から『入学式の中止の犯人を突き止める』と聞かされたときはふざけているのかと思いましたが、彼の熱意に前職の頃の私を思い出させたのです。」
「前職の私というと・・・?」
「実は私、刑事だったんです。だれよりも犯人を捕まえて、仲間の間ではひそかな有名人になっていました。」
大貫は照れながら言った。
「そうだったんですか、それじゃあ岡部を誘拐した犯人に心当たりはありませんか?」
遥輝がたずねると、大貫は腕を組ながら言った。
「はっきりとは言えませんが、おそらく教頭の美野島が怪しいと思います。」
「教頭先生がですか・・・」
「はい、美野島は数日前から私と岡部について調べていたと思います。おそらく、今回の誘拐にも関係している可能性があります。」
「大貫さん、岡部くんのことお願いします。」
遥輝と真理は大貫に頭を下げた、大貫は必ず岡部を助ける決意をした。
「それじゃあ、これで失礼します。」
「どうもありがとうございました。」
そして大貫は岡部の家を後にした。
そして自分の家に帰って来た大貫は、警察時代の同僚の山上に電話をした。
「もしもし、山上か?」
「おお、大貫じゃないか。おれに電話してきたの何年ぶりだ?」
「今、そんな話をしている場合じゃない。岡部を誘拐した犯人について心当たりがあるんだ。」
「心当たり・・、そいつは誰だ?」
山上の声が変わった、刑事だった時によく聞いた静かな声だ。
「教頭の美野島という男だ、彼は校長と組んで大金を集めようとしている。」
「校長・・・、神宮政道か。あの男は教育長田中の陰謀に関係している、その神宮は美野島を使って田中の陰謀に絡んでいるということか・・・。だとしても、それと岡部くんとの誘拐となんの関係があるんだ?」
「実は、おれと岡部は入学式中止事件について調べていたんだ。何とかして入学式中止を阻止したくてな・・・。それで美野島に勘づかれて、岡部を誘拐したんだと思います。」
「はぁ・・・、まさか君がそんなことをしていたなんて思わなかったよ。警察を辞めても、結局事件に関わらずにはいられないんだよね。」
電話の向こうで山上がクスクス笑いながら言った。
「本当にお前には迷惑をかけると思う、だけど協力してくれないか?」
「いいよ。同僚の縁もあることだし、それに二つの予告状とこの誘拐事件は何か繋がっている気がするんだ。」
「おれも同じことを考えていたよ、また何かわかったら教えてくれ。」
大貫は通話を切った。
山上の言うとおり、予告状とこの誘拐事件は何か共通しているものがある。
そのカギを握るのは一体だれだ・・・?
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